マイケル・アブラショフ「部下を持つすべての人に役立つ 即戦力の人心術」三笠書房

公開日: : 最終更新日:2012/10/14 書評(書籍)



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教訓については、特に言い古されているものばかりだが、海軍という場などの設定が事例として興味深い

もっとよい方法があるということを自分だけでは到底知り得ない。多くの人が集まる組織だから、それぞれの知識や経験や気づきをうまく組織全体に適用したい。リーダーはこれを促進することではないか。リーダーがあらゆる面で構成員よりも優位であるはずがない

人のために自分が何かをしている、ということを、分かるようにアピールしなければならない。陰徳ではなく、積極的に示す必要がある

上司、顧客などの依頼は、嫌でも嫌な顔をせずにすぐに引き受ける。依頼者は、それが嫌な仕事だと分かっている

組織の仕事を個人に委ねることはできない。組織的な対応を行う必要がある



p13.組織の指揮をとるにあたり、私の立てた方針は、実にシンプルだった。それは、「部下の身になって、何が一番大事かを考えてみる」ということだ

p14.彼らが艦を離れていく第一の理由は、給料が安いせいだろうと思っていた。しかし、驚いたことに、実際にはそれは5番目の理由だった。第一の理由は「上司から大切に扱ってもらえないこと」だったのである。第2は「積極的な行動を抑え込まれること」。第3は「意見に耳を貸してもらえないこと」。第4は「責任範囲を拡大してもらえないこと」であった。さらに調べてみると、意外なことが分かってきた。実は、一般のビジネス界でも、社員が会社を辞めていく理由のうち、給料への不満は5番目だったのだ。また、上位4つの理由についても、艦における理由とほとんど同じだったのである

p22.「何をするにも必ずもっとよい方法があると考えよ」と呼びかけることにした。各部門における技術的な熟練度は、上司である私より現場の部下の方が高いという前提をはっきりさせ、つねに部下に「きみがしている仕事で、もっとよいやり方はないか?」と聞いてまわったのである。すると、思いもしなかった画期的な回答が出ることもしばしばであった。また私は、部下に仕事を楽しんで行うための提案をするようにも促した。楽しんで仕事をすることが重要だということは、軍隊においても例外ではない

p24.その決定を聞いて、私はカッとなった。艦と艦を結ぶ無線で、ほとんど無礼といってよいくらいに提督と激しく言い合った。この無線は本来は機密通信用ではあるが、ボタン一つで部下たちも聞けるようになっている。部下たちは、みな耳を傾けていた。そして、私が何とか旧来の古い枠をぶち壊してやろうと、上司に抗議しているのを聞いていた。「だめだ!」――残念ながら、勝ったのは伝統と時代遅れの慣例だった。だが、部下たちは、負けはしたが自分たちのために闘った私を支持してくれた。「自分たちの提案を大事にしてくれる上司」に対しては、部下は心を開き、信頼を寄せてくれるものなのだ

p31.自分を売り込むのに躍起な軍のエリートたちは、長官と長話をして自分の昇進に利用するために、顔を合わせる時間をしきりに長引かせようとした。この時間の浪費を防ぐには、誰かが番人にならなければならず、まさのその番人だった私は、ときには彼らに対し厳しい態度で臨まなければならなかった

p37.私が実行したのは、部下に「徹底的に考えさせる」ということだった。部下の行動や提案に対し、私はいるも「どうしてそういうやり方をしなければならないのか。もっとよい方法はないのか」と訪ねた。すると、彼らは必ず期待に応え、よりよい方法を探し出してきたのである

p39.私は目標を明確にし、それを行うだけの時間と設備を与え、部下がそれを正しく行うための適切な訓練を受けていることを確認しないかぎり、もう二度と命令を出すことはしないようにしようと、心に誓った。それが、指示を出す際の最低限の条件なのである

p41.上司がつねに部下に送り続けなければならない唯一の信号は、一人ひとりの存在と力が自分にとっていかに大事であるかということである。じつのところ、それ以上大切なものなど存在しない。上司は自分の影響力を悟り、それをうまく活かす。部下を支える存在になる。部下がどういう人間であるかを知る。彼らの能力と、どうすればそれを高めることができるかを考えるのだ。どんなリーダーも、自分が組織の雰囲気を決定していることを知らなければならない。熱心な上司のもとには必ず熱心な部下がいるものだ

p44.「もし、このことが明日の『ワシントン・ポスト』の一面に載って全米中に知られることになったら、それを誇りに思うだろうか、それとも、恥ずべきことだと思うだろうか?」

p46.下された命令が自分の意見と一致しない、それでもそれを執行する責任がある、ということはたびたびある。どうしても異議があれば、上司と話し合うことが必要だろう。だが、もし議論に負けたのなら、その命令を100パーセント納得して実行することも大切だ

p53.こうした面接の結果、私の中で何かが変わった。部下たちをとても尊敬するようになった。もはや彼らは、私が命令を怒鳴りつけるだけの「名もなき連中」ではなかった。私と同じく希望や夢を愛する者たちであり、自分のしていることに誇りを持ちたがっていた。そして、敬意を持って接してもらいたいと願っていた。私は彼らの最強の”応援団長”となった。部下のことを知り、尊敬しているこの私が、どうして彼らに手ひどい扱いができるだろうか? どうして彼らを見捨てられるだろうか?

