村上隆「芸術起業論」幻冬舎

公開日: : 最終更新日:2012/12/23 書評(書籍)







刊行当初から雑誌の書評などで取り上げられていたので読むつもりでいた。近い具体的な知人からの薦めがあり、その優先順位は上がった

共感できる記載が多かった。芸術とビジネスはかわらない。基本や人まねや歴史が大事だ。カネの手段としての有用性の全肯定。言葉の重視。自分から先駆けること。人を巻き込むこと

一気に読んでしまった。強く勧められる一冊



p24.欧米の芸術の世界に挑戦する人のやるべきことは、運動や娯楽で世界に挑戦する人のやるべきことと変わりません。勉強や訓練や分析や実行や検証を重ねてゆき、ルールをふまえた他人との競争の中で最高の芸を見せてゆくのが、アーティストという存在なのです。日本の美術の事業は、ただ「自由に作りなさい」と教えますが、この方針にしても、欧米の現代美術の世界で勝ち抜くためには害になりかねません。自分勝手な自由からは無責任な作品しか生まれません

p27.ぼくは、36歳になる頃までコンビニの裏から賞味期限の切れた弁当をもらってくるような、お金のない時期を経験しました。酒屋やスーパーマーケットの裏から梱包用のダンボールをもらわなければ、作品ができても梱包発送ができなかったのです。お金のない時の動きというのはそういうものです。何をするにも時間がかかる。そういう時間を縮めるために金銭の力が必要になるのです。金銭があれば、製作する時間の短縮を買えます。理想のシナリオを手元にひきよせられます。でもどうしても手に入らない時もある。その時は時間で稼ぐしかないのも事実です。芸術には金銭と時間が必要という当たり前のことを貧乏の中で実感したからこそ、ぼくはお金にこだわるようになりました。たまに「芸術家のクセにお金にうるさい」と批判されますがわからない奴にはわからないのだ!と思ってきました

p30.今、起業家たちがもてはやされつつも嫌われているのは、夢を実現させているからだとぼくは思うんです。夢があるならこんなふうに現実にすればいいというマネジメントが立証されてしまったら、先生と生徒たちが何十年も飲み屋で酌みかわしてきた夢のような話が一瞬にして無になりますからね

p32.「それはないだろう!」そういうあからさまなことをやり、周囲から嫌われていくけど、嫌われる張本人にすれば「身も蓋もないことをやったもの勝ち」だということは、もう、はっきりとわかってやっているのです。身も蓋もないものにはお客さんが乗れる雰囲気があるのです。熱量のある雰囲気がなければお客さんはつかないというのは、自明の理なのです

p34.新しいものや新しい概念を作りだすには、お金と時間の元手がものすごくかかります。お金や時間を手に入れなければ「他にないものをひきよせるために毎日研究をすること」は続けられません。つまり、ビジネスセンス、マネジメントセンスがなければ芸術制作を続けることができないのです。ぼくの作品はまさにその傾向の一つだと思うのですが、なぜそういうことが起きるのか、というと「作品の価値は、もの自体だけでは決まらない」からでしょう。価値や評価は、作品を作る人と見る人との「心の振幅」の取引が成立すればちゃんと上向いてゆくのです

p40.ニューヨーク・タイムズにおける、「原爆や敗戦で揺さぶられた日本の歴史や文化を理解するすばらしい機会」という評価は、5~6人の翻訳者で、5~10回の推敲を重ねて造りあげた展覧会の英語のカタログがあってこそのものだろうと思います。ちゃんと伝えたいことがあるのならば、そのくらいの時間や手間をかけなければなりません。ピーター・ドラッカーの経営論に唸る。ハリー・ポッターの物語に、夢中になる。どちらも変な日本語の文なら感動も薄れます。文章に気を配るのは最低限のマナーなのですが、アートの現場はそれ以前のレベルだったのです

p46.金額は、評価の軸として最もわかりやすいものですよね。万人にわかる価値基準を嫌がる人は、「誰にでもわかる数字で評価されると本当は価値がないことがバレてします」と怖れているとも言えるでしょう。作品の価格や価値を曖昧にしてきたからこそ、戦後の日本美術は悲惨な状況になったのです

p55.壊れた世界で命を燃やさなければいけないお金持ちの「物足りなさ」が芸術に向かいますから、金銭ですべて解決してきたはずの富裕者の見えない欲望を確認するかのように、精神異常者の作品や性的虐待を含む作品が求められる時もあります

p57.ぼくは、日本人のスポーツ選手の海外への挑戦を見ているとイライラしてしまいます。「遠慮しすぎ!」目的があるなら、なぜ、チームメイトや業界を味方につけないのだろうと思うのです。是が非でもやりたいことがあれば「是が非でもやらせる」という圧力も必要だと思う。優れた選手ほど周囲に圧力をかけていくのではないでしょうか。優れたレーサーなら、最高のクルマを作らせるために本気でチームメイトを追いこんでゆくはずです。セナやシューマッハはプレッシャーをかけることも含めて自分の仕事だと捉えていたはずです。時には人非人と言われてもしかたがないほどに周囲を追いこんでゆく。ビジネスの構造で仕事を組みあげて、「報酬と対価に見合うように何が何でもやりとげろ!」と、プレッシャーをかけてゆく。重圧を作ることができる人とそうでない人では、行動の結果にかなり差がつくでしょう

