酒井順子「負け犬の遠吠え」講談社

公開日: : 最終更新日:2011/09/19 書評(書籍)



このベストセラーは旬は過ぎてしまった感はある。しかし、そういう読み方が多いのが私

これは、現代の奇書。どうかと聞かれれば、「面白い、一回読んでみな」と言うのだろう

傍から見たら重そうな話題だ。しかし、実はそんなことはないのかもしれない。そうと本著にも書いてある

テーマが著者自身を含む人種のことを書いているということが大きいのだろう。観察眼と洞察力の鋭さには脱帽する。それを生き生きとした描写で表現している。著者の筆致の勢いには頭が下がる。負けているとか、孤独とかがなしたハイ状態のような、そんな元気のある文章



p16.ですが、「面白いこと」にはリスクが付き物なのです。面白い男性は、生活力が無かったり、暴力癖があったり、病的な浮気性だったり。面白い職場は、男女関係が乱れていたり、拘束時間がやたらと長かったり、給料が安かったり。そして面白い旅先は、いつだって危険がいっぱいと相場が決まっている

p33.日々子供を育てる生活とは、「お腹空いた」とか「眠い」とか「ウンチしたい」といった本能にひたすら対応する生活。裏の真意だの駆け引きだのといった要素が入り込む余地は、そこには無い



そんなことはない。子供と向き合うことは高度な心理戦だ



p43.ある日突然、理想の男性が目の前に現われて熱愛をし、「どうしても君に、僕の子供を産んでほしい」「でも私、もう妊娠しないかもしれないし」「君の子でないと駄目なんだ。君以外の子供だったら、僕はいらない」なんて会話を交わしてめでたしめでたし…というロイヤルストレートフラッシュ的な結末を迎えるという目がまずないということは、30代も後半になれば、負け犬にもわかってくる

p54.懇談会は、いつも粛々と進行しました。皆さんが、それぞれのお立場から専門的な意見を述べていらっしゃるのに比して、私は発言らしい発言を、ほとんどできなかった

p60.アニメの美少女に「萌え~」としているおたく君は、まかりまちがっても三十女とデートなどしたくないだろうし、三十女としてもおたく君と一緒にイタリア料理屋に行って、生のポルチーニと乾燥ポルチーニの味わいの違いについて話す気には絶対になれない

p65.彼女達についてはまず、故郷から都会に出てくるという行為を選んだ時点で、負け犬質を既に持っていたと言うことができます。地元を離れ、都会の大学なり職場なりに出てくるということは、「安定」や「堅実」や「人並み」といった言葉よりも、「自由」や「個性」や「可能性」といった言葉を好む傾向を持つ、ということ。18歳やそこらで故郷と家族を離れて都会へ来るという選択をする女の子が、素直に勝ち犬の道を進むとは土台、考えにくいのです

p68.都会は意外と、同性同士ばかりがいる場所が多いのです。昼のフレンチレストランはランチを楽しむ奥様ばかり。夜の新橋には、サラリーマンしかいない



しかし、これはいずれの例も、著者のいう勝ち犬の種類の人たちだよね



p76.自分のことばかり考えて生きている負け犬は、年齢なりの「他者のために何かしたい」という欲求を持っているものですが、だからといって結婚したり、シングルマザーになるのも大変そう。そんな時、負け犬の欲求を手軽に満たしてくれるのが、猫。猫を愛で、猫のために早く家に帰ったりすることによって、「他者のため」欲求は適度に充足されるのです

p97.「結婚して子供もいる超一流エリート」というのは何かと目立つのでマスコミなどにもとりあげられがちであり、その辺から「超一流エリートは負け犬にはならない」というイメージが生まれたものではないかと思われますが。実際にところは…と見てみると、超一流エリートの負け犬も、わんさといるのです

p102.「結婚しない確率の方が高いって思っておいた方がいいんじゃないの? だってマトモな男の人はもう絶対結婚してるって。今残っているような人は、ゲイとか素人童貞とか無職とか、何らかの致命的欠陥を持っている人ばっかりだってことはあなたも身に染みてわかっているでしょうが。私達は、流しソーメンの竹のすっごく末端の方にいる人間だってこと、自覚した方がいいよ。まともな人がいいんだったら、もう略奪しか手は無いと思うよ」

