福岡伸一「動的平衡2」木楽舎

公開日: : 書評(書籍)



20120416004929

これまでに読んだ著者の本は次の2つ

福岡伸一「生物と無生物のあいだ」講談社現代新書 | hiog

福岡伸一「動的平衡」木楽舎 | hiog

この人は文章がキレイで上手だとの思いは変わらない。それでも「2」にありがちな、二番煎じの傾向が少し。それでもこの人の本は今後も読み続けることになるような気がする

本書に影響されて、人間には2つの目的しかないと思うようになったりしている。次世代に生命をつなぐこと、そして、遊ぶことだ。子どもを儲けて慈しみ育てる。そして好きなことをする。それがたまたま仕事だったり金儲けだったりすることもあるだろうけど、自分は違う気がする。そうであれば、一冊の本にこれだけ長いメモをとったりしないだろう

生物学に関する雑学をいっぱい仕入れられて嬉しい。たしかに、葉っぱはその大部分が共通なののに、それを食べる虫の好き嫌いは理解しにくい。ヒトとチンパンジーのゲノムが98パーセント以上同じであるということも驚き。トウモロコシとか腸内細菌の存在の大きさとかね。こういうのはいくら知っていても楽しい。いつか役に立つ

あとがき。ここでまたマルクスや理神論が出るとは思わなかった



p30.カゲロウの仲間には成虫の口を退化させ、摂食機能を放棄したものいる。物を食べず、水も飲まず、幼虫時代に蓄えた脂肪などを消費し、1週間ほどで死んでいく。その間に為すべきことは繁殖。夏の夕方、彼らは池や川の畔で配偶者を求めて乱舞し、めでたく相方と巡り合った者は飛びながら空中で交尾する。「飛ぶ」という動作では、身体が軽いほど有利だ。個体の存続という観点からは摂食した方が有利なはずだけれど、彼らの身体はより軽くなるよう、生殖のチャンスを逃さないように最適化されている。カゲロウだけはなく、ホタルや蛾も成虫になってからはほとんど物を食べないと言われている。虫たちが、摂食を放棄してまで繁殖のための最適化をしている現象を目にすると、生物の最終的な目的が、いかにも自己複製つまり繁殖であるかのように思える

p35.「働く、働かない」は天性のもの(つまり遺伝)ではなかったのである。長谷川氏は、この観察結果について「パレートの法則」が「少なくともシワクシケアリの世界では実在する現象だった」と述べている

p36.同氏は、進化生物学者として、非常に興味深い、しかしきわめて大胆な仮定を述べている。それはこういうことである。「2割の遊軍を常に準備しておく」という仕組みは「いざ」というときには役立つだろうが、いつ「いざ」がやってくるかはわからない。すぐかもしれないし、遠い将来かもしれない

p37.読者は「ホモ・ルーデンス」という言葉を知っているはずである。1938年、オランダの歴史学者ヨハン・ホイジンガが同名の著書を出版し、今なお読み続けられている(邦訳は中公文庫)。「ルーデンス(ludens)」とは「遊ぶ」という意味だが、ルース(loose=いい加減、適当、緩い)と語源を同じくする。ホイジンガは、人間社会の法律や経済、生活様式といった仕組みの起源を辿ると、いずれも遊び(ゲーム)に行き着くと指摘した。遊びは人間以外の動物にも見られるけれど、人間はダントツに遊ぶ。だから「人間は遊ぶ存在である」と。日本の平安時代末期の歌謡集『梁塵秘抄』(後白河法皇編、1180年頃)にも「遊びをせんとや生まれけむ 戯れせんとや生まれけむ」と詠われている

p41.視覚が有利な形質で、それを持った生物が選ばれるのはわかる。しかし、水晶体だけが出来た生物はまだ資格を得てはいない。機能しないサブシステムは繁殖戦略にとって有利に働きようがない。それゆえサブシステムは全体が完成する前には自然選択の対象にはなりえない。ところが、生命現象ではこのような複合的システムがあらゆるところで成立している。これは一体どうしてだろうか。この疑問に対して、ダーウィニズムの「適者生存」という論理だけでは説明しきれない。生命現象や進化は、突然変異と自然選択の原理以外の何かによっても制御されているのではないだろうか

p44.私は、バッハの中でも、特にゴルドベルグ変奏曲が好きだ。グレン・グールドのピアノを聴いて以来、すっかりこの曲が最上のトランキライザーとなった。静謐に始まり、華麗に展開する。そして輝きが舞い、やがてまた静謐に還る

