竹内一郎「人は見た目が9割」新潮新書

公開日: : 最終更新日:2012/02/06 書評(書籍)



話題の書、だと思う。確か、書店の広告では、別のベストセラーを暗に指し示した上で、それは間違っていると指摘していた。内容的に前から気になっていたもので購入

タイトルどおりの内容も含みつつ、筆者の経歴から演劇に関する話が多かったのが予想外だった。その辺を踏まえたうえで読む人は読むといい。総じて面白かったし、こういうのを読みたかった。前からこの辺のことは気になっていたので、一気に読んでしまった

著者は漫画の原作も手がけており、その辺の分析も面白い。特に男と女の顔の違いという、私が長年疑問に思っていたことに対して、一つの説明をしてくれたのは良かった

思い出したのは俳優の本木雅弘氏。人のことを言えないが、このくらいの年齢の成人男子の顔というのは、どうも傲慢に見えていけない。そこをうまく処理しているのが本木氏であろうと思う。見事なまでに傲慢さを消している。そもそも傲慢ではないのだろうけど。例えば最近では茶の清涼飲料などでも確認できる

こういう面白い本が新書で出てきて、案の定ベストセラーになってくるのが、最近のうれしいところ



p16.映画「今を生きる」のラストシーン。教え子たちは、何も言うことなく、机の上に立つ。「あなたを追放した学校は間違っている」「私たちはあなたの教育方針を支持する」という態度の表明である。このシーンでも、台詞があると、臭くなって観ていられない



…同意。もう15年以上前の映画だろうか、いい映画だった



p18.アメリカの心理学者アルバート・マレービアン博士の人が他人から受け取る情報の割合の実験結果:顔の表情55%、声の質、大きさ、テンポ38%、話す言葉の内容7%

p19.私たちは「本をたくさん読む人」の中に、人望もなく、仕事もできず、社会の仕組みが全く理解できていないと思える人がたくさんいることを知っている

p20.動物行動学者デズモンド・モリスの動作の信頼の順番:①自律神経信号、②下肢信号、③体幹(胴体)信号、④見分けられない手ぶり、⑤見分けられる手のジェスチャー、⑥表情、⑦言語

p25.男優の場合、髭は重要である。演出家は「髭」を基本的に「コンプレックスの表れ」と見る。「自分を実際よりも上に見せたい」心理は髭に表れる。髭には周囲に威圧感を与える働きがある。逆に言えば、そうした「小細工」をしないと周囲を威圧できないという意識がどこかにあるといえる。周囲を見渡してみると、自由業の人やアーティストに髭をたくわえている人が多い



…個人的に筆者の意見と同じだ。髭を生やしている人は本人が豪胆なように、または大物のように見せようとしているだけで、中身は、逆にそうではないケースのほうが多かろうというところ。これは現に髭を生やしている周りの人を思い出してみるとわかる。大学のとき長い休みのあとで、レストランで昼食を食べながら大学の知人と話しているときに面白いことがあった。ある共通の知人が休み中に海外に行って来て以来、髭を生やしているということだ。私は、「うーん、どうも海外に行った大学生はなぜか途端に髭を生やしたがる傾向にあるんだ」なんて無駄な発言をしていた。すると、我々の席の隣に、髭を生やした大学生らしき人が座っている。そこにまもなく彼の知人連れと思われる別の若者がやってきて、一言。「おっ、髭を生やしたのか、どうしたの?」。それに対して彼は、「いや、休みの間に海外に行ってきてさ、それで伸びているんだ」。隣で私が大声で傲慢に言っていたそのままだったので、彼は非常に決まり悪そうだった。海外へ行くバイタリティとか先進性とか、非日常性が、髭というアピールに繋がるのだろう



p27.髭は、そもそも「威厳」の表現であった。髭の持つ「トラの威」を借る必要があるのは、その人の本性が「キツネ」だからなのである。これは、カタカナ職業の人がよくやっているヘアスタイル、男性のポニーテールにも共通している。「それっぽく見せる」という狙いが分かりやすい分だけ薄っぺらな印象を与えてしまうのだ



