渡辺淳一「愛の流刑地」日経新聞文化面

公開日: : 最終更新日:2011/09/07 書評(新聞)

全国紙の一番最後のページは、ふつうテレビ番組表である。私は大学生くらいまで、新聞は後ろから見るほうだった。なぜか紙を捲りやすい気がするのと、テレビ面、社会面、スポーツ面と、そのころのニーズもマッチし、また精神的にも入りやすいので。政治や経済なんてガキには読みづらいじゃないですか 自分で金を稼ぐことに1日の時間の大部分を使うようになってから、周りの人にあわせるように、日経新聞を、それも後ろからでなく1面から読むようになった。日経新聞を読んでしまうと、朝日や読売などは、内容が退屈または嫌で読むことができなくなってしまう 現在は、読む順番や根を詰める勘所が自分なりに洗練されてきた。まず1面のトップ記事の見出しを見て、次に「春秋」を読む。次に一番後ろの文化面の「私の履歴書」を読む。次に文化面のその他の部分をスキミングして興味があるようであれば読む。そして1面に戻って、晴れてトップ記事から順に読み進めていく感じ。広告も見る。公告も見る。でも、スポーツ面は豊田さんと浜田さんのコラムしか読まない、などなど このように、読み順が少し変則的で文化面だけは極めて初期段階で読むことになっている。これには理由がある。一つ目は、「私の履歴書」や連載小説を溜めておかないということ。二つ目は、文化面が意外とおもしろいということ 一つ目について。私は通勤電車の中で新聞を読むことにしている。しかし、混雑などの理由で往々にして満足に読了できない可能性がある。ところが、業務時間内に日経を読むなどとはダメ人間のすることとの妙な自説がある。最近よく読んでいる「美味しんぼ」では、山岡さんだけでなく、東西新聞のほかの人も暇そうに新聞を読んでいる。昔のホワイトカラーは本当にこんなものだったのかもしれないな、と思う。しかし、私の仕事の美学として、業務時間中に日経の記事を初めて読むというのはアウトだと思っている。人に指摘されて初めて読み始めるというのはゲームセットだと思っている。一方、給料分働こうと一日の過酷な業務を終えたころにはヘトヘトで日経朝刊の残りを読む気が失せる。そうすると、気になるのは「私の履歴書」と連載小説なのだ。ほかの事実に関する報道などは、最悪、見出しだけ追いかけたりしても、他のニュースなどでいくらでも補充がきく。しかし「私の履歴書」と連載小説は毎日読み進めていかないと、話を追えなくなって翌日読むのにも意気消沈してしまう 二つ目は文化欄がなかなかおもしろいことがある。特に右上の絵画などの特集が小さくても気が利いていることが多い。追いかけても得られない情報がサラリと載っていることがある。また、真ん中の、何か毎日違う比較的無名の人が、その人のほぼ生涯をかけて研究したり、追いかけてきたことをコンパクトにまとめようというのも、その人の生き様みたいなのが感じられておもしろい。ここも、そういう人が、オンリーワン的な研究をしているので、同様に意図的に探してもわからないことをふと教えてくれることもあるのだ。