中島義道「うるさい日本の私」新潮文庫

公開日: : 最終更新日:2012/12/31 書評(書籍), 中島義道

日本に住む人には一読をお勧めしたい 先日読んだ本“中島義道「私の嫌いな10の人びと」新潮社”が面白かったもんだから、続いて読んだ著者の本。これもやはり面白かった。著者の憤りには深く首肯する。そして著者の行動には快哉を叫ばずにはいられない。苦しみと面白みが交じり合った文体。そして筋の通った主張。現象面から日本人の困った行動様式への批判を行い、言葉を大事にする態度を強調する もはや一億層中流の時代ではない。同じような人が同じようなことを考えて同じようなことをしている時代ではない。そのときには、相手の気持ちを忖度することなど浪費だ。率直に言の葉にしなければ意思疎通はできない。その点を思い起こさせてくれる。“幸田真音「改革が残した「忘れ物」(さらりーまん生態学)」日経平成17年12月1日夕刊”と対照的だ ただ、著者は純粋に著者なりの哲学的な論理的な思考によるものだろう。そして本人も認める、ある種神経質的な騒音人災に対する過敏さによるものだろう とにかく事例が豊富で頭が下がる。その記録をしっかりとメモしておいたのだろう。そうでないとここまで実名を挙げて批判したり、その顛末を明示したりはできない。この辺も頭が下がるところだ
p25.デパートや新幹線の中、海水浴場や霊園においてさえ「盗難にご注意ください」という放送は入るが、けっして「人の物を盗まないでください」という放送は入らないことに気づいてもらいたい p45.問題はたぶん1%にも満たない傲慢で怠惰で不注意でしかも責任をみずから引き受けようとしない人々が「放送がなかったから、荷物を波にさらわれた!」とか「放送を流してくれなかったから、子どもがやけどした!」と言って管理事務所にどなりこむのです。こうした苦情がいかに見当はずれのものかは、よくよく考えてみればおわかりでしょう p55.私は引き下がった。、私は言葉によって私に反論する人にはどこまでも食い下がるが、理由なくあるいは言論を放棄して私を切る人の前では、いつでも引き下がるのである。なぜなら、私にとって大事なのは合理的討議をするという共通の土俵で戦う人のみであって、そうでない人に議論を向けても虚しいことは知っているからである p60.このように公共の場で「音」を発する側は、つねに権力を背景にしている。それを人々は、まったく反省することなく、受け入れてしまう。ここに、無意識のうちに権力に盲従する態度、権力の発する「音」に無批判的な態度がつちかわれる。私人がそれに疑問をもつことそれ自体を嫌悪する態度がやしなわれる p67.家が職場なのです。といってあなたの営業を妨げようとは思わない。そこで交渉ですが、1万円払いますから向こうに行ってください」とはっきり言ったら、屑鉄屋はあいそよく「あいよ」と受け取って走り去った p74.「モノレール大船駅は毎日6万人の乗降客がありますが、苦情を言うのはお客さん(あなた)だけですよ」「では、つい最近まで20年間大船駅で『大船、大船』という放送はなかったのですが、そのあいだぜひこの放送を流してほしいという苦情、しかも私のように合理的理由にもとづいて訴える苦情があったのですか?」「…」やはり、なかったのである p76.さて、その後大船という放送が復活しないことを確認して、私は半年後に社長にふたたび手紙を出し、「あの放送がなくなったことにより、何か苦情がありましたか」と質問した。「いえ何も」という返事を期待していたのだが、なんと「降りた気がしない」という苦情がかなりあったそうである p101.「いえ、たとえ裁判で勝っても、エスカレーターに注意放送がなかったことをマスコミは攻撃するでしょうし、お客もクチコミで来なくなるかもしれない。私たちは客商売ですから、こうした事実を無視できません。弱い立場にいることをご理解いただきたいのです」法律問題ではないのだ。事実問題なのである。たとえ裁判で負けないことはわかっていても、お客の減少を恐れてデパートは注意放送を流すのである。どこまでも深く広く根を張る「管理されたい症候群」の威力に、私はため息をつくよりほかない p120.私は自分で直接聞いた「音」に向かって苦情を言うという原則を守っている。「私が」不快なのであり、社会を改革しようなどという―だれも望んでいない―企てはとうに諦めているのだ。したがって、私の家の周りや最寄りの駅(仙川)付近および勤務先(調布)の近くはかなり静かになった p127.そんなとき、私は―敵が権力をもっていればいるほど―自分でも嫌になるほどはげしい口調になる。―あなたは、真剣に考えようとせず、適当に逃げているだけだ。鈍感で不誠実です。なんで、無能なあなたがここに勤めているのですか! 私がこう言うと、グリーンカウンターの若い係員などガタガタ指を震わせる。電話の場合、泣きそうな声で哀願する。―大学の先生がそんな無礼なこと言っていいのですか! ―ええ、いいのです。あなたはプロとして客に対してきわめて無礼なのですから、そしてそのうえ無能なのですから、そう言ってもいいのです。何度でも言いましょう。あなたは鈍感で不誠実で無能です
