福井秀夫「厳しい解雇規制見直せ(経済教室)」日経平成18年4月28日朝刊

公開日: : 最終更新日:2011/09/11 書評(新聞)



経済教室は、余裕があればぜひ読んだほうがいいが、果たして全部読んでいる人がどれくらいいるのだろうか。最初に要約があるのが合理的でいいが、そこだけ読んで終わってしまうことも多い

今回は、なかなか面白かった。特に先日のフランスにおける若者の雇用対策法制反対のデモに関するコメントが興味深かった。なぜ、あれだけ反対するのか、その現象の説明の一つとして納得



格差問題の隠れた大きな論点は学歴偏重である

ブランド大卒者で仕事の能力が劣る者は少なくなく、逆に知名度の低い大学卒業者や非大卒者にも第一級の人材はよく見かける



これは公知の事実。最近の経済雑誌でビジネスマンの子弟教育に関する週刊ダイヤモンドの特集があった。そこには、高学歴にこだわるのは母親であって実社会を知っている父親はさほど高学歴を志向しない、とか、その方向で教育を変えていった武蔵高校の例が紹介されていて面白かった



本当の才能が正当に評価されず、学歴以外の評価や事後のやり直しがうまくいかない主因は労働市場における解雇規制と見ている。すなわち、最高裁は、整理解雇の4要件などの強行規定的解釈を行って、雇用契約の終了を容易には認めようとしない。しかし、裁判官自身は経営や人的資本蓄積の分析の専門家ではない。それだけに、多数の判例の間で実際の判断基準には大きなばらつきがある

労働者の生産性がいかに低くても、めったなことでは解雇できず、できても裁判で多大な労力・時間を含む費用が生じることを、使用者は覚悟しなければならない。このため、例外は多数あるが、確率的に生産性の高いブランド大卒者を重点的に正規雇用することが、使用者にとって合理的な選択となる。また、正規雇用は先に述べた情報の非対称のためにリスクが大きいため、期限付き雇用、派遣労働、パートタイマーの採用が増えるのである

さらに、日本のように解雇が極端に制限される社会では、他の雇用先になじめなかった労働者の転職市場も、新卒市場と比べてますます小さくならざるを得なくなる



なるほど。でも、確率というだけで、ブランド大卒者を採用していくことは人事担当者の怠慢ではないか。さらに、スタートラインを設定してヨーイドンで一斉に採用活動をすることも怠慢だ。ブランド学歴でなかったり正規雇用でなかったり、そういう人の方が得てして仕事が出来るということは社会人なら誰もが経験している。これをうまく採用してくる能力や意思がないから、企業はカルテルを組んで、一斉に採用活動を始め、優秀な人材を取れなくても、それは新卒者の過少さや競合者のせいにしたりする



判例を通じた日本の強力な解雇規制は次の4つの問題を生んでいるといえる。つまり、(1)就職市場での学歴による差別の極端な助長(2)職を得てしまった生産性の低い正規雇用労働者の極端な保護(3)そのコストを賄うことによる、生産性の高い正規雇用労働者や派遣労働者、パートタイマー、さらには株主の身分や給与・利益の阻害(4)転職市場の縮小、職業生活の再チャレンジ機会の阻害、である

解雇規制の自由化はむしろ、学歴やコネ・既得権がなくても誠実に努力する大多数の日本の若者や勤労者を確実に救済するだろう



同意



今月起きたフランスでの一連の学生デモは、若年層解雇を容易にする制度への反対が背景にあったが、国立行政学院ほかの特権層の学生たちや自らへの波及を恐れる既に職を得てしまった既得権層、労働組合がデモを支持した一方、失業者、移民層などは相対的に冷静であった



ここが感心したポイント



来年の通常国会へ法案提出を目指す労働契約法に、裁判官への白紙委任に近い先の4要件をそのまま盛り込もうという動きがあるが、これでは政策決定者の責任放棄である。本来判例による法の読み方が妥当でなかったり、判例のばらつきが大きい場合に、法改正して過去の判例法を破る政策を実現することこそ行政や立法の役割のはずだ

解雇の際の使用者による金銭補償を制度化すべきであるという主張もあるが、金銭補償は本質的解決たりえない。今よりましとはいえても、これは元来、判例により人為的に作り出された一種の「解雇権を排除する強力かつ不明朗な権利」を無批判に与件とする議論である。本来そうした権利自体の不条理を直視し、その強さと範囲を見直すことこそ先決である



著者の専門は行政法とのこと。この辺の主張は硬骨の士という感じで、ですごく頼もしい。同意

正しい雇用政策とは、情報の非対称性を是正する対策を講じることだ。すなわち業務内容、給与・労働時間・昇進などの処遇、人的資本投資に対する労使の負担基準などに関する客観的細目を雇用契約書に記載させるための法的仕組みを整備し、労使双方にやり直しの機会を与え、さらに当事者の合意を最大限尊重することが重要である。解雇制限は格差問題を悪化させる原因であり、解決策ではありえない



主旨に対して賛成。ただ、情報の非対称性を是正する、という話になったときに、詐欺という概念を思い出して、少し悩むことがある。自分がその一方になったとき、他方がどこまで情報を持っていないかがわからない。そしてどこまで情報を出したらOKなのかが不明だ。そして、相手方が全部知ってしまったら成り立たないビジネスというのもあるのではないだろうか。かといって、相手を欺いて利益を得たら詐欺として刑事上は罪に問われ、民事上は取り消されるというが、その限界もよくわからず、気になってしまう

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Comment

  1. 匿名 より:

    とても参考になります。

  2. Max より:

    ありがとうございます。そう言っていただいて、うれしいです。自分のメモに自信があるわけではないのです。でも、励みになります。

  3. ターヒル より:

    食品などの安全問題に関する事件が発生すると、「監督官庁は何をしている」スタイルのマスメディアの取り上げ方に、「役人たちは、これでまた仕事が増えると喜んでいるのでは」と疑問をいだいていました。20年8月26日付日経・経済教室「安全・安心と真の消費者利益」-福井秀夫
    は、そこら辺を理論的に説明した論文で、全面的に賛成です。初めて聞く名前ですが、すばらしい教授だと思います。

  4. Max より:

    私も8/26の経済教室は快哉を叫びました。最近は日経も読んでいないのですが、たまたま読んでいて。しかし、自分が2年前にこのようにメモを取っていた人だとは気づかなかってたりして…

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