武光誠「県民性の日本地図」文春新書

公開日: : 書評(書籍)



国内を旅していると、この本の言っていることが分かるような気がする。県によって異なる文化は、藩の影響を受けており、さらには、峠によって分かたれた盆地の単位で勢力が区切られるという素朴なところまで因数分解される。「盆地世界」というのは、なんかスマートでない表現だけど

静岡県、長野県や福島県のような、県が広く、県内に複数の文化があるところに興味を感じる。藩や県の成立や統廃合の歴史、そのなかでの折々の名乗りを調べるだけで、かなりな暇つぶしになりそうだ。喜連川という地名が消えかかったりという名残を惜しむのもよし。県名の由来などは、数としても手頃



p12.江戸時代末に薩摩藩の財政再建を命じられた調所広郷という武士が、借金を頼みに大坂の豪商を訪ね歩いたことがある。そのときかれは、大阪人のやんわりと拒絶する話しぶりに怒り、何度も抜刀しそうになったという

p13.古代にあって、九州南部の人々は隼人と呼ばれ、勇猛な集団とされていた。奈良時代の朝廷には、南九州から呼び寄せた隼人を集めた天皇の身辺の警護などを扱う、隼人司という武官が置かれていた

p15.1つの地域の文化、気質を考える場合、荘園の村落と藩との間に盆地世界というものを置いてみる必要がある。鉄道と汽船のない近代以前の日本人が、山などの自然の障害によって区切られた盆地世界を、自分が生活する範囲ととらえていたからである

p16.武田信玄は、諏訪盆地を支配する諏訪頼重、佐久盆地を支配する大井貞清、松本盆地の小笠原長時、上田盆地の村上義清らを次々に破り、信濃国を支配下におさめた。諏訪頼重、村上義清らはかなり有力な武士であるが、歴史学者はかれらを「戦国大名」とは呼ばない

p20.江戸時代に、はじめて余った米が全国から大坂に集められ、商品として各地に送り出されるようになった。私はそれを日本史上の一大転機であると考えている。金があっても米が買えない時代と、金さえ出せば米をはじめとするあらゆる食料が入手できる時代との違いは大きい

p21.中世までの日本の歴史は、奈良盆地と京都盆地との2つの盆地世界を中心につくられた。奈良盆地という広い盆地があったおかげで、大和朝廷が生まれ、かれらが日本を統一した。日本にせまい盆地しかなかったら、近代まで日本列島では多くの勢力が分立する情況が続いていたかもしれない

p25.隣の盆地世界の人々のものの考え方や、方言は理解できる。ところが、距離の離れた国のそれは、かなりわかりにくい。そして、津軽の文化と薩摩の文化はまったく別のもののようにもみえる。九州の文化のある部分は、東北地方のものより朝鮮半島南部のものに近い

p34.多分、弥生化した東日本の縄文人の間には、もとからのそのときどきで力のある者が人々を指導する習慣が残ったのだろう。人間は生まれながらに平等であるとする思想に立つものといえる。ゆえに中世まで、西日本では皇室を頂点とする公家政権の権威が重んじられたが、東国には「家柄より能力を重んじる」という考えが強かった

p44.東日本では稲種を田に直播きしてそのまま育てていた。南北朝時代の文献に出てくる出羽国の蒔田村や上野国の牧田村、江戸時代に見える信濃国の蒔田新田村といった地名は、稲を直播きにしてつくっていた田にちなむものである

p47.有力な指導者を求める東日本の気質が、東国に上杉謙信、武田信玄などの強大な戦国大名を生んだ。それに対し、合議を重んじ専制的な指導者を嫌う西日本では天下取りの可能性を持つ戦国大名は育たなかった。こう考えると、戦国史を理解しやすい。このような、党と一揆とのちがいが、今日の東日本と西日本の県民性の底にあることは間違いない

51.現代の北海道民の中には近代以前の未開の時代の名残りはない。そこには、明治以降の日本人の中でもっとも進んだ発想をとってきた人々の姿が感じられるだけである。北海道民は、古い因習にとらわれない気質を持つといわれる。離婚率が全国でも最高水準であることや、水商売への抵抗感の少ない女性が多く北海道で歓楽街が繁栄しているのは、そのあらわれであるとされる

p57.青森県民の中で、津軽の人の気質は外向的、進歩的で、南部の人のそれは内向的、保守的であるとされる



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