p57.中国が台湾に向けて発射するためのミサイルを集結していたとき、我々はその地域の艦隊を派遣した。国防長官はたまたま議会で証言を行っていて、ある上院議員が彼にその兵力の増強について質問した。答弁の一部として、長官はアメリカには「世界一すぐれた海軍」があるので心配はしていないと述べた。それは、当時相次ぐ不幸に見舞われていた海軍にとって、大きな励みになる「魔法の言葉」だった。リーダーの力強い言葉は部下たちの合い言葉となり、彼らの秘めた力を引き出した。

p58.別の艦と並んだときには、我々は艦外に向けて、「海軍で最もすぐれた艦」からの挨拶を放送した。正直に言うと、そのうぬぼれぶりに腹を立てる艦もあった。それでも、私は部下に自信を持ってもらいたかった。自信は伝染する。うぬぼれだろうが陳腐だろうが、大きな成果があった。実際にはまだいちばん優秀と認められていたわけではなかったが、我々は確実にその”ゴール”へ向かっていった

p61.我々は目が覚めている時間の70パーセントを「仕事」と呼ばれる活動に捧げている。この活動に意味を見いだせないとしたら、恐ろしいことだ。そこで、私は「全員の力でベンフォルドを海軍最高の艦に育てる」という魅力的な理想を掲げたのだった

p61.では、部下の力が必要だというメッセージは、どのようにすれば伝わるか。ベンフォルドでは、ありとあらゆる手段を使ってさかんにコミュニケーションがとられていた。部下から上司への個人的なメール、乗組員向けの日報、すぐれたアイデアに対する私からのフィードバックや艦内を歩き回って行う雑談など、そこに上下関係の垣根はなかった。それ以外の甲板で行われる催し物や大音響の音楽パーティなどもあった。公然と部下を叱りつけた前任者とは逆に、私はベンフォルドの管内放送を使って部下を褒めたり、新しいアイデアを分かち合ったり、自分たちの目標を説明したり、それぞれが共通の目的のために協力し合うことをオープンにしたのである

p63.部下に秘密を持つことが、すなわり管理する手段を確保していることだ、と感じている指導者もいる。だが、それは愚かな考え方であり、失敗の原因でしかない。秘密がもたらすのは孤立であって成功ではない。指導者にとって重要なのはチームの力であり、そのためには「集団の知」が必要なのだ。私は、部下が自分のチームの共通の目標を知れば、それだけ多くの協力を得られる――そして、よりよい成果を達成できることを知ったのである

p64.私は、自分が指揮をとるようになったときには、確実に情報が伝わる意思伝達のシステムを作り出すことに集中しようと決めた。部下がどれだけ上司の命令について知っているかということと、彼らがどれをどれだけうまく実行できるかということには直接的な関係がある。情報伝達ルートの確保は、リーダーの最大の仕事である「組織の生産力を高めること」に必要不可欠なのである

p67.この英雄物語における私の唯一の役割は、部下の話に耳を傾け、彼のアイデアを評価し、それがよいものだと確信すると、その採用を懸命にアピールすることだった。それ以外のことは、すべて彼の才能と思考力が行ったことである。才能に役職などないのだ

p69.私の持論では、組織に所属する者は、各人がその組織の代表者である。我々はみな”外交官”であり、それにふさわしいように振る舞わなければならない

p70.こうした会合の基本原則は、現場から「生の声」を引き出すために、どんな発言にも懲罰を与えないことだった。私は部下がグループの誰に対しても異議を申し立てたり、批判したりするように促し、たとえ一番下の部下でも私を批判できるようにした

p79.リーダーは、部下が自分たちの行動や言動に鋭く反応することを理解しておく必要がある。もし彼らが何かを失敗したときに上の者がすぐ愛想を尽かすことが分かれば、部下たちはこの集団には救済の余地はなく、次に見限られるのは自分かもしれないと、すぐに判断してしまう

p92.最初に提督から密輸船を追う要請を受けたとき、まったく気乗りがしなかったが、ぐずぐず言わずにその任務を引き受けたことで、私の、そしてベンフォルドの株は一層上がった。上司が自分を強く必要としているときに手を貸すというのは、大きな投資なのである

p102.私の提督に対する期待は間違っていなかった。下甲板を離れて士官室に戻ると「海軍に入ってからこれほど有意義な体験はしたことがない」と提督は語ったのである。それ以後、提督は自分が訪問するあらゆる艦において、下甲板で昼食をとるようにした。その結果、彼は部下たちが考えたり、必要としたり、求めたりしていることをよく把握するようになった。この出来事以来、私も要人には、必ず部下たちと一緒に食事をしてもらうことにした。そして、もし食事をとる時間がないときには、必ず何か別の方法で部下たちと交流できるようにした

