金森誠也監修「30ポイントで読み解くクラウゼヴィッツ『戦争論』」PHP文庫

公開日: : 最終更新日:2012/02/11 書評(書籍)



こっち用に購入した本のうちの1つ

戦争を専門家として分析したのであって、正当化したのではない。なんとなく、クラウゼヴィッツという言葉の響きと戦争という題材の凄みに身構えがちなのだが、特に驚くことは書いていない。有名な「戦争とは他の手段をもってする政治の継続にほかならない」を初めとして、言われてみればそのとおりなのだが、結構当たり前のことをもっともらしく言っているだけのような、”だからどうした”的な肩透かしの感覚がある。これって”言いだしっぺ”の利益、先見性に対して拍手するということなのでしょうか

なんか、私の嫌いな広告評論家のA氏に、「中島みゆきは演歌なんです」なんて、誰もが感じていることを鬼の首でもとったかのようにマスメディアで高説されても、さてどうしましょう、という感じと同じ

私は、本著が分析の対象とする「戦争論」の原著を読んでいない。このような書物の解説書の位置づけはどのように考えたらいいのか

この手の解説書は、まずオリジナルを読むべきか。もちろん、両方を読めばベストなんだろうけど。オリジナルを読んでいないと、「本当にこれでいいのか」という、消化不良のような妙な感じがしてしまうのは、個人的な問題だろうか。確かに、オリジナルが難解であって、かつ、良質な注釈がある場合にはそちらを先に読むほうがいいかもしれない。しかし、何が良質なのか、という問題は難しい。また注釈は人のバイアスがかかってしまうのも恐れる。

良質さについては、ひとつ思い出がある。バーナード・ドゥ・マンドヴィルの「蜂の寓話」という本がある。これの邦訳として比較的に容易に手に入るのは法政大学出版局のものだ。しかし、渡部昇一であったか、いや、確か彼との対談本における谷沢永一の発言だったと思うが、これ悪いので、みすず書房から出ている上田辰之助のほうが解説も含めて上質だと言っていた。結局、両方とも買うことになった

バイアスについては、最近読んだ、中川八洋の「保守主義の哲学」において、彼独自の鋭い舌鋒で数々の例を挙げている。米国の独立と建国の違いや、米国の独立とフランス革命の違い、そしてエドマンド・バークに対する評価などについて、日本の関係学界においては恣意的な解釈がなされていると説いていた

このように、本著はその内容そのものよりも、そういういろいろなことに対して連想を展開させてくれる本だった。っていうのは、マキアベリの「君主論」などは現代を生き抜く知恵、特にビジネスに応用できそうだなフムフム、テイク・ノート、というのって、一人合点かもしれないけど、たくさんあるんです。例えば「君主は吝嗇で厳しいのをデフォルトとして、やさしさを見せてやるのは極めて例外的に行うべきである(記憶による意訳)」という主張があったり、または世襲の王権と僭主と民主的に選ばれた王権との比較などというときに、それって会社経営とか、対人スキルとして示唆的であったり、そのような香りのするものなんです。でも、本著は極めて具体的な戦争の仕方に関するものなので、どうなのかと。すなわち「防衛戦においては、自らの領土が広大であり、領民が結束していて、それによって失うものが少ない場合には、敵を自国領土に深く立ち入らせた後に反撃することが有効であることがある(記憶による意訳)」と言われてもチョットねぇ。この辺もオリジナルを読むと違うのかもしれませんが



p29.「戦争とは他の手段をもってする政治の継続にほかならない」

p44.「戦術は、戦闘において戦闘力を行使する方法を指定し、戦略とは、戦争目的を達成するために戦闘を用いる方法を指定している」

p49.不断の闘争を続けてゆくために戦争当事者に必要な2つの性質:1)理性、これはいかなる暗闇の中でも常に内的な光を投げかけ、もって真相のいずれにあるかを導き出す、2)勇気、この微弱な内的光に頼ってあえて行動を起こそうとするもの

