安宅和人「イシューからはじめよ」英治出版

公開日: : 書評(書籍)



現役の企業の経営関係部署の立場からこういうことを本にできるのは尊敬に値する

労働量や根性を避け、疲れたら休む。どうせろくな解決はできない

日本ではコールドコールをあまりしないが、行うべきだ。こだわりなく柔軟に動き回れ。自分の専門性を広げ、自分の技を複数持て。とかく行動が足りない

他人の非専門性を責めない。なるべく簡単に説明。言えば分かる



p5.僕は自分の周りで働く若い人には「悩んでいると気づいたら、すぐに休め。悩んでいる自分を察知できるようになろう」と言っている。「君たちの賢い頭で10分以上真剣に考えて埒が明かないのであれば、そのことについて考えることは一度やめたほうがいい。それはもう悩んでしまっている可能性が高い」というわけだ

p27.ここで絶対にやってはならないのが、「一心不乱に大量の仕事をして右上に行こうとする」ことだ。「労働量によって上にいき、左回りで右上に到達しよう」というこのアプローチを僕は「犬の道」と呼んでいる

p35.僕自身の体験を踏まえ、一緒に仕事をする若い人によくするアドバイスがもうひとつある。それは「根性に逃げるな」ということだ。労働時間なんてどうでもいい。価値のあるアウトプットが生まれればいいのだ。たとえ1日に5分しか働いていなくても、合意した以上のアウトプットをスケジュールどおりに、あるいはそれより前に生み出せていれば何の問題もない。「一所懸命やっています」「昨日も徹夜でした」といった頑張り方は「バリューのある仕事」を求める世界では不要だ。最悪なのは、残業や休日出勤を重ねるものの「この程度のアウトプットなら、規定時間だけ働けばよいのでは」と周囲に思われてしまうパターンだ

p36.このように時間ベースで考えるのがアウトプットベースで考えるのかが「労働者(laborer)」と「ワーカー」の違いであり、もっと現代的な言葉では「サラリーマン」と「ビジネスパーソン」、さらには「ビジネスパーソン」と「プロフェッショナル」の違いでもある

p52.概念をきっちりと定義するのは言葉にしかできない技だ。言葉(数式・化学式を含む)は、少なくとも数千年にわたって人間がつくりあげ磨き込んできた、現在のところもっともバグの少ない思考の表現ツールだ。言葉を使わずして人間が明晰な思考を行うことは難しいということを、今一度強調しておきたい

p79.日本の会社の多くでは、社内はともかく外部の専門家に直接話を聞く、といったことをあまりしないようだが、これは本当にもったいないことだ。「社外秘の事柄が多いから、あまり外部と交流できない」という理由であれば、それは多くの場合、考え過ぎや思い過ごしだ。知らない人に電話でインタビューを申し込むことを英語で「コールドコール」と言うが、これができるようになると生産性は劇的に向上する。あなたがしかるべき会社なり大学・研究所で働いており、相手に「守秘義務に触れることは一切話す必要はなく、そこで聞いた話は内部的検討にしか使われない」といったことをきちんと伝えれば、大半は門戸が開くものだ。実際、僕自身もこれまで数百件の「コールドコール」をしてきたが、断られた記憶はかぞえるほどしかない。生産性を上げようと思ったらフットワークは軽いほうがいい

p86.これはビジネスの世界においてコンサルティング会社が存在している理由のひとつでもある。業界に精通した専門家をたくさん抱えているはずの一流の会社が高いフィーを払ってコンサルタントを雇うのは、自分たちは知り過ぎているが故に、その世界のタブーや「べき論」に束縛されてしまい、新しい知恵が出にくくなっていることが大きな理由のひとつだ。優秀であればあるほど、このような「知り過ぎ」の状態に到達しやすく、そこに到達すればするほど知識の呪縛から逃れられなくなる

p118.見立て(仮説のベースとなる考え)があればそれに越したことはないが、なくても強引にスタンスをとる。あいまいさを排し、メッセージをすっきりさせるほど、必要な分析のイメージが明確になるからだ。全体のイシューを見極めるときと同様に「フタを開けてみないとわからない」とは決して言わない

