大竹文雄「経済学的思考のセンス」中公新書

公開日: : 最終更新日:2012/02/10 書評(書籍), 大竹文雄



副題は「お金がない人を助けるには」だけど、これは内容を反映していない。取り上げたテーマを見るに、それがなんらかの一貫した主張を持っているようではない。著者の興味の赴くままなのか、著者の得意分野なのか、自身が学生に教える際の副読本を念頭に置いているのか。そういう何らかの、一般読者とは無関係な意図で書かれているようだ。

そういうのは良くある。先日読んだ“竹内一郎「人は見た目が9割」新潮新書”も、大学での教材として使うと書いてあった。であれば、そういう断りを入れたらいい



p7.ペルシコ、ポストルウエイト、シルバーマンの3人の経済学者によれば、アメリカ大統領選挙では、過去13回のなかで10回の選挙で背が高いほうの候補者が勝っており(最近の例外がジョージ・ブッシュ大統領である)、歴代アメリカ大統領の身長は、その当時のアメリカ人の平均身長よりも高かったという

p10.ペルシコ教授らが明らかにしたのは、現在の賃金を決める上で最も重要なのは、現在の身長ではなく、16歳の時点での身長の高さだということである。彼らは、高校におけるスポーツやクラブへの参加状況を説明変数に加えると、身長プレミアムが小さくなることを発見している。つまり、16歳時点で身長が高いと、体育会系のクラブに参加する可能性が高くなり、そうした社会活動によって、リーダーシップや組織を運営していくノウハウを学ぶ機会が高まるのではないだろうか

p12.女性が、高身長の男性を好むのは、そうした背景を簡単に代表する誰にでもわかる指標であるからだろう

p16.テキサス大学のハマメシュ教授らはアメリカ、カナダ、中国のデータを用いた一連の研究で、面接した人の主観的判断で「美男美女度」を計測し、その「美男美女度」が賃金に与える影響を計量経済学的に分析した。その結果、学歴や年齢などの要因をコントロールしても、「美男美女」は「不器量」な人よりも高い賃金を得ていることを明らかにしている

p19.生産性の裏付けがなく、雇用者の好みによって賃金が異なってくる場合には、要望による賃金差別を禁止したほうが、経済全体の生産性は高まる。仮に、企業間の競争が十分に高ければ、わざわざ高い賃金を支払って美人を集めているような会社は、長期的には競争力が低下して市場から退出せざるをえないはずである。そのような経営者の好みを反映できる会社は、競争がゆるい規制産業に限られることになる

p33.「負け犬」が将来結婚できるかという議論のなかで酒井氏は、「マトモな男の人はもう絶対結婚してるって。…まともな人がいいんだったら、もう略奪しか手は無いと思うよ」という発言をしている。酒井氏の主張には30代の独身女性から絶大な支持がある一方、結婚し子供をもった女性のなかには、「勝ち犬」といわれても馬鹿にされているだけで、どこか違和感があるという意見を持っている人が多いようだ。結婚したからマトモな男になったという可能性も否定できない。つまり、結婚が原因で、男の魅力はその結果であるという可能性である



この本“酒井順子「負け犬の遠吠え」講談社”にマトモに取り合わなくてもいいような気が…



p35.日本においては、女性に明確なマイナスのマリッジ・プレミアムがある(川口、2001)。男性についても20%から30%のマリッジ・プレミアムがある(樋口、1991)。その意味で、「結婚している男は、経済力がある」という酒井順子氏の観察は日本でもアメリカでも正しい

p38.アントノビックス教授とタウン教授の分析によれば、「隠れた魅力」がまったく同じであると考えられる一卵性双生児の兄弟であっても、たまたま早く結婚したものはそうでないものよりも26%も賃金が高い。少なくとも外見上や遺伝子レベルの能力が同じ2人を比較しているので、イイ男は賃金も高く、結婚もしているから、マリッジ・プレミアムが観察されたのではない。むしろ、「マトモな男の人は絶対結婚している」のではなく、「結婚によって男は仕事ができるようになる」というのが正しい。負け犬女性は、まだまだあきらめるべきではない。ダメ男に見えても、結婚すればイイ男になる「隠れイイ男」はまだまだいるはずだ。もっとも、負け犬女性にしてみれば、そんなことはとっくにわかっていて、「勝ち犬女性が一生懸命イイ男にしてくれた男性をいいとこ取りするほうが手っ取り早いのよ」ということかもしれない

p41.阪神大震災においても新潟中越地震においても、耐震性能の高い住宅は、断層上でないかぎりほとんど倒壊していなかったのである

p43.齊藤誠(一橋大学)、中川雅之(日本大学)、山鹿久木(筑波大学)の三氏が、東京のハザードマップの危険度と住宅価格の関係を分析した結果によれば、東京の住宅価格には災害リスクがある程度反映されて価格付けがなされている。そうすると、災害でより大きな損害を受けた人々はその分のリスクを覚悟していたということになる