p76.「戦争中に得られた情報の大部分は相互に矛盾しており、誤報はそれ以上に多く、さらにその他のものといえど大部分何らかの意味で不確実ならざるを得ないはずである。そこで将校に要求されるものは、事物と人間に関する知識であり、それらに基づく一定の識別力である」

p82.「前夜に切ったと報告したのは、送電を切ったという意味で、線を切ったとは確認していなかった」と答えた。これなども情報の錯綜であり、戦いの現場ではこのようなことは日常茶飯事として起こる

p91.フリードリッヒ大王は父に疎まれて即位までの4年間を王宮から離れたラインスベルク城で過ごしたことにより、宮廷生活から遠ざけられ、勉学に励んだ

p103.奇襲成功のための2大要因は「秘密」と「迅速」であり、そえゆえ大部隊による奇襲は成功しにくい作戦であり、まして政治的な奇襲作戦は難しい

p119.イギリスの戦史家アラン・ワイクスの指摘の中で、注目したいのは、英仏軍の兵士たちの間に、ヒトラーに超自然的な力があるのではないかという疑念や混乱が生まれていた点である

p121.策略は直接約束を破るのではないという理由で、端的に欺瞞と名づけられるものとは区別される

p122.ヒトラーは策略をすべて自分1人の頭で練り、権限を委譲することを嫌った

p128.優れた司令官は狡猾な奇策を用いない。「事の必然性を冷静に考えれば、直接行動に赴くほかはなく、奇策を弄する余地はなくなるのである。一言でいえば、戦略の将棋盤には策略や老獪さという駒が活躍する余地はほとんどないのである」

p132.「戦闘を続行し得るか否かが問題となるときには、人間、馬、大砲の損失ばかりでなく、秩序、勇気、信頼、団結、計画の損失も同じく考慮されねばならない」

p133.「辛抱強く戦ってきたすべての軍隊が多かれ少なかれ燃え殻のような観を呈するのである。それは消耗し、溶解し、その物質的かつ精神的な力は尽き、その勇気すらも挫けている。それ故、そのような軍隊は、数の減少は問わないとしても、有機的全体としてみれば、戦闘前とは似ても似つかぬものとなっているのであり、したがって、精神力の損失は予備軍使用の程度によって正確に測定されると言えるのである」

p135.クラウゼヴィッツの主張は、決戦を回避する軍には敗北が待ちうけると考え、敵を殲滅させるまでに戦うべきであるという戦いの原点に返った考え方だといえる

第1次ポエニ戦争;ローマ軍の勝利は、カルタゴ軍の数的優位にかかわらず、コルプスにおびえて戦意を喪失してしまったという、精神的な勝利であった

p141.敵の精神力が損失している間に、この精神状態を利用して相手を殲滅させ、捕虜や大砲など敵の物質的な戦闘力を破壊することに努めるべき。精神的な損失が回復するのとは正反対に、決して敵側に回復するものではないから

p143.戦闘の渦中における物質的戦闘力の損失は、勝者と敗者の間にそれほどの開きがないことはよく経験されること

p145.主戦における勝敗の行方が、近代における戦争全体に大きな影響力を与える

p146.「主戦は血腥い解決の道である。主戦は単なる殺し合いではないし、その効果は敵の兵士を殺害するよりもむしろ敵の勇気を挫く点にあるけれども、血は常にその代償であり、虐殺は主戦の名称として相応しいとともに、主戦の性格を適切に表現しているのである」

p170.退却について、織田信長の思考は、クラウゼヴィッツの考えと一致していた

p235.「戦争論」を書くにあたっては、特にマリー夫人のはたした役割が大きかった。マリー夫人はクラウゼヴィッツとの間に結婚する以前、そして結婚後も彼の赴任した地との間で活発に手紙を交換していて、すべて保管していた



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