野口悠紀雄「出生率の引き上げは少子化社会対策として適切ではない(通説粉砕経済塾)」週刊東洋経済2006.4.1

公開日: : 最終更新日:2012/02/20 書評(雑誌), 週刊東洋経済, 野口悠紀雄



ここで急に1年以上前の記事をメモしておく



・出産費用がゼロになったところで、出生率に大きな影響は及ばない可能性が高い。子育てに必要なコストは、出産費用だけではないからだ。現在の日本についていえば、最大のコストは、教育費と育児に必要な時間の機会費用(育児で犠牲にされる時間を労働時間に充てた場合に得られるはずの所得)だろう。このいずれもが、所得水準の上昇に伴って増大する。したがって、社会が豊かになると、出生率は低下する傾向が見られる

・どんな政策をとれば出生率が上昇するかは、確実には予測しがたい。それに出生率が上昇しても、今度は依存人口比率の上昇という別の問題が発生する。すでに高齢者人口比率が高いことに加えて生産年齢以前の人口が増加すれば、すくなくとも出生率の上昇が生じてからしばらくの間は、勤労世代の負担は増加する。したがって、出生率の上昇は、人口の年齢構造の変化に伴う経済的な問題を解決するとは限らず、むしろ悪化させる危険がある

・人口1人当たりの所得は、人口が減少すれば、減少するのではなく、増加する可能性が高い。なぜなら、(資本総量が人口減少率を上回って減少しないかぎり)労働者1人当たりの資本量(資本労働比率、または資本装備率)が増加するからである。通常考えられる生産関数を前提とすれば、これは労働者1人当たりの生産量を増加させる。例えば、ダムの建設にあたって、スコップとツルハシの人海作戦で行なうのではなく、パワーシャベルやクレーンなどの機械を使えば、労働者1人当たりの仕事量は増大する。これと同じことが、経済活動一般について言えるのである。したがって、人口が少ない社会は、豊かな社会である。この意味において、人口の減少は、むしろ歓迎すべきことなのだ



昔、何かの記事で、どこかの有名人首長のころの役所では、導入されたワープロがこれまでの人間の仕事を奪うため、使用を制限するという話があった。昨日のコラムにもあった、そういう生産性の悪さ(”吉川洋「低すぎるサービス業の生産性(経済を見る眼)」週刊東洋経済2007.5.19“)



・実際、現在の世界を見ると、貧困にあえいでいるのは、出生率の高い社会である。日本でも、これまで高い人口増加率がさまざまの問題の原因になった場合が多い



昔読んだ本で、若者の比率が一定を超えると戦争が起こると書いてあった



・高齢者人口の比率が上昇すると年金制度の維持は困難になる。このもんだいに対する基本的な解決策は、年金の給付と保険料の仕組みを見直すことだ。とくに、支給開始年齢を引き上げることが重要だろう

・年金に限らず、現在の日本の社会的な仕組みは、若年者の比率が高いことを前提としているものが多い。年功序列的な賃金の仕組みも、若年者の人口が高齢者の人口より多いこと(これは、総人口が増加することとほぼ同義である)を前提とした仕組みだ

・重要なことは、総人口の減少や高齢者人口比率の上昇は不可避であると認識し、社会の仕組みをそれに適合したものに改革してゆくことだ。たとえば、生産年齢人口の減少によって労働力不足がもたらされる可能性が強いが、それに対しては、製造業の生産拠点の海外立地を促進したり、外国人労働力の流入を積極的に認めることで対処できる側面も強い。前者は「空洞化」として批判されることが多いが、人口構造の変化を考えれば、むしろ望ましい傾向と評価することができる

・「少子化社会に対応して出生率を高めるべきだ」とする議論は、こうした構造改革が現実には困難であるために、議論をそらそうとするものであると考えることもできる

・必要なのは、出生率を高めて従来型の社会を再現しようとすることではない。人口減少と高齢化に適合した社会構造を作ることこそ、われわれに課された課題である



本質を突いて切れ味鋭いとはこのことだ

20070515230200

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