石川知裕「雑巾がけ 小沢一郎という試練」新潮新書

公開日: : 書評(書籍), 有罪判決



20121205232517





面白い。政治が好きだから。小沢一郎が好きだから。有罪判決を受けたり、それで収監された人の著作が好きだから。おまけに鈴木宗男のエピソードもあるし。そうでなければ、面白いとは感じないと思う

こういう不思議な有力政治家の素顔を知るのが面白い。ぶれることがないのが良い

親近感も感じる。手帳を持たないようにして、安易なアポ入れを避けるとか、一対一の場合でなければ討論は受けないとか、すごくよく分かる。

かといって、いまの彼やその所属する党に投票する気にはなれない。政権を取れる期待が含まれないと国政選挙の投票にまでは結びつかないように思う。小選挙区制なら二大政党制が馴染むのであり、その場合には基本的には政権交代の効果を狙って、野党第一党に投票するのではないかと思う



p15.検察の言う通り、5000万円の裏金を本当に貰っていればどれだけ余裕があったらどうと思う。こうした事情を話すと、あたかも私が小沢さんに対して不満を持っているように思われるかもしれない。実際、もう15年以上の付き合いになり、文字通り寝食を共にした時期もあるのだが、今振り返ってみても、小沢さんとの心温まるエピソードというものがなかなか思い出せない。だからと言って、小沢さんへの不満を言いたいとは思わない。確かに「苦労をかけたな」の一言くらいはあってもいいとは思うが、無くても何の不思議もないからだ

p21.雄弁会と松下政経塾にはちょっと重なるところがあるような気がする。確かに今の政界では、松下政経塾のOBが実際に活躍し、動かす時代になっている。それぞれ立派な方々だとは思う。しかし、生意気を承知で言えば、何か足りないものがあるようにも感じるのである。雄弁会の代わりに私が入会したのが、政治系サークルの鵬志会だった。雄弁会を頭脳は、理論重視系とするならば、こちらは身体派、体育会系

p31.私はこの部屋での生活で、生まれて初めて手にびっしりとアカギレができる経験をした。指の節という節が切れてしまったのだ。実は故郷の北海道は、外は寒くても家の中はどこもとても暖かい。大げさではなく、世田谷の書生部屋の冬のほうがはるかに厳しい。くどいようだが時は90年代、平成日本の話である。小沢さんの言い分は「俺の頃にはエアコンなんてなかった」というものなのだが、理屈にもなっていない。理不尽極まりないのである

p33.後で先輩たちに聞いて知ったのは、「酒を呑んだ後は電話をかけない」という小沢ルールの存在だった。酒を呑んだ後は政治判断を間違う怖れがある。だから、”どうしても”という緊急時以外には電話をしない。このルールは今でも守っているはずで、重要な局面では遅くまで酒を呑まずに我慢していると思う。問題は、そういう親切解説は本人から一切なされないところである

p34.ともかく怒っている時には、ひたすら怖かった。よく風圧を感じるというが、小沢さんには確かにオーラのようなものがある。私が間近に見て同じ様に風圧を感じた人物は、他には竹下登元首相と中曽根康弘元首相くらいだろう。ただ、後でわかったのは怒鳴っている時はまだいいほうで、本当に怒っていると無言になって返事もしなくなるということだった。手で払うような仕草をするだけだ。あえていいところを言えば、手を上げるようなことがないのと、女性には優しいということくらいだろう

p39.自分が手帳を持たないようにしておけば、「とりあえず後で秘書に確認させます」と言って、その後の対応を考えることができる。こうした理由から小沢事務所では本人であろうがベテラン秘書であろうが、スケジュールについては即答しないというのが原則であった

p41.朝7時頃になると小沢さんが愛犬の散歩にでかける。書生はチビという名の柴犬を連れて30分ほど一緒に歩く。このとき我々と小沢さんの間で何かコミュニケーションがあるわけではない。こういう時に、仕事や人生について教えてくれた、といったエピソードを披露できるといいのだが、そんな場面はまったくなかった。基本的にはずっと無言である。そして時々、「お前、あれどうしたんだ」と言ってくる。大抵の場合、「あれ」では何のことだかさっぱりわからない