p85.ぼくは日本では成功しませんでした。アメリカで受けいれられた後に、はじめて、日本での評価も伴ってゆきました。アメリカでの成功の秘訣は明確です。人のやらないことをやること。野球もアメフトもバスケもそうですが、アメリカ人はルールを作って楽しむ遊びが大好きです

p95.鳩摩羅什は仏典を中国向けに翻訳した人物ですが「極楽」「色即是空」「空即是色」などの単語は彼の名訳から生まれたのだそうです。2005年5月のNHK『新シルクロード』で見ました。現在も中国や日本で使われる主な仏教用語は、翻訳から生まれたものなんですよね。サンスクリット語の原典にはない「煩悩是道場(煩悩は人を成長させる道場のようなもの)」といった概念を、彼は翻訳の過程で書き加えたり…約300巻の翻訳経典は、中国や日本の基本経典となったそうです。翻訳だから、サンスクリット語のニュアンスとは少し違うかもしれない。しかし大半の中国人や日本人も仏典のハードコアな部分よりも聞いた瞬間にわかる言葉を求めていたのでしょう。だから「極楽」「色即是空」「空即是色」と言われて何かわかって光が見えた人がいたのなら、もうそれでいいんじゃないですか

p96.既に誰かが行った手法を知るということは大事です。歴史を知るということには、宝が隠れているのですから。かつて行われたことを現代に正しく合わせることでオリジナルが生まれることも知っておいた方がいいでしょう

p114.恵まれた環境、つまりアートの中心NYにいながらメトロポリタン美術館にもMoMAにも行く気になれません。本屋で日本のアニメ誌を見る。日本の漫画を読んで、泣く。部屋でアニメの模写をする。最先端のアート情報あふれるスタジオで作品を制作するはずだったのに、ぼくは毎日ペンキでアトリエを白く塗る日々を過ごしてしまったのです

p120.「しかけ」や「ゲーム」を楽しむことこそ、欧米の美術の世界でのアートに対する基本的な姿勢です。現代美術家のダミアン・ハーストは、煙草を吸った後の吸い殻と灰皿を「作品」と言いきりました。「言ったもの勝ち」の美術の世界で、彼の発言は受けてしまったのです

p158.一生の間、歴史を学習し続ければ、どんどん自由になれる。これは当たり前のことです。芸術の世界だけではなく、どの業界にもどの分野にも特有の文脈がありますが、「文脈の歴史のびきあしをあけたり閉めたりすること」が、価値や流行を生みだします。ひきだしを知らないまま自由自在に何かができるということは錯覚や誤解に過ぎません

p166.美術のルールを読み解く方法は簡単なのです。歴史を学べばいいのです。好きな作品や好きな作家の辿ってきた系譜をしっかり勉強するだけで、かなりのことが見えてくると思います

p167.ぼくは自分の女の子の趣味を調べたことがあります。町ですれ違うとなぜかふりむいてしまう人とそうでない人がいる理由を知りたいと思ったのです。様々な女の子の写真を見て気になった子の共通点は「緑色の洋服を着ている」でした…。わからないことがあるものだなと思いましたが、「緑色」が自分を驚くほど動かしていたのです。こういう「根拠がないように見えるけど明らかに存在するルール」も、かなり大事にすべきだと思います

p192.「芸術のビジネスの世界でタフな戦争をし続けることから、この人は、逃げているんだ。一夜の徹夜の陶酔と興奮で酔えるヤツだったのか。徹夜したことでほめられたいのか。そんな学生気分の徹夜の方が、世界と渡りあうことよりも、優先順位が高かったのか」志も夢も違っていたのかなと、ぼくは残念に思うのです。同じものを見てきたはずなのに、同じものではなかったのかということはよくあります。徹夜をすることは「地獄っぽく」は見えるのかもしれませんけれど、地獄でも何でもありませんよね。芸術における地獄というのは、もっとこう、寝ても覚めても出口も入口もないねじれた空間なわけで…そういう芸術の矛盾を抱える苦しさを見ようとしないで「一生懸命」という幻想の中になぐさめを見いだしている場合ではないでしょう

p196.ぼくは何でこんなに闘犬のように怒り続けているのだろう? 理由は本当に自分でもよくわかりませんが、ずうっと怒り続けていることは確かです。自分への怒りも、周囲への怒りも、世間への怒りも常に溢れるほど出てくるんですね。成功したいという情熱よりも、今のままではイヤだという不満がぼくを動かしている。論理で説明できないけど「怒り」こそが表現を続けるのに必要ではないかと思うんです

p200.「作品のために何でもする」という正義があるかどうかで、結果は変わると思うのです。怒りや執念や「これだけはしたくない」という反発は、重要なのではないでしょうか。そういう意味でぼくは団塊の世代はあんまり好きにはなれないんですね。若い頃に勝手にマスターベーション的に怒りを発散させて、出すだけ出したらホーッとしているみたいな姿が、気に食わないんです。「怒りのない世界も、いいよねぇ」理想はどこにいったんだ? 死ぬまで求めるはずだろ? 何で途中で投げだすんだ? 「まぁ、いいじゃない」



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  • 名前:Max 年齢:人生の2合目くらい 誕生日:夏の暑い日 一言:他言無用ということでお願いします
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