…もう一つ、髭について。先日、毎年見ているNHK正月時代劇にNHK大河「新撰組!」の続編がやっていた。そこに印象的なシーンがあった。土方歳三が榎本武揚に食って掛かるのだ。「確かに自分は洋装に切り替えた。それは合理的だからだ。あなたのような西洋かぶれとは違う。その髭の手入れにどのくらいの時間をかけているのか」。榎本はうまく応えられなかった。しかし、髭も時と場合によっては合理的なのだろう。当時の蝦夷共和国の総裁としての威厳を保ち、その威厳の源泉としては西洋帰りの洋才というところをアピールするためには、西洋髭を蓄える甲斐もあろうというものだ。確かに土方の目から見れば不合理ということかもしれない。そういう人間の割合が多ければ、確かに合理的ではない



p29.芸能人は「素性を知られたくない」から、外出する時サングラスをする。一般人の私たちはサングラスをすることで「ヤクザ」あるいは「素性を知られたくない芸能人(多くの場合美男美女)」の振りをすることができる。見た目には自信のない人が自信を付けるには、いいかもしれないが、そこを見透かされる危険性もあるような気もする



…サングラスは虹彩だかの眼の構造上、コーカサス系の人には直射日光から瞳を守るために必要だが、日本人を含むモンゴロイド系の人はそういう必要性は認められないということのようだ。著者の意見にも同意するが、もっと遡ると、白人に対するコンプレックスが源流にあるのではないかと思う



p44.日本人のコメディアンなのに、妙にオーバーアクションの人は、そういう印象を狙っているのだ



…著者は、文章が下手だ。例えばこの表現。上に引用したところでも、読点の付け方が気になる



p59.社会的に立場の弱い女性は、相手がどう思っているかが大事なのである。自分が生き延びるためには、相手の気持ちを尊重しなくてはならない。必然的に、相手の本心を見抜く勘が磨かれる

p64.「可愛い女の子」のポーズの第一の特徴は、快活に足を広げている時も、膝は内側を向いているというものである。従順の表明である。また、片足を少し上げ、ぎこちない感じを出すことが「女の子らしい」ポーズである。ぎこちない感じを男が好むというのも、困ったことだが、わからなくもない



…ここで、そのような女の子の例が図解がされているのが、なんとも



p90.芸能という尺度で見ると、日本人のコミュニケーションは次のように考えられる。「言葉を交わさなくても、目と目が合えば理解しあえる」のは文化程度の高い人同士、「多くの言葉を要し、身振り手振りがないと理解しあえない」のは文化程度の低い人同士のコミュニケーションである、と

p92.芳賀綏氏は、文化人類学者の石田英一郎氏の説を用いてこの特性の起源を説明している。それは弥生式農耕文化の時代に日本民族のコア・パーソナリティ(精神の核)が刑された、という説である。一人で黙々と田畑を耕す農民の相手は人間ではなく、自然である。仕事中に他人とぺちゃくちゃ喋っている必要はない。その結果「語らぬ」文化が出来たというのである

p94.日本にそもそも「わからせなくてもよいのだ」という伝統があるからだ。例えば、西田幾多郎や、小林秀雄、渋沢龍彦、蓮実重彦などの文章を思い出してみればよい。日本の代表的知識人に、わかりやすい文章を目指していない人の何と多いことか

p99.農耕民族は、基本的には強い自己主張をしない。田畑を耕し、そこにより多くの愛情を注ぎ、手を加えることで、生活の向上が得られる。こうして、大人しく、控えめな基本性格ができていく。儒教の「謙譲の美徳」が入って来なくても、謙遜をする国民性は持っていたと思しい

p100.「憎茶」を通じて、夫人は「あなたが嫌いです」と伝える。客は「俺は嫌われているのか」と察する

p104.平均的日本人は、頑張っても頑張らなくても、結局同じという感覚を持っている。大企業や、役人を交えた会議に出ると、発言しても発言しなくても結果は同じだな、と思えるものが殆どである

