須田慎一郎「下流喰い」ちくま新書

公開日: : 最終更新日:2012/05/04 書評(書籍)



個別の事例集としては面白い。ここだけを読むのは有益だと思う。ただ、主張に関する部分には薄さが見られ、素直には了解しにくい

この本を読む人間の多くは、多重債務者が辿る軌跡とその結末の描写を求めているのだろう。いくつか見た本書の評釈には、その辺にスポットライトが当たったものばかりだったと記憶している。タイトルから察するに、著者もその辺のセンセーションを意図しているのだろう。内容を一言で要約した中に「下流」という耐え難いほど軽い言葉があるからだ。ホテトル、足立区、公共工事、タクシー運転手…。人間のいやらしい一面を利用して書かれてあるように思う。もちろん、私もそれに興味がなかったとはいえば嘘になる



p14.消費者金融の利用者数は、04年の1年間でついに2000万人の大台を超え、主婦を含めた国内の就業者数約8000万人のうち、実にその4分の1にあたる市井の人々がサラ金、つまり消費者金融会社を利用した計算になる。最新データによれば、平均借入額は101万円だ

p35.「当時の上司の口癖は、「悪いのは客。どんなことを言っても許されるんだ」と。しょせんは電話での督促ですから、何を言おうが、どんな悪態をつこうが気楽なんです。だんだん相手を攻めたてる面白味にも目覚めちゃって、こいつら人生の負け組なんだと…。責任転嫁もいいとこですけど、当時の私はほんとにそう思っていました」社員の間でも、回収係はストレス発散のできる部署として人気があったという

p38.彼らが揃って口にするのは、業界の拭い難い体育会的体質である。「とにかく何かというと、ティッシュ配りこそが原点なんだと叩きこまれる。だから新入社員は四大卒の幹部候補であろうが高卒だろうが、中途入社組、それこそ支店採用のアルバイトの区別なく、全員、街頭でティッシュ配りをやらされます」

p79.かつて全国銀行協会連合会の会長ポストを東京系とされる第一勧銀、富士、三菱、三井の4行の頭取によって持ちまわり方式で独占し、住友銀行をはじめとする地方に基盤を置く銀行とは、露骨なほど一線を画していた。全銀協会長になれば、叙勲のランクが上がり勲一等となるからである

p84.少し考えてみると分かるが、収入があるのにサラ金に駆けこむような客は、「現金でしか楽しめない享楽」にうつつをぬかしている危険性がある

p99.いま足立区内でマンションを購入しようとすると、都心から近いにもかかわらず相場は1000万から2000万円。区内にあった旧都銀の支店は相当部分が撤退し、区内にそれなりのネットワークを持つのは、都の指定銀行であるみずほ銀行ぐらいで、無人のATM店が数店、存在するのみというありさまだ。実際に区内を歩くと、スーパーやコンビニの店舗がやけに少ないことも実感として分かる

p102.ホテトル料金の相場は、客一人あたり2時間で3万円だという。Qさんは1回の売春で約2万円の現金が入る。勤務時間(待機時間)は正午から午後7時まで。1日にだいたい2、3人の客をこなし、4万円ちかい実入りになる。たまに客がチップをくれると、それも生活費にまわしているとQさんは語った。「でもだからといってそれが全部収入になるわけでもありません。月1回の性病検診、それにピル代、それに仕事用の下着など、結構出ていくお金も大きいのです」

p124.そう、入札に参加するのは歌舞伎町の風俗店オーナーたちであり、出品される商品は、いわずとしれた「生身の女」たちだ。しかも、その全員が多重債務者で、入札後はそれぞれの風俗店に”沈められ”、売春を強いられる運命にある…。

p131.どうやら女たちの値段は、「借金総額+50万円」が相場となっているらしい。入札して最高額で売買が成立した辞典で、レディース・ローンの金利がストップし、それぞれ身柄をひきとられていく。要は入札した業者が、女の借金総額ごと買い取ってゆくという仕組みだ

これって「落札」だよね。この本、本当に出版社のチェックが入っているのだろうか。そういう記載が少なからず見受けられたのが、この本の印象を悪くさせている

p161.ヤミ金といっても、すべてがすべてヤクザ風の輩が登場してくるとはかぎらない。多重債務者を食いものにする不良弁護士や司法書士(提携弁護士などと呼ばれる)、整理屋の類いは後を絶たず、消費者団体やNPO法人(特定非営利活動法人)、労働団体、ボランティア団体を偽装し、多重債務者からのコンタクトを待つ業者も多い

p169.04年4月1日から銀行のキャッシュカードでもリボ払いが認められるようになり、「おサイフケータイ」(NTTドコモが発売している「iモードFeliCa対応携帯電話」のこと。お金やカードなどの機能が集約されている)といった新しいツールも続々、登場してくる現状を考えれば、近い将来、多重債務とは本来無縁とされたプライム層までもが蚕食されていくのは火をみるより明らかだ



いや、そんなことはないよね。プライム層はお金との付き合い方をしっているから身不相応の借金はするはずがない



p175.ただし破産者になると、企業の役員、監査役、代理人、遺言執行者などにはならず、また職業では弁護士、公認会計士、税理士、司法書士、公安委員会委員、公正取引委員会委員、宅地建物取引業者、警備員、風俗営業者などにはなれないと民法に定められている



これも、そんなことないよね。民法で定めているのは、このうち代理人と遺言執行者だけで、それ以外は、民法でなく会社法や各種の業法に定められている。また、ここに列挙された地位・身分がバラバラでちょっと退いてしまう。公安委員会と公正取引委員会は顕著。こういう詰めの甘さが、全体的な信頼を毀損している



p200.いまやタクシー業界は建設業にかわる雇用の安全弁とされ、新規採用数も他の業種に較べて突出して高いが、その労働現場の実態はというと、悲惨の一語に尽きる

p204.代理店の言い分は、いつも同じである。「そんな記事を載せたら、広告を引き揚げます」「今後のお付き合いに支障がでますけど、いいんですか」電通、博報堂といった大手の広告代理店は”寝技に長け”、印刷所にまで手をまわして、出版社の許可なく早刷りのゲラなどを易々と入手してしまうこともあるという。私の記事の場合は通常のクレーム、警告などではなく、もっと露骨なものだった。その大手広告代理店はいきなり編集部を素通りして、夕刊紙の親会社である某新聞社の広告出稿を全面ストップすると圧力をかけてきたのである。記事を読んだ広告代理店の担当セクションが、勝手にスポンサーの意を体する形で圧力をかけていたのである



別の本でもこういうのは読んだ。あ、「下流」の元祖の、これだ(“三浦展「下流社会マーケティング」日本実業出版社”



p206.たとえば日経新聞で一面広告を掲載する場合、1回(1日のみ)の料金は約7000万円かかるといわれている。私は新聞社の知り合いに片っ端から電話をかけて、各新聞で全面広告を頻繁に出稿している企業名について訊いてみた。すると、いまやそれができるのは外資系保険会社か、自動車会社、もしくは消費者金融の3つしかないという

p206.実は以前、武富士の接待リストなるものが流出したことがあり、そこに私の名前も入っていたので大変に迷惑したことがある。たったの一度だけ、広報の人間と神田駅前の小料理屋で食事をしたことがあり、こだわるようだが2軒目はこちらがご馳走して、イーブンの関係にしてあったはずなのだ

p214.東京都内では、前述した足立区と並んで生活困窮者が多いとされるのが北区だ



20070203235900

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