早野透「田中角栄 戦後日本の悲しき自画像」中公新書

公開日: : 書評(書籍), 有罪判決



20130405231712





これを読んだのは田中真紀子が落選したのがキッカケかもしれない。でも、もともと田中角栄とか小沢一郎とか、そういうタイプは人物として好きなんだ

田中角栄が議員立法をよく使ったという一事をもって十分に立派な国会議員。政府提案ばかりで、そのため対象が重複する立法が所轄の官庁ごとに3つくらいあって、それをまとめるためにまた立法が行われる、などというような事態はおかしい

地盤のこと、女のこと、中国のこと、政敵のこと、ロッキードのこと、など、この本だけでは表層をなでるだけ。とても本質には辿り着かない。が、読み物としては非常におもしろい

特に、文藝春秋のときの外人記者と日本人記者の話が印象的。権力に対して、外国人記者が追及すると日本人記者も追及を開始する。性格悪い、だけでなく報道の本質を違えている



p39.角栄の人間性をまるごと把握することによって田中角栄の政治を検証しようとするならば、「角栄と女性」はやはり重要なファクターである。そこに現れているのは、田中角栄という人物の類い稀な愛情量の大きさというべきか。それは一ファクターというより角栄政治の本質にかかわるかもしれない。わたしがのちに角栄とある程度、機微に触れる話ができるようになった頃、角栄にとっての「女性」と聞いた。角栄はしみじみとして「男によって女は砥石だ」と語った

p66.戦時中、「児玉機関」をつくって、上海で海軍の物資調達にあたっていた児玉は、金の延べ棒、ダイヤモンドなどの財産をそっくり日本に持ち帰り、退任前の海相米内光政に返却を申し出た。その米内からは「もう海軍はなくなった。国のためになることに使ってくれ」という返事を得ていた。児玉は、辻から「鳩山は軍部にもへつらわなかった。この男をおいて政党の再建はない」と聞かされた鳩山に会った。児玉が「条件はただひとつ。ぜったい天皇制を護持してください」と言うと、鳩山は涙ながらに受け取った。児玉の提供財産はいくらぐらいに相当したのか、これを河野が使いまくって自由党の組織づくりをした

p107.角栄は国会答弁を一手に引き受け、旧憲法感覚のままに「今度は米軍基地を結ぶ道路を作るのでは?」とかんぐる野党質問に「全然考慮に入れていません」と答えた

p110.国土開発、住宅、道路。角栄は、自らも土建業者だったし、のちには土建業者からピンハネして大いに資金源にもしたが、かといって始めからこれらを「開発利権」「道路利権」の意図だったと言い捨てるわけにはいかない。角栄の「無名の10年」は確かに「生活デモクラシー」だった。角栄の議員立法は、民主主義そのものだった。1957年12月から角栄の秘書になってこの頃の角栄の活動を知る、のちの「越山会の女王」佐藤昭は『私の田中角栄日記』に書いている。「後の話になるが、田中は若い議員連中が来るたびに、[中略]君たちは立法府の議員なのだから議員立法をしなさいとすすめた。[中略]「やり方がわからなければ、俺の持ってる知恵を全部貸してやる」そう何回も言ったけれど、「いやあ、オヤジさんは天才だからできるけど、俺たちはそんな力がない。選挙区通いをして、落選しないように運動するのが先決です」と言うばかりで、誰も本気で取り組もうとしなかった。結局、国会議員が議員立法に取り組まなくなったことが、政治家を怠惰にし、自らを選挙屋に貶めてしまったのだ」

p146.後年、角栄がロッキード事件でマスコミの激しい攻撃にさらされると、「10人も兄弟がいれば、一人ぐらいは共産党もいるさ。記者には記者の仕事があるんだ。それでめしを食っているんだからそれでいいよ。日本という国は同族社会さ」というせりふをよく口にした。「説得の才気」は単に駆け引き上手というだけではない、ある種の共同体思想がそこに伏在していた

p150.自民党の派閥体質、政官業の癒着体質、すべては角栄を淵源としている。それを一点突破しようというのが「郵政民営化」である。小泉純一郎首相は2005年、郵政民営化法案を出して成立を図った。わたしは小泉が首相になる前、小泉に聞いた。小泉がしきりに主張する「構造改革ってなに?」と。そのとき小泉はこう答えた。「構造っていうのは、田中角栄がつくった政治構造のことだよ。郵政だって道路だって100年の体制がある。それを田中角栄が利益を吸い上げる仕組みに仕上げた。医療年金制度だって田中角栄がつくった仕組みだ。それを変えるんだ」

