キャリー・マリス「マリス博士の奇想天外な人生」ハヤカワ文庫

公開日: : 最終更新日:2011/09/19 書評(書籍)



自分を信じることの大切さ。人が何のために動いているのかを知らずに影響されることの愚かさ。自分が楽しむことを大事にする

最初のノーベル賞のところと、最後の環境への問題意識のところはおもしろいけど、中だるみは感じる

禁止薬物、食と健康、地球温暖化、エイズの話、など政治的な正しさやタブーについての攻撃が激しくてよろしい



p27.むしろショックを受けたのは、友人にも同僚の中にも、私の話を聞いてすごいと言ってくれた人間が誰もいなかったということだ

p41.彼の言うところはこうだ。私がマスコミにしゃべってよかったのは、サーフィンが好きで、ガールフレンドがたくさんいるというところまでだった。LSDをやってます、とまで言われれば、ノーベル賞委員会だって眉をひそめざるを得ないだろう、と。サーフィンに女好き、そのうえLSDときては、いささかやりすぎだと彼は言うのだ。私が落ち着くまでノーベル賞委員会は20年か30年、様子をみるのではないか、と

p44.彼らはまず私のアパートを急襲し、いないと分かると近所に聞き込みをして、私がふだん、どこへサーフィンに行くかをつきとめたのだ。とはいえ、彼らは私の顔を知らない。そこで海からあがってくるサーファーをいちいち捕まえては「マリスさんですか?」と聞きはじめた

p117.私はこんな話を聞いたことがある。宇宙を理解する理論として、ひも理論というのがあるが、この理論は11次元に広がる。これが理解できるのは、この世界でたった一人のインド人数学者だという。彼は日夜、11次元の世界で夢想しているという

p124.われわれはもはや、6500万年前、木陰に身をひそめていたような小動物ではない。地表を闊歩していた恐竜も存在しない。しかし、衝突しようとする小惑星に対しては木陰の小動物同然、なすすべをもたない。次にそのようなことが起こるまでには、木陰のネズミ以上の何かができるようになっているだろうか

p137.なにも考えていないところには、必ず傲慢さが生まれる

p161.国民全体の利益など、個々人の眼中にはない。教会、大統領、あるいはマザー・テレサでさえ、そうである。キリスト教や、グリーンピースといった環境団体にしてもしかり、皆つねに自分たちの利益のことで頭がいっぱいだ。これは何も20世紀に始まったことではない。この傾向を監視するためのバランス感覚が、創成期のアメリカ合衆国憲法には盛り込まれている。憲法にみられる精神はきわめて実質主義であり、哲学的指導者や国家全体の利益のために働く大統領など必要ないことがよく分かっていた。それよりも必要なのは、並存しうる複数の政府である。そして一つの政府が逸脱して武装化してしまうような動きがないよう、互いに牽制し合うのがよい。これが考えうる最良の方式であり、確かにこれまでうまく動いてきたといえる。しかし、新しい問題が出現してきた。今世紀になって生じたことは、世界が著しく複雑化したことである。政府の役割のほとんどは、きわめて専門的な技術領域に分散し、素人がつねに監視することはまったく不可能になってしまった

p164.そのうち新聞は私のことをカリフォルニア大学のキャリー・マリス博士と書くようになった。こいつはちょっとまずいんじゃないか。そう思いはじめた。科学の世界はどこかが狂っている。私は博士ではない。まだ単なる学生だ。これから博士になれたらいいな、と思っていたにすぎない。いったい誰がオレを博士にしてくれたのだ。どうして新聞は私の思いつきなどを取りあげて、世界中に配信してしまうのか

p166.PCRが野火のごとく世界中に広まっていくであろうと、私は確信していた。今回こそ私は自信満々だった。≪ネイチャー≫誌は一も二もなく掲載を決定するであろう、と。≪ネイチャー≫編集部の返事は「却下」だった。≪ネイチャー≫に次いで有名な科学雑誌≪サイエンス≫もこの発見を認めなかった。≪サイエンス≫はこう言ってきた。「貴殿の論文は我々の読者の要求水準に達しないので、別のもう少し審査基準の甘い雑誌に投稿されたし」と。この野郎、と私はうめいた。おれは金輪際、これらの雑誌に好意をもつことはない、と誓った。結局、レイ・ウー博士が編集している≪酵素学方法論≫誌が私の論文を掲載してくれることになった。彼はPCRの真価を理解してくれていた。この一件で私はまたもや教訓を学び、さらに大人になることになった。賢人が晩年の20年ほどの間、世界を高所からながめて、これまで彼が蓄積してきた知恵を用いながら、世の中を正しい方向に導いてくれている。これはまったくの幻想だった

