チップ・ハースほか「スイッチ!」早川書房

公開日: : 最終更新日:2011/12/23 書評(書籍)



象と象使いの比喩は今後も使える。セルフコントロールも有限だという話も、自分に都合よく使えそう。ほか、事例の紹介が、一々、今後も使えそうなものであって、組織を動かそうとするときに参考になる



p9.空腹か満腹かも関係なかった。つまり、法則はどうあがいても変わらない。容器が大きいほど、食べる量が増えるのだ

p14.脳は、全体でひとつではない。実際、心理学の一般的な見解によると、脳ではつねにふたつのシステムが独立して働いている。ひとつ目は、これまでに説明してきた「感情」だ。苦痛や快楽を感じる人間の本能的な部分だ。ふたつ目は、「理性」だ。これは熟慮システムや意識システムとも呼ばれている。じっくりと考え、分析を行い、未来に目を向ける部分だ

p15.目の前の満足を求める象の欲求は、象使いの強みとは正反対だ。象使いの強みとは、長期的に考え、計画を練り、先を見すえることだ(いずれも象には苦手なことだ)。しかし、象には大きな強みがあり、象使いにも致命的な弱みがある。ぞうはいつも悪役というわけではない。象のとりえは豊かな感情だ。愛、思いやり、共感、忠誠心。子どもを危害から守らなければという強い衝動。自分を守ろうとするときの背筋か引き締まる感覚――それが象だ。そして、さらに重要なのは、変化を起こそうとしているとき、それを実行に移すのは象だということだ。この象の強みと対照的なのが、象使いの大きな悩みだ。象使いは頭を空回りさせてしまう。ものごとを分析しすぎたり考えすぎたりする傾向があるのだ

p18.実は、セルフコントロールを使い果たしてしまったのだ。心理学者たちは、これと似た数々の研究で、セルフコントロールが消耗資源であることを発見している。ダイコンを食べた学生は、クッキーの誘惑に逆らうことで、セルフコントロールを使い果たしてしまったというわけだ

p25.抵抗しているように見えても、実は戸惑っている場合が多い

p27.人を変えたければ、とびきり明確な指示を与えなければならない。象使いが頭を空回りさせずにすむからだ。「もっと健康的に行動しよう」と伝えても、解釈のしかたはいくらでもある。象使いはとめどなく選択肢を探ることになるだろう

p36.次の3つを行えば変化を引き起こせる。①象使いに方向を教え、②象にやる気を与え、③道筋を定めるのだ

p42.スターニンの戦略とは、村人たちに「ブライト・スポット」、つまりお手本となる成功例を探してもらうことだった。貧乏なのに健康な子どもがいるということは、栄養不足は必然ではないということになる。さらに、健康な子どもがいるというだけで、実用的ですばやい解決が可能だという希望をもたらすことになる

p45.もっとも重要なのは、それが彼女たち自身の変化だったという点だ。つまり、村特有の知恵から生まれた変化だった。スターニンは、母親たちに「自分たちでも栄養不足を解消できる」と理解させる役割を果たしたにすぎないのだ

p55.解決志向療法のセラピストは、「問題がなくなっていると思う最初の小さなサインはなんですか?」という質問をすることで、患者を奇跡の最初のサインに着目させようとしている。これは、壮大すぎて実現不可能な答えを避けるためだ。たとえば、「銀行口座が満額で、仕事が好きでたまらず、結婚生活は順風満帆」というような答えを避けるのだ。患者が具体的で明確な進歩のサインを認識したら、セラピストはふたつ目の質問に移る。おそらく、ひとつ目の質問よりも重要だ。それは「例外の質問」だ。「最後にほんのわずかのあいだでも奇跡が見えたのはいつですか?」たとえば、アルコール依存症の患者には、「1時間か2時間でも最後に酒を我慢できたのはいつですか?」と尋ねる。あるいは、先ほどの例に登場した妻には、「最後に夫から真剣に話を聞いてもらえていると感じたのはいつですか?」と尋ねる。これは巧妙な戦術だ。セラピストがそれとなく伝えようとしているのは、患者が自分自身で問題を解決できるということだ。実際、患者は少なくとも一定の場面では、すでに問題を解決しているという証拠を挙げている

p61.ジェネンテックのマネジャーに対して公平を期すために、実際にふたりの営業担当者が単なる例外だという可能性があったとしよう。それでも、マネジャーたちは好成績を反射的に「悪いニュース」と決めつけたことになる。これは、象使いの分析能力には限りがないというよい教訓だ。象使いがでしゃばりすぎると、成功でさえ問題に見えてしまうものなのだ

