松島庸「追われ者」東洋経済新報社

公開日: : 最終更新日:2011/09/20 書評(書籍)



昔の本だが、縁あって読むことになった

いまとなっては旧聞に属するクレイフィッシュの事件。一つの企業の成長から乗っ取られるまでの内幕を暴露するもの。うまく乗せて読ませていくよう、良くできている。書いている人間が自分をなるべく良いように表現するのは仕方がない。それにしても、H社に対してはすごい言い様だ

有名組織出身の会計士だからとCFOや監査役にして内憂としてしまうところ、権威ある組織のOBが社外監査役になってもろくに機能しないところ、弁護士が行う非道の数々。こういう肩書きや歴史で安易に信用してはいけないという教訓

ここで敵として出てくるH社の内部の人間関係がすごい。灰皿が飛ぶとか、会社と結婚指輪とか、契約できるまで帰らないとか

こういう人の失敗談というのは一つのジャンルになっているだろう。既読のものとしては「社長失格」。買ったけど積読状態なのは「失敗の本質」とか、「あのブランドの失敗に学べ!」とか



p32.「クレイフィッシュは仕事ぶりは丁寧だし、難しい技術用語を言って煙に巻くようなことがないから信頼できる」という評判が、新たなお客様を呼んだ。来る仕事は拒まずで、ホームページの印刷だろうが、システム開発だろうが、できることは全て引き受けた。様々な仕事をしながら、世の中がどんなサービスを望んでいるのかを探し当てていったわけだ

p32.役員や幹部の喧嘩のタネは、「おまえ、いい加減、家に帰れよ」。徹夜の連続で、仮眠用のベッドには、いつも誰かが寝ていた。仕事が一段落して、仮眠をとろうとしても、ベッドが埋まっていて眠れないから喧嘩になる。仕方なく、もう一室、部屋を借り増しして、ベッドを2つ並べた仮眠室を設置した

p51.それから数回、私が事業プランを山内に説明する傍らで、コピー機の営業マンが見積書を作っているという奇妙なミーティングが続くことになる。滅茶苦茶ではあったが、山内の態度は誠実だったし、分からないなりにもクレイフィッシュの事業について理解しようとする姿勢だけは感じ取れた

p67.私は用意していた答えを重田氏に言う。「電子メール使っていますか、メールアドレスは名前@自社名.CO.JPという独自ドメインですか、ドメイン名は早い者勝ちですよ。これなら10秒で説明できますよ」。私の言葉に重田氏が興奮しだした

p69.しかし、実は光通信の常套手段からいって、最初の取引条件など、どうでもよかったのだろう。実際、そのとおりになるのであるが、営業力を武器にされるとメーカー側は弱い。「取引条件を変えてくれないなら、売るのを止めますよ」と言われれば、メーカー側は泣く泣く条件を呑まざるをえないし、それが携帯電話の販売などで、光通信が携帯電話会社から多額の販売手数料を得るようになったカラクリだ。条件交渉など、彼らにとっては「後からのお楽しみ」でしかない

p74.話を聞くと、「インターネット用語辞典」といった辞典のような分厚い本を新入社員に渡し、「明日まで、全部、覚えてこい」なんてやっている。これでは、本質的な商品知識がつくはずはない

p80.山本氏の主張には、裏付けがない。根拠を問うても「営業現場の経験値」と繰り返すだけだった。だが、山本氏はしつこい。連日連夜、電話をしてくる。別の用件で話をしていても、最後は必ず、「無料メールアドレス数を増やしてほしい、お願いします」となる。「このままでは、もう売らない」という殺し文句とセットで、である

p86.単に携帯電話やコピー機を販売しているだけの会社が、「ソフトバンクに並ぶIT(情報通信)系有力企業」に祭り上げられる。確かに、光通信という社名からは、光ファイバーを初めとするITのイメージがある。実際は、重田康光という社長の名前から「光」と、市外電話や携帯電話の代理店ビジネスを意味する「通信」を足した社名にすぎない

