柴田英寿ほか「オフィスからパソコンがなくなる日」東洋経済新報社

公開日: : 最終更新日:2012/03/12 書評(書籍)



おもしろい。一言で言い表せない多くの内容を含む本。これで1,400円は極めて廉価

パソコン業界と主要プレイヤーの分析というか、日米の産業比較論というか、ナレッジマネジメントというか、IT技術の最近の動静というか、ホワイトカラーのビジネスメソッドというか、ちょっとした経営論というか

本書のタイトルにもなっている、”パソコンがなくなる”という主張はショッキングに感じていた。当初戸惑ったが、読み進めるうちに、頷けるようになってきた

この本で紹介されている文献で読みたいと思ったものが多く存在した。それだけでも価値がある

複数の著者が分担して執筆していると思われる。内容も上述のような感じだし、全体的に読みづらい。日立の従業員の方々のようなので、日立に関係する言及については話半分で聞かなければならないだろう

ところどころに、根拠が薄弱な記載や仮定が前提となった話の展開が目立つように思う。いや、サポートする事実は裏にあるんでしょうが、読者に了解されるほどには提示されていないような感じ

小さいことだが、小見出しのページのデザインが、なんか紙が水に濡れてインクが滲んでしまったみたいなのは、気に入らなかった。本が濡れるイメージは精神衛生上あまりよろしくない

p35.デルの社員は、自信がかつていろいろな企業でパソコンのユーザーだった人そのものであったり、競合である日本のメーカーで働いていた人そのものであったりするわけです。「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」という言葉を引くまでもなく、勝敗は決しているようなものです。仮に、日本のパソコンメーカーがある種の純血主義で戦いを挑むのであれば、市場を知り、競合を知る彼らを超える何かを打ち出していかなくてはならないでしょう。新しい仕事の仕方にしりごみして、生産性を高めることをためらっているホワイトカラーでは勝負にならないでしょう



p38.少し単純化した図式ですが、「日本企業はもの造りが得意」、「アメリカ企業はビジネスが得意」といわれます

p41.アップルは上場企業なのに、ホームページから投資家への情報提供のページへのリンクがない。アップルに投資する人に対しても、アップルが顧客に対してそういう接し方をしていることが魅力になる、ということは理解してもらえることなのだと思います

p47.1日に10万人以上がスカイプをダウンロードしており、ダウンロードした人は世界中で4000万人、この瞬間にスカイプで電話中の人が、平均で10万人から20万人いると言われる

p68.突き詰めて考えると、1日のコンピューター利用時間の大半はメールのやり取りとインターネットでの情報検索に使われています。つまり、メーラーとブラウザーがあれば、ほとんどの仕事には十分ということです

p78.余談になりますが、パソコンは、一括購入、一括入れ替えすることがお勧めです。もっと言えば、インストールするソフトウエアも基本的に、集中管理するほうがよいでしょう

p86.高セキュリティーを提供する胴元を目指せば、日立が発表したセキュア・クライアントはセキュリティー分野でのグーグルとなれるのではないでしょうか?

p98.長い時間働いても成果を出したい人は、長い時間働くのでしょう。成果を出すのに長い時間かかってしまうことに不満な人は、上司に対して相対的に成果を出しにくい仕事が回ってきていることを訴えるでしょう。成果を出せなくてもいいと思う人は成果を出さずに仕事を切り上げてしまうでしょう。いずれも、自分の能力と成果の関係を自分で意識した上での意思決定です。あいまいに、上司に評価されるよりも自分で折り合いをつけた評価のほうがよほど納得できるでしょう



…うーん、職場でそれぞれに思い浮かぶ人がいます。また、他人に人事評価されるくらいならば、自分で決めるというのも、慧眼だと思います。どうやるかは難しいですけど。これって公的予算の使い方と同じで、自分のものでないものを、他人が処理するということが、まず如何に不効率であるかということを思い出した



p102.企業としてのお客様に対する信義のほどを測るなら、外務員に喫茶店で仕事をさせるような企業はかなり、信用を置けないレベルの評価になると思います。この点からは、実はネット上で契約を完了してしまういわゆるネット保険のほうが、ハッカーに入り込まれて情報を盗まれない限りは、逆に、信用できるという見方ができます



