谷川浩司、谷岡一郎「「ツキ」と「実力」の法則」PHP文庫

公開日: : 最終更新日:2011/09/16 書評(書籍)



こういう対談物は、自分がメモした部分にどちらの発言が多いかを確認するのが一興。今回は意外と谷岡氏の発言が多かった。ツキは確率の中のゆらぎだ、と明確に否定しているのが好感



p33.(谷岡)お金を使い続けるモードに入っている人というのは、非現実的空間から抜け出したくない、もしくは抜けられない状態にあるんです。ですから、例えばサイフに写真を貼るとか、友人と行くとか、一時間ごとに鳴る時計を持っていくとか、何でもいいから現実的空間に引き戻してくれるような工夫が必要なんです

p41.(谷岡)バブル経済の時代、1,000万、2,000万と株で儲けた人たちが、それを収入だと思い込んで贅沢な暮らしをしましたね。本当はそんなのはギャンブルで勝ったようなものですから、ふだんの生活とは切り離して、給料が30万円なら30万円の暮らしを維持しなければいけなかった

p45.(谷岡)カジノにとって一番恐ろしいのは、1回の勝負でドンと大きく賭ける人です。それをやられると胴元はもうびくびくですね。逆に客が広く薄く賭け続けている間は、もうほくほくです

p54.(谷岡)カジノのようなギャンブル場というのはなるべく客を実社会と切り離すように工夫されているんです。だからポーカーチップを用いて、それがお金だと思わせないように工夫する。また、日常生活の場では存在しないような着飾ったディーラーや派手なインテリアで非日常的空間を演出する…。カジノって窓がないでしょ。外が見えたら、現実社会に引き戻されます。外が明るくなったり暗くなったり、夕日が見えたりするだけで、人間は条件反射で現実社会を思い出すんです。時計を見るだけでも、現実社会を思い出すんです。ですから、カジノには壁掛け時計というものはありません。そういうふうに工夫されているんです



カジノ以外にも時計がない場というのは多いと思っている。ショッピングセンターなども意外と見つからない



p61.(谷川)最初に名人になったことのある大局で、相手の先生が対局室に先に入って、上座に座っていらしたことがあるんですよ。大ベテランの先生でしたから、それなりお考えはあったのでしょうが、いちおう名人が上座に座るのが慣例になっていますので…。あのときは、納得できない思いで気持ちを少し乱されましたね。その時は、いったん手洗いに行って頭を冷やして、それから気持ちを整えるために、対局が始まってから初手を指すまで十分くらい考えました。どうすればいいかな、と思って。その日は持ち時間6時間の対局でしたから、対局時間は十数時間ですよね。これから十数時間、そのあいだずっと怒り続けることができるんだったら怒ってればいいけれども、それは無理だと。やっぱり冷静に指して、勝つのが一番だ。だから普通に指そうと。その結果、なんとか冷静さを取り戻して、勝つことができました。やはり、勝負師にとっていちばん大切なのは勝つことです。心を乱されて負けたのでは面白くないですから



羽生のときも、同じエピソードがあったような



p62.(谷岡)私は、誰かに嫌なことや気に食わないことをされたときは、「自分は、この人と人生を入れ替えたいか?」「あの人の立場になりたいか?」と考えるようにしています。そうすると「こんな意地悪をする人間には、絶対になりたくない。ああ、俺は俺で良かった」と思いますよね。すると、相手に対する怒りよりも哀れみのほうが先に立って、怒る気がなくなってしまう(笑)学生にもときどき言うことがあるんです。「その人に対して腹を立てて何かやったら、相手の思うツボだからね」とも言っています

p70.(谷岡)相撲の張り手は、横綱に対して失礼だという人もいますが、ルール上、禁止されていないんだったら、勝つためにベストを尽くすのがプロだという考え方もありうるわけです

p96.(谷岡)人々が「ツキ」とか「運」と呼んでいる現象は、そうした統計上の<ゆらぎ>の中で起こる状態を、後から結果論的に解釈したものにすぎない、というのが私の考えです。ハッキリしているのは、未来に対して「ツキ」をコントロールすることはできない、ということですね

p108.(谷川)一番は実力、次は精神力、最後に運とツキ、ということになるでしょうか。将棋の場合、運が占める割合は1割に満たない。ゼロに近いと言っていいと思います