p103.「32歳くらいまではまだ。見合い相手は『人間』だったのよ。でも後半になってくると、だんだん人間じゃなくなってきたっていうか、地球外生物っぽい人ばかりになってくるわけね。ジャバザハット並みの体型の人とかホビット君並みの身長の人とか、カン高い声で『ケケケケケッ』って笑いだす人とか…」

p105.お見合いを嫌がる人の心理にも、その辺が関係するのでしょう。ただ結婚がしたいのではない。相手から強く求められた結果として、たまたまそこに結婚があったという形をとりたいから、恋愛を求める。「恋愛できない人は人生の落伍者」という物心ついて以来の強迫観念が、負け犬をなおも縛っています

p107.私もまさにそんな気分なのです。「結婚って、いいものよ」「やっぱり子供は、産んだ方がいいんじゃない?」と言われても、「結婚も出産も、してねぇもんはしょうがねぇじゃないかッ」としかもう言い様はない

p111.30代半ばになり、周りの負け犬を見ていて、ふと気づくことがありました。それは、”なんだかこの人達って、やたらと歌舞伎を観ているなァ”ということ



ここは爆笑



p115.働く独身女性のアディクション対象としてもう一つ顕著なものに、「踊り」があります。フラメンコにフラダンス、サルサにベリーダンスにクラシックバレエ等、やけに負け犬達は踊っていて、私もしばしば素人踊りの発表会に誘われることがある



ここも引き続いて爆笑



p115.負け犬はなぜ、踊るのか。…というと、何かが溜まっているから、なのでしょう。本来であれば出産や子育てに使うべきなのであろうエネルギーの玉のようなものが、負け犬の肉体の中では、使われずにうずいている。その玉をおとなしくさせるために、彼女達は腰をくねらせ、肩をゆすらずにはいられないのだと思う

p124.専業主婦を見てみれば、いくら「VERY」などを読んで服装に気を遣う主婦が増えたといっても、それは専業主婦独特の、ちと甘すぎるファッション。夜の西麻布といったシチュエーションにはあまり似合わなかったりするのです



また出た、「VERY」。先日読んだ“山田正人「経産省の山田課長補佐、ただいま育休中」日本経済新聞社”でも出てた



p128.素敵な服を着た負け犬の痛々しさの原因は、常に現役であり続けることに疲れてしまったという部分にもあるのではないかと私は思います

p136.結婚もせず子も産まずという負け犬は、自分の好きなことばかりしているから若々しいというイメージが、ややもするとあるかもしれません。が、それは違う。外見は個人差があるとしても、負け犬の内面はずいぶんと、老人臭いものなのです。それというのも負け犬には、自分のことだけを考える時間が、老人と同じくらいにたっぷりとあるから。勝ち犬達が、結婚生活の維持とか子育てといったことに躍起になっている間、負け犬はひたすら内省しながら生活しています。ああでもない、こうでもない…と考えていく結果、精神はずいぶんと擦れ、老成し、諦念のようなものが浮かんでくる



ああ、生き急いでいる



p141.女性は若いほど良いとされているのは厳然たる事実であり、自分達も若い時代はそれなりに得をしてきた。であるからこそ、若くなくなった時、”たいした能力は無いけれど、年齢的には明らかに自分より若い娘”が、年齢を重ねて能力を積んだ自分よりも得をしているのを見て、イラついたり、ムカついたりするのだと思う

p149.負け犬はむしろ、いつまでもひたすら「愛」のことを真面目に考えていたりする。「やっぱり結婚する相手は、心から愛しあえる人でないと…」などと言っているうちにどんどん年月は過ぎ去る。気がつけば、元JJ派は安定感のある結婚をして「VERY」や「STORY」を読むようになり、自分は負け犬街道を着々と進んでいるのです



また出た、「VERY」!



p166.負け犬の頭の中には、「自分達、つまりメスの負け犬はまともな人が多いが、結婚経験の無いオスの負け犬は何らかの決定的な欠陥を持つ人が多い」という偏見があるのです

p177.他人のことを「女として幸せじゃない感じー」と言う人はおそらく、他人を哀れむことによって、自分の幸福を確認しています。「私はあの人よりまだマシ」と思うことによって生きる元気を得るという構造が、そこにはある

p180.子育ての宗教化は、少子化と共に進行していった現象です。「このまま少子化が進んでいけば、日本に未来はない!」といった論調が昂じるにつれ、子を生した人達は、「私達は正しいことをしている正しい民なのだ」という意識を持つようになった



