ハロルド・ウィンター「人でなしの経済理論」バジリコ

公開日: : 書評(書籍)

その副題のとおり、トレード・オフについて手を変え品を変え論じている。いくつか印象的なケースを紹介しながらの説明は、主旨はしっかりと伝わる。最近はあまり聞かなくなったが、耐震偽装事件などを契機としたコンプライアンス不況と同種の問題を提起している 要は「法と経済学」を論じているのだが、不法行為法を使うか契約法を使うかの違いという文脈は、そのまま訳されても多くの日本人には意味不明だろう。これも含めて、総じて、あまりキレイに整理されていない印象を受ける。オリジナルもこのくらいの章立てなのかもしれないが。この訳者は有名だったと思うが、その名に照らして違和感を感じた。また、初めて聞く出版社であることも少し不信感 タバコについては、人に迷惑をかけないかぎり、どんどんやって欲しい。吸わない自分になんらの影響がない限りにおいて、喫煙者はその納税につき尊敬に値する
p077.図書館の場合だと、医学雑誌の独占講読価格は、一部の個人には手が届かないものだった。あるいは、一部の人は雑誌丸ごとには価値を感じず、論文2、3本にしか価値を見出さなかった。でも、取引費用が高すぎて、出版社としては読者一人ひとりに論文1本ずつ取引交渉する余裕はなかった。法定は、出版社が個別論文を販売するような市場による解決策がないかも実際に考えてみた。でも多数派意見は、そんな市場は実現できないと考えた。そして法廷は、一部の個人が市場から排除されるなら、フェアユースはそうした個人が市場以外のメカニズムを通じてそうした論文のコピーを入手できると論じた。でもこれはおもしろい問題を提起してくれる。もし企業の製品のコピーを手に入れるのが、顧客にならなかったはずの人々なら、フェアユースに異議を唱える企業なんかいないはずでは? 別に客が失われるわけじゃないんだから、気にすることはないのでは? p088.この質問をすると、多くはこれで十分禁止すべきだと答える。そこでぼくは、それならきみたちの車の鍵を引き渡しなさいと言う。というのも、製品Xというのはタバコじゃなくて、自動車だからだ p146.人は他人のものよりは自分のものを大事に扱うことが多い。所有権はそれ自体として人のふるまいに影響する p191.大規模停電が社会にすさまじい費用をかけるのは間違いないことだ。でも、何十億ドルもかけて停電の頻度がごくわずかしか下がらないなら、停電頻度低下による期待便益は、設備投資よりはるかに小さいかもしれない。例えば、停電が起きたら5000億ドルというすさまじい社会的費用がかかるとしよう。そして停電をゼロにするには250億ドルしかかからないとする。これだけ見ると、これは実にお得な投資に思える。でも、もともとの停電率が1パーセントで、それがゼロになるという話なら、250億ドルの投資が実現するのは5000億ドルの費用節減じゃない。平均では、そのたった1パーセント、つまり50億ドルだ。たまに停電が起こるのを完全に阻止するだけなら、費用対効果の高い方策は存在しないかもしれない。そして、停電の最適頻度があるはずだという議論はヘンテコに聞こえるかもしれないけれど、実はまさにそれが正解なのかもしれない。ぼくに言わせれば、停電問題は、悲劇がそれ自体として公共政策の対応を決定づけてしまう好例だ。第2章で論じたように、適切な政策的解決を考える前に、その悲劇の恐怖から自分を切り離すことが重要だ。停電の時、専門家のだれ一人として、最適な対応は何もしないことかもしれないと結論づけなかったのはなかなかおもしろい。26年で大規模停電がたった1回というのは、なかなかすごいことじゃないだろうか。そのまま元の状態に復帰すれば、また何ごともなく26年やっていける可能性は高い。あるいは、大金をかけても今すぐ直しておくべき問題があるのかもしれない。正しい解決策は何だろう。そもそも正しい解決策なんてあるの?
20090817190405

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