…これ、一人一人のソフトに信頼するよりは、システムを作り上げてしまって後は機械にやらせたほうがどれだけ安心か。昔、鉄道の踏切は人が遮断機を上げ下げしていた頃、踏切の小屋によく遊びに行ったことがありました。踏切のおじさんは暇な時間もあるので、意外と優しく、遊び相手になってくれるのです。彼らは、ダイヤグラムというのでしょうか、方眼紙にたくさんの斜めの線が引かれた列車の通過予定を理解して、適宜遮断機を上げ下げするのです。いま思うとゾッとしますし、鉄道関係者に言わせるとやはり危ないということのようです。最近も東武鉄道で人が常駐する踏切での事故がありましたし、JR西日本の福知山線のはATSが最新のものでなかったとか、そういうので人力に信頼する部分があったのが一因との報道もあったように記憶しています



P103.完全に家族か誰かの部屋が、仕事場として利用されている場合でも、掃除などに立ち入って不可抗力で情報を目にしてしまうこともあります。家庭では、極力仕事に関連する資料は印刷しないほうがよいでしょう



…しかし、職場でも出入りの清掃業者やら、休業日に行われるインフラ整備の業者などが、不可抗力で情報を目にしてしまうことがあるので、同じなんですけど…



p116.パソコンで仕事をするようになると、どんどん作業が進んでしまって、途中でまわりの人が意見を言う前に仕上がってしまい、1人で仕事が完結してしまう。早いのはいいが、揉まれずに出てしまい、新しい発想への展開が起こりにくくなる

p124.パソコンにより資料をつくることが簡単になってしまったために、世界中で、資料の超大量生産が行われるようになった。ちなみに、優秀な頭脳が集まった、シンクタンク、コンサルティングファームなどがまさにこの資料創造の大工場となっています

p130.パソコンの原型を発明したことで有名なゼロックスのパロアルト研究所では、新しいコーヒーが沸いたとき、フロアの研究者にメールを送って、コーヒーが沸いたことを知らせるそうです。メールを一律ではなくランダムに送ることで、コーヒーを飲みに来る人を普段、顔を会わせにくい人同士にすることができるそうです



…興味深い。日本では現在、職場の喫煙所が非公式な会合場所になっていることがある。しかし、吸う者と吸わない者との境界をなす川は広くて深く、妙なセクトを形成するに至っていることが多い。昔はそうでなかったかもしれないけど



p135.10代、20代のフリーター、ニート層が増え、未婚の30代、40代層が増え、親との同居が増えていること、離婚家庭が増えていること、要介護の両親との同居家族が増えていること、独り暮らしの老人が増えていることなど、夫婦子供2人の標準家庭のほうが少数派になりつつある。誰しも少数派である

p136.これからは、細分化された生活感を理解できる、もっと庶民的な経営者が力を発揮する時代になってくるのではないでしょうか?

p139.「住まいサーフィン」

p161.コンプライアンスについての関心が高まっています。日本はアメリカに比べればもともと訴訟が少なく、弁護士の数も圧倒的に少ない国です。法律に頼らなくても自らを律するのが日本人の文化だったように思います。その文化が崩れ、法律で律しなくてはならなくなってきています…ダウト。繰り返し発生する談合、汚職、暴力団ビジネスを見るにつけ、むしろ従来コンプライアンスが存在しなかった、それで問題とは思われなかった、という理解のほうがストンと落ちるのではないか。そして今、治安の安定(火薬を使うような大学紛争やデモはなくなった)、公正取引委員会の強化、法律の強化、弁護士の増加などで、これらが露顕され、急に叩かれるようになり、ようやくコンプライアンス意識を持ち始めたということではないか。非常に不愉快なのが、特に談合と総会屋の事件が発生したときに囁かれる「皆やっていることだ」、「ビジネスにとっては必要悪だ」という弁護の声。義務教育で、社会や道徳の授業では、こういうことこそ確りと教育して欲しい