p67.心理学者が感情をあらわすすべての英単語を分析した。すると、全558単語のうち、ネガティブな単語は62パーセントで、ポジティブな単語は38パーセントしかないことがわかった。これはショッキングな差だ。古い都市伝説によれば、エスキモーは雪に関して100種類の単語を使い分けているという。まさに、ネガティブな感情は、私たちにとってエスキモーの雪のようなものだ。このネガティブな偏りは感情だけにとどまらない。全般的に、私たちはもともとネガティブな面に着目する傾向にある。心理学者のグループが200以上の文献を確認した結果、人間の行動や認知の幅広い範囲で、「悪は善よりも強い」という一般原則が成り立つという

p72.ここで起きたのは、「意思決定の麻痺」だ。選択肢が増えると、それがどんなによい選択肢でも、私たちは凍りつき、最初の計画に戻ってしまう

p103.そこで、学年度の初め、彼女はクラスの目標をこう宣言した。「今年度の終わりまでに、3年生になりましょう」。彼女はこれなら生徒全員の心をつかめるとふんでいた(もちろん、ほんとうに3年生になるわけではない。3年生レベルのスキルを身につけようという意味だ)。この目標は1年生の心理にぴったりだった。1年生は、3年生がどんなものかを知っている。大きくて、頭がよくて、かっこいい。オリンピック選手の優雅さや力強さにほれぼれしているときに誰もが感じる気持ちだ。彼女が最初に取り組んだのは、教室に学習という文化を根づかせることだった。彼女は生徒を「学者さん」と呼び、お互いにそう呼ばせた。誰かが教室にやってくると、彼女はクラスを「学者の集団」と紹介し、生徒たちにその言葉の意味を説明させた。「学者というのは、学ぶために生きていて、それが得意な人のことだよ」と生徒が叫ぶ。その学者たちは、家に帰ったら学んだことを家族に教えるよう言われた

p132.リフキンは、「電話を125回以上かける」、「同僚の仕事を引き合いに出す」といった大事な一歩の台本を書いただけではなく、「『インスティチューショナル・インベスター』誌のトップ5に食いこむ」という目的地も指し示した。それは、調査部門の誰もが理解でき、目指そうと思う目標だった

p133.他の調査部門は、この薬剤の主要市場をひとつ特定していた。しかし、シアーソンのアナリストは、ほかにも市場があるのではないかと考えた。赤血球の産生を促す薬剤には、ほかにもきっと使い途があるにちがいないと推測したのだ。そこで、彼らは調査に取りかかった。フレッド・フレンケルはこう語る。「アナリストとアシスタントが全員で電話をかけまくりました。世界中の100の病院や薬局に電話し、薬剤の潜在市場を評価しました。データが出そろうと、アムジェンは数十億ドル規模の薬剤を手にしていることがわかったのです。アナリストとアシスタントがひとりずつでは、どの調査部門もこんな予測を立てることはできなかったでしょう」

p175.思っていたよりもゴールラインの近くにいると感じさせるのが、行動を促すひとつの手なのだ

p215.フリードマンとフレイザーは、この戦略を「ドアに足をはさむ」テクニックと呼んだ。いったん小さな安全ステッカーを受け入れたことで、家のオーナーが巨大な安全運転看板を受け入れる可能性が大幅に増したのだ

p215.「カリフォルニアをいつまでも美しく」という嘆願書が安全運転の取り組みの第一歩になるとは思っていなかった。ふたつはまったく関係がない。しばらく考えた結果、ふたりは嘆願書の署名によって家のオーナーのアイデンティティ意識に変化が生じたのではないかと推測した。フリードマンとフレイザーはこう記している。「いったん要求に同意することで、考え方が変化するのかもしれない。そして、自分はこういうことをする人間だ、他人の要求に手を貸す人間だ、自分の信じることを実行に移す人間だ、よき行いには協力する人間だと自覚するようになるのかもしれない」

p222.ほぼあらゆる場面でしなやかマインドセットの持ち主のほうが成功する。しなやかマインドセットの持ち主は、行動の幅を広げ、リスクを冒し、意見を受け入れ、長期的な視野で考えるため、人生や仕事でまちがいなく進歩を遂げるのだ