p52.突然変異はごく稀なことである。それが環境に対して有利な方向に起こるのはさらに稀なことで、むしろ放射線でDNAが損傷されてしまうような、破壊的方向に起こるほうが圧倒的に多い。にもかかわらず、生命の進化速度を見ると、突然変異の派生頻度よりもずっと早く生物が多様化しているように見える局面がある。その代表的な例が「カンブリア爆発」である。今から5億数千万年前の古生代カンブリア紀、突如として、今日見られる動物の門が出そろった。そればかりではなく、ウルトラQに出てきそうな奇妙な生物がたくさん出現した。なぜそんなことが起きたのかについては諸説あるのだが、酸素濃度が高まったのではないかと言われている。それによって、いろいろな生物が代謝エネルギーを多く得て、形状が多様化したのではないかと。実際、金魚を酸素濃度の高い水で飼育すると、驚くほど速く巨大化する。あるいは、視覚の獲得が変化を加速したという説もある。いずれにせよ、はっきり言えるのは、遺伝子上の突然変異の頻度だけでは、その多様化のスピード、量に説明がつかないことである

p57.それぞれの品種は遺伝子的にはほとんど違わない。毛の長さや色などをコントロールする遺伝子に違いがあるが、それはセントバーナードとチワワの違いを説明しきれるほどのものではないのである。つまり、犬種の多様性は遺伝子の違いだけから生じているのではなく、共通に有している遺伝子の動くタイミングや順番、ボリュームが異なるからではないか

p63.植物は違う。植物体を構成している細胞は受精卵でなくとも万能性を保存している。植物から分裂最中の細胞を一つだけ取り出してきて、シャーレの中で育てると細胞の塊ができる。その塊をさらに育てると、そこからニンジンならニンジン(植物としての)が、パセリならパセリがちゃんと現れる。これをもっと簡便に行ったのが挿し木。ちょっとした若い枝を土に挿せば、あるいは接ぎ木すれば、そこから立派なソメイヨシノが成長する。挿し木によってソメイヨシノは全国に急速に広まったのである。植物が、自分の体細胞に万能性を保持しているのは、自ら動くことができないという限定性のかわりに、自分の身体の一部からいつでも自分のコピーを再生できる能力を保存したという進化の帰結に他ならない。そもそもクローンという言葉自体「小枝」という語源を持つ。驚くべきことは、日本のほとんどすべてのソメイヨシノは、もともとたった1本のソメイヨシノに由来するらしいという事実である。北海道のソメイヨシノも九州のソメイヨシノも、DNAを分析してみると同じ特徴(DNA指数)を持つという。つまり日本のソメイヨシノはすべて同じ個体のクローンだということになる

p74.植物はどんな葉でも基本的な光合成の仕組みは同一なので、そのために豊富なタンパク質や糖質を含んでいる。だから分析的な目で見ると、栄養素組成としては大差がないはずである。しかし、蝶の幼虫たちはどんなにお腹が空いていても、自分の食性以外の葉には見向きもしない。違う葉っぱをそばにおいても餓死してしまう。硬くなまでに自らの食べるべきものを限定しているのである。それは、限りある資源をめぐって異なる種同士が無益な争いを避けるために、生態系が長い時間をかけて作り出したバランスである

p77.わざと仕組みをやわらかく、ゆるく作る。そして、エントロピー増大の法則が、その仕組みを破壊することに先回りして、自らをあえて壊す。壊しながら作り直す。この永遠の自転車操業によって、生命は、揺らぎながらも、なんとかその恒常性を保ちうる。壊すことによって、蓄積するエントロピーを捨てることができるからである

p85.多くの動物には必須アミノ酸があり、その種類は動物によって異なる。ネコはヒトの必須アミノ酸9種にタウリンを加えた10種、魚はアルギニンとタウリンを加えた11種である

p88.私たちはタンパク質自体においしさを感じることがない。あるいは高分子の炭水化物自体に甘みを感じることはない。タンパク質の分解産物であるアミノ酸にうま味を感じる。炭水化物の分解産物である糖に甘みを感じる。ついでに言えば核酸自体には味がなく、その分解産物であるヌクレオチドに味を感じる

p93.現在、地球上で最も多く存在している生物はトウモロコシである。人間は約70億人いて、1人の体重を50キロとすると3.5億トンくらいになるが、トウモロコシは毎年8億トンちかく収穫されている。2番目が小麦で約6億トン、3番目が米で約5億トンである。もし、宇宙人が地球を観察していたら、この星を支配しているのはトウモロコシという黄色い実のなる植物で、彼らはヒトに世話をさせて隆盛を極めていると思うだろう。現代人は実に幅広くトウモロコシを利用している。直接的な食材としてだけでなく、食用油脂やコーンシロップなどの加工食品や飲料にも使っているし、家畜の飼料としても大量に使っている

