一川誠「大人の時間はなぜ短いのか」集英社新書

公開日: : 書評(書籍)

タイトルどおりの内容かというと、少し偽りがあるような気がする。実際の内容は、もっと広範。新書という性格上仕方がないとも思うが、消化不良な学説の紹介に終始し、実際の主張がなんであるか、読み終わっても分かりづらい 特に前半部分は、後半の理解を容易にするためとはいえ、錯視についてなど、必要以上の説明を行っている。それ自体は大変興味深く読んだけど。錯視の研究が結構新しいものであったり、PCの進展でいろいろな図形を描くことが可能になってから新しい錯視の図形の発見、発表が相次いだり、というのもおもしろい。少しずつ画像を変えてもなかなか人には気づかれないことが、昔のクイズ番組でもあったと思うが、それの説明もあった このように意図しないところで知的な好奇心をくすぐられた 最初のジャネーの仮説は、自分が勝手に思っていたことであり、それは自分にとっても仮説に過ぎず、実験すると違うということだった。単なる相対的な比較というよりは、人間の経年による代謝の低下と関係があるということか。最近怠けているジョギングを再開しようかとチラと思ってみたりする
p16.ジャネーは、この仮説を立てる際、感じられる時間の長さと実際に経った時間との関係を調べるような実験を行っていなかった。彼らの法則は、日常的な経験から導かれ、直感に基づいて立てられたものだったのだ。 p20.現代物理学の代表的な考え方である量子力学を突き詰めていくと、時間は(あるいは空間や物質の運動、エネルギーさえも)実在しないということになる p24.歴史的に見ると、時計の時間が人間の生活パタンに大きな影響力を持つようになったのは、農耕に関わる作業に大量の労働力を投入する必要が出てきたからである(ジャック・アタリ『時間の歴史』、1986) p25.大きな地震によっても自転の周期は変化することがある。2004年12月のスマトラ沖地震が起きた後、地球の自転が少し速くなったことが分かっている p33.よく知られているように、蛙の視覚は動いている対象を処理する。対象が静止していると、それは蛙の視覚的処理の対象にはなりにくい。例えば餌となる昆虫が鼻先にいても、その昆虫が静止していると、蛙にはほとんどその存在が見えていないらしい p39.「フレーザーの錯視」の図が同心円的な配置から成り立っているという知識が得られたとしても、視覚の処理における一種の「癖」によって、やはりこの絵は同心円ではなく、らせんとして見えてしまう。つまり、知識があっても錯覚は回避されないのである p53.日常的にはあまり意識されていないことだが、テレビやパーソナルコンピュータのディスプレー上には、実際には動いている物体は何も存在していない p57.これまでの多くの研究によって、視覚空間は扁平な構造をしていることが知られている。人間の知覚にはこのような特性があるので、垂直線は水平線より長く見える。同じ5メートルの棒であっても、垂直に立てたほうが、地面の上に水平に置いたときよりも長く見えるのだ p66.1ミリ秒後にはナトリウムチャンネルは閉じられ、再びカリウムチャンネルが開き、細胞内外の電位は元に戻る。この一過性の電位変化は、ここの神経細胞における「活動電位(インパルス)」と呼ばれている p80.時間知覚には、物理的刺激を生体的情報に変換する、視覚にとっての目、聴覚にとっての耳のような感覚器は存在しない。知覚の成り立ちが、時間知覚と他の多くの感覚とでは異なっているのだ p92.Shamsらが2000年に報告したSound induced flashという現象とは、光を瞬間的に1回提示するのと同時に短い音を2回提示すると、光が2回提示されたように見えるというものである p101.このフラッシュラグ効果については、サッカーのオフサイド判定の誤審の一因とも指摘されている(Baldo, Ranvaud, & Morya, 2002)。ゴールに向かって走っている攻撃側の選手と静止した守備側の選手とが、実際には並んだ位置にいたとしても、審判には攻撃側の選手が守備側の選手よりもゴール寄り、つまりはオフサイドの位置にいるように見えてしまうのである p105.意識的な努力なく変化を検出するには、その変化が一定の時間の幅のうちに起こる必要がある p121.身体的代謝が落ちると、それに伴って心的時計の進み方も遅くなる(年を取るにつれ、時計を動かしている動力源のゼンマイが緩くなっていくような状態を考えるといいかもしれない)。そのため、時計の刻む1分、1時間、1日、1年は、心的時計よりも速く進む。実感としては、1分、1時間、1日、1年経つのはまだ先と感じられるため、時間が速く進んだように感じられるのだ p124.感情によっても心的時計の進み方は変わる p125.時間経過に注意が向くほど、同じ時計がより長く感じられることも知られている p126.子供と大人との時間の感じ方の違いに関して、子供のほうが待ち遠しい行事(あるいは時間が速く経過して欲しい事柄)が多いこと、それに対して、大人では日常の多くの出来事がルーチンワークとなっており、待ち遠しいことも子供ほど多くないことが関与している可能性もある p127.広い空間は時間を長く感じさせる p129.脈絡やまとまりが時間を短くする p131.難しい課題は時間を短くする p133.鬱の状態にある人の中には、どうしようもない過去、取り返しのつかない過去にさいなまれる人がいる。未来への展望ははっきりせず、過去の負い目がしばしば現在に浸食してくることもあるようである。将来について考えることが無意味に思われ、時間がゆっくりと進んで感じられたりするという。ただし、時間表かは正確である。それに対し、躁の状態にあるときは、時間がどんどん過ぎていくように感じられることが多いという p145.人間にとっての移動は、もともと歩いたり走ったりという、自分の身体を使った手段に基づくものだったはずだ。つまり、たいていの人間が経験する最速の移動速度は、せいぜい平均時速20~40キロだったと考えていいだろう。ところが、技術の発達で高速の移動手段を手に入れた私たちは、これまでの自然環境下での進化の過程では経験することのなかった速度で移動している p189.太陽の周期からずれた生活は、睡眠障害や鬱病、メタボリック症候群などの問題を引き起こす可能性がある
20090220192000

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