横石知二「そうだ、葉っぱを売ろう!」ソフトバンククリエイティブ

公開日: : 最終更新日:2012/09/05 書評(書籍)



素材自体が大変に面白い。実話のおもしろさ、地方の農業振興、必然的に年寄りの話ということで熱い物語になる。赴任当初に農家と険悪になるところ、ビジネスを思いつくところ、料亭に通うところ、販促を行うところ、取材が多く来るところ、慰留されるところ、Iターンや孫の里帰りが発生するところなど、多くの鮮烈な場面が読む者を飽きさせない

一方で、この人がいないと覿面に業績が悪くなるというところに、著者一人でやっているだけなのだという冷静な感想も持つ。著者が体を壊してまでやるというところと合わせて読むと、なんか少し嫌な気持ちになってくる

興味深いのが、視察が多く来ても、その後に同じことはできていないこと。視察なんてもののは絶対に効果がないに決まっている。それだったらこの本を読んだほうがいい。実際の中心人物が多くの言葉で説明をしてくれているではないか



p20.大久保町長は「地元に新しい風を入れないかん」と、頑として反対を押しのけた。「田舎は都会と逆で、みんながお互いを知っている。みんなが親戚みたいな関係だから、地元の者が新しい事業を推進していこうとしても無理がある」と。こうして、すったもんだがあった末に、上勝町農協へ私が就職することが決まった。私の給料は、そのころ赤字続きだった農協が単独で支払うことが出来なかったため、町から補助金が出されることになった。農協が採用して、籍は農協に置く。しかし、給料は町の財政から応援するという形だ。いま考えてみれば、何とも珍しい採用だった。仕事も、営農指導以外の農協の仕事はしなくていいと言われたぐらい、普通とは違っていた。しかし、この異様な採用が、いまの「彩」事業に結びついていくことになる

p25.嫌で嫌で、たまらなかった。「なんで、そんなに人の悪口を言うんかなあ」ひまであることが、いかにいけないか。ひまが続くことが、人間にとってこんなにも悪く作用するのかということを、そのときにものすごく感じた。人は誰でも、朝起きたときに、「今日はあれせないかん、これせないかん」と、することがないといけない。忙しいということは、やっぱり大事なことなのだ

p27.町から追い出されそうになった。当時は土地のしがらみが強くて、昔からのやり方を否定するようなこと、これまでとは違うことをやろうとすると、風当たりが非常に強かった。それに、昔は「よそ者」に対する拒絶感が激しかった。今でこそ1年間に人口の倍近い数の視察者が町にやってくるので、拒絶感も薄らいだが。また、田舎の人はプライドが高くて、よそ者で鼻っ柱の強い若造の私の言い方が、失礼に聞こえたのだろう。しかし、私も自分の言っていることに間違いはないと、頑として引き下がらなかった。結局その場は組合長が間に入って、なんとかとりまとめてくれた。帰れと言われてあれから28年になるが、いまもずっと上勝で働き続けている

p47.「営農指導はいらない」それぐらい、売ることが大事、販売することのほうが大事だと訴えた。営農指導をして、見事な作物が収穫できても、売れなかったらどうしようもない。売ってなんぼだと。さらに、もっと極端な発言もした。「共済はしない」農協は、本来は農家がお互いを共済するためにある機関だ。しかし共済や保険よりも、売ることのほうがさらに大事だと主張した。それは農協側にとっても大事なのだと。自信はあったが、ズバズバ言う私の意見には、結構批判もあった。「自分が営農指導員のくせに、そんなこと言うて何を考えとんな」農協の組合長からも怒られてしまった

p51.(これが、かわいい?)私には不思議に思えた。(こんな葉っぱが?)モミジの葉っぱなんて珍しくも何ともない。自分の料理にも付いてきた葉っぱを取り上げて、しみじみと眺めた。(こんな葉っぱ……上勝の山に行ったら、いっくらでもあるのに……)そう思った次の瞬間、ピッ! とひらめいた。そうだ、葉っぱだ! 葉っぱがあった! 葉っぱを売ろう! 葉っぱなら軽いから、女の人やお年寄りでも扱いやすいし、何より上勝の山にいくらでもある。ものすごいひらめきに電撃に打たれたように体が硬直し、次に興奮で胸がドキドキした。「これはいける」早速、店の人に尋ねてみた。「こ、この葉っぱは、どこから仕入れよるんですか」「葉っぱ? ああ、こういうつまものは、料理人が山へ行って、採ってくるんですよ」「ツマモノ……ですか」私は「つまもの(妻物)」という言葉を、28歳のそのとき初めて知った