p97.激しいスポーツをすると、私たちは筋肉痛に襲われるが、これは筋肉中のアミノ酸が大量に消費されて生じた損傷の修復時に起こる

p101.ところが、人間はこのプロセスを入手した。人工的に空気中の窒素からアンモニアを合成し、肥料として使い始めたのである。化学肥料である。この方法はハーバーボッシュ法というのだが、20世紀最大の発明の一つとされている。かくして、微生物のみが可能だった窒素固定のプロセスは、現在、人間のコントロール下にある

p106.思い余った私は、虫を入れたビンを握りしめて上野にある国立科学博物館に行った。特にあてがあったわけではない。息せき切って入館してきた小学生に、入口の係員は親切だった。内線電話でしばらく誰かと話したあと「見てくれる人がいるので案内しましょう」と言って先に立って歩き始めた。私はそのとき初めて、博物館には一般の展示フロアとは別に「裏側」があり、そこでこまごまとした何事かを営んでいる人びとがいるという事実を知った。おそらくこれが私にとって「研究」というものの一端にかすかに触れた初体験だったのかもしれない

p127.腸内細菌の多くは消化管外へ取り出すと酸素に触れて死んでしまう(嫌気性細菌)ので、正確な数は誰にもわからないが、人間の細胞の数のおよそ2、3倍、つまり100兆から200兆個も存在していると推定されている。重さにして数キロ。つまり、私たちの体重のうち、かなりのパーセンテージはこの同居人たちによるわけである

p132.腸内細菌の種類は、ヒトが住んでいる地域ごとに違っているのだ。先頃『Science』という科学専門誌に掲載された論文によれば、日本人の消化管内には、海藻の成分を分解できる腸内細菌が存在するが、欧米人の腸内にそんな菌はいない。ちょっと考えてみれば、これは当然のことである。腸内細菌はその風土の食とともに私たちの消化管に定着し、時間をかけて風土に応じた共生関係を形成する。海藻をおいしく食べる私たちが、海藻の成分を分解できる能力を有した腸内細菌とともに暮らしていて何の不思議もない

p136.さて、この小さな大腸菌。驚くべきパワーを秘めている。それは環境の変化にとても強いということである。そしてほとんどすべての生物の中で、最も速く、最も盛んに増殖することができる

p144.ゲノムとは遺伝情報の格納庫、ミクロなハードディスクなのであり、その容量は大腸菌の場合、460MBなのである。ちなみにヒトのゲノムは3000MB=3GB。大腸菌よりはかなり大きいながら、10倍はなく6倍程度。つまり大腸菌が担っている情報の6倍程度あればヒトができてしまうのだ

p175.この実験で、彼女は脇の下に当てたパッドを排卵前のものと排卵後のものに分けていた。排卵前は卵胞期と言うのだが、この時のパッドを嗅いだ女性たちには排卵を遅くする効果が生じた。つまりマクリントックは「脇の下の臭い」に含まれるフェロモンには2種類あるという仮説を検証したのである

p183.廃墟と考えられていたヒトのヤコブソン器官は、ちゃんと細胞レベルで存在し、神経も伸びており、それは立派に機能している可能性が出てきた。つまり、ヒトは、普段あまり意識していないとはいえ、鼻とは別に特別な「匂い」を感じることができる――

p198.植物や下等生物の観察を続けたラマルクの認識は次のようなものだった。今日、私たちが知っている生物多様性は、宗教的な教えによれば、神が一斉に創ったものとされる。しかし、それは「進化」の産物である。単純な仕組みのものから長い長い年月を経て、徐々に複雑なものへと変化していったのだ――。現在、私たちは、この認識を当然のことと受け止めている。しかし、ラマルクが『動物哲学』(1809年)という著書で世に問うた時は、ほとんど認められることはなかった。なぜなら、すべての生物は神が一挙に創造したと固く信じられていたのだから。1829年、ラマルクは不遇と失意の中で死んだ。パリの自然史博物館付属植物園にラマルクの胸像がある。そこには晩年、目が見えなくなったラマルクの執筆を助けた娘コルネイユの言葉が刻まれている。「後世の人びとはあなたを讃え、あなたのために復習をしてくれるでしょう、お父さん」

p199.ラマルクの『動物哲学』が出版された1809年、イングランドで1人の男児が生まれた。チャールズ・ダーウィン。父方は医学者の家系、母方は陶器で著名なウェッジウッド家だった。だから、彼は裕福な名家の出なのである。しかし、少年時代のダーウィンは目から鼻に抜けるような秀才的な子どもではまったくなかったらしい。むしろ内向的なオタク少年だった。小さいもの、自然の些細なことばかりに気をとられた。だから、学校の先生からはポコ・クランテと呼ばれた。わき見ばかりで、大事なことは抜けている、というような意味のからかい言葉だった