p113.騒色騒動が起こったのは、1981年のことである。黄色は注意を促し、赤は危険を表す色だから、バスをその色で塗れば、人々の黄や赤に対する注意力が減衰するという意見は、もっともであるといえる。ところが、その指摘は、20年後の現在生かされているとはいえない

p115.「捨て色」:赤やオレンジ色のヤカンは、キッチンを楽しく見せる暖色である。メーカーはこれを売りたい。そのために、赤やオレンジを引き立てる黒を商品の中に混ぜておく。人気薄の黒に引き立てられて、「よりよく見える赤やオレンジ」を客は選ぶのである

p117.アメリカ人のイラストレイター、ジョン・ファイト氏:「病院に来る患者は、必ずどこかが痛いんだよ。でも、待合室に一枚でも絵があれば、それを見た瞬間『あっ、きれいだな』と一瞬でも思うだろう? 人間は『きれいだな』と思った瞬間には、痛みを忘れるものなんだよ。なぜなら2つのことを同時に思うことはできないからね。絵があれば、1秒でも0.1秒でも、痛みが忘れられるんじゃないかと考えたのさ」

p121.メイクの勘所は、舞台と客席の距離によって変化する。演劇の学校で教えていると、発表会のときなど生徒は、時にオーバーなメイクをやりたがる。私が「客席が近いのだから、もう少し控えめに」といっても、なかなか聞こうとしない学生がいる。理由は、役に「化けたい」のである。自分以外のものになりたいのである

p141.フリースクールの生徒は、N先生ほど、自分のために時間を使ってくれた先生とそれまで出会ったことがないはずだ。で、私はこう思った。自分のために膨大な時間を費やしてくれたN先生に、生徒たちは打ち解けていくのである、と

p155.服を着せるだけで、本物らしい振る舞いになっていったのである。囚人は卑屈な態度を取り、看守は命令口調になる。言葉遣いや行動が変われば、やがて思考方法も変わってくる。つまり、人は服装によって変わる可能性があるのである

p161.「何たる偶然」ゲーム:初対面の役者が、いつまでも他人行儀のままでは演技の練習にならない。その距離を埋めるためのメソッドである。大変そうだが、10個の共通点は数分で見つかる。このメソッドをやった後は、演技の稽古がやりやすくなる

p171.車の席順。そこまでこだわることはないではないか、という意見もあるだろう。これらは余裕のなせる部分である。大事な仕事をほったらかしてこんなことができても意味はない。しかし、仕事がきちんとできていて、そこまで配慮の行き届く会社には底力があるということだ



…また、髭の話。インディ・ジョーンズの映画の中で暫く髭を剃ることができなかった主人公がようやく落ち着いて川の水と剃刀で髭を剃れたというシーンがあった。自分の中身に自信があったり、規律正しいという性質をアピールをするためには髭を手入れしなければならない。それなら、最初から永久脱毛すればいいのに、自分はやろうかな、と思ったが、自分がいかがわしいことになったときに変装の簡単なオプションを一つ失うことになるとも思った



p179.芸人さんたちにこんな話を聞いたことがある。刑務所の慰問に行くと、面白くないネタでも受ける。刑務所で受けたからといって、寄席で同じことをやると、ひどい目に遭う、と。刑務所の中の人たちは、笑いに飢えているのである。というより、笑いが必要なのだ。だから、それほど面白くないネタでも笑うのである

p183.私たちは普段、顔を見て瞬時に相手の性別を判断するし、そう間違うこともない。私たちはどこを見ているのだろうか



…これって、奇妙なことに、私は高校生くらいのときからの疑問だった。いまだにスッキリとしない

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Comment

  1. より:

    動物行動学者デズモンド・モリスの動作の信頼の順番の、④見分けられない手ぶり、⑤見分けられる手のジェスチャーで、「手振り」と「手のジェスチャー」という表現をしていますが、何か意味があるのですか?

  2. Max より:

    智さん、コメントありがとうございます。そのご質問、よくわからないです。原著にこのとおりに書いてあるものです。この前後を読んでも、とくに意味を持たせて別の書き方をしたようには思えません。

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