中島義道「私の嫌いな10の言葉」新潮文庫

公開日: : 最終更新日:2012/12/31 書評(書籍), 文章術/レトリック, 中島義道



好きな著者の一人。きわめて胸が空く。過去にもこんな本を読んでいる。“中島義道「うるさい日本の私」新潮文庫”“中島義道「私の嫌いな10の人びと」新潮社”

しっかりと物を考えろ、議論をいやがるな、ということには強い共感を覚える。どちらかと言えば自分が中島的だからだと思うのだ。簡単にいうとひねくれ者?

少し前のこと、NHKの番組で、コンビニが24時間営業していることで、便利になった反面、殺伐とした社会となって良くないという前提で話している番組があった。しかし、そこでゲストとして招かれていたのが、イッセー尾形。いや、コンビニがあって問題だとは思いませんと最後まで言っていて、NHKのキャスターを戸惑わせ、最後には半分無視されていたようなところで本人はしきりに首をかしげていたのが面白かった



p14.暴走族に睡眠を妨害される者は相手の気持ちを考えるのなら、暴走族の「愉快さ」も考えねばならない。わが子を誘拐されて殺害された者、妻を目の前で強姦されたあげく殺された者が、相手の気持ちを「考える」とはどういうことか?相手の気持ちを考えろとは、これほど過酷な要求なのです。しかし、こう語る人は――怠惰にも狡いことに――こういう場面を想定していない。ここでは「相手」という言葉が、はじめから極度に限定した意味を担わされております。相手一般の気持ちではなく、「弱者」の気持ちを斟酌しろと言いたいのです。しかし、これで問題が収まったわけではない。弱者とは何か容易に決まらないはずであるのに、すでに決まったつもりになって、いやたとえ決まったとしても、その弱者の気持ちが「わかる」ことがたいへんな困難であるのに、そこをうっちゃってあたかも自然なことであるかのように「相手の気持ちを考えろ」ととうとうとお説教する。こういう人は、頭(論理的思考力)もセンス(感性的思考力)も悪く、そのうえ怠惰で傲慢であって、しかも恐ろしいことにこうしたことをたとえ指摘されても、「善良である」という最大の美徳を備えているのだからそれでいいと居直っている。それほどまでも自己批判精神が欠如しているのです

p18.テレビのワイドショーの司会者のように「誰だってそういうふうに考えますものねえ」と眉をひそめ顔を歪めて言って、すべての人の感情を一色に塗りつぶそうという魂胆を感じたとたんに「そうでしょうか?」とあえて疑問を呈して、集団催眠状態に入るのを妨げたい。私がこうした「悪趣味」に走るのは、いつでも生き生きとした自分固有の感受性を保っていたいからであり、定型的な干からびた感受性に収まって安心してしまう傾向をなるべく避けたいからです

p54.年末に年賀状をせっせと書く人に限って、中部ヨーロッパに向けても「残暑見舞い」を書く。私はこの鈍感さが厭なのです。彼らは、相手のことを考えているつもりでいながら、実は個々の相手の事情を熟慮しているのではなく、ただ形だけ合わせているにすぎない。思考も感受性も麻痺させて、形だけを実現しようとするその怠惰さが厭なのです

p70.私は自分の両親を(もちろん自分も)よい親とは絶対に思えないのですが、親のために何かをあきらめたという経験がない。徹底的に甘い親であり、留年でも中退でも留学でも結婚でも、何でも好きなことをさせてくれた。これだけは感謝している。そして、こうした経験から、今私が息子にしてやれるのは、彼の人生行路を妨げないことだけだと自覚しております。私は両親を尊敬するという人の気持ちがわからない

p87.組織において議論されることは、(1)富(材)の公正な分配、(2)名誉の公正な分配、(3)労力の公正な分配、にほぼ限られる。私はそのすべてにほとんど関心が湧かないのです。いや、もっと正確に言えば、会議に数時間費やしたあげく、多少私の研究費の持ち分が増えても部屋が広くなっても、授業コマ数が減っても、あまりうれしくない。というか、そのために膨大な時間を取られるほうが、よっぽど私にとってはマイナスだと確信しております

p97.ここには、そう語る当人が気づいていない一つのたいへん傲慢な態度がある。つまり、そう語る人は「おまえのために」言ってやるその相手より人間として絶対的に上位にいるという傲慢です。なぜなら、逆にそういう人に向かって「私もあなたのためを思って言っておきたいのですが」と言いはじめたら、それこそ仰天してしまう。その「反抗的態度」に、怒り心頭に発するのが普通です。つまり「おまえのために」と語る本人のほうでは決してそう思われたくないのに、あなたに向かってそう言っているのです

p115.だから、私はむやみに愛想がいい人が嫌いです。たえず笑っているような表情の人が嫌いです。彼らは、それによって本能的に言葉による正確な対立を避けようとしているから、私が提起している問題自体を聴こうとせず、対立を避けることのみに心血を注ぎ、笑いの渦の中に言葉を投げ入れて、やんわりと相手を溺死させようとするからなのです

p123.正確にタテマエと反対のものしかホンネの資格はない。人によっては、タテマエとされているものとホンネが重なってもよさそうなものですが、絶対にこれを認めない。ある男が、会社の上司をみんな尊敬していて、心からいい人たちだと思っていても、彼が酒の席でそう告白すると「ゴマ擂るな」というヤジが飛ぶ。決してホンネを言ったとは認められない。こうしたホンネの文法を新入社員はすっかりマスターしていますから、みんなホンネを語りながら、何一つ自分の本心を語らない。こうして、そこには嘘ばかりが跋扈する笑い声の渦巻く和気あいあいとした雰囲気が醸し出されるのです