p200.ダーウィンの転機は、ビーグル号に乗船したときに訪れた。時に22歳。航海の目的はイギリスの植民地政策のために調査と測量を行うことだった。船は南米、ガラパゴス諸島、オーストラリア、モーリシャス群島、アフリカなどを5年かけて巡った。ダーウィンは異なった地域の異なった生物をつぶさに観察した。ダーウィンが『種の起源』を著したのは、それから20年以上を経た後である。彼は自分のアイデアを温め、じっくりと育んでいたのだ。彼はラマルクを読み、生物の可変性について、ラマルクが先駆的な考えを述べたことをきちんと評価した。ダーウィンの進化論はそのうえに成り立つことになる

p203.ダーウィン進化論は、産業革命が起こり、ヨーロッパ諸国が争って版図を広げ、時代に適したものだけが生存できるというドグマが席巻した、激動の中で必然的に生まれた認識だった。まもなく同じロンドンで、カール・マルクスは『資本論』を書き上げた。彼は自筆でサインを入れ、ダーウィンに献本した。それに対してダーウィンは短い礼状を送っている。1883年3月に執り行われたマルクスの質素な葬儀で、マルクスの盟友エンゲルスはこう弔辞を述べた。「自然界ではダーウィンが生物進化の法則を発見したように、マルクスは人類史における進化の法則を発見した」 ダーウィンはその前年にこの世を去っていた。2つの思想が世界を席巻する20世紀が幕を開けようとしていた

p207.ヒトとチンパンジーのゲノムを比較すると98パーセント以上が相同で、ほとんど差がない。では、残りの2パーセント足らずの情報の中に、ヒトを特徴付ける特別な遺伝子があり、その有無がヒトをチンパンジーとは異なる独自の生物にしているのだろうか。おそらくそうではない。DNA情報におけるこの2パーセント足らずの差というのは、特別の遺伝子を持っているか、いないか、といった質的な差ではない

p211.脳だけではない。外見的な特徴を見ると同じ傾向があることに気づかされる。ヒトは、チンパンジーの幼いときに似ている。体毛が少なく、顔も扁平だ。生まれたばかりは無力で、そのあと長い育児期間が必要だ。数年で性成熟するチンパンジーに較べて、ヒトは第二次性徴を経て、生殖可能年齢に達するまでどんなに速くとも十数年を要する。つまり、チンパンジーが何らかの理由で、成熟のタイミングが遅れ、子ども時代が長く延長され、そして子どもの身体的な特徴を残したまま、性的にも成熟する。そのような変化があるとき、生じた。そして、それがヒトを作り出した。そのような仮説である。子どもの期間が長く、子どもの特徴を残したままゆっくりと性成熟することを生物学用語で「ネオテニー」と呼ぶ。そして、ネオテニーには外見が子どもっぽいということ以上に、進化上、意外な有利さがあった。子どもの期間が延びるというのは、それだけ、怖れを知らず、警戒心を解き、柔軟性に富み、好奇心に満ち、探索行動が長続きするということである。また試行錯誤や手先の器用さ、運動や行動のスキルを向上させる期間が長くなるということでもある

p213.このような仕組み、つまり遺伝子そのものではなく、遺伝子活性化のタイミングを制御する仕組みの受け渡し(世代を超えて、その様式が伝わるのであれば、これも遺伝と言ってよい)が最近、特に注目されてきている。それがエピジェネティックスである。それはいったいどのようなものだろう。一つには細胞由来の物質がある。受精の瞬間、DNAは精子由来のものと、卵子由来のものが合体して一つの新しいゲノムを作る。しかし次世代に受け渡されるのはDNAだけではない。そのDNAを包み込む、卵細胞にはさまざまな物質があらかじめ含まれていて、それは母から子へと遺伝する。この卵細胞の中には、マターナルRNAというものが準備されている。これは受精卵のゲノムからできたものではなく、あらかじめ卵細胞が形成される時すでに準備されている、母由来の遺伝子である

p251.人生に意味はあるのでしょうか。スピノザは考えました。人生は複雑で思いもよらないことが次々と起こる。しかし、そこにはまぎれもない摂理があるのではないか。摂理は、事象のおびただしい数と現象のあまりの複雑さゆえに、いつもはっきり見極めることができない。けれども摂理は厳然と存在する。あらゆることに原因があって結果がある。つまり摂理とは因果律のことである。かのアインシュタインもまた、その因果律を信じました。あるときアインシュタインは高名な宗教家からこう問われたのです。「あなたは神の存在を信じますか?」アインシュタインは答えました。「私は、スピノザの神を信じます。世界の秩序ある調和として現れている神を」



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