小林吉弥「田中角栄の人を動かすスピーチ術」講談社+α文庫

公開日: : 最終更新日:2013/04/05 書評(書籍), 有罪判決



20060902015900





書店にあったものをその場で買ったもの。文庫本なのでダメでも損失は小さいと思いつつ。実はもう2年前くらいに買ったもののはずだ。当時から、田中の二世議員が気に障っていたころに、なぜ、親の評判と比較して全然バランスしないのか、その辺の確認のための一冊という感じで購入したのだった

田中角栄の能力については、いまとなってはただ「凄い、凄い」としか聴こえてこないが、その源泉を確認しておきたかった。そのための本として購入した。タイトルにあるように、そのような田中の凄さのうち、特に話し方における部分に詳しい。政治におけるアジ演説と無関係としても一般論としても参考になる

スピーチの実例が多く掲載されている。なかなか楽しい。そして、非常に学のある話し方だ。本人の努力がありありと見える



p106.「人間てェもんはね、そりゃ恋もすりゃ妻ももらう。妻をもらやァ子供もできる。子供ができりゃ、学校にもやらねばならん。(子供を)大学に入れるかどうか。そんなことを考えておったら恋もできない。断じてやるんじゃ」



このフレーズは共感する。このようなことは「断じてやるんじゃ」と。グズグズ考えていると、恋も結婚も子供もできない



p123.新潟の地元記者は、こんな解説をしてくれたものである。「たとえば、真紀子は”元気らか””達者かえ””ですけ””だすけ”といった”お国言葉”をよく使うが、よく聞いてみると標準語交じりの怪しげな”造語の新潟弁”なんです。ところが、選挙民はそんなことはどうでもいいんですね。あの調子で、ヌケヌケと”オラの好物は票ですけ”などとやるタイミングがなんとも抜群で、いまでも父親の角さんを慕う人には、ゾクッとくるほどたまらないものになるということでしょう」

p176.「本当に病気をしてみなければ病気の苦しみがわからないように、本当に貧乏しなければ貧乏の苦しみはわからない、と言う人がおりますが、勤労しない人が、勤労の価値を論ずることはできません。勤労をしない人がどうして勤労の価値を評価することができるのでしょうか。私はいま、本当に政治の責任の立場に立って考えますときに、勤労ということは何か、勤労というものが本当にどんなに正しく、どんなに必要であるかということが、このごろ論じられることよりも、勤労は生きるための一つの手段でしかないというような考え方が、このごろ充満しつつあるような気がいたします。もし、あるとすれば、それは政治の責任でありましょう。勤労というものは自分たちの生活だけではなく、人類の歴史を永遠に支えるために不可欠なものであります。勤労なくしてどうして人類の向上があるでありましょう。だから勤労青少年には、自らの環境が、環境でやむを得ないものであるというような憐憫の情は禁物であります。学校へ入るのも、勉強するのも、それは自らに適合した勤労をして、より効率的、合理的なその人に適した職場を与えられたときに、能力を発揮できるように勉強するのだ、そしてその結果、自らのためにもそしてそれが社会のためにも、人類のためにも絶対不可欠なものなんだ。お互いは、忽然としてここに現れたのではありません。何千年、何万年、何十万年、何億年の歴史の上にあります。われわれの生命もまた、久遠に続くのであります。無限に続く人類の生命のなかの一コマ一コマをつないでいるのであります。われわれの祖先が、人類の生命をつなぐために、たゆまざる努力をしたように、われわれも後代の生命のために、たゆまない努力を続ける義務があるのであります。私はその意味で、勤労青少年に自信を持ちなさい、そして自らの置かれている立場にほのかな誇りと、感謝を覚えるべきだと言いたいのであります。」