p166.大臣になると、省の各局の所管事項のご進講がへたすると二週間におよぶ。だが、角栄は「いますぐ必要でないものまで聞いておれん」と拒んだ。「僕は本をななめに読む主義だ。一冊の本ぐらい十分もあれば、何が書いてあるぐらいわかる」というようなことを言って、ガリオア・エロア債務返済問題の国会審議に臨んだ。ところが、角栄の見立てでは110万語もあるかと思われる膨大な答弁資料を池田首相は読めという。角栄は10ページほど読んで、これはだめだと思った。「外務省と大蔵省の理屈が重なり合って複雑多岐な答弁資料になってしまった。これをう呑みにすれば迷路から出られなくなる。新しい立論をした方が得策だと私は思った」とのちに『大臣日記』に書いている。というわけで、財務六法一冊を手に持って衆参両院の審議を乗り切ってしまった

p177.毎朝、英字紙を読みこなす国際通、頭脳明敏なリベラル、経済に強いといわれた宮澤を「彼は日米間の英語の通訳にすぎない。政治家ではない」と角栄がからかうゆえんである

p177.不思議なことに、権力者角栄の秘密として週刊誌や写真誌に追い回された彼女たちは、角栄の死後、いずれも詳細な回想記を出版している。それどころか、彼女たちの息子や娘、つまり角栄の子もまた、角栄にかわいがられた体験記を次々と出版した

p188.角栄がことのほか感動したのが『心の旅路』だったと昭は書いている。角栄がレイナーで、昭がポーラということだろうか、角栄はこの映画を繰り返し見て「俺には、お前が必要なんだ」と何度も言ったと昭は書いている

p195.奥島は幹事長で「ワーストワンは? と聞かれれば、私は躊躇なくこの人物を挙げる。小沢一郎である」と明記している。よくよくのことがあったのか、小沢は角栄が亡くした長男正法と同い年で、角栄から可愛がられた一番弟子と言われたりしたものだったが

p225.角栄は小長に「総理に電話をつなげ」と指示、電話口で「繊維交渉の解決はこれしかない。2000億を納得してくれ」と説いた。次は水田三喜男蔵相に電話、「総理も了承しているから、2000億を出してくれ」とふっかけた。ここからが角栄のすごいところと小長が感じたのは、「おい、おれの名刺を」と言い出し、裏に「2000億円よろしく頼む」と書いて大蔵省の主計官に届けさせたことである。「こんなふうにすれば官僚は動くということをよく知っているんですねえ」。小長の角栄思い出話の十八番である

p232.佐藤は会見の冒頭、こう述べた。「テレビカメラはどこかね。新聞記者の諸君とは話さないことにしているんだ。ぼくは国民に直接話したい。新聞になると、文字になると、違うからね。偏向的な新聞は大嫌いなんだ。帰ってください」。記者団は憤然として会見場を去る。佐藤はひとりでテレビカメラに向かって演説した。栄作独り舞台は、テレビが政治を動かす「テレビ政治」の幕開けだったのかもしれない

p241.北京政府のほうも「中ソ対立」が深刻化するなかで、アメリカや日本との接近の必要に迫られていた。佐藤政権のあとは福田なのか角栄なのか。角栄の国会答弁での「ご迷惑とおわび」のサインを北京政府が見逃すはずはない。「角栄首相」なら話がわかるかもしれないと、角栄なる人物の取材を始めた。秘書早坂茂三が「田中は暑がりで室内の適温は摂氏17度」「好物は台湾バナナと木村屋のアンパン、味噌汁は柏崎の「西牧」という老舗の三年味噌」などと話すと、中国側は田中訪中の際にそれを「完璧に実行した」ので驚いた