p92.以前は、やわらかくウェーブしていた髪型は、短く、ツンツンととがっていた。上原常務から聞いた話では、親友である商工ファンドの大島健伸社長から、「髪型に気合いが入っていない」と言われて、変えたらしい

p96.「でも、I社を訴えるなんてことはしないよね」と、少し不安そうに重田氏は言ってきた。何を言ったところで、この人が動くのは、金と株だけだ

p98.いきなり、明日返事をくれと言われれば、そんな短時間では決められないということになるのだろうが、今すぐ決めろと言われたのが明日に延びたという形をとるというのは、いかにも光通信らしい、上手なやり方だ

p102.今思えば、買収をしたら、買収先がやる気をなくさないようにいろいろと配慮しなければならないというのは、別に新しい考え方でも何でもなく、重田氏は自ら電話をかけるという演出で、それを実行したに過ぎない

p112.経歴も調べずに、昔、役員の隣の家に住んでいた知り合いの公認会計士というだけで安藤氏に監査役をお願いすることになった。こうした安易な人の採り方が、後に私の致命傷となる

p117.孫氏の指摘は、正鵠を射ていた。この人は重田氏とは違って、インターネットの技術や仕組みについても理解が深いんだなと思った

p118.孫氏の言葉に、噴き出しそうになった。以前に光通信の重田氏が、私に「光通信が半分株式を持っても、株価が倍になるから一緒だ」といったのと同じだったからである。恐らく、孫氏の論理を重田氏がまねて、さらにパワーアップさせていたのだろう。「こうやって重田氏は孫氏のノウハウを吸収しているのか」と妙なところで感心したものだ

p122.光通信では、社長は神である。会社との結婚などといって、本当に会社名の入った結婚リングを社員が持っていたりするし、社長を見かければ「オスッ」とか「ゾスッ」と力強く挨拶して、最敬礼という文化。光通信では「社長のために何かをする」というのは、全てに優先する重要事項である。その光通信の文化をにらみ、「ウチの社長の誕生日記念のプロジェクトなんだから、山本さんの申し出なんか今は聞けませんよ」と社員に言わせた。効果は抜群で、どんな理由で断っても諦めずにプッシュしてきていた山本氏が静かになる

p128.光通信も、ノリにノッていた。株価は面白いように上昇し、光通信の社員は、借金をして購入した自社株、個人資産の値上がりを楽しんだ。社員には自宅にもパソコンが配られ、各社員用の画面には、自分の個人資産がいくらであるのかが表示されていたらしい

p130.「いやいや、キャバクラ連れていけば、いくらでも監査証明だしてくれる監査法人の先生もいるし、大丈夫ですよ。松島さん、なんで上場するのに、そんな苦労しているの。楽なところ、紹介してあげようか」。こんな連中と一緒にされてたまるかと、憤然として断った

p149.立場上は財務責任者で、IR(投資家向け広報)の責任者であるのに、私は、その存在を無視して、社外と連絡をとって話を決めてしまった。与えている立場と、実際の私の評価や態度が異なっていた。いかにも失礼だし、生殺しのような状態は、さっさとクビにするより酷い話だ。後に冨田と私の軋轢がひどくなるが、私に管理者としての潔さがなく、「上場会社だからCFOという肩書きの人がいないと困る」といった体面を気にしたことが要因だろう

p160.どの相手先も、同じ理由だった。光通信と取引をしていることがマズイ、光通信の資本が入っているからマズイ、と多少の差はあれ、とにかく光通信が絡んでいる以上は、取引ができないというのだ。相手の担当者が役員クラスであればあるほど、結論は早かった

p167.「松島さん、私は単なる提案をしているわけではありませんよ。46%を保有する株主として、言っているんです」。お前には選択の余地はないんだ、と死刑宣告でもするような冷酷な表情で、余語氏は続けた。「株主の言うことが聞けないんですか」