p64.料理を食べるのが目当てでなく、つまものの勉強が目的だったから、仲居さんが丁重に運んでくれる料理を、持ってきてくれた端からダァーッと口に流し込んだ。「早く早く、どんどん持ってきてください」いつもそんな調子で、せっせとノートに記録しては、猛スピードで食べていた。日本有数の一流料亭で、芸術のように見事な料理を食べていても、これではまったくおいしさが味わえなかった。むしろ、おいしくない、味気ないこと、はなはだしかった。一人で食べる、あの無味乾燥な食事というのは、一生忘れられない

p74.「あの葉っぱのパックが、250円300円で売れる」農家の人は、厳しい自然を相手に取り組んでいるだけに、新しいことを始めるには石橋を叩いて渡るように慎重だ。他の人の様子をじぃーっと見ているところがある。「彩」も、最初のころは様子をうかがっている人がほとんどだった。さらに、山に自然に生えている葉っぱを売るという行為を、惨めなことのように受け取る人も少なくなかった。「そのへんの葉っぱや草を売ってまで、お金を儲けたいんか」「彩」を始めてすぐのころは、きちんと栽培した商品はほとんど出荷できていなかったため、落ちている物を拾ってまで売っているというように誤解する人が多かったのだ。そんな批判的な目で見られることに、敏感な田舎の人は耐えられない。特に、近所の人にそういう目で見られるのは、逃げ出したくなるほど嫌なことだった

p76.秋が深まると、その柿の葉っぱが毎日毎日大量に落ちて、増喜子さんはそれを掃除するのが嫌で嫌で。それがいまや1本で年間25万円も稼ぐ、まさに「金のなる木」に変わったのだ

p85.夜は飲食街でパンフレットをどっと配って売り込みをして回る。そして朝は市場へ行って担当者に「これぐらい売り込みをしてあるから注文が来ますのでよろしく」と伝え、市場の競り人に挨拶して回った。こういうやり方は、実はちょっと普通とは違う。普通はまず市場へ行って取引を交渉してから、卸している店の情報などを聞き込んで営業に回る。が、私はそれとは逆に、売れるところを先に用意しておいてから市場へ行き、「これぐらい注文が来ます」と伝えて対応を頼んだ。そして注文が来るから市場の担当者にも喜ばれ、取り扱いがスムーズに始まるようになった

p90.おばあちゃんたちが出荷した商品が、高級料亭で会席料理に使われている。おばあちゃんたちは初めて、得心してくれた。「あ、ほんまじゃあ」私が普段上勝で説明していることを、一流の料理人から直接その場で聞くと、何倍も効果が高かった。行って初めて、おばあちゃんたちが毎日何気なく踏んでいるノビルが、高級料理になって出てくることが分かってもらえた。それからは、道端のノビルも踏めなくなったという

p91.(そんな高級料亭で使われている自分たちの商品には、すごい値打ちがあるんだなあ)(あれだけの値段を取る料理に添える葉っぱに、虫食いがあったらあかんなあ)こうしておばあちゃんたちが出す商品には、一段と磨きやキレがかかってきた

p96.それぐらい「彩」が忙しくなってくると、上勝の町の様子は次第に変わっていった。年金暮らしだったお年寄りは、「彩」で収入ができて所得税を納めるようになり、毎日のように行っていた診療所やデイサービスも、忙しくなってそれどころではなくなった。雨が降ると役場や農協に集まり朝から酒を飲んで愚痴をこぼしていた人たちは、いつの間にか、まったく来なくなった。朝から嫁や近所の悪口をおしゃべりしていた人たちも、そんなひまはなくなった。それどころか、嫁や近所の人たちは一緒に「彩」をするパートナーになっていったぐらいだ。葉っぱが町を変えていった

p113.「こんなにも私らは、横石さんにあれこれしてもろとって。ほれやのに自分やは、何のお返しをすることもせんで、ほんまにすまなんだ」そんなふうに話しながら、下坂さんは涙ぐんでいた。「えっ」意表を突かれた私は、びっくりした。「嘆願書って……」言葉が続かなかった。驚きながら、そこに書かれた文面を急いで読み進むうちに、私の両方の目には涙があふれて、文字がゆがんだ

