山鳥重『「わかる」とはどういうことか』ちくま新書

公開日: : 最終更新日:2012/05/04 書評(書籍)



アカデミックに書いてあり、いちいち納得がいく。しかし、よく考えてみれば当たり前と思われるようなことだったりする。最近、身の回りが新しいことばかりとなって、そういう新しいことが「わかる」「わからない」ということに気になる時期に読んだので印象に残る話が多かった



p42.この曲がりくねった形はもともとはインド、ビシュヌ神の胸毛をかたどったのだそうですが、日本ではずっとお寺の記号です。これを左右にひっくり返した形がいわゆる鉤十字(ハーケンクロイツ)で、1920年代からわずかの間ですが、ドイツに現れた国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)の党章として使われました。記号は約束事で、その形自体には意味がありませんから、たまたま似たような形が日本とドイツでは違う概念を表す記号として使われたのです

p69.ジェームズ・ジョイスに『ユリシーズ』という作品があります。これは主人公のたった一日の行動とその心の動きを熱かった小説です。ただそれだけなのですが、大変な迫力があります。平凡な人の平凡な一日ですが、その平凡さが作者の魔術によって波瀾万丈といってよいもの型地理に変貌します。あるいはマルセル・プルーストに『失われた時を求めて』という作品があります。こちらは主人公が何かにつけて過去を思い出す、という形をとった不思議な小説です。20世紀を代表する2大作品が、いずれも個人を主題にし、しかもその主人公の生活の記憶を主題にしているのは興味深いことです。生活の記憶はシーンとして再生できます。だから小説にも描けるわけです

p109.なんらかの分類基準で目の前の現象を分類できれば、現象が整理できるだけでなく、ここがポイントですが、心も整理されます。心が整理されると、すっきりした感じがします「分かった」と感じられるのです

p117.人類の多くはダーウィンのようにはわかろうとせず、神様という自分たちより圧倒的に賢い存在があるはずだと信じて、分からない部分の穴埋めに使っているわけです。いわば、神様という仮説を立ててきたわけです。進化論も神様論もなぜわれわれがいまここにいるかを説明しています。われわれは説明できればわかったと感じるのです。話が時間的につながればわかったと思うのです

p144.「わかった」という体験は経験の一つの形式であって、事実とか真理を知るということとは必ずしも同じではありません。真理を発見して興奮できる人は古今東西を問わず、わずかな人たちに過ぎません。しかし、「わかった!」「わからん!」はすべての人が毎日繰り返し繰り返し経験することです。わかったからといって、その都度、真実に近付いているわけではありません。わからなかったからといって、その都度、真実から遠ざかっているわけでもありません。「わかった!」からといって、それが事実であるかどうかは、実は分からないのです。わかったと感じるのです。あるいはわからないと感じるのです

p149.疑問があって、常住坐臥、それを前から眺め、横から眺め、上から眺め、下から眺め、回して眺め、落として眺めていると、そのうち心がそれを解いてくれることがあるのです。頭が解くのでなく、いわば身体が解いてくれるのです。座禅して存在の疑問に立ち向かっている場合は、その回答がある体験(悟り)として立ち現れ、科学の疑問に立ち向かっている場合は、その解答の筋道が方程式となって立ち現れるのです

p178.生命の本質はエントロピーを減少させることにあると考えることができます。これは物理学者エルヴィン・シュレーディンガーという人が言い出したことです



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