木暮太一「いまこそアダム・スミスの話をしよう 目指すべき幸福と道徳と経済学」マトマ出版

公開日: : 書評(書籍)



20120505184150

既存の評価にとらわれずに、原著にあたって解説してところ。しかもその解説がたいへんに平易であるところ。これがこの本の価値である。周辺の知識などの補充がなされているので、原著を読んだ身としても有益

著名人のおかしなクセというのは好きだ。アダム・スミスとか、最近ではフォン・ノイマンとか。これについては、こちらでも言及されていた。

竹中平蔵「経済古典は役に立つ」光文社新書 | hiog

賢人として、自分の身の丈に合った収入でとどめておき、神を信じていれば、平穏な人生が送れるという。そうしたい

能力を異質とすること、そして分業すること、それが市場で取引できること、価格は正常であること。簡単なようでいて、現代でもこれを徹底することはなかなか難しい



p17.「放浪癖があった」「独り言が絶えなかった」「突然、心がどこか別の世界に行ってしまうようだった」など「不思議」な一面があったようです。もちろんこれだけの功績を残している人物ですから、並はずれた思考力と分析力を持ち合わせた天才であることは間違いないでしょう。しかし日本語でも「馬鹿と天才は紙一重」といいますが、見る人によっては、とても頼りない人に見えたに違いありません。同時にとても意外な「欠点」も持ち合わせた人物だったのです

p23.スミスは『道徳感情論』の中で1回、『国富論』の中でも1回、「見えざる手」というフレーズを書いています。しかも、「神の見えざる手」ではなく、単に「見えざる手」と書いているのです。経済学を勉強したことがある方には、「スミス=『神の見えざる手』」です。しかしスミスは、『道徳感情論』『国富論』の中では、この言葉を2回しか使っていません

p39.人は自分の中に「偏りがない、善悪の判断基準」を持つ、「善悪のジャッジ(裁判官)」を持つのです。自分の中に、自分の人格とは別の「裁判官」「評価者」を作って、その「裁判官」の顔色をうかがいながら、自分の行いが賛同されるべきものなのか、非難されるべきものなのかを判断して行動するというわけです。スミスはこの「裁判官」を「公正な観察者」とも呼びました。わたしたちの行動を、公正な目で観察し是非を判断する「公正な観察者」なのです

p59.スミスは、「自分の中の裁判官」からの評価を重視する人を「賢人」、「社会からの評価」を重視する人を「軽薄な人」と考えました

p66.「世間がプロセスより結果を重視する」という理由は、2つあります。ひとつめの理由は、「周りの人びとには、プロセスが見えないから」です。みなさんがどれだけ準備してきたかは知りません。また、「かなり高い確率でヒットになるはずだった」かどうかも判断できません。だからプロセスを評価したくても、評価できないのです。これはある意味仕方がないことです。ふたつ目の理由は、「そうはいっても、結果が大事」ということです

p78.人間に「義務の感覚に従わなければいけない」「それに従うのが『絶対的な善』」と考えさせるのは、「宗教」しかない。それがスミスの考えでした。もはや人間の意志では制御しきれない、神への信仰心をもつことで、人は「義務の感覚」を持つことができると考えていたのです

p79.本書の冒頭で、「『見えざる手』の持ち主は『神』」と書きました。スミスは「見えざる手」とだけ表記し、「神の」とは表現していません。しかし、人間社会が秩序を保っているのは、神の存在があるからなのです。神を信じることで、人間社会が「自然と」うまく機能していくのです。だから「神の見えざる手」なのです

p80.一般的には『国富論』において、「スミスは『利己心に従って各自が自由勝手に経済取引をした方がいい!』と主張した」と考えられています。しかし、そうではありません。たしかに自由な経済活動をうたっていますが、それはあくまでも「義務の感覚で制御したうえで」です。「自由勝手に何でもしていい」ということは、スミスは一言も言っていません。むしろ反対で、「全体の利益を阻害するような個人の利益追求は規制されるべき」と明言しています。また「社会に対する影響が大きい分野は規制の対象になってしかるべき」とも言っているのです

p83.「心の平静」という言葉はとても重要です。一言で言ってしまうと、「義務の感覚」を強く持ち、「自分の中の裁判官」に従って生きれば、その見返りとして「心の平静」を得ることができる。これこそがスミスが最も言いたかったことでした。また「心の平静」は、スミスの理論の結論に関わる大切な言葉です

p98.重商主義とは、スミスが生きていた時代に採用されていた経済政策の考え方の一つです。フランスでは当時財務総監(現代の財務大臣)だったジャン・バティスト・コルベールの名前をとって「コルベール主義」とも呼ばれています。名前からして商売重視・自由取引の政策かなと感じるかもしれませんが、全く逆の政策です。重商主義は、外国から国内に貴金属を集め、「お金持ち」になるための政策です。そのため、「もっと売って、もっと金銀を集めなさい」と、外国への輸出が奨励されました。一方で、輸入は、極度に制限されました。というのは、モノを購入すれば、外国にお金(金銀)を支払わなければいけないからです。輸入品に対しては、高い関税がかけられたり、そもそも輸入を禁止したり。そうすることで、国内にお金を貯めようとしたわけです。そして、そうすることで、国が豊かになると考えられていたわけです

