桜井章一「負けない技術」講談社+α文庫

公開日: : 最終更新日:2012/03/12 書評(書籍)



自己啓発書、経営指南書ばかり読んでいては気付かない教えが多い

勝たなくても負けないという考え方、自然を大事にすること、柔軟でいること、ミスを楽しむこと、後始末をしっかりすること、得意を伸ばすより不得意を直すように意識すること

特に最後のメッセージは、ドラッカーと反対のキャッチ。それをこの著者が言っているというのは目から鱗

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p12.負けなければいいわけだから、相手をとことん追い込む必要もない。必然的に、そこには一定の限度というものが生じてくる。限度があるから、相手がちょっと泣いた顔をすればおしまいとか、弱ったらおしまいとか、そういう終わらせ方ができる

p16.勝つために余計な能力を身につけたり、必要以上の力をつけたりするのは、いわば「厚化粧」と同じだ。厚化粧はその人のシミやシワを隠すために行われる。それと同じで、勝つためだけに身につけられた力は、その人の持つ弱点を隠すためだけに存在しているといっていい。弱点を隠すためだけの力は醜い。「勝ち」に囚われてしまっている人の勝負も醜い。そこからは、いいものはあまり出てこない。それは私の目指す”勝負”とは正反対のところに位置している

p26.私は胃潰瘍にまではなったことがないが、代打ち時代の大勝負の前には胃に異変を感じた。それは、胃に刃物をあてられたような鋭い痛みだった。私の場合は、大勝負をしている最中ではなく、その前に必ずそういった胃の変調を感じた。どうなるかわからない、勝負がどっちに転ぶかわからないというところに楽しみを感じてはいたが、その反面、怖さや不安といったいろいろな感情も出てきた。楽しみと不安の間を行ったり来たり。大勝負の前はいつもそんな感じだった

p27.人間には欲があるから「勝ち」にいってしまう。「勝ち」にいく勝負が欲の支配する戦いだとすると、「負けない」というのは人が持つ本能からくる戦い方だ。欲のない動物や生物は「勝ち」にいくことはない。生きとし生けるものすべてが本来持っている戦う姿勢が「負けない」なのだ

p48.”ながら感覚”を常に持っていると、気持ちに余裕が生まれ、頭も冴えてくる。何かをしていても、目の前のことだけに囚われず、”ながら感覚”でいる。目の前のことだけに集中して囚われてしまうとまわりが見えなくなるし、変な緊張感を生んだりして、メリットはあまりない

p52.スルーすることには、メンコのようにひっくり返すおもしろみがある。裏側にあるものをひっくり返して表にしてしまうおもしろさ。自分もひっくり返るし、相手もひっくり返る。するとそこに素の人間が現れる。それが楽しい。表と裏がそろって初めて、”形”が現れる。世の中のあらゆることには、表があって裏がある。現代社会はとかく表だけを取り繕う風潮がはびこっているので、いびつな形になってしまっているものが多い。だから私は、いびつな形の人間が身近にいれば、「裏側を見せて」とまずはそれをひっくり返す。最初は抵抗を示す相手も、徐々に裏側を見せることに慣れ始め、最後は素の自分に戻っていく

p66.”間違いの流れ”が起こっているときは、せいちゃくの正着の手より、間違いの手や悪い手を打ったほうがいい結果になることがある。でも、そういった場面では、悪い手を使って勝ちにいくのではなく、あえて敗者になったほうがいい。もし、”間違いの流れ”に悪い手で乗ってしまうと、今度は”正しい流れ”が来たときに合わせられなくなってしまう

p78.私に「変化」を教えてくれる師匠、それは「自然」だ。海へ行けば、海中に潜むいろいろな生物が、私に変化することの大切さを教えてくれる。海の中にはまわりの色に合わせて体の色を変化させるタコやヒラメはもちろん、潮の流れを見ながら体勢や動きを変えるものなど、さまざまな生物が常に変化しながらそれぞれの生を全うしている。私は、そんな大自然と触れ合う中で、生きることは変化することそのものだということを教えてもらった。人間も自然の一部だ。社会や周囲の状況の変化に対応できる柔軟性を持っていなければ、そこで息が詰まってしまう

p104.私は基本的には、「得意技を磨くより、不得意を克服したほうがいい」と思っている。不得意なことを克服したほうが、その相乗効果によって、自分の”間口”がどんどん広がっていくからだ

p106.得意なことを伸ばしても不得意が改善することはないが、不思議なことにその逆、不得意を克服すると得意なことが伸びることがある。不得意を克服しようとすると、そこに”工夫”も入ってくる。すると結果として、その工夫が得意なことをさらに伸ばしたりすることが実際によくある

p108.和を乱す人は、じつは「存在力」の強さからではなく、その本質的な弱さからそうなっていることがままある

p127.ミスをしたときに「二度としない」と思ってはいけない。ミスを犯しても、そのミスをおもしろがれるようになれば、ミスの数は必ず少なくなっていく

p148.人間の体は、一部分だけを動かすのではなく、全部を動かすことでとてつもない力を強さを発揮できる。人間の体というのは不思議なもので、すべての部分がつながって柔らかく動けば、単なる足し算を超えたものすごい力になるのである。それゆえ、体はできるだけ柔らかいほうがいいのだ。柔らかければ、体は全体を使った動きになるからだ

p149.人の心と体は最終的に一致するので、体が柔らかければ、心も柔らかくなるものだ。だが、どういう心構えでいるかによっても当然、心の柔らかさは違ってくる

p167.専門家にはひとつの考えに固執したり、固定観念に囚われたりしている人が多い。偏っているから、どこかが歪んでいる。歪んでいる人が増えれば必然的に社会も歪んでくるし、それにともなう問題がいろいろと表出してくる。勝負にとたえれば、専門家は得意技で勝とうとする人だ。一方、万能家はなにが来ても負けないぞ、という感覚を持てる人。だから、私は専門家になろうと思わないし、専門家より、あらゆることに通じた万能家でありたいと思っている

p176.対局中、私は耳を澄ませることで相手の牌を取る音、捨てる音の微妙な変化を感じ取る。「テンパってるな」「迷ってんな」「勝負にきたな」……そういうことが手に取るようにわかる。相手の顔色を読み取ろうとするより、耳で見ようとしたときのほうが状況がはっきりとわかることがあるのだ。これはなにも、私だけに与えられた特別な力ではない。大自然の中で生きているような人々はそんな耳の力を持っている。現代人は、都会的な環境によってそういう感性、能力を閉じてしまっているだけなのだ。私は、その能力を退化させないよう、たまに海や山などの大自然と触れ合うとうにしている。さらに耳を大切にするために、やたらに大きい音を耳に近づけるようなこともしない。ヘッドホンで大容量の音楽を聴くなどということも絶対にしない

p182.きちんと後始末をするということは、次の準備に素早く取りかかれるということだ。仕事なども同じことがいえると思う。なにかミスがあったときなどはなおさらのこと、後始末をきちんとしなければ、次の仕事の準備に影響を及ぼしてしまう。その準備が不十分であれば、その次の動きとなる「実行」も満足のいくものにはならないだろう

p183.「準備・実行・後始末。そしてまた準備」という一連のサイクルを連続させるには、それを続けていこうとする強い気持ちがなければならない。その気持ちが薄いと、最後の後始末がおろそかになってしまい、どこかに必ず綻びが生じる。その綻びは徐々に広がっていき、やがて取り返しのつかない失敗を招くことにもなりかねない



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