これも他のニュース等でなかなか代替することができない 長々と書いてしまったが、実は、ここまでグダグダ書いてきた中に、理屈としてはそうなのだが、運用面からはほとんどウソなのが1つある。それが今回取り上げている「愛の流刑地」を含む、文化面の連続掲載の小説だ 実は日経の連載小説を根気よく通読し終えたことはいままでに1回もない。敢えて挙げるなら、信長に対する公家のなんたら、というのは、少しだけ読んだ。そして清盛の小説は途中からまばらに読むようになった。しかし、それ以外はまず読まない。だってこれ、おもしろくないんです 前回の、何だっけ、新リア王だっけ、あれも本当によくわからないので、これに貴重な時間を割くのはどうかご勘弁ください、という感じだった。ああいうのは、それでも無視していればいい。問題は今回の「愛の流刑地」だ 日経新聞も何を考えているのか。前回が評判がよくなかったから、「失楽園」のヒットを思い出して渡辺淳一のポルノ小説ならばウケるでしょうということでしょうか。確かに、一部では経済人が大喜びしているし、営業マンにとっては日参する客先との会話の糸口に確かになっているようです。でも私は、こういうネタを昼間っから(男でも女でも)営業マンに切り出されたら嫌だね。こっちは昼間は仕事に熱中しているんだ。そういう会話を嫌がる人間がいるということがわかっているのか、と思う ときに、挿絵のドギツさに驚いて本文をスキミングしてみても、内容が純粋につまらない。うまく説明できないけど、村上龍や山田詠美、澁澤龍彦などは相当エロティックだけど、おもしろいし、たくさん読んでいるんです。なんか、変な例えだが、今はCGとかなんとか、いろいろな技術を駆使したおもしろい映画やアニメがたくさんあるのに、何百年前の娯楽である能や狂言がなぜおもしろいかねぇ、という感じ では、仮に村上龍や山田詠美が連載するとしても、日経新聞にエロ文学は少し嫌だな、という気がする。やっぱ、経済人の新聞なんだから、毎朝早くにインプットすべきものが、エロ小説というのはないでしょう。そういう意味で清盛の生涯をテーマにしたというのは私にはなかなかヒットだったんです。ということは、エロと経済がテーマなら多分ヒットだと思います。例えば、風俗営業を経営する物語とか これって、私だけの独自の見解なのだろうか。同様な感覚としては、朝から通勤電車の中で、背広着た人間にスポーツ新聞や漫画週刊誌を読まれるのも嫌だ。学生らしき人がそれをやるのは気にならない 渡辺淳一が嫌いなのは明らかなんです。彼を見ていて1つ思っているのは、彼は医者でしたが、医者って人の生死を日常的に見ているので、こういう性的なものに対するマヒみたいなのがあるんじゃないかな、と思ったりするのは偏見でしょうか。それが私の硬さに合わないとか なお、この小説が好きだという人もいると思います。こんな古風なエロ小説が大好きなんです、という人が、あー、能や狂言なんだな、とバカにすることはあっても、他方で素晴らしい経営者ということはあるでしょうし、人間は多面的なものなので、一部を捉えて人格を否定することもないし、否定されることもないとは思います。よくある例ですが、金に汚い有能な医者と、清貧な藪医者のどっちに診てもらいますか、という感じ 20050829015950

