佐藤優「読書の技法」東洋経済新報社



20130428215646





相変わらず、おもしろい

本は外側から攻める。表紙と裏表紙、帯、目次と索引、前書と後書、各章の扉、小見出し、最後に本文だ。これがキレイになっている本は、心意気から、全体を評価しても構わないとまで思える

例えば、本書では、目次が充実している。これだけを熟読して内容が分かってくるのが、良い本だ。もちろん、読者の質にもよるけど

中に「基本書は奇数冊を買え」とある。ああ、多数決なんだな、と。基本書といえども、複数説に対するスタンスの違いがあるからだ、と

読者の前提として、この私が著者の他の著者をいくつか読んでいることが、助けになっている。サーシャのこと、グルジアのこと、ハーバーマスのこと

出版界にとって、著者は近年の巨星なんだ



p034.石井裕二神学部長が、中世の図書館について話をしていたのが、いまでも印象に残っている。中世の図書館では、本は学生に1冊しか貸してくれず、その本をすべて筆写し終わるか、完全に暗唱するまでは、次を貸してくれなかった。紙とインクはとても高価だったので、簡単には筆写できず、学生は皆、暗唱した。ノルマの本を完全に消化するために、神学部を卒業するまでに15-16年かかったという

p045.基礎知識は熟読によってしか身につけることはできない。しかし、熟読できる本の数は限られている。そのため、熟読する本を絞り込む、時間を確保するための本の精査として、速読が必要になるのである

p120.『坂の上の雲』を通じて、明治期の日本人の気概について追体験することには意味がある。また次章で述べるように、娯楽として読む分にはまったく問題ない。しかし、歴史小説で歴史を学ぼうという安直な考えは捨てるべきだ。小説を通じて得られる知識よりも、対象を客観的に理解することを妨げるステレオタイプな偏見が身につく危険性のほうが高いのである

p156.マスメディアが年金テロという「誤報」を軽々に流した原因についてよく考えてみる必要がある。新聞記者も警察官も国民も、「このような状況では、いつテロが起きても不思議ではない」という気持ちを持っているのではないだろうか。あるいは「テロくらいの激しいことがなくては、世の中は変わらない」という諦めと期待が交錯した不思議な感情が、国民の意識の下に潜んでいるのではないだろうか。五・一五事件のときは、被告人に対する助命嘆願運動が全国的に広がり、新聞もこの運動を支援した。この動きが1936年の二・二六事件を誘発したのだと筆者は考える

p164.筆者は国費、すなわち国民の税金から政党に支援がなされることは、政党の国家への依存を強めることになるので、よくないと考える。政党は国家ではなく、社会に属する組織だ。それならば、政治にかかるカネも国家ではなく、国民が政党に対して直接拠出するのが筋だと思う。政党が安易に国家からカネをもらうようになると政治家の発想が官僚化してくる。苦労して、国民の浄財を集めることも、政治家の資質を鍛えるうえで重要と思う。それから、企業献金は全面的に禁止されるべきだ

p176.インテリジェンス機関のブリーフィング(説明会)では、メモをとることがいっさい認められない場合も多い。こういう状況になると集中力が研ぎ澄まされるので、数字や固有名詞もきちんと記憶できるものだ

p181.プロの通訳ならば、にわか勉強で2-3日の間に300語くらいの単語を覚えることはそう難しくない。しかし、仕事を終えると1か月も経たないうちに意味を理解していない単語は記憶から消えてしまう

p202.鳩山氏は「宇宙人」と揶揄されることが多いが、第一級の知識人である。国際的に著名なロシアの数学者アンドレイ・マルコフの研究家でもある。政治家志望者が肩書きをつけるために外国に留学したり、日本の大学で教鞭をとることは珍しくない。こういう教授に習っても、知的に得るものはほとんどない。しかし鳩山氏は米国の名門スタンフォード大学で博士号(Ph.D.)をとった正真正銘の学者だ。その後、東京工業大学助手、専修大学経営学部助教授をつとめ、1986年に39歳で衆議院議員に当選した。人間の思考の原型は20歳前後に決まると思う。鳩山氏はこのころ、工学のために必要な数学を勉強していた。そしてさまざまな制約条件の中から最適解を求めるという数学の演習を徹底的に行った。学者時代は、軍事や経営に応用可能な決断の研究をしていたのである。鳩山氏は決断力が欠けるという批判がなされるが、それは間違いだ。従来の政治家の決断と鳩山氏の決断は、その発想が根本的に異なるのである

p226.アルバニアの状況から、北朝鮮社会について、類比的に考えることが重要だ。北朝鮮の人々が体制によって「洗脳」されていると見る人は、自由を欲する人間の本質を理解していないシニシズムだ。日本が北朝鮮との間で対話を回復し、あの体制の中にも必ずある、優れた知性と接触する可能性を探るのだ。その作業が拉致問題の解決に向けた環境を整備するのである

p226.読者から、「ベストセラー小説、たとえば村上春樹さんの『1Q84』(全6巻、新潮文庫)を読んだほうがいいでしょうか」という質問も受ける。筆者は、「ぜひ読んでください」と答えている。なぜならば、ベストセラーはどんな作品であっても、その時代の雰囲気をつかんでいる。『1Q84』は文句なしに面白く、『BOOK1-3』を合わせると、すでに300万部以上刊行されている。だから、このテキストは活字を読む人々の共通の土俵を作っている。この土俵に乗ることで、さまざまな人との新しい知的出会いの機会が増え、この本を読む前と後では、世の中が違って見えてくる

p261.毎年1回、奈良県の吉野町で、特別の勉強会をしている。「本を読むならば、東京の会議室で読んでも、吉野まで行って読んでも同じこと。往復の移動時間が無駄になるではないか」と思うかもしれないが、そうではない。後醍醐天皇の墓があり、南北朝時代の南朝の里である吉野という場で読むことによって、時間を圧縮することができるのだ

p264.筆者の印象に残っている一例を挙げれば、デヴィッド・W・モラー『詐欺師入門騙しの天才たち その華麗なる手口』(光文社)について、あるキャリア職員が書評をした。一級の詐欺師は、だました相手に「だまされた」という認識を持たせず、かえって感謝されるという。この技法が情報収集やロビー活動に使えるのではないかというのだ。実際この本に書かれている内容を少し変形して、情報収集活動に使ってみたら、確かに効果があった





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