畑村洋太郎「みるわかる伝える」講談社

公開日: : 書評(書籍)

面白い。いくつか具体的な事例の紹介もある。すんなりと読み進められる平易さ。人にものを理解させる、知識を伝達する、というためにはどうすればよいかが書いてある。30分もあれば読み終わるので、費用対効果ではお勧め メモを取るのが大変だった。メモ取りに成功していない。というのも本書が散文調というか、エッセー的というか、主張があまり明確になっていないような、文章の作り込みが甘い。半面、図示が多いことは極めて評価に値する。文章の舌っ足らずさを補っているともいえる 暗黙知というのは、単にマニュアルになっていないだけのものだ。人から人へのみ直接に伝えられるもの、また経験してみないと分からないもの、一身専属的な特別な知識。こういうものの存在に対しては、まず懐疑の目で見るようにしている。多くは、本人の保身のために人に教示しないケースである。「出し惜しみ」とか、「生き字引」というやつ。それだけでなく、そのような本人の存在は、組織がそういう知識の伝達を促進させる仕組み作りに成功していないということでもある。これを有識の人に「教えてくれない」と直接に責めても、効果は半面に過ぎない。人はまずインセンティブで動いている たたら製鉄や伊勢神宮の遷宮の例が紹介されている。そういう最高の現場で、「むしり取る」を行わせることができるのは、比較的容易であるといえるのではないか。むしろ、単純作業であったり、日の当たらない仕事のような、インセンティブの湧かない場合において、どのように技術伝達を図ればよいかということの答えを見つけ出せないのではないか
p23.たとえば大きな事故や事件が起こると、必ず”専門家”と呼ばれる人たちがテレビなどに出てきてコメントする姿が見られる。しかし実際は「的外れなことを言っているだけ」ということも珍しくない。彼らの問題は、視点を固定して全体を見ていない点にある。つまり巨大なゾウの一部しか見ていない場合が多いのである。だからこのような専門家の視点だけで全体像を作り上げようとした結果、メディアの報道する中身が、ときに実態と大きくかけ離れたおかしな見方になってしまうことがよくあるのである p52.定式やマニュアルというものは、このような過程を経てできあがったものである。ある課題について先人たちが徹底的に考え尽くした結果を書き記したものだから、後に続く人は深く検討しなくてもマニュアルや定式に従って一気にゴールまで飛ぶことができるのである。ただし、それは「周囲の条件が同じ」であるからショートカットが可能になるということを忘れてはならない p56.大学で学ぶのは、現象を理解するための理論である。これは「単に知っている」というだけである。この知識がそのまますぐに実際の生産現場で役に立つことは決してない。それが結果としてどんな現象を引き起こすのかを学ぶには、実際に現場で自分が作業し、体験してみるしかない。現象を理解するための理論だけ知っていても、行動とその結果を知ることはできない。行動と結果、そしてそれを結ぶ理論の3つを理解して、はじめてその人は「わかった」ということができる p58.「たたら」の技術の伝承者たちの多くは、日立金属の関連会社の社員である。総責任者(村下むらげ)は木原明さん(国選定保存技術保持者)という人だ。実は彼は、独学ながら徹底的に冶金学の勉強を行っており、炉の中で金属がどういう反応を起こし、何がどうなっているかを完全に知り尽くしていたのだ。「本物のベテラン」というのは、まさに彼のような人のことをいうのである p69.対象を厳密にではなくても、きちんと量や大きさなどとして数量的に把握するということが重要。つまり、定量化するのだ。そのために、いつでもどこでも対象を数量的に把握するための助けになる自分なりの尺度を持つことをお勧めしたい p75.たとえは、自分が持っているテンプレートと目の前の事象とが少しだけ似ているということがある。こういう場合、実際には合っていなくても、無理にテンプレートに当てはめて「わかった」としてしまうことがよく行われる。「わかったつもり」である。こうした性質は多かれ少なかれ誰もが持っている。とはいえ、これが原因でときどきミスも起こるから見過ごせるものではない。また、こうした性質を利用してインチキをする人もいるから、うっかり騙されないように注意する必要がある p92.どの世界やどの分野でも、それぞれの世界、分野ごとに、表には出ていないのに当たり前のこととして知られている知識がある。これを「暗黙知」という。こうした知識は、そのことに携わっているうちに自然に吸収できるものだが、現実には暗黙知を知らない故に大きな失敗をするケースもある。このようなトラブルを避けるために、必ず何か行動するときには暗黙知というものがあるのだと意識して、獲得する努力をする必要がある。最近いろいろなところで、従来は考えられなかったような事故が多発している。原因はいろいろあるが、暗黙知の共有が行われていないこともその一つだと思われる p93.事故を本当に防ぐには、暗黙知を表出し、その重要性も含めてきちんと伝えるしかない。それを徹底させて、それこそ暗黙知を備えていると確認できた人にしか仕事をさせないようにしないかぎり、防ぎようがない p96.伝えようとする内容と、伝える人の頭の中のテンプレートとが一致しないからうまく伝わらない p105.OJTが有効なのは、基本構造が正しく伝達されていることが前提になる。基本構造の伝達が正しく行われていないことには、いくら経験を積んでも獲得できる知識の幅は広がらない p107.正しい伝達が行われないと、知識のレベルを維持することができればまだましである。場合によっては先代のレベルにまで到達できず、結果として知識が消滅することも十分に考えられる。大事な知識を使うことができずに組織が破綻してしまうかもしれない p112.人は本当に「この知識が欲しい」と思うようにならなければ、頭が能動的に働かないようにできている p114.理想の知識伝達とは、与えられるのではなく、受け取る側がむしり取ることなのだ。新人が相手だったら、「まず仕事をやらせてみる」。ほとんどのケースではうまくいかないだろう。そこでなぜ失敗したのか、どんな点が欠けていたのかを本人に考えさせ、必要に応じて教えるのだ p115.私はかつて、技術の伝達の実態を調べるために、伊勢神宮の遷宮において大棟梁をされた経験を持つ宮間熊男氏を訪ねたことがある。そのときに知ったのは、工作所では尊敬する先輩と共に作業を行って知識を自ら学ぶことができ、なおかつ大事な知識をむしり取れるようになっているということである。現場には、技術の中身について詳細なことを文章化したマニュアルや作業標準のようなものは用意されていない。その一方で、尊敬する先輩と共に作業を行う環境が整っている。未来の後継者たちは、その人たちの姿を見て自ら知識を獲得していかなければ仕事ができるようにならない。かちょいって手取り足取り教えてもらえることはないという状況にあるから、先輩の一挙手一投足を観察しながら、自ら知識をむしり取っているのである。また、これらの場所では工程の始まりから終わりまですべてに関わることができるので、最初はおぼろげながらでも仕事の全体像を見ることも難しくはない p133.実物を見せることの効果。日本航空が羽田空港の整備地区内に設置した「安全啓発センター」などはその役割を果たしている。ここは、1985年に群馬県の御巣鷹山で墜落した日航123便の後部圧力隔壁やボイスレコーダー、尾翼の一部など事故の残骸品の展示を行っている施設である。ここで事故の残骸品を見ることが、遺族や日本航空の社員のみならずみんなが航空安全について考えるトリガーになっているのである
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  • 名前:Max 年齢:人生の2合目くらい 誕生日:夏の暑い日 一言:他言無用ということでお願いします
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