ああ、これ言ってみたい。そういう人が結構いたりする
p138.日本中どこに旅行しても「音漬け社会」との格闘は続く。いや、旅行の半分はそのために―つまり市役所環境課や商工会議所への講義に―ついやされる p140.じつは私にとって、今や日本中どこに行くのも拷問のようなものである。そして、どうせ拷問なら、その拷問のあいだに何か手応えのあるものがほしいというイヤシイ気持ちから、あえてこうして実力で「風車」にぶつかって行くのである p147.私も何度、家族、友人、知人から「あんた(おまえ・君・あなた)がいちばんうるさい!」と言われつづけてきたことか。いくたび「ひとに文句を言う前に、まず自分のことを考えてみろ」という目つきでにらまれてきたことか p168.「優しい」人の行為は無償ではない。優しさを向ける相手に「見返り=自分に対する優しさ」を期待する。そして、見返りのないとき、その人を憎むのである。しかも、その場合、見返りを相手の立場も含めて総合的に判定するのではなく、あくまでも自分の観点から一方的に判定するのであるから、なかなか満足するものは返ってこない p174.しかも、「優しさ」を求める他人にこれほど傷つけられながら、自分自身他人に同じように「優しさ」を求めるXは、こうした理不尽なシステムから抜け出ようとはしない。いかにこのシステムが残酷であるかわかっていても、断じてこの枠組み自体を壊そうとはしない。あくまでも、この構造の内部にとどまりながら、歯ぎしりするのである p184.私はなおも最後に追い打ちをかけた。―足もとの現実を見ずに、音の設計や研究をしている人の倒錯した態度に強く抗議します。そういう鈍感な人に音の設計を任せることは非常に危険なことです p201.たぶん、彼女は「駅構内では禁煙にご協力ください」という甲高いテープ音がエンエンと流れるのを耳にすると、―不快どころか―うれしいのであろう。それを聞いて、みんながタバコを消す光景を目撃すれば、幸福を感ずるのであろう。そして、現にタバコを吸っておらず、吸うつもりもない、そこにいあわせる99%以上の人にとってその放送は必要ないことをつゆ考えないだろう p227.とすると、「何でも質問しなさい」という言葉がじつは大ウソであることを子どもたちは次第に全身で見抜いてゆく。そして、子供たちは知らず知らずのうちに、むしろ「語らないほうが得」であることを学んでゆくのである p242.いじめられ遺書を残して死んでいった子どもたちに向かって多くの大人は叫ぶ。「なぜ、そうまで我慢したのだろうか? なぜ『いやだ!』と言わなかったのだろうか?」と。鈍感にもほどがある! あなた方が「語らせなかった」のだ。「いやだ」と言わせなかったのだ。「いやだ」と言うことすらできないように教育したのだ。いつもいつも「他人の思惑を考えよ」「思いやりをもて」「他人に優しくせよ」という美辞麗句で子どもをがんじがらめに縛り、「いやだ!」と叫ばせる能力を奪ったのだ。「他人を傷つけても、自分の名誉を守らねばならない」ことがあること、「他人に対する思いやりを捨てても自分の命を救わねばならない」ことがあることを教えなかったのだ!
ここ、すごく力強い
p243.じつはだれでも知っていることであるが、この国では「語る内容」より「語り方」に細やかなルールがあり、それに厳密に従うことが要求されるのである。そうでなければ、いかに「よいこと」でもとがめられる。「なんであんな言い方したんだ!」「もっと言い方に気をつけろ!」という小言が飛びかう国である。いや、ひとことひとこと他人を傷つけないように「言い方」に細心の注意を払わねばならない。言葉使いには、石橋をたたいて渡る、いや薄氷を踏むような態度が期待される。この「掟」を破った者はきびしくとがめられる。もはや、言った内容は問題にならない。「言い方」が悪いのだから、弁解の余地はないのだ。「どんなに相手を傷つけたか、考えてみろ!」とどなられつづける。だからみんな黙っているのである
これ、私の得意なことだ。言い方には無頓着だ。言いたいことを言うだけだ
p249.なるべく他人の発した言葉の裏に隠された感情、思惑、意図を探ることをせず、あえて文字どおりの意味をとらえるようにする。「あの人どういうつもりでこんな言葉を吐いたのだろう」とクヨクヨ考えることをやめる
20060704231130
うるさい日本の私
posted with 簡単リンクくん at 2006. 7. 4
中島 義道著 新潮社 (1999.12) 通常2-3日以内に発送します。
 

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