p148.「他人に迷惑をかけない」というルールも、個人主義者と集団主義者とではまったく異なった相貌を見せる。個人主義者は「私がこの服を着て、あなたは制服を着ればいいのでから、私はあなたに迷惑をかけてはいない」と主張するでしょうが、集団主義者にとってはそうではない。そういうかたちで各自が不統一な服を着ていることが、集団主義者の信念に反し、その信念を実現することを妨げ、つまり自分に迷惑をかけているのですから

p174.面白いのは、最近ウィーンの交通機関のいたるところに貼られている「101の言い訳」というもの。一枚のビラに「次のような言い訳は成り立ちません」と書いたあとに、多彩な弁解の一例が掲げてある。なかなか壮観なので、ここで私が見つけたものをすべて挙げておきましょう。不正乗車を摘発したとき「犯人」を社会的に葬り去ろうとするほどの我が国におけるクソまじめさと対比して、「弁解の文化」がこれほどまでに浸透しているのかと新鮮な驚きを覚えたことでした

p190.私は正確に私に抗議した少女の態度はそれほど厭ではないのです。むしろ、店長のこういう態度が厭なのです。事柄自体をいっさい見ようとせず、ただ対立を避けるだけ。そのためにはミソもクソも一緒に謝り続ける。商売のためとはいえ、その卑屈さにむかむかします。その後、携帯電話をかけながら店内に入ってきた中年女性に「すみません」と注意し、携帯電話をかけそうな中年の男にも「すみません」と腰をかがめて頼み込んでいる。私を追い出せばいちばんいいものを! その卑屈な態度に無性に腹が立つ

p193.私は、さっと彼を坐らせてその隣に自分が坐ったのですが、立った4、5人の人は誰も空いた席に坐ろうとしない。そこに硬直したとうに突っ立っているのです。この定型的な「からだ」はどうなっているのだ! 私は涙が出そうなほどやりきれない気持ちになりました

p202.ああ、やっと真相がわかったと私は安堵するとともに、対話を拒否する思い込みの危険を改めて痛感しました。この場合、非日本人的に動く私だから真相を究明できたのですが、ほとんどの日本人は2番目の手紙が返送された時点で、少なくとも絵はがきが返送された時点で「何か誤解があるな」と思いつつ、特別重要でもないOさなんとの関係を打ち切ってしまう。彼女も、私が自分を軽蔑していたと思い込んだままで終わってしまう。コミュニケーションは永遠に経たれてしまう。これは、本当に不幸なことです

p204.ああ、ああ、私はほとんど呻き声を上げていました。どうして、こう一方的に相手を裁いてしまうのだろう? そうではないかもしれない、ということを考えようとしないんだろう? どんな汚い封筒を使っても真実の言葉があふれているかもしれないし、どんなに宛名が奇麗に清書されていても、中には薄汚い言葉が満載かもしれないのだ。どうして、そう考えようとしないんだろう? せめて、私の手紙が着くなり、電話でそう言わないのだろう? 彼女の態度は、一つの危険な暴力につながる。とくにこの国では、いたるところに跋扈しているのですが、一つのメルクマールをつかんだら、そこからすべてを勝手に推量し勝手に結論を出してしまうこと。「彼のひとことで、私を思っていないことがわかったの」というふうに

p223.誰でも知っているように大嘘です。各人に、何か好きなことがかならず一つはあるはずだ、というのは大嘘です。その好きなこととは万引や売春ではあってはいけないのですから、社会的に評価される、できれば職業と結びつくことでなければならないのですから、実はきわめて制限されている。こう語る先生が、ナンバーワンのソープ嬢になるように、優れた麻薬運び人になるように薦めているとはどうしても思えない。何か好きなことは、何でもいいわけではないのです。いかにも地味な感じの少女がファッションモデルになりたいと思い切って告白すると「ほんとうにそれがきみのしたいことなのかなあ? ただ、華やかな世界にあこがれているだけじゃないのかい。ようく考えてごらん」と突き返す。だが、その少女が2、3日後に「先生、私やっぱり子どもが好きだから保母さんになりたい」と言うと、今度は「そうか!」と顔を輝かせて話に乗る。つまり、当人がほんとうに好きかどうかはこちらが決めてやる、という狡い態度がそこにある。社内的上昇志向の薄いしかも堅実なものだけが認められる。といって、堅実だけでもいけない。一度入ったら安泰で仕事も楽そうだから、市役所に入りたいと本心を言ったとたんに、「それがほんとうにおまえのしたいことなのか?」と切り返す。もちろん、社会的地位・名誉・金をちらつかせた「好きなこと」はハナから認められない。親会社だから医者になりたいとか、親が官僚だから官僚になりたいと言ったとたんに「おまえ、それでいいのか?」と来る。そのくせ、「おやじは漁師で、おれ漁師だけにはなりたくなかったけど、やっぱり冬の海に出て家族のために命を懸けて働いているおやじ見ているとカッコいい、継ぎたいなと思った」と言うと、目を細めて「そうか、そうか」と賛同する

p236.学級崩壊? 学校崩壊? いいじゃないですか。不登校10万人以上? 引きこもり100万人以上? 結構だと思います。こうした現象は、その社会がたいへん成熟していることを表している。病んでいる人が多い社会、つまり多いことを公表している社会は健全です。なぜなら、人間どう転んでも元気に楽しく幸せにばかりはしていられないからであり、それを無理やりに「そうあるはずだ」として、そうでない人を排除していく社会は危険な社会だからです



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  • 名前:Max 年齢:人生の2合目くらい 誕生日:夏の暑い日 一言:他言無用ということでお願いします
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