そんな意識ないって。妄想もここに極まれり



p202.同じ年代でも子を持つ人であれば、絶対に私のようには考えないでしょう。可愛い盛りのこの子を残して死ぬことなどできない。この子には私が必要なのだ。この子の未来の為にも、世の中も良くなっていって欲しい…。そう思うに違いない

p222.「明日は飲みに誘われてるし、明後日はお芝居観にいくし、週末は温泉でしょ? 仕事もすっごく忙しいのについつい遊んじゃうから、もう疲れちゃって」とことさら自分のスケジュールの埋まり具合をアピールする人ほど、”ああこの人って…、寂しいんだなぁ”と周囲の人に思わせてしまうわけです

p242.日本に住む雌雄の負け犬達は、結婚をしないで子供を産み育てているわけでもなければ、結婚をしない方が良いという確固たる信念を持っているわけでもありません。オスもメスも、異性に求めるものがあまりにも違うせいで、”結婚したい相手もいないし、しないでいるか”程度の気持ちで、ただ漫然と歳をとっていくだけなのです

p243.「えーっと私は結婚できないんじゃなくてしないだけで、それでも私は毎日楽しいから十分幸せなんで、勝ち犬から同情なんかされると心外だし、むしろ私は勝ち犬の方が可哀相って思ってるくらいなんで、今さら結婚しろって言われても一人の生活が快適だから無理だって思う…んだけど歳をとったら寂しいかもしれないし、でもそれに気付いた頃にはもう恋愛相手なんか現れないかもしれないし、っていうことは結婚って保険みたいなものだから。『はいれます終身保険』に今のうち入っておいた方がいいのかなっていう気もするけれど、でも保険にしがみつくっていう選択も何か貧乏臭いような…」

p245.サーヤがなだ20代の頃は、”サーヤったら、いつ結婚するのかしら?”と面白半分で彼女のことを見ていましたが、もう今となってはそんな気持ちは消えています。届かないとは知りつつも、心の中で「色々あるけど…、頑張りましょうねぇ」と声をかけているのです



いまはもう彼女は結婚してる



p249.「これってイマイチっすよねぇ、あっはっは」と豪快に笑う負け犬は、男性にとっては付き合い易い同僚ではあるものの、異性としては認識されづらい。昼は「っすよ」と言う女が夜になったらどのような態度を見せるのか見てみたい、などという好奇心を持つほどのフロンティア・スピリットを日本の男性は持っていないので、昼のうちから「私は女なのよ」というわかりやすいアピールをしておくことが、勝ち犬となるためには大切なのです



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  1. 白ゆり姫 より:

    林真理子さんが、どうしても子供が欲しいと言った時、すべてを手に入れる事はできない、作家としての名声があるのだから、あきらめなさいと、お母様に言われたそうです。でもそこであきらめないで、不妊治療を続けたところが、彼女の貪欲というか、すごいところかなと思います。でも実際は、多くの結婚している女性が、日々の暮らしの中で自分は勝ち組み等と思う瞬間はないと思います。私が教育を受けた修道女方が、女性特有の病気で苦しむのを見て、理屈抜きに女性は子供を生み育てるようにできているのではないかなと思います。そうする事によって健康が保たれるといのが女性の不思議な所です。

  2. Max より:

    白ゆり姫さん、コメントいただいきありがとうございます。おっしゃること、私も同感です。ご指摘の女性が子供を産まないことの健康面での悪影響など、そのような自然の摂理に反するような無理な動きが現在は多く見られるのではないかと思っています。例えば、人は恋愛の末に結ばれるべきであるという恋愛主義(見合い結婚を過度に嫌がる、結果的に結婚に至らない)、妊娠・出産には結婚が伴うべきであるとする結婚主義(未婚若年妊婦の人工中絶、できちゃった結婚)、自分の遺伝子が引き継がれた子でなければならない実子主義(過度の不妊治療、養子制度の軽視)、みたいなものが出てきているような気がします。私の読む本には傾向的に、程度の差こそあれ、その辺の言及があります。その辺は、おいおい整理していきたいと思っています。

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  • 名前:Max 年齢:人生の2合目くらい 誕生日:夏の暑い日 一言:他言無用ということでお願いします
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