p173.ここが、科学者の意見と、映画評論家や神学者の意見とが異なる点である。科学者の意見は、科学者の人間性とは関係がない。つまり重要なのは、アイザック・ニュートンがどんなやつだったかという点ではない。重要なのは、彼の主張、すなわち力とは質量かける加速度であるということだ。ニュートン自身は頭のおかしい変人で、両親の家に放火するような反社会的人物だった。しかし、力が質量と加速度の積である事実は今も変わらない。このことはニュートン力学を少しでも知っていればビリヤード台の上で簡単に実証することができる

p181.アメリカにおけるフロンの生産特許が期限切れになるのと同時に、フロンの使用が禁止されることになった。これは偶然にしては驚くべきタイミングのよさである。世界各国でようやくロイヤリティを払わずにフロンの生産が行えるようになった矢先に、禁止令が出されたのである。そのかわり、新しい代替化合物が登場した。むろんそれは特許で守られている。フロンはこの新製品に置き換えられ、これを生産する企業には再び金が入る仕組みになっているのだ

p184.人間はかつての氷河期をもたらしたのでもなければ、それを終結させたわけでもない。むしろ人類の生活史がそこから始まったのだ。われわれは嵐を作り出すことも、稲妻をもたらすこともない。ある年はエルニーニョ現象を引き起こし、次の年はそれをやめにするといった芸当もできない。洪水をわざと引き起こすこともできない。気候変化のパターンはまったくの謎であり、われわれ人類は多くの謎とともにこの地球上にあるのだ。人類はそういった変化に対して、なすすべをもたない。逆に、人類の歴史がそれらの変化の中から生まれ出てきたのである

p209.科学ではこのような現象をアネクドータル(anecdotal)と呼ぶ。つまり、再現できないようなやり方で立ち現れた、一回限りの現象のことである。でも、それは確かに起こったことなのである

p218.私が占星術について考えはじめたのは1960年代半ばのことだった。赤の他人が3人、私が山羊座だと正確に言い当てたからだった。当てずっぽうでこのようなことが起こる確率は1728分の1である

p237.今夜の夕食に何を食べたのかを正確に知りうる細胞は体内に存在しない。もちろん、満腹感に満足している脳細胞を別にすればの話だが。とは言うものの、食べ物の中には、完全に単位分子にまで分解されないものが、わずかながら存在している。単位分子にまで分解してしまうと、そこから元の物質を再構成できないのである。そんおような物質をわれわれはビタミンと呼んでいる。人間がビタミンを必要とする事実こそが、栄養をめぐる現代の妄想を生み出した遠因なのである

p238.それにもまして大切だったのは、このことで人間は、ビタミンCの合成能力を保持していた他の生物よりも、効率よく子孫を増やすことができたであろう点である。ここに進化の重要な法則がある。それは「生存にとって不必要なことにかまうべからず」という原則だ。進化は激しい競争をくぐりぬけなければならない。自動車レースでは、ゴールするのに必要最小量の燃料だけ積んで、できるだけ軽量のマシンで競争するのがベストだということである。生き残るためには、少しでも効率をよくする必要があるのだ。食品から十分な量の供給が得られる物質を、わざわざ体内で作り出す必要はない。この能力を捨てることは効率化につながる

p241.食品中の特定の成分が健康の維持に必須である。これは事実である。しかしだからといって、どうして健康の維持が、炭水化物、タンパク質、不飽和脂肪酸などの神経質なまでのバランスによって決まることになるのか? なぜ健康のためにはミルクセーキや飽和脂肪酸や動物油をとってはいけないのか、なぜEPAやDHAといったオメガ三脂肪酸がそれほど重要なのか? なぜチョコレートも卵もピザもハンバーガーも食べたらだめなのか? 飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸がいったいなんだというのか? どれも確たる証拠はない。ここにはとてつもない論理の飛躍があるだけだ。人はたくさん食べれば太り、食べなければやせる。ダイエットに関してこれ以上の真実はない。物事の本質を見直すべきである

