J・A・バーンズ「アミスタッド」ポプラ社

公開日: : 最終更新日:2012/02/11 書評(書籍)



映画「アミスタッド」を忠実に小説化したもの。未成年向けのようだ。しかしだからこそエッセンスがしっかりと記載されている。せっかくこの映画を見る気が起きて、現に見たのであれば、この本でお浚いすると非常に効果的。アフリカからアメリカまでの航海中のアミスタッド号の描写は、映画というメディアの本領発揮で凄い迫力だった。しかし、英語と合衆国の歴史を知らない者にとって、簡潔な字幕のみでは映画の意図する内容をほとんど掴むことができない


アミスタッド号の人たちがどうなるかについてアメリカで議論になる。奴隷制度に関する北部と南部との争いは、工業社会と農業社会の衝突が本質である。南部では工業化がされなかったので、農業経営に頼り、そこでの大切な労働力が奴隷のそれであった


アミスタッド号の人たちのために登場するのが、元大統領のジョン・クインシー・アダムズ。ちなみに現在のブッシュ大統領がアダムス父子以来の父子で大統領になった。ここでは、父に比べて劣ると言われているJQAの裁判所での弁論が圧巻




p95.「私が弁護士だったころ…」アダムズはしゃべり始めた。「もう大昔のことだが、大事なことを1つ学んだ。それまでに何度も裁判をしてたくさんの失敗をしたがね。つまり、法廷では一番すばらしい<物語>を聞かせた人間が勝つということだ」




…裁判は真実を明らかにするものではない。法廷に提出された人や物による証拠を踏まえて、もっとも合理的な解釈を行い、そこから最も真実らしいフィクションを紡ぎ出して、その結果をもって現状を肯定または訂正し、持ち込まれた紛争を解決しようとするものだ。この限界を知るべきである。たとえば裁判により負けた側がモラルなどの別の切り口からも当然には否定されない




p163.アダムズがシンクェの言葉を理解しようとして、長い沈黙が訪れた。そしてふいに、アダムズの頭に衝撃が走った


p165.裁判官席には裁判長のロジャー・ブルック・テイニーを真ん中にして、9人の裁判官がすわっていた。9人のうち6人は南部出身、そしてその6人のうち3人の家には奴隷がいる


p167.「この男は黒人だ。それはだれが見ても明らかだろう。だが、それと同じようにして彼の内面を簡単に見ることができるだろうか?彼だけがこの法廷で唯一、英雄と呼ぶにふさわしい人物であるということを見抜けるだろうか?もし彼が白人であったならば死刑宣告をかけてこの法廷に立っていることもなかったはずだ。もし彼が白人で、奴隷船の船員がイギリス人であったならば、英雄のように扱われることになっただろう。たくさんの勲章を授与され、その重みで立ち上がることもできないほどに。そして彼をテーマにした歌が書かれ、偉い作家が彼のことを本に著し、彼の物語は学校の授業で何度も何度も語られることになるだあろう。そして子供たちは彼の名前を、まるでパトリック・ヘンリーの名前を知っているのと同じように覚えることになるのだ!」




…この辺は合衆国で教育を受けていないとなかなかピンときません




p169.アダムズはシンクェとの会話を法廷で話した。本当に困ってどうしようもなくなったとき、先祖たちの知恵と力が彼らを助けてくれることができるという。アダムズは壁に掛けられたさらにたくさんの額を見上げた。そこには肖像画がきれいに並べられている。彼の先祖たち、アメリカの創始者たちだ。「トマス・ジェファソン、ベンジャミン・フランクリン、ジェイムズ・マディソン、アレキサンダー・ハミルトン、ジョージ・ワシントン…」アダムズ元大統領は、彼自身の父親の肖像画の前で少し間をおいた。アメリカ合衆国の第2代大統領である。「ジョン・アダムズ」彼はそれらの肖像画を見つめ、そしてその絵に語りかけた。「わたしたちの恐れや偏見に、わたしたち自身が打ち勝つために、あなたがたの力と知恵がどうしても必要です。正しいことを為すための勇気をください。そして、もしそれで市民戦争が起きてしまうのだとしたら…それはそれでかまいはしない。もし戦争が起きるならば、おそらくそれこそがアメリカの革命のための、最後の闘いになるのだから-」




…私は映画のこの部分を何度も繰り返して再生した。この本で再確認できて幸甚。活字で読んでいても心揺す振られるセリフだ


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