p43.「今の若い奴は工夫をしない。壊れたら何でも買えば済むと思っている」こうした言動から感じるのは「執着」である

p50.スタイルは変わらない。メディアへの対応に関しても同じだった。党の勢いが失われれば、テレビ出演の依頼も目に見えて減る。しかし、それでも旧来からの自分のルールは変えなかった。「多数のコメンテーターや大勢の政治家と議論するようなものには出ない」「政治家相手でも一対一ならばいい」「勝手な編集をするものは不可」等々。ただし、こうしたルールさえクリアして、しかも選挙にプラスになると考えれば柔軟に対応する。一時期、小沢さんがロボットと闘ったり、殴られたりする斬新なCMが話題になったことがあった。傍目には大胆な路線転向のようだが、本人としてはルールに抵触しておらず、効果があるのならやる、という考え方のようである

p55.私が逮捕された後に、彼女からホームページ経由でメールが届いたのだ。そこには「あの時は本当に失礼なことをしてごめんなさい。私も就職したばかりで余裕がなかったので……」といったことが書かれていた。「これはひょっとしたらまだ可能性があるのでは」と思って返事を送ったところ(家内に出会う前である)、「いま3歳の子供がいます。こういう子供のためにも政治家として頑張ってください」と返ってきた。こうしてまた悲しい想い出を増やす結果になってしまったのである

p67.祝電ならば、相手の業界のことも調べて、そういう情報を少しでも文面に反映させるようにしなくてはならない。定型の文章だけでは手抜きがすぐに伝わる。弔電のほうは、地元紙の訃報を毎日チェックして全部書き出して出す

p71.まず、必ず呼んでくださった人の名前を出さなくてはならない。「今日は○○さんのご尽力で開かれたこんな素晴らしい会に呼んでいただいてありがとうございます」というふうに話さなくてはいけないのだ。単に技術論を述べているのではない。実際、私を呼んで反発を食らう可能性もあるのに声をかけてくださっているのだから、人として感謝の気持ちは持つべきなのだ。そして、その気持ちはきちんと口に出して表現しなくてはならない。余談ながら、後になって知遇を得ていろいろ教わった鈴木宗男さんは、こういう場でのスピーチの名人だと思う。一緒に来賓席に並んで座っていると、私に「おい石川さん、あの人どういう方だ?」と言って、前列の中心にいる女性のことを聞いてくる。さっきまで私が会場で話をしていた相手なので、鈴木さんは「誰かはよくわからないが重要な人物に違いない」と認識したのだろう。そこで、私は「あの方はBさんの奥さんですよ」と教えた。さて、来賓挨拶では目上の鈴木さんが私よりも先に壇上に上がることになる。すると、鈴木さんは「えー、Bさんの奥様のご尽力でこういう素晴らしい会が……」と話し始めるのだ。さっきまで名前も知らなかった人について話しているとは誰も思わないくらい、堂々と。このへんが百戦錬磨で本当に上手い。高速道路の開通や公共事業による箱物の記念式典などの挨拶でも、鈴木さんの作法は随分勉強になった。挨拶の中に、現役の政治家、首長の名前を織り込む程度のことは誰でもするだろう。しかし実際にその事業を誘致したのは、先代や先々代の首長だということも珍しくない。鈴木さんは挨拶の際に必ず歴代の貢献者の名前を織り込む。それだけではなく、名前を呼んだ際に「ちょっとお立ちください」と言って目の前で立って貰って、参列者から見えるようにしたうえで紹介をする。もちろん、全員について憶えているはずがない。移動の車中等で直前まで鈴木さんが名刺入れや名簿を見ている姿を見たことがある。こういう努力があってこそ、いろいろな伝説を作っているのだな、とつくづく感心したものだ

p78.いかにも文句を言ってきそうな人にも事前に情報を与えておく必要がある。「事前に聞いていない」というだけでクレームは激しくなるからである。逆に言えば、同じ内容であっても「貴方にだけ先にお伝えしておきますが……」とやっておくだけで、その後のスムーズさがまったく変わってくることがあるのだ

p81.縁の押し売りはいけないけれども、どんなに薄い縁といえども存在している限りは大切にしたいと考えている

p89.「お母さん、イチロー選手のことはご存知ですね。あれほどの才能の持ち主ですら、土井監督の時代には不遇でほとんど二軍生活を送らされていました。彼の才能が開花するのは、仰木監督になってからです。やはり誰が上にいるかで変わってきます。ご子息もきっと素晴らしい才能をお持ちなんだと思います。でも、うちの事務所ではせっかくの才能が開花しないのかもしれませんね」こうお話しすると、お母さんは納得したようで、彼には円満に事務所から身を引いていただくこととなった。これは彼の人生にとっても良かったと思う