p227.ビジネスの世界では、私たちはしなやかマインドセットを暗黙のうちに否定している。ビジネス業界の人々はふたつの段階に分けて考える。計画段階と実行段階だ。その中間に「学習段階」や「練習段階」はない。ビジネスの観点では、練習は粗末な実行でしかない。結果がすべてだ。「どうやるかなんて関係ない。とにかくやれ!」しかし、変化を生み出して持続させるには、スコアの記録係でなくコーチのように行動する必要がある。しなやかマインドセットを取り入れ、チームに吹きこもう。なぜしなやかマインドセットがそれほど重要なのか? 大規模な組織を研究しているハーバード・ビジネス・スクールのロザベル・モス・カンター教授は、「途中のすべてが失敗に見えることがある」からだと述べている。結婚セラピストのミシェル・ウィーナー=デイヴィスも同じような発言をしている。彼女は「持続する変化とは、3歩進んで2歩下がるようなものが多い」と話す

p256.半年の試験期間で、ミスは47パーセントも減っていた。「息をのみました」とリチャーズは語った。データが出ると、嫌悪感は薄れていった。この結果に感銘を受けて、「チョッキは必要ない」と主張したひとつの病棟を除く全病棟が投薬チョッキを採用した。すると、病院全体が導入を開始した最初の月に、ミスは20パーセントも減った。ただし、ある病棟だけはミスが増えた(どの病棟かはおわかりだろう)。全員に嫌われても効果のある解決策は、間違いなく巧妙な解決策といえる。実際、あまりにも効果的だったため、嫌悪は熱意に変わっていった

p256.航空業界では「無菌操縦席」という規則(sterile cockpit rule)を採用している。上昇中か下降中かにかかわらず、航空機が1万フィート未満を飛んでいる場合は、飛行に直接かかわる内容を除き、コックピット内での会話を禁止するという規則だ

p269.ウェストンは顧客サポートのトップとしてデイヴィッド・ブライスを雇った。最初のミーティングで、ブライスはラックスペースを「顧客サポートにびくびくする企業」から「サポートに夢中な企業」に変えるとチームに宣言し、「ラックスペースは熱狂的なサポートを提供する」という野心的な標語を壁に掲げた。このフレーズはすぐに浸透した

p271.会社は「ストレートジャケット賞」という賞を設けた。正気を失うくらいサービスに熱中している従業員に授与される賞で、トロフィーとしてラックスペース・ブランドの本物の拘束衣が授与される(これは象のアイデンティティに訴えかけている。「私たちは熱狂者だ。だから特別な存在なのだ」)

p282.アクション・トリガーに期待以上の価値があるのはそのためだ。ゴルヴィツァーによると、人は「意思決定の事前装填」を行うとき、「行動の支配権を環境に委ねる」のだという。アクション・トリガーは「心を惑わす誘惑、悪い習慣、対立する目標から目的を守りぬく」効果があるとゴルヴィツァーは述べている

p312.ウィンステンと彼のチームは、ゴールデン・タイムの160以上のテレビ番組のプロデューサー、脚本家、役者と手を組み、プロットの各所に指名ドライバーのシーンを自然に組みこんだ。さまざまな番組に指名ドライバーを取り上げるひとコマが登場した

p320.キャンペーンの目標はふたつだった。ひとつ目は、援助交際を揶揄するニックネームをつくり出すこと。タンザニアのナイトクラブで、客同士が「あの男がファタキってやつだな」という会話を交わすのを耳にするようになることが制作チームの目標だった。ファタキをからかってもかまわないとなれば、地位的に優位な年配の男性や裕福な男性に対抗することができる。キャンペーンのふたつ目の目標は、ラジオ・コマーシャルの行動をモデル化することで、友人、親戚、教師、さらにはウェイトレスなど、他人の「介入」を促すこと。「若い女性に気を配るのはあなたの責任。大切な人をファタキから守ろう!」というメッセージを届けることだ

p324.IBMの元CEOルイス・ガースナーは「IBMでの約十年間に、わたしは企業文化が経営のひとつの側面などではないことを理解するようになった。ひとつの側面ではなく、経営そのものなのだ」と述べている

p330.社会運動について研究する研究者たちは、このような場所を「フリー・スペース」と呼んでいる。つまりグループの多数派メンバーに気づかれることなく、改革論者が集まって集団行動の準備を行える小規模な集会だ。フリー・スペースは、社会の変革を促すうえで重要な役割を果たすことも多い。たとえば、公民権運動のリーダーたちは、南部の黒人教会をフリー・スペースとして利用し、活動の準備を行った

p338.子どもがちゃんとしてくれない場合には、カズディンはこうするようアドバイスしている。「”全体の一部でもしてくれていないだろうか”と考えるのです。たいていの場合はしているはずです。そうしたら、その部分に着目して、”○○をしてくれてえらいわね”と言うのです」 カズディンの指摘によると、一定の状況では親たちはこのような励ましを本能的に行っているという

