岩見隆夫「陛下の御質問」文春文庫

公開日: : 最終更新日:2011/09/03 書評(書籍)

日本の現代史、昭和史好きには堪らない一冊。タイトルと帯を見た直感で購入して正解。内奏の現実や政治の内奥を垣間見る
本題と関係ないところでも勉強になる。こういう本題だと出てくる事例が本当にエッセンスになっていて教養の獲得にもつながる
p40.「物事を改革するには自ら緩急の順序がある。かの振り子が滑らかに動くのは静かにこれを動かす結果である。急激にこれを動かせば必ず狂う。この振り子の原理は予の深く常に留意する所である。改革しても反動が起こるようでは困る」
p54.「雑草という草はない」「雑草というのは人間のエゴからつけている呼び名である。かわいそうだよね。猛獣という言葉もあるけど、ライオンやトラから見たら、一番の猛獣はあるいは人間かもしれないね」…発酵と腐敗の定義を思い出した
p56.「いまのは私のコメントはしないでおこう。釣りもハンティングもそれぞれにみなマニアがおることだし、切り花も各流派があって、その人たちに悪いからね。いまは田村に相づちを打たないでおこう」…十分コメントになっているよね
p62.瞬間、トウは立ちつくしていた。「トウ小平さんはとたんに電気にかけられたようになって、言葉がでなかった」
p83.「北方四島と北海道の間にある海峡の水深は何メートルか。潜水艦は通れるのか」
p91.「語尾が変わるんですよ。前に「ある」って怒鳴られたのは、宮内庁の式部官だから、これは身内の家来だという感じでしょ、大使というのは、一応家来ではあるけれども、外務省のよそ者だということで、語尾が変わったのかなと、私はそう思ってましたね」
p98.「自分は立憲君主ということを心掛けてずーっとやってきた。明治憲法に忠実に……。だから政務なら総理大臣が『こうしろ』と言えば『そうか』と言ったし、作戦面では参謀総長、軍令部総長が言ってくれば、『そうか』ということだった。しかし、二度だけ例外がある」と二・二六事件の鎮定命令と終戦のご決断に言及された
p98.みんな押し寄せてきた。あまりにお気の毒と想い、「なんぼか断りましょう」とお伺いを立てたが、天皇は「国のためになることなら何でもやる」と全部こなされた
p101.王室史も含めて、昭和天皇は歴史好きでもあった。明治の西洋史学者、箕作元八の著書『仏蘭西大革命史』『西洋史講話』などと、天皇はボロボロになるまで読んでおられた
p139.そこの人をやっつけようとして行ったわけではないんです。当時、日本にきていた協力者に対しては気の毒だったという気持ちはありますが、戦後、スカルノ大統領やガルシア大統領がきた時でも、陛下はまったく謝っていないのです。英国では『両国には不幸な関係がありました』ぐらいだし、『嘆かわしい』とおっしゃったのはアメリカだけですよ
p140.皇室外交の中でも、中国は特別の雰囲気を漂わせている
p144.「グラントはそこまで三回も足を運んだ。この話は面白いです。とにかくレーガン大統領は話がうまいし、あの謹厳な陛下もにっこり笑われてねえ。レーガンは前もって調べてきたんじゃないでしょうか」
p150.「そうか、これはやめた」田中はあっさりしていた。「貧しく」では、田中にも共感するところがあったのだろう
p174.だれかが、「長谷川さん、君が代を歌いましょう」と言い、歌いだした。天皇はその間、足を止め、背中を向けたまま立っておられた
p183.「第二は、皇室財産をみんな投げ出されて、戦争で傷ついた者、家を焼かれた者、戦線で倒れた者を救っていただきたい」「分かった」
p184.「私は立憲君主であって、専制君主ではない。臣下が決議したことを拒むことはできない。憲法の規定もそうだ」
p192.「いまから考えると胡耀邦追放がからんでいたわけですね。それで私はやめたわけです」
p211.近衛首相、広田弘毅外相については、「大勢順応主義と無定見が日本を亡国に追い込んだ」と痛烈な批判を加えた論文だ。天皇はそれを、「非常に正確」と思い、時の為政者に伝えたかった。天皇の明快な人物評価の一端をうかがわせる
p215.「ご在位六十年の式では、私は涙がぼろぼろこぼれました。『陛下、長い間ご苦労さまでした』と言った時です」
p226.しかし、このような論旨は極論のように私には思える。…ここまで読んできた読者がこの文庫版のあとがきを読んだとき、そこで紹介される丸谷才一氏の賢帝説への異論が取るに足らないものであると諒解される
20050624010800

陛下の御質問

posted with 簡単リンクくん at 2005. 6.24
岩見 隆夫
文芸春秋 (2005.5)
通常24時間以内に発送します。

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