p109.この話の最も重要な教訓は、すぐれたアイデアなら、そこで誰がそれを見つけるかなど関係がない、ということだ

p120.どんな組織も「危険を冒す人間」を好ましく思わないものだ。だが、生き存え、強くあろうとする組織は、たとえときには失敗しても冒険をする人間を称え、昇進させるべきである。不幸なことに、組織はあやまちを犯さない人間ばかりを昇進させることがあまりにも多すぎる。しかし、あやまちを犯さない人々とは、組織を改善するようなことは何もしていない人々のことなのだ

p122.彼はその技術に卓越していたが、どんな艦や会社でも重要な手続きをたった一人の人間に任せることは出来ない。それでは会社全体が一人の個人の手に委ねられることになり、その人が病気にかかったり、辞めてしまったりすれば、たちまち大混乱が起きてしまう。現在の経費削減の流れの中で、多くの企業は一人にかける予算も切り詰めすぎて、重要な仕事に深く関わっている人間を一人しか置かず、何か問題が起こったときの”ゆとり”を排除してしまっている。私はこれこそが”惨事の原因”と考えた。私の目標は、あらゆる重要な業務でクロス・トレーニング(複数の仕事ができるように訓練すること)を実施することだった。そのため、当日には、ヒルに作業をさせないことに決めた。他の者たちに学ばせようとしたのだ。私は、当直の操舵指揮官(艦を「操舵指揮」する人間は、操舵員に艦の針路や速度を命じる)だったK.C.マーシャルに、海上で給油をしたことがあるかと尋ねた。彼はうつむいて、「ありません」と答えた。その表情から、彼は私に「無能だ」と思われるのを恐れていることが容易に読み取れた。しかし、彼には何の責任もない。問題なのは、彼がそれまでに学ぶ機会を与えられていなかったことだ。責められるべきは上司だったのである

p133.中将は私の要求に応えた。彼は私の5ページからなる声明文をペルシャ湾のすべての艦に送った。この声明文をもとに、軍の上層部はわざわざ空母に集まって会合を開き、どうすれば乗組員が上陸地で快適に過ごせるかを話し合ったという話を耳にした。私はペルシャ湾では、いちばん下級の指揮艦だったが、誰もが我々の戦略を拝借するようになったのだ。その後、中将は太平洋艦隊全体を指揮する大将となり、また、海軍がバスの代わりにバンを借り上げることは正式に認められるようになった。古い慣習も変えることができるのだ

p140.日常はマニュアルに従っていれば、困った状況に陥ることはまずない。反面、ずば抜けた成果を得ることもほとんどない。そして、あまりにも多くの場合において、このマニュアルは及び腰な行動の原因となる。そして本当に重要なものを見えなくしてしまう欠陥がある

p180.「誰かの水準を引き下げることを目標とするべきではなく、それ以外の者たちを出来るだけ高くまで引き上げるようにすべきなのだ」

p189.我々は、このやり方を「クロス・トレーニング」と名づけた。アメリカの基地に到着するころには、新兵訓練所を出たばかりの若い部下たちが、ベテランの仕事を見事にこなすようになっていた。部下たちを訓練して向上させ、より責任感を持たせるという点で、クロス・トレーニングは大いに士気を高めた。仲間が行っていることを教えあうことで、チームの技能が改善・強化された。この方式は、企業においても非常に有効だ。つねに代役を用意しておくことは危機管理の基本原理であるし、他の仕事を学んでおくこと自体も、自分の本来の仕事に役立つアイデアを与えてくれる

p192業績がいちばん下の者に、実際にそう評価されても仕方がないということを伝えるときには、どうすべきか。そんなときは、本人に自分自身の評価をどう位置づけるか尋ねるのが有効である。大半の者は同僚と比較して、自分が一番下であることにちゃんと気づいているものだ

p200.ずっと昔から、乗組員はあたかも「航海中は楽しんではならない」と命令を受けているようなものだった。我々海軍で働く者たちはその約束事を絶対的ルールと考え、それ以外のことなど思いつきもしなかった

p207.指揮官になったとき、私には3つの最優先事項があった。すなわち、食事をおいしくすること、訓練の質をよくすること、毎年できるだけ多くの人間を昇進させることだった。食事を最優先するのを笑う者がいるかもしれないが、それが士気を高め、我々の艦を変容させるプロセスを始めるのに役立ったということは紛れもない事実なのだ

p222.私が去った後も、ベンフォルドはさらに全速力で向上し続けた。私は臆することなく、その一部は自分の功績だと言いたい。私は指導者の評価は、本人が組織を離れてから半年か一年経つまでは下すべきではないと思う。自分が任期中にどれだけのことを行ったかということを正確に判断するものは、自分が後任に手渡す遺産なのだ。後任が失敗するのを望んではならない。もっと高い次元で考えなければならない





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