p127.いまでもよく私が個人的にこのような会社の設立を考えなかったかということを質問される。そのほうが、私の収入はよほど増えただろうに、と。それは、まったく考えなかった。個人的な事業にするより、農家一人ひとりが事業家になるほうが、いい結果が出る。そのほうがみんなも面白いし、やる気も増す。おばあちゃんたちのいまの笑顔を見れば分かるとおり、その狙いはあたっていた

p138.パソコンで毎日数字を見て、商品の売れ行きを予測することが脳のトレーニングになる。売上金額と順位を見れば闘争心がわき起こる。パソコンを使い出して、おばあちゃんたちがすっかり若返ってきたことは、うれしい驚きだった。田舎では長年の生活習慣からなかなか抜け出せないが、パソコンのこのシステムが人を見違えるように変え、町の活性化に繋がっていったのだ

p141.平成17年(2005年)度に各新聞に上勝町と「彩」に関連する記事が掲載された回数は180回を超える。2日に一度は上勝町の名が新聞に載っている計算だ。これらをすべて宣伝費に換算したら、莫大な金額になるだろう

p143.あるおばあちゃんは、農林水産省の人が視察に来たとき、すいすいと話しかけていた。「今度、シラク(大統領)さんが来られるみたいですけど、晩餐会はやらないんでしょうか。もしやるんでしたら、ぜひうちの『彩』を使てください」これには私もびっくりした。普通のばあさんが言うようなこっちゃない

p149.こんな事態になっても会社のことが心配で、頭から離れなかった。ほとんど一人で業務をこなしていたので、実際、自分が行かなければ会社はストップしたままだった

p150.いま私の胸には、ステントと呼ばれる血管を広げるための金属製の細長いチューブが6本、血管の中に入っている

p155.日曜日に農協に行くと、普段は見かけない可愛い女の子や、車を見かけることがある。どこの子かと思っていたら、おばあちゃんの手伝いにやってきた孫で、「彩」の商品を車の後ろに積んで、出荷の手伝いに来ている。「これ、お願いします」女の子は、おばあちゃんからお小遣いをもらって、喜んで帰っている。おばあちゃんも孫が手伝ってくれてニコニコだ。そんな「孫車」をたびたび見かけるようになった。「彩」の手伝いに帰ってきている息子さんに、手を合わされたこともある。「親がこの年でも元気で、老人ホームや病院に行かずに働けて、ほんまに感謝しています」「私らに小遣いまでくれるんですよ、ほんまにありがとうございます」関東方面であった講演会に行ったときも、上勝町出身という人が話しかけてきてくれた。「もう、ごっついうれしいです」「ふるさとを離れている自分にとって、自分の生まれた町が、川で遊んで育った町が、こんなふうに、すごいところだと紹介されるのは、涙が出るほどうれしい」

p176.鳴門金時という徳島県鳴門市特産のサツマイモを東京で販売していた人が、小さい芋ばかりを詰めた袋を見た客に「これは新品種ですか」と聞かれて、にこやかに返答していた。「あなたのような、お口の小さな方に合わせて作ったんです、食べやすくて、甘くておいしいですよ」するとそのお客さんは、もうニコニコ満面の笑顔になって買って帰ったのだ。そのとき隣でシイタケを売っていた私は、これにはずいぶん感心させられた

p188.葉っぱを売ることを、『がんこ寿司』で思いついたのも、運命的だったように思える。当時20代の私が、高級料亭に行けるはずもない。もし行ったとしても、そこで葉っぱを見て大喜びして持ち帰ろうとした女の子に出会わなければ、「彩」をひらめくことはなかっただろう。『がんこ寿司』を創業された小嶋淳司会長は、徳島で行われた講演会でこんな話をされた。「がんこグループの全店舗には、年間述べ800万人のお客様が訪れる。そのお客様みんなが、料理に付いてくる葉っぱ、つまものを目にされている。しかし、それを見て事業にしようと思い立ったのは、横石さんだけだ」身に余るお言葉だ。しかし、私に才覚があったからというよりも、このとき葉っぱと巡り合ったことが、本当に不思議な運命だったのだ

p206.「おばあちゃんな、農薬したら、何をしたか、書いよきよ」「何月何日に、どうゆう農薬をしたか、今日したことを書いといてよ。ほれが要るような時代になったんでよ」こう言えば、ちゃんと要件は伝わるのだ。「トレーサビリティーの追及」とか、難しく言わなくてもいいのである



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  • 名前:Max 年齢:人生の2合目くらい 誕生日:夏の暑い日 一言:他言無用ということでお願いします
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