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Comment

  1. 中村満次郎 より:

    毎日読んでいるわけではないのですが、「愛の流刑地」は渡辺さんの代表作の一つと評価されると思います。それにしてもブログを検索して、社会的にかなり人びとに影響しているのを知って、こちらのほうに私は反省させられました。それだけある意味で真実を描写しているのだと考えたからです。
    渡辺さんは私と余り年齢差がありませんので解かるような気がするのですが、セックスについて、若いときはあまり精神性を問いませんね。しかし本当のセックスは単に性欲だけでなく、その精神性が求められると思います。ですからやさしさが性には重要な要素になると思います。
    しかし働き盛りのサラリーマンにとり、それだけの思いやりと配慮がどうしても欠如するのでしょうね。中高年ともなれば、経験もあり女性の心理もある程度若いときよりよく知っているのでしょう。
    それにしてもこの小説が映画化されると報道されていますね。俳優が気がかりです。わたしは池田万寿夫さんがかって言っておられたように、無名の新人を起用するのが良いと考えています。そしてこの映画のみの起用とすることだと考えています。

  2. Max より:

    中村満次郎さま、コメントいただきありがとうございます。以下3点、思ったことです。
    (1)本作品の評価:私の周辺でも相当の人気があるようです。ただ、やはり、私は本作品の良さが分からず、好みません。試みにネットで検索すると、まず言及自体の多さに驚きます。その中には作品への肯定的な評価も多いです。人気のある作家や作品にはそれだけアンチも多く存在するようですが、私もその類でしょう。寄る年波で、ご指摘の”中高年”の分類に私が入籍する頃には、その辺の妙味の分別が出来るようになっているかと今から楽しみです。そこで思い出したのは、先日、先のベストセラー”養老孟司「バカの壁」新潮新書”http://hiog.seesaa.net/article/7750820.htmlを遅ればせながら読んだことです。私としては一読の価値を見出したのですが、ネット上の諸氏の書評は総じて批判的でした。ベストセラーには何らかの取柄があると思われ、それが確認できたと考えていた折の驚きの体験でした。
    (2)本作品を発表する場が日経朝刊であること:日経というメディアの性格上、これが経済に関係があるか、とか、またはビジネス上の潤滑油になるか、という論点では疑問を感じているのです。先日読んだ”渋井真帆「渋井真帆の日経新聞読みこなし隊」日本経済新聞社”http://hiog.seesaa.net/article/8008716.htmlに日経の立場の分析がありました。いま手元にないので記憶による引用で恐縮ですが、曰く、日経はスポーツ記事に至るまで経済の観点から作られているということです。私もそれを期待して定期購読しているときに、違和感があるのが本作品です。本作品の日経への連載は読者の本来の期待にそぐわないのではないか。すでにご存知かと思いますが、現在極めて評判のよい経営者のblogが、この作品への言及が原因で立ち上げ後まもなく閉鎖しています。これも、本作品とビジネスとの間に異次元のネジレがあったが故ではないかと思います。これが日経でも、夕刊や土曜の紙面であれば、また違った印象です。
    (3)セックスの本質と映画化:私にはコメントできるほどの意見を持っておりません。ご見解については勉強になりました。そうですね、映画化でキワドイ映像になるなら、新人でもベテランでも容姿端麗なの役者さんがいいな、男女ともに、といった情けない印象ぐらいです。テストステロンの多い私で済みません。

  3. さまよえる羊 より:

    「愛の流刑地」は異常性欲者でなければ書けなかった。異常性欲者とはどのようなもであるか研究する貴重な資料である。性犯罪の抑止方法の研究にも役立つだろう。

  4. Max より:

    さまよえる羊さま、コメントいただきありがとうございます。ふーん、なるほど。であれば医学や犯罪学系の雑誌などに連載されるとよかったかもしれませんね。えへへ。やっぱり一世を風靡しているだけあって、ログによると、この投稿がこのブログの中でも比較的アクセスの多いものになっています。この作品や著者にあんまり思い入れはない、というかむしろネガティブな思い入れなので、この投稿ばかりアクセスが多いのであれば、それは本意ではないなという感じがしてきました。

  5. 三島由紀夫の亡霊 より:

    とにかく文章が下手。流れるような文体じゃありませんわな。年取って耄碌しているにも拘らず、自分は性愛小説の第一人者、なんて単純に錯覚しているんじゃないでしょうか? 早く連載打ち切ってもらいたいものですな。

  6. Max より:

    三島由紀夫の亡霊さま、御意。とうとうアイルケも今月いっぱいで終わり。来月からの新連載に期待したいところです。これが、著者の人格はなんとも申し上げられませんが、テーマは面白そうです。ここ半年くらい、私の履歴書も読んでいないので、来月からはこれもいい著者に当たるといいと思っています。そういえばこの記事のエントリのあと週刊ダイヤモンドか何かで読んだのですが、渡辺氏が日経に連載小説を書く時期と、景気がよくなる時期が符合するとのこと。なるほど、経済と関係なくはないのかなあ、それに昨今の株価を見る限り当たってるなあ、と思った次第です

  7. 山上 より:

    ポルノ小説の連載が終わってかなり日数が経過した。そろそろ過去の出来事になったようだ。二流人間の入社する新聞社が発行する二流紙だからこそ連載できたポルノ小説ではあった。

  8. 白ゆり姫 より:

    渡辺先生のフアンですが、まだ読んでおりません。迷っております。ただ内容については、存知ておりますので、朝の通勤電車の中で、日経を読んでる方のお顔をついつい見てしまうことがありました。(ほとんどのサラリーマンですが)渡辺先生のお年も関係しているのでないかなと思います。私が女性のせいか、営業の方から、この話題を持ちかけられたことはないですね。もし拝読しましたらまた書き込みします。

  9. Max より:

    これを書いてから長く経ちますが、意味のある書き込みをちらほらといただいていて大変ありがたいです。
    どうも、日経新聞の予定購読も止めようかと思う今日この頃。堺屋太一の連載小説は面白いけど、連載で読むと濃淡があるし、最終的には単行本になるんだろうし。「私の履歴書」も、過去のものも含めて、縮刷版や単行本の見たいところだけを図書館で読もうかな、なんて。新聞高いし。関係ないけど、大株主になっているテレビ東京の経済番組でも「日経平均」ばかり取り上げるので、厭になってきました

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