p103.スミスが生きた時代では、国内の生産者が自分たちの利益を守るような「カルテル」を結び、談合していたのです。また供給量が増えないように、「弟子は同時に2人以上取ってはいけない」「馬車を造る職人は、その車輪を自分で製造してはいけない」などバカバカしいルールが作られていました。さらに、当時のヨーロッパでは、弟子の修行期間は慣習的に7年と決められていたようです。つまり、その長い修行期間を経なければ独立して生産活動をできなかったわけです。輸入品は高い関税をかけられているので、国内の生産者たちは安心して供給量を減らすことができ、その分値段を釣り上げて「ぼったくり」ができたのです

p106.ケネーは農村の立て直しを計るために、農産物価格を正常に戻すべきと説いたのです。ケネーは、「○○の妥当な価格はいくら」と提示したわけではなく、自由競争と自由貿易を提唱しました。「自由に取引されれば、『正常な価格』になる」と考えたわけです。自由貿易、自由取引はスミスが最初に唱えたようなイメージが強いのですが、スミスの前に、ケネーも同じようなことを主張していたのです

p122.経済が発展した結果、富める者がますます裕福になる「格差社会」ができてしまうこともスミスは認めていました。しかし、だからといって富が増えなくていいのでしょうか? 格差ができても貧困が救われる社会と、みんなで貧乏な状態にいる社会とどちらがいいでしょう?

p128.分業が成立するためには、「商品を交換する市場」が存在していなければいけないのです。「交換できる場があること」が、分業の前提条件になるのです。いつでも自分がほしいものが妥当な値段で手に入るとみんなが感じていれば、「だったら一人で全部作る必要はない」と考えます。「分業」するための前提条件が整うのです。これがスミスの理論の根底にある考え方でした

p156.賢人は必要以上の富は追求しません。結果として、賢人は経済発展の原動力にはならないのです。反対に軽薄な人は、世間からの同感・称賛を得たいがために富を追求します。それが経済発展の原動力になるとスミスは考えたのでした

p176.たしかにスミスは一方で、必要以上の富の追求に対して軽蔑的な見方をしています。そして、「たいていの金持ちにとっては、富の主な楽しみは、その富を誇示することにある」と、かなり厳しい言い方で非難しています。ところが、そんな軽蔑すべき「富の争奪戦」を、スミスは「肯定」しています。なぜなら「その結果一般大衆が救われるから」です

p191.単に経済発展をすればいい、利益を稼げばいいのではなく、道徳的に正しい競争しか認めていなかったのです

p202.スミスが政府の役割として考えたのは、大きく分けて3つあります。①「国防」、②「司法・警察」、③「公共事業(インフラ整備)・教育」です

p208.スミスは、「分業の弊害」を認識していました。分業が進んだ結果、個人の想像性・創造性が弱くなります

p211.スミスはイギリスとスコットランドの状況を比較して、スコットランドの子供たちの方が、読み書きができるといっています。そしてその理由を、教育費用が安いことと合わせて、「分業が社会的に進んでおらず、その時期の子供たちが就労できないため」としています。分業が進むと、子どもが働けるようになってしまい、貧しい家庭では重要な稼ぎ手となってしまうため、教育がないがしろにされてしまうわけです。スミスはそれを問題視したのでした

p254.「経済発展の本当の目的は、人が心穏やかに生きられるようになること」これが250年前に生きたアダム・スミスから、わたしたちが受け取るべき最重要のメッセージではないでしょうか?「新興国に負けないために」「会社の業績を良くするために」「これで来年のボーナスが増えるから」 経済発展を「絶対的な善」と思わせるようなフレーズは非常に多いです。ただし、経済が発展すれば、人間はもっと幸せになる、という盲目的な前提があります。「経済発展の意味」は自分で見出さなければいけません。しかしそのためには、「心穏やかに暮らすようになることが人間の幸せ」というスミスの考えを深く理解する必要があるのです

p261.人は、自分と他人を比べたがる生き物です。自分と他人を比べて、できるだ「同質」であろうとし、反対に「異質なもの」を拒否する傾向があります。特に日本人に強い感覚かもしれません。ところが、スミスは、同質であることは意味がない、異質だからこそ意味があると考えていました。スミスは、これを精神論ではなく、社会の中の役割という視点から説明しています。こういう理屈です。人間社会と経済が発展するためには、分業が不可欠です。分業できるからこそ、生産性が高まり、国民に行き渡るまでに富を作り出すことができるのです。ところが、人が分業をするためには、個々人の能力や「向き・不向き」が異なっている方が都合がよいのです。人それぞれ、得意分野・不得意分野が異なるからこそ、自分に合った仕事を選ぶことができる、ということです



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