p341.心理学者のいう「単純接触効果」。つまり、何かに接すれば接するほど、好きになっていくという現象だ。たとえば、エッフェル塔が建てられた当初、パリ市民は嫌っていた。美しい町並みを中途半端な骨組みが汚していると考え、猛烈に抗議した。しかし、時とともに、世論は「嫌悪」から「容認」、そして「崇拝」へと変わっていった。最初は人気がなく認知度の低い変革運動も、単純接触効果によって、慣れるとともに好意的にとらえられるようになっていくのだ。また、「認知的不協和」もプラスに働く。人間は、行動と思考が食い違うのを嫌う。したがって、小さな一歩を踏み出し、新たな行動を取りはじめると、自分の行動を否定するのはどんどん難しくなっていく。同じように、行動が変わると、自己像も変わりはじめる。そして、アイデンティティの進化とともに、ますます新しい行動が強化されていくのだ。ケルマンによると、「単純接触効果」や「認知的不協和」は、変革活動が最初から成功しなくても生まれるという。つまり、このふたつは「小さな成功」の結果として生まれるわけではなく、むしろ時がたつにつれて自然に生まれるということだ。したがって、変化の初期段階では、惰性は強力な敵となるが、ある時点で「変化に逆らう惰性」から「変化を支える惰性」へと変わる時が来るというわけだ

p346.①象使いに方向を教える、(1)ブライト・スポットを手本にする、(2)大事な一歩の台本を書く、(3)目的地を指し示す。②象にやる気を与える、(1)感情を芽生えさせる、(2)変化を細かくする、(3)人を育てる。③道筋を定める、(1)環境を変える、(2)習慣を生み出す、(3)仲間を集める



20110720190739

google adsense

関連記事

no image

ポール グレアム Paul Graham「ハッカーと画家」オーム社

20130128225245 コンピュータ関係の仕事に関係するならば読んでおかなければと思

記事を読む

no image

西口貴憲「すべては戦略からはじまる」ダイヤモンド社

20110730005741 経営戦略を掻い摘んで理解するには最高の本。内容は基本的で、か

記事を読む

no image

カーマイン・ガロ「スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション」日経BP

20111221223951 タイトルと内容に齟齬がある悪い見本だ。半分くらいはアップル以外の話だ

記事を読む

no image

ダニエル・ピンク「フリーエージェント社会の到来」ダイヤモンド社

20120202235815 アメリカの本らしく、充実過ぎるほどの実例と、くどいほどの同じ

記事を読む

no image

林成之「勝負脳の鍛え方」講談社現代新書

筆者をテレビの特集で見たことがあると思う。脳外科の救急病院で、従来では助からないような脳障害の救急患

記事を読む

no image

長谷川洋三「ゴーンさんの下で働きたいですか」日経ビジネス人文庫

第1章が面白い。ゴーンの経営を垣間見るのがこの部分。彼の動きについては強く賛同できる 本書のタイトル

記事を読む

no image

佐藤優「読書の技法」東洋経済新報社

20130428215646 相変わらず、おもしろい 本は外側から攻める。表紙と裏表紙、

記事を読む

no image

平野敦士カール、アンドレイ・ハギウ「プラットフォーム戦略」東洋経済新報社

20101011163303 前評判ほどの満足感はなかったが、良書 こういうビジネススク

記事を読む

no image

岩崎夏海「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」ダイヤモンド社

それなりに面白かった。じっくりと練られている うまくドラッカーを伝えられている。また野球というスポ

記事を読む

no image

渡部昇一・林望「知的生活 楽しみのヒント」PHP研究所

先日読んだ”林望「知性の磨きかた」PHP新書”を見つけた際に、あわせて見つけたので読んでみたのがこの

記事を読む

google adsense

google adsense

MediaPad M3 LTE プレミアムモデル購入して2か月

20170409130135 もう2か月が経ってしまったけど、記

Windows10アップグレード導入

20160307001116 2台のノートPCにつき、無料のWi

Nexus 6Pが届いた

20151105221617 無事に届いた。 海外荷物受付

Nexus 6Pが発送された

20151103103105 「発送しました」って内容のメールが

Nexus 6Pを発注した

20151031100625 それまでもネット経由でいろいろ調べ

→もっと見る

  • 名前:Max 年齢:人生の2合目くらい 誕生日:夏の暑い日 一言:他言無用ということでお願いします
  • あわせて読みたい
  • にほんブログ村 本ブログへ
PAGE TOP ↑