橋本努「自由に生きるとはどういうことか」ちくま新書

公開日: : 最終更新日:2011/12/25 書評(書籍)



全体としての統一感というか、結局この本の主張が何かがイマイチわかりづらい。著者の博覧強記振りは分かる。また、局地的な事実の提示や主張には、興味深く感じ、ときに唸らせるものがある。しかし、読後スッキリしたものがないのはなぜか

著者のほかの本も買ってあるので、近いうちにそれもあわせて読んでみようと思う



p029.興味深いことに「日本映画」の世界では、エロスは自生的に芽生えなかった。むしろエロスの解放は、GHQの指導によって、半ば強制されたという事情がある

p079.このロシアの紳士は、自分では非世俗的な美徳ある人生を望んでいるものの、しかし息子には「冒険の旅によって人生を豊かなものにしてほしい」と願っている。はたして人間にとって、一定の場所に根づいた「美徳ある生活」こそが理想なのか、それとも、冒険による精神の鍛錬こそが理想なのか

p085.日本経済新聞社の調べによると、東京オリンピックが終わった翌年の1965年、なんと上位200社の社長すべてが、正月と4月の訓示で大松の言葉を引用したという。最も多く引用された大松の言葉は、「なせば成る」で、第2位は、「わたしがしなくてだれがする。いましなくていつできる」であった

p088.大松監督は当初、日紡の従業員組合から「鬼の大松」「女性の敵」と抗議されていたが、「四大タイトル」をとって以来、社内では「バレー部員を見習え」ということになり、大松のやり方は、日紡社員たちのあいだに受け入れられていった

p092.むろん、スパルタ主義そのものは、自由な生き方とはいわれない。ただ、大松のスパルタ主義は、「自由主義の荒波を乗り越える精神力」を鍛えるという点では、自由主義の理念にかなっていた

p172.90年代の日本社会は、前半のオウム現象と後半のエヴァ現象に象徴されるように、宗教的な「週末」のモチーフに貫かれていたとみることができる

p188.『エヴァ』は一定の成功が約束された作品であった。というのものこの作品は、それまでのアニメ作品の「おいしい部分」を、さまざまに混ぜ合わせたものだったからである。『風の谷のナウシカ』の「大破局が起きた後の状況」に登場する巨大な神兵、『AKIRA』の「生体系ロボット」、科学の最先端が切り開く世界観、『機動戦士ガンダム』の強力なロボットとそれを操縦する主人公の「内向性」「自閉性」、凡庸な性格の主人公が、美少女たちに囲まれて生活するという、『うる星やつら』

p198.第二次大戦の沖縄決戦において、沖縄の人々は「大いなるものとの一体化」(大日本帝国の勝利というグノーシス的な願望)のために、玉砕することを迫られた。沖縄決戦であれ、人類補完計画であれ、大人たちは「大いなるもの」への願望にからめとられ、玉砕したり、あるいはさせられたりする。しかし大人たちの死体の背後では、ユートピアをまったく知らない「ちっぽけな子供たち」が、ただひたすら生きようとする。そして実は、そのような子供たちこそ、自由主義の社会を築くためにふさわしい存在といえるのではないか

p219.ボヘミアンから出発した「ボボズ」は、およそ次のようなライフスタイルを築きつつある。・WASPは「躾」を重んじるが、ボボズは、生涯にわたって自己教育することを重んじ、自分から最大のものを引き出そうとする。・WASPは顕示的消費にお金を使うが、ボボズは、フィットネスやオーガニック食品にお金を使う。たとえば、最高級のトレッキングシューズに数百ドルを使ったりする。・WASPはヨーロッパの貴族的生活スタイルを求めるが、ボボズはマイノリティたちの絵画や彫刻、あるいは音楽を深く理解しようとする。・ボボズは大衆消費社会の手先になることを拒否して、洗練されてはいるがあまり利益の上がらない商品を捜して購入する。・ボボズは「ボヘミアン」と異なり、喫煙せず、アルコールを控え、奔放な快楽主義や退廃的生活を避ける。ボボズは旅行においても、快適さや癒しを求めるのではなく、たとえば環境保護意識を高めるようなプランを考える

p222.他人と共鳴しながらクリエイティブな仕事をするのでなければ、いかに高度なナレッジ・ワーカーであれ、安泰ではいられない。アメリカではたとえば、「ファミリー・ろイヤー」や「クイッケン」といった100ドル程度のソフトを使えば、素人であれ、弁護士や会計士の仕事の大半をこなすことができる。知的な仕事であっても、反復性があれば、コンピュータに任せたり、あるいは外注することができる

p226.「顧客を変革する」という新しいビジネス・モデルは、いわゆる「顧客第一主義」という考え方を、根底から揺るがしてもいる。企業はこれまで、「顧客を第一に考えるマーケティング戦略」を当然のものとみなしてきた。しかしたとえば、クレイトン・クリステンセン『イノベーションのジレンマ』によれば、コンピュータのハードディスク業界では、ディスクのダウンサイジングがくり返されるたびに、世界的に著名な企業が失敗を重ねており、その背景には「企業が顧客の意向を大切にしすぎた」という要因が挙げられるという



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