p255.麻薬取締法は、科学的根拠や国民の健康に配慮して制定されたものではない。かつてカリフォルニアの港湾では、低賃金の中国人労働者がアイルランド人労働者を駆逐しつつあった。アイルランド人は酒を好み、中国人はアヘンを吸う。この法律ができたことで、アヘン窟が手入れをうけ、大量の中国人労働者が逮捕された。中国人は北に移動せざるを得なくなり、港湾労働はアイルランド人の手にもどった。マリファナが違法となったのは、禁酒法が失効した1938年の直後だった。警察が職務をまっとうするためには、何か取り締まるべき対象が必要だったからである。マリファナは黒人やメキシコ人が常用するものであり、それによって白人女性が性的被害にあう原因を作る、とされた。この図式は白人世論の支持を得た。むろんそれは作り話である。黒人やメキシコ人が急に白人女性に危害を加えるようになったわけではなく、1938年以降、労働市場において、黒人やメキシコ人が急に白人にとって邪魔者になってきたのである。禁酒法はなくなった。何かを禁止せずにはいられない連中が今度はマリファナを禁止した。同じ連中が、あるいはその子孫たちが、今度はLSDを禁止していい気になっているにちがいない

p266.私は次のように言った。「読みました。けれど、それはHIVが確実に映ずの原因かどうかという問題に焦点を当てたものではありませんでしたよ」 結局、彼は私に同意した。きつねにつままれたような気がするとともに、怒りがこみあげてきた。モンタニエですら知らないことを、いったい誰が知っているというのだろう

p274.世界中で実践されている科学のうち、大部分は本当の科学とはいえない。われわれが現在科学と呼んでいるものはおそらく、1634年に科学と呼ばれていたものと、非常によく似ている。ガリレオは、自分の信念を撤回するか、さもなくば破門すると宣告された。エイズ研究を支配する層の考え方を拒む人々も、また基本的に同じことを言われるのだ。「もしわれわれの言うことを受け入れないのなら、おまえは追放だ」と

p299.生化学を選んだ理由には、もう一つ不純な動機もあった。宇宙論はきわめて抽象的な話が多い。たとえばパーティで、素粒子中性イオンの崩壊速度がどうこう言っても、22歳の女性に対して会話が成り立つはずもない。生化学ならたとえば、クスリの話ができる。MDAの効果って知ってるかい? これを飲むとなんとなく身体が熱くなり、服を脱ぎたくなるんだよ。それからゆっくり楽しい時間を過ごすことができる、という具合に

p306.今朝、私は自転車をこいでラホイヤのソールダッド山に運動がてら出かけてきた。だから私の呼吸数と脈拍はいつもより高い。敵から必死に逃げおおせた動物のように、汗の水分と呼気の二酸化炭素を発散している。これはいずれも温室ガスと呼ばれているものである。地球は水蒸気と二酸化炭素からなる温室ガスにおおわれている

p308.彼らは人類の手で環境を守ることができると主張し、その方法とやらをご教示してくれる。しかし全米気象協会はこの点に関して、少し慎重である。その証拠に、気象概説の3カ月先予想というやつを行わないことにした。1988年を境に中止したのである。その理由は、コンピュータを作って大がかりに予想しても金がかかるばかりで、それほど当たるわけでもなく、それならいっそのことコイン投げのほうがよほど安上がりだということに気付いたからである

p309.この地球の主は人間であり、諸般の事物を見守る使命があると考えるのは誤りだ。現在の気象は、たまたまこうなっているだけのことである。今後、それをずっと保全していこうと考えるのはあまりに傲慢である。人類が地球のすべてを支配し、すべての環境と生物は今後ずっと不変不滅である、そうして輝かしい21世紀を迎える、どんな生物も絶滅させてはならない。それは新しい生物を受け入れないと言っているに等しい。進化論の否定である。国立環境庁と国連気候変動調査委員会は一緒になって進化の終焉を唱えているとしか考えようがない



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