p58.死亡時期でさえも、経済的インセンティブによって変わってしまうという分析結果を示したスレムロッド教授たちの研究は、金銭的インセンティブ設計の重要さを示してくれている。しかし、実務的な制度設計においては、人々の価格、賃金、税に対する感応度がどの程度大きいのかという点が重要である

p70.日本のプロ野球で一人勝ちが生じる原因は、フリーエージェント制でもドラフト制の弱体化でもなく、球団の参入や売買が制限されていることである

p72.テレビ観戦の発達は、一流選手の年棒を高額にすると同時に、二流以下の選手の年棒を大幅に下げることになる。誰でも一流選手の試合をテレビで見ることができるようになると、二流選手の試合を見たいという野球ファンはいなくなるため、技術的には一流と二流の差がほんのわずかであっても、年棒は天と地の差になるのである

p75.ただし、球団間の過大な競争が生じることを抑える必要もある。というのは、ファンは絶対的な野球の技術レベルの高さを必ずしも望んでいるわけではないからである。この点は、技術的にはプロ野球よりもはるかにレベルが低い高校野球に対する人気が高いことからもわかる。日本のプロ野球ファンは、ある程度技術的に高いレベルでの面白い野球を見たいのである

p78.プロ野球選手や監督の年棒に用いられているような成果主義型の賃金制度は、どのような場合でも成功するとは限らない。いくつかの条件が必須となっていることが最近の研究で知られるようになってきた(大竹、2005)。第一に、成果に関する評価制度の整備と評価過程の公平性が必要とされている。第二に、従業員の裁量権が増えることが重要である。第三に、従業員の能力開発の機会が十分に与えられることが必要とされている。いわれてみれば当たり前かもしれない。そもそも成果主義的賃金制度の導入は、(1)どのような仕事のやり方をすれば成果が上がるかについて企業がよくわからない場合や、(2)従業員の仕事ぶりを評価することが難しいが成果の評価が正確にできる場合、に行われるべきものである

p124.人々の勤労意欲や人種差別といった、観察することが難しい問題であっても、プロスポーツのデータを使うと、明らかに出来ることが多い。逆に、プロスポーツの制度を設計する上で、経済学の考え方が役に立つ。プロスポーツが、経済学の仮説を検証する「自然の実験室」と呼ばれるゆえんである

p129.もともと、長期雇用慣行の労働者の比率は、20パーセントとか30パーセントにすぎないといわれてきた

p171.あなたの会社の社員に「低い降水確率でも雨傘を持って出かける」という人が多ければ、ワークシェアリングは成功する可能性が高い

p206.日本人の7割を越える人が「十分な格差がないと人々は努力しない」という考え方に同意しており、「所得は各人の選択や努力によって決まる」と考えている人が過半数に達する。再分配制度を一部の低所得者を救うものから、努力しているにもかかわらず運が悪い人を広く救う制度に変えて所得保険的なものにしないと、将来不安を抱える多くの日本人の支持は得られない

p213.所得番付に登場する人たちのかなりの部分は、運・不運や生まれつきの才能によるものではないだろうか。勤労意欲の低下という「真の国民負担」を最小にすることこそが、税制改革・社会保障改革に求められる

p218.少子化と低成長は、親からもらう相続や贈与が若者の資産に占める比重を高める。子供の数が少ないと、一人あたりの遺産や贈与の額が大きくなるため、親の資産格差を子供が引き継ぐ可能性が高くなる。低成長社会になると、フローの所得の比率は小さくなるため、親から受け継ぐストックの比重が高くなるのである

p219.企業内の賃金制度も移動可能性と一体で考える必要がある。すなわち、企業内の賃金格差を拡大する場合には、同時に逆転が可能な人事制度を組み込むことが必要である

p222.税制・社会保障制度・人事制度などの社会制度の設計が難しいのは、金銭的インセンティブをきちんと考えるだけでも難しいのに、非金銭的インセンティブの影響まできちんと考える必要があるからだ。逆にいえば、私たちが社会の制度を設計していく上で一番大事なのは、人々が金銭的インセンティブや非金銭的インセンティブにどの程度、感応的であるかを知っておくことである。インセンティブへの感応度を知る際に重要なことは、因果関係を正確に理解することだ。「マトモな人はもう結婚している」といった場合、マトモな人が結婚している可能性が高いという意味で相関関係が成り立っているとしても、マトモな人だから結婚したという因果関係を表すとはかぎらない。結婚したからマトモな人になったという因果関係も十分に考えられるからである



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