p165.東京大学の藤本隆宏教授がすりあわせ発想を解説している「日本のもの造り哲学」(日本経済新聞社)は一読の価値あり

p169.ケプナー・トリゴー法については、中島一さんの「意思決定入門」(日経文庫)を参照

p173.IBMとPWCの統合。旧PWCはIBMの人が上司から言われたことをきっりりやることを重視しすぎているといい、PWCの人はスキルアップのために働いている。それが可能であれば上司に言われなくてもやるし、それが見込めないことは上司に言われてもやりたがらない

p174.米国の大学では、評価が悪い教員は解雇される。解雇されても、また別の大学に雇用されることが一般的。各地を転々とすることにそれほど抵抗がないし、年金などの社会インフラも勤め先を変えることで不利にならないようになっている

p176.に本の場合、特に、アメリカと比較した場合、年金や、引越しなどの面で、自由度がない。かつ、米国よりも長く、組織を異動しない慣行が続いたので、組織を変わることは心理的にも抵抗がある。だから、米国のGEなどが行っている、業績の下位の一定割合を毎年解雇していくという方法論は現実的な経営手法ではない

p181.個人が社外に情報を発信することは、伝統的な組織観と大きくぶつかるところがある。

p184.今、サンマイクロシステムズでもマイクロソフトでも、ビジョナリーの(先見性とリーダーシップがある)エンジニアが自分が追いかけている技術について、社内でコンセンサスがないと宣言しながらブログで情報を開示している

p187.eBAYで生計を立てている人は20万人程度いるのではないかと言われている。何がしかの収入をアフィリエイトやオークションサイトで得ている人は、日本国内でも数百万人、数千万人の規模で存在している

p188.人事評価の公正を期して、複数人で評価するようになると、さまざまな見方が出てきて、評価自体に差がつきにくくなっていく。差がつく評価を無理やり導入しても、成果主義がうまく立ち上がらない

p191.新しい生活パターン、こんなことは考えられないだろうか



…ここであげられた3つ、全部すでに導入済みです



p193.経済産業省の方で前田泰宏さんという方のお昼のルール



…「一緒に昼食を食う人がいないときは昼飯を食わない」はできないけど、もう一つのほうはもう導入済み



p194.夜の時間の過ごし方の優先順位:家族>友人>昼間一緒にいる人との仕事や宴会



…これも導入済みだな



p208.私の会議マニュアル:コンセンサスが得られないまま時間切れになったら、その場の最上位者が結論を出しましょう。時間はコンセンサスと同じくらい貴重です



先日の武部幹事長の発言を思い出した。このビジネス感覚がいい



p208.私の会議マニュアル:議事録は結論中心にわかりやすく1頁化し、会議後できるだけ早く発行しましょう

p210.責任者を体験してみる

p218.インテルはパソコンにインテル・インサイドのステッカーを貼り続けた。CPUという消費者が気にする必要もなく、目にすることもない部品を世界有数のブランドにした

p220.東大での理系大学院生向けの事業企画スキル習得講座の事例。企業や役所などの一般的な年功序列型の昇給、昇格よりも、もっと速いペースで能力は高まる。10年、15年かけて、課長、部長になったからといって、必ずしも生産性が高いホワイトカラーになっているわけではない。実際、受講生は12回の講義で、企業経営に関するおおよその知識を吸収することができる。講師の人やコーチの人は、数年、経験することで大学の教壇に立つのに十分なくらいの経験を積むことができる

p222.情報発信するホワイトカラーはすでに誕生している。副業するホワイトカラーも誕生している。生活パターンの制約を乗り越えているホワイトカラーも誕生している。乗り遅れるとか、乗り遅れないとか、ということではない。自分に合った生き方、働き方を自分で選んでいくだけのこと



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updated 20050920120900

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