p245.「周恩来は色をなして怒った。それは元寇のことか、あれはわが国ではない、蒙古だぞと言う。そこで私は引き下がらない。1000年の昔、中国福建省から九州に攻めてきたではないか、そのときも台風で失敗したと言い返したら、周恩来は、たいしたもんだ、あんたよく勉強してきましたねと鉾を収めた。首脳会談というのは、そういうものだよ」 角栄は、粗雑というべきか言い過ぎというべきか、史実や事実と確認できないこともわりと平気で口に出して論議を煙に巻くところがある。周恩来との間でも、そんなことだったのか

p249.「大学出」からすれば、どこかとっぴな会話の展開であり発想の飛躍もある。しかし、単刀直入で本音ベースでもある。のちにソ連その他との外交交渉でも発揮される。さらにいえば、角栄はムードメーカーである。角栄がはしゃいで話せば、相手も、まあ、それならそれでいいじゃないかという気になる。それが図に当たることもある。戦機を読む。本音でしゃべる。遠慮しない。かくて政治家角栄の伝説になる

p253.1992年4月7日、こんどは江沢民中国共産党総書記が来日、再び角栄の私邸を訪ねた。角栄は脳梗塞で倒れて7年になる。日中国交20年を祝って、中国再訪を誘った。8月、病身をおして角栄は訪中した。「中国は田中先生を永遠に忘れない」と国賓待遇でもてなした

p274.角栄の資源外交、つまり資源ルートの多角化は、たしかにアメリカの不興を買ったようである。フランスから濃縮ウランを買うということは、アメリカの「核の傘」の外に出るということである。田中内閣でずっと通産省を務めた中曽根康弘は著書『天地有情』のなかでこう語っている。「田中君は、国産原油、日の丸原油を採るといってメジャーを刺激したんですね。そして、さらに、かれはヨーロッパに行ったとき、イギリスの北海油田からも日本に入れるとか、ソ連のムルマンスクの天然ガスをどうするとか、そういう石油取得外交をやった。それがアメリカの琴線に触れたのではないかと思います。世界を支配している石油メジャーの力は絶大ですからね。のちにキッシンジャーは「ロッキード事件は間違いだった」と密かに私にいいました」

p284.『文藝春秋』を読むと、わたしたちが間近に親しんでいる「角さん」のまったく知らない人間像がそこにあった。あるいは、先輩記者たちはみんな知っているのかなと思った。二階堂官房長官の定例記者会見でも質問は出ない。政界は何もなかった風情で毎日が過ぎる。カネのこと、女のことはまあ、口にしないものなのかなと思っていたところに、10月22日昼、角栄は前から約束していた東京・丸の内の外人記者クラブの記者会見に出かけた。司会の外国人記者が「田中首相はいまさらご紹介するまでもなく、最近の『文藝春秋』で……」と切り出した。「あれはほんとうか」と根掘り葉掘り、遠慮のない質問が飛んだ。翌朝の朝刊一面に「田中金脈追及」の大きな記事が現れた。フォルトナを司る女神は角栄に見切りをつけたのである

p288.11月11日、外遊から帰国した角栄が首相官邸記者クラブの記者会見に臨んだ。外人記者クラブに先行された恥を雪ぐかのように、角栄に厳しい質問が相次いだ。雑誌に抜かれた焦りもある。これまで政治記者は角栄金脈のことを多少は耳にしても、きっちり調べてこなかった。角栄は必死に答えた。わたしはメモをとりながら、少し角栄を哀れに思った。「エー、貧乏な百姓のせがれとして、上野に出てきてから、まったくひたむきに走りながらきょうまできた、こういうことであります。そういうなかで誤解ありとすれば、公人としてはなはだ遺憾であると言わざるをえないのであります」

p288.総理大臣がこんなことまでしゃべるのかと思ったのはこんなくだりである。「あの土地がほしかったらね、その隣に一坪買って、そこで毎日毎日、ガンガンガンガンと製缶工事をやっときゃね、うるさくて隣はタダでも売るよ、というような、そういう無法な、不法な……」

p353.クリスチャンの大平は「キリストから盗賊、遊女まで、聖書は絢爛たる人間関係の一大小説」と言っていた。「政治はできることとできないことがある」と言い、「一利を興すより一害を除くほうがいい」という謙虚な政治思想の持ち主だった。「翌日には枯れてしまう草花にも心をこめて水をあげる心」を大切にしたいと言い続けた。そんな大平が最後に角栄に会いたがったのはなぜか、政治家というより人間としての友情を感じさせる





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