引用が長いけど、なかなか噛み応えと味わいのあるスピーチだったので



p191.「私はねェ、中国はみなさん共産党だと言いますがね、私が中国へ行って周恩来に会ったときに、”共産党は好きじゃないが、中国は便宜的共産主義だと思う”と言ったんです。みなさんッ、”黄河文明以来、最高の知識人階層である中国人が、便宜以外で共産主義をとるはずがない”と言ったんですよ。そしたら、”田中センセイはよく勉強していらっしゃいますね”なんて言ってましたがね(爆笑)。こういうことがあります。だれにでもわかる真実で意思の疎通をはかり、雄大な理想の実現をはかろうとすること、これが政治であります!(拍手)

p201.田中のもとには、全省本庁の課長補佐以上の役人について、「身分帳」もどきの考課表が取りそろえてあった。これには役人本人はもとより、夫人、子供から親類縁者にまで及ぶ履歴をはじめ、仲のいい役人はだれか、政治家のだれに近いか、退官後にその役人が考えている人生のコースは何か、誕生日、結婚記念日といったことまで、じつに克明な事前の調査記録だったのである

218.「また、毎年、夏の一カ月を軽井沢の別荘で過ごした田中さんだったが、ここではあくまでブルフ三昧が目的で、永田町にどんな用事があってもまず戻らなかった。政界VIPが会いたいのなら、こっちに来いという姿勢です。むろん、結婚式、励ます会の類にも出ない。が、こと葬儀に関しては必ず出席した。亡くなったと知れば、まず通夜に駆けつけ、そのあと本葬にも出る。そのため、わざわざヘリコプターを飛ばして、必ず二度、仏様の前に立つんです。こういうことで、田中さんの人間性を見ない人はいない。単なる人気取りのためなら、とてもここまではできるものではない。巧まずして、人の”泣きどころ”を握ってしまったということなんです」(旧田中派代議士)

p225.かつて、田中角栄が土建屋社長として修羅場を渡っていたときも、仕事をとるために、この利害関係をおおいに利用して人心を取り込んだ。「カネが欲しいか、女が欲しいか。それでもイヤなら、オレと寝るか」といったセリフをフトコロにである

p233.かくのとおり、田中は自分が守るだけに、相手の約束反古は断固許さなかったのである。しかも、こうしたことは政争にかぎらず、個々の問題に関しても同様に臨んでいた。 たとえば、陳情。どんなささいな依頼ごとでもいちおうは相手の話を聞き、「イエス」か「ノー」で返事をした。引き受けるものは「イエス」、できないとわかればその場で「ノー」と言うのである。決して、「できるだけはやってみよう」「考えてみる」などという、あいまいなことは言わない。「イエス」となれば、陳情客にはこれはどんなことでも百パーセントの実現が待っていたのである。

p242.田中についての、こうした話はごろごろしている。葬儀となると、敵であれ恩讐を超えた形で、堂々臆することなくこうした手に出るのである。なぜ、出られるのか。田中には葬儀の場は何を置いても、自分の人生のなかで大事なことであるという信念が、まずあった。加えて、”見返り”をいっさい期待しないでやるから、躊躇というものがない。つまり、こうしたことを巧まざるという形で田中はやっていた。これは、強い。人の死というものは、遺族も含めて人間の悲しみの頂点にある。琴線にもっともふれやすい状況にあるのだということを、忘れてはいけない

p244.ひるがえって、田中角栄を見よと言える。彼の頭脳は、あらゆる点で人智を超えていた。百年に一人の政治家。福田赳夫夫や大平正芳が束になってもかなう男ではない」と言ったのは、元参院議長だった故・河野謙三だった。田中は余人を寄せつけぬ天才的頭脳の持ち主であった。自ら「コンピュータ付きブルドーザー」と言ったほどの、抜群の記憶力を持っていたことでも明らかだ。田中の人間関係形成の秘密の一つに、「一度会ったら名前も顔も忘れない」というのがあった。たった一度会った選挙区のジイさんバアさんでも、何年かあとに会ったとき、パッとフルネームで名前が口をついて出る。政治家だから当たり前じゃないかと言う向きがあれば、これは当たっていない。現実に、田中のように圧倒的多くの人の名前と顔を頭に入れておこうとしたら、その努力でおそらく政治家の仕事は何もできないだろう。政治家でスミズミまで多くの支持者のフルネームを覚えている者なんて、これはだれもいないのである。そのくらい、田中は記憶カ一つとっても天才的であった





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