p190.河合も同意見だった。早速、一芝居打つことにした。「松島さん、重田に怒鳴られたんだって。ま、気を悪くしないでね」と勝ち誇ったような表情の玉村氏に言う。「おっしゃるとおり、私たちは子会社として間違っておりました。親会社さんが顧客を高値でなければ売らないとおっしゃる意思を、我々は尊重すべきでしょう。高値では買えませんので、このまま、光通信さんとの事業を続けて、減っていくお客様を見守ることにします」。効果はあった。結局、光通信側が折れた

p192.冷酷な笑みを浮かべながら、余語氏は言った。「あなたたちは、大株主の光通信の言うことを聞かない人たちだけれど、半年間、猶予を与えてあげます。半年間で業績を立て直してください。役員の任期も半年に短縮してください。そうしないと、うちは今度の総会でも議案には賛成できない」。大株主の言うことを盲目的にきいてしまう経営陣であれば、一般株主を守れない。業績悪化だって、誰に原因があるのか。言いたいことは、いくらでもあったが、再び揉めても仕方ない。「分かりました」とだけ答えた

p205.光通信とは、業務提携を解除する際に、「光通信はクレイフィッシュと競合するサービスをしない」ことを契約書上でも約束していたが、光通信の子会社のコールトゥウェブが、インターキューと組んで、見事に競合するサービスを始めていた

p213.ブランド監査役を招聘した人選に間違いがあった。年齢を重ねていて一流の出身であれば、人物としても立派だと思い込んでいた私の、それこそ経験不足である

p232.「記録はきちんとあります。必要なものは言ってください」と片山典之弁護士に伝えたが、結局、その後、片山弁護士は私に何ら照会することもなく、この大雑把な1回だけのヒアリングで結論を出す

p241.「事業会社で、事業の判断としてやった融資に、こんな責任を取らなきゃいけないんなら、誰も怖くて社長なんかやらなくなってしまうよ。松島さんに法的責任もなければ、賠償責任もないという意見書を出してあげる。弁護士だからといって、誰でも正しい人物で、正当な判断をするわけではない、ということは覚えておいた方がいいよ」

p263.「老人にはつらい仕事です。勘弁してください。私はクレイフィッシュの監査役になったときには、光通信のことも知らなかったんです」。世間知らずの学者先生に、危機的状況の監査役など頼むべきではなかったと後悔しても遅い

p273.ところが、記者会見の場で、私は、株券を担保に入れていること、借金の契約には違反がないことを明言してしまう。詐欺師たちの当初のストーリーは崩れ去る

p285.週刊誌にも典型的な光通信の手口と紹介されていたが、数日おきに法律的な書面を送りつけることで、相手側の事務能力を麻痺させる作戦である。この作成に対する備えを全くといっていいほどしなかったのは、私の甘さだ

p289.混乱は、次なる混乱を生み出す。4月23日には、中央青山監査法人が、突如、辞任を表明する。クーデター事件の前、説明に訪れた私に「会計上の不正でもないかぎりは、監査法人が辞めるなんて無責任なことはしませんよ」と言っていた、張本人の会計士が来社した。うつむいたまま、辞意を口にする。「監査法人の機関決定で、辞任させていただくことになりました」と言う。中央青山監査法人が後に発表した辞任の理由についても、あいまいな記述が多く、とても監査法人が辞任する理由にはなっていない。だからこそ、後任の監査法人にも就任してもらえたのだろうし、彼ら後任の監査法人からも、前任者が辞任しなければならなかったような事態は発見されていない

p304.ちなみに、玉村氏は私の株券が行方不明になった事件でも、「光通信と組めば解決できますよ」と自信たっぷりに言っていた。何で、そんなことを彼が言えたのかは不明だ

p330.マンションも何も買わなかったし、資産と呼べるものもないけれど、生きているということ、とりあえず借金はないこと、自由があるということ、これだけで28歳の若造としては、極めて幸せである



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