昔タクシーに乗ったとき、前部座席の背中に乗務員のプロフィールが掲載されていた。趣味に囲碁と書いてある。そこからその類のゲームの話になった。私が「囲碁はまぐれで勝つことがあるか?」と訊いたところ、まったくないという返事だった



p109.(谷岡)7対3の割合で最善の手を選べるだけの実力がある棋士でも、4手続けて正しい手を指す可能性なんて2割5分以下なんですよ。つまりそれは、7割打者が4本続けてヒットを打つ確率と同じです。逆に言えば、3割打者が4回続けて凡退する確率が同じですね

そうした有用なものを見つけだす能力のことを”セレンディピティ(Serendipity)”と言います。これはもともとブタがトリュフを嗅ぎ分ける能力を指していた言葉ですね。ご存知の通り、トリュフを採るときには、それを嗅ぎ分ける能力を持った特殊な豚を使って探させるわけですが、その能力のことをセレンディピティと呼んでいるわけです。表面上は何にも見えないんだけれども、何らかの特殊な能力によって、この中に何かあるということを嗅ぎ分ける能力―それをそう呼ぶんですね

p134.(谷岡)とにかくツキを呼ぶというのは、普段の実力を出せる状態に持っていくということです

p145.(谷川)大リーグで活躍中のイチロー選手が焼肉屋に行って、そこに佐々木主浩投手がいると「彼は酒豪だから」と嫌がって出て行ったという話が、数年前の新聞に載っていましたね(笑)

p146.(谷岡)以前、プロテニスのボリス・ベッカーが試合に勝ったあとのインタビューを見ていたら、だいぶ質問が進んだところで、「練習の時間になりましたから、これで失礼します」と言ってさっさと打ち切ってしまうんですよ。しかも、試合に勝ったあとでもちゃんと練習に行く。自分の体調を調整するわけでしょうね

p182.(谷岡)普通の論理的思考ではなくて、常識を超えた<とんでもない発想>ができるということがポイントだと思うんですよ。飛車や角をタダで捨てたりするような、通常ならとんでもないと思われるような手が、詰め将棋では山ほど出てきますよね。しかも、みんなをあっと驚かすような手をできるだけ盛り込まないと、詰め将棋としては失敗なわけで…。そういう詰め将棋というものが、実は谷川さんの常識を超えた発想の転換に役立っている。どこからこんな手が思いつけるのかという、あの光速の寄せの原点だったんじゃないかと思うんです。普通の人は、その発想の転換というのがなかなかできないと思うんですよ

p228.(谷岡)私の好きな言葉に「過ちを繰り返すことを過ちという」―という孔子の言葉があります。一度だけのミスなら、過ちじゃない。それは誰にでもあることですね。そうではなく、過ちを反省せずに同じことを繰り返すのが、本当の過ちなんだと。ミスはミスとしてきちんと認めて反省し、次に頑張ればそれはもう過ちでなくなるんだ。むしろ、あそこで失敗しておいて良かったということに変えられるんだと

p241.(谷川)将棋好きの気象予報士森田正光さんにイベントに出席して頂いた後の会食の場。このところの酷暑や少雨について森田さんは、「すべて予測できる範囲の中の現象で、これまでにも同じような事は起こっています」と明快に言われ、そしてこう付け加えた。「ただ、皆さんがそれに気付いていないだけです」と。勝負の世界に身を置く立場としては、奇跡という表現には敏感に反応してしまうし、できるだけこの言葉は使わないよう気を付けているつもりだ



“三谷宏治「観想力 空気はなぜ透明か」東洋経済新報社”でも気象に関する同じことが書いてあった気がする

20070415125000

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