p90.実のところ、向き不向きというのはなかなかすぐには分からないものである。秘書としてはあまり向いていないように思われても、政治家になると才能を発揮するというパターンも何度か見ている

p91.「うーん、なるほど……。じゃあ今度はこの『株式会社』が先についている会社も五十音順に整理してくれるかな」と指示するにとどめておいた。わからないものだと思うのは、何とこの彼はその後、百万都市の市議会議員に身を転じて、結構立派に働いているのである

p141.浪人中、良い経験をさせてもらったと今でも思うのは、体験実習だ。これも、他の当選者の行動をヒントに実践した。地元のさまざまな仕事をしているところに、頼んで無償で数日間体験をさせてもらうのだ

p144.議員になると世界が一変する。仕方がないことなのだけれども、役所の対応ひとつとっても露骨に低姿勢になってくる。驚いたのは飛行機に乗ったときに、わざわざ「石川様、ありがとうございます」と客室乗務員が言いに来たことだった。小沢さんに同行している時にも、「小沢様、ありがとうございます」という挨拶は常に目にしていたのだが、それは相手が小沢一郎だからだと思っていた。しかしそうではなく、たとえ私のような1回生にも、国会議員にはわざわざ挨拶をする決まりがあるようなのだ

p170.それ以降、その先輩に何か諮る時には一対一で話すことを避けるようにした。できるだけ多くの人がいるところで、皆に聞こえるように話す。すると、その人が適当な事を言っても、周囲の人が「それ違うよ」と修正してくれるからだ。こういう責任を取ってくれない人、いい加減な人というのはどこにでもいる。経験もないのに適当な事を言い、そのくせ責任も取らない

p176.小沢さんは演説などでよく映画『山猫』の台詞を引用していた。「変わらずに生き残るためには、変わらなければならない」特に、民主党代表選の演説で引用したときは、「小沢が変わろうという決意を述べた」と話題になった。この台詞、確かに映画の中に登場するものの、小沢さんの解釈というか使い方は、実は間違っている。小沢さんは年老いた貴族が、「変わらなければ生き残れない」と語った、という風に話しているのだが、そうではない。若者が年老いた貴族に対して、「変わらねばならない」と説く際の台詞なのだ。演説の時にも、このことを「おかしい」と指摘している人もいた。それが「おかしい」ことは、私も知っていた

p179.阪神淡路大震災の際に指揮官を務めた自衛官の方に話を聞いたことがある。その方は「どんな非常時であっても睡眠時間だけは確保しなければならない」と仰っていた。小沢さんの予定がびっしりだと書いたが、一方で実は常に「抜き」の時間は確保していた。よほどのことがない限り、正午から午後2時までは食事も兼ねて昼休みの時間を取らねばならなかった。また、月に1回は碁の先生について習う時間を確保するようにしていた。頭をリフレッシュさせる時間が必要だからである

p181.読書することの意味をいつも実感させてくれるのが、元外務官僚の佐藤優さんだ。たとえば、TPPについて話をしていると、「日本語ってのは、最大の非関税障壁なんですよ」と意表を突いてこられる。そこから、さらに山本有三がローマ字表記を推進した話へと飛んで行き……という按配に、話がどんどん膨らんでいくのだ。圧倒的な読書量が背景にあり、しかもさまざまな情報の入った引き出しを開ける訓練を常にしているから、可能になることなのだろう。これはネットなどを用いた付け焼き刃の勉強ではできる芸当ではない。本物の教養とはこういうものだ、といつも感服する

p187.よく、「金の力」「ポストの力」が小沢さんの力のすべてであるかのような解説をする人がいるが、それだけでは「無役」になり、お金の配分もしていない、そして完全に「悪役」となった今でも「チルドレン」が多いことの説明にはならないのではないか

p190.洗脳されたMなのかもしれない。ただ私自身は、こう言いたい。私はいまだ雑巾がけの最中なのだと。何のための雑巾がけか。政治家としてはもちろん国や地域をよくする力をつけるためである。そしてその力を身につけるには、もっとも身近にいる「力」についてもっと知りたいという気持ちがある。だから私は彼の下で雑巾がけをしてきた。代議士となった後も、その最中のような気もする





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