富増章成「深夜の赤信号は渡ってもいいか?」さくら舎

公開日: : 書評(書籍)



20120919014333





深夜の赤信号を渡るべきか、というタイトルの質問にどう答えていたか。この本をかなり昔に読んだので忘れてしまった。下のとおり、関係のあるメモがないのだから、大した内容ではなかったのだろう

でも、おそらく、この本を手に取ったのは、このタイトルのせいだ。自分はいつもそうするたびに、「車が通っていない赤信号を渡る」ことについてつまらない堂々巡りを頭のなかでおこなっていたりする
1. 渡らない。赤信号は渡らないよう法規で決まっているから
2. 渡る。信号にかかわらず、自分が渡っても困る人がおらず、影響がないから
3. 渡る。同様に渡っている他人がいるから
4. 渡らない。それでも渡らない人がいるから
5. 渡らない。人が見ているから。人が見ていなければ渡る。
6. 渡らない。人が見ていなくても渡らない。神様が見てる。
7. 渡るときは特別なとき。その時の意外性のために、普段はどのようなときでも渡らない

こんな感じで考えるほどに階層が増えていって、それはそれで楽しかったりする

たしか、スパイが7.の思考だった。この人ならいつもこうするはずというパターンを周囲の人に認識させており、普通はそれと異なる行為はしないが、ここぞというときにはその禁を断行することで主意を遂げようとする

昔、バスで荒川を渡るときのこと。あれは扇大橋だから、尾久橋通りを走るバスのなかでのことだ。大橋との名のとおり、橋も大きければ越えようとする川も大きい。そこで、同乗していた幼稚園くらいの小さな子が、両岸の見えない荒川を見て、「あ、海だ」と言った。すぐに、お母さんから、これは川だと教えられていたが、得心はしていないようだった



p32.トラシュマコスという人物は、ソクラテスを相手に「不正」を讃える議論を展開しています(「不正」を讃えているんですよ!) 彼によれば、「正義とは強者の利益」であるとされます。「正義」とは人々の合意によってたてられたノモスにすぎず、ピュシスにおいては、人はつねに「不正」を望んでいます。人は正義それ自体を進んでおこなおうとしません。でも、強者から何かを奪われることは避けたいと思って、損得勘定からしかたなしに法にしたがっているにすぎないというのです。できれば、法などないほうがいいのだけれど、それだと自分の不利益になるから法にしたがっている。どことなく説得力があります。彼はさらに、もし「ギュゲスの指輪(透明人間になれる指輪)」によって人間の本性が開放されたらどうなるかというたとえを示します。あなたがもし、透明人間になれる指輪を手に入れたらどうしますか? 法とは無関係なので、心の本性にしたがって悪事の限りをつくしますか? それとも、心の別な本性(ソクラテスが説くような真実)にしたがって、誰も見ていなくてもやっぱり法を守りますか? トラシュマコスは、「ギュゲスの指輪」をもった人間はつねに不正を求めるだろうと説いているのです

p51.一部の伝説による「エピクロスは美食のために一日に二度嘔吐していた」というエピソードは、あまり信憑性はないといわれています。むしろ、エピクロスは「パンと水さえあれば、ゼウスと幸福を競ってみせる」と豪語したそうです(言い伝えがまったく正反対ですが)。現在残っている資料から考えると、後者のほうが正しいとされています

p87.ロックによれば、私たちの知識は観念からなります。観念は、見たり触ったりという経験から生じます。犬の観念、木の観念、海の観念などなんでもいいのですが、これらはゼロから突然生じるわけではありません。すべて経験によるものでしょう。ロックは素直に、私たちが生まれたときの心は何も書かれていない白紙、あるいは、何も書かれていないタブレット(タブラ・ラサ)であって、これに観念を与えるのは経験だけであると考えました(「感覚の内になかったものは、知性の内にない」)

p92.ロックは、労働することにより自己所有権が発生すると考えます。誰の所有物でもない土地を耕すと、その耕したという労働が混ざることによって所有権が発生します。労働の成果はその労働をおこなった人に帰属するというこの考え方が、現代までどんどんパワーアップすると、「リバタリアニズム」(自由至上主義)へとつながっていきます

p98.ヒュームは、人間の心にあらわれるすべての知覚は「印象(impression)」と「観念(idea)」とに分けられるといいます。その差は何かというと、単に生き生きしているかしていないかの違いです。「印象」はリアリティが強く、「観念」は鮮明さがないという感じです。ミカンを食べているときのリアル感が「印象」で、ミカンを食べたなぁと浮かんでくるのが「観念」です。「印象」は記憶と想像によって「観念」となります

p121.この考え方では、すべての現象は正しいものに向かっていく通過点であることになります。人類の歴史もミスだらけですが、そのおかげで前に進んでいけるのであって、最終的には正しいあり方にゴールインできるということです。カントは、道徳的な命令が固定的なものだと考えたのですが、ヘーゲルは時と場合で状況が変わっていき、だんだんと共同体のなかで合意が得られるような道徳が実現していくと考えました

p144.ロックの認識論では、人間は生まれつき白紙(タブラ・ラサ)であると主張されていましたが、生まれつき白紙であることは平等につながります。これはホッブズの、人間は同じ機械だから平等であるという考えに通じるところでもあるでしょう。このようにロックは、人間が政府を設けた理由は、人間の生命・自由・財産の保障にあることを理論化しました。これは今日の基本的人権思想の原理の基となっています

p155.ミルはベンサムの量的功利主義に対して、「満足した豚であるよりも、不満足な人間のほうが良い。満足した愚者であるよりも、不満足なソクラテスのほうがよい」(『功利主義論』)と表現し、「質的功利主義」を唱えました。豚として生きる快よりも、苦しくても人間として生きる快のほうが質的に高いというわけです。功利主義は結果による効用を重視する思想(帰結主義)ですが、その効用の内容についても深さが求められました。また、ミルによると、個人の幸福(快楽)と社会の幸福(快楽)はかならずしも一致するとは限りません。その場合、人間は利己心を克己心によって抑制しつつ、社会一般の幸福のために個人の幸福を犠牲にしなければならないと考えました。ベンサムが外的制裁を重視したのに対して、ミルは内的制裁、すなわち良心・共感の感情を重んじました





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