p124.危険なのは、フレームワークにこだわるあまり、目の前のイシューを無理やりそのフレームにはめ込んで本質的なポイントを見失ってしまう、あるいは自分なりの洞察や視点を生かせなくなってしまうことだ。冒頭にも書いた「カナヅチをもっていればすべてのものがクギに見える」という状況になってしまっては本末転倒であり、このような状態になるくらいならフレームワークなど知らないほうがよい。マッキンゼーの大先輩である大前研一が生み出した「3C」であれ、前に紹介したハーバードビジネススクール教授のマイケル・ポーターが生み出した「ファイブ・フォース」であれ、どんなに有名なフレームワークであっても万能なわけではないことは、いつも頭のどこかに置いておきたい

p171.知覚の視点から見たとき、留意しておきたい神経系の特徴が4つある。1 閾値を超えない入力は意味を生まない。2不連続な差しか認知できない。3理解するとは情報をつなぐこと。4情報をつなぎ続けることが記憶に変わる

p181.ガラスの靴で有名なシンデレラの物語は「シンデレラが継母の娘たちより圧倒的に魅力的である」という前提が話を成り立たせている。このように、どんなストーリーにもカギとなる前提がある

p193.自分の手がける問題について、「聞きまくれる相手」がいる、というのはスキルの一部だ。自分独自のネットワークをもっているのは素晴らしいことだし、直接的には知らない人からもストーリーくらいは聞けることも多い

p195.「人工知能の父」と言われるMIT人工知能研究所の設立者、マービン・ミンスキーがリチャード・ファインマンを評した次の言葉が、質の高いアウトプットを出すことについての本質を突いている。「いわゆる天才とは次のような一連の資質を持った人間だとわしは思うね。・仲間の圧力に左右されない。・問題の本質が何であるかをいつも見失わず、希望的観測に頼ることが少ない。・ものごとを表すのに多くのやり方を持つ。一つの方法がうまく行かなければ、さっと他の方法に切り替える。要は固執しないことだ。多くの人が失敗するのは、それに執着しているというだけの理由で、なんとかしてそれを成功させようとまず決め込んでかかるからじゃないだろうか。ファインマンと話していると、どんな問題が持ち上がっても、必ず<いわそれにはこんな別の見方もあるよ>と言ったものだ。あれほど一つのものに固執しない人間をわしは知らないよ」(『ファインマンさんは超天才』C・サイクス著、大貫昌子訳/岩波書店)。ミンスキーの話からわかるのは、「もっている手札の数」「自分の技となっている手法の豊かさ」がバリューを生み出す人としての資質に直接的に関わる、ということだ。カーブと速球しか投げられないよりもシュートやフォークも投げられるほうがよいに決まっている。得手・不得手の意識もなければないほどよい。米国大学院のPh.Dプログラムでは、3カ所程度の異なるラボ(研究室)を回ることを必須条件にしていることが多い。最初からひとつの研究室に所属させる日本の大学院とは対照的だが、これも「自分の技を複数持つための方法」だと言える。直接的な経験がある分野を複数持ち、直接話せる人がいると、いざというときに大きな助けになる

p199.「完成度よりも回転率」「エレガンスよりもスピード」

p205.僕が最初に訓練を受けた分子生物学の分野では、講演・発表をするにあたっての心構えとして「デルブリュックの教え」(マックス・デルブリュックはファージという細菌に感染するウイルスを使った遺伝学の創始者の1人、1969年にノーベル生理学・医学賞を受賞)というものがある。これは科学に限らず、知的に意味のあることを伝えようとしている人にとって、等しく価値のある教えではないかと思う。それが次のようなものだ。ひとつ、聞き手は完全に無知だと思え。ひとつ、聞き手は高度の知性をもつと想定せよ

p220.仕上げの段階まで来ると、「何を言うか」とともに「何を言わないか」も大切になってくる。ここは、世界のデザイン界にミニマリズムをもたらした日本的美意識が生きるところでもある。浮世絵や枯山水の庭と同様、焦点を絞り、本筋に関係のないところは大胆に削り捨てる。枝葉の小さな論点が太い論点を濁らせることは避けたい

p222.僕が米国での研究時代にお世話になったある教授に言われ、今でも大切な教えにしている言葉がある。「どんな説明もこれ以上できないほど簡単にしろ。それでも人はわからないと思うものだ。そして自分が理解できなければ、それをつくった人間のことをバカだと思うものだ。人は決して自分の頭が悪いなんて思わない」



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