羽生善治「簡単に、単純に考える」PHP文庫

公開日: : 最終更新日:2011/09/13 書評(書籍)



将棋の羽生氏が、ラグビーの平尾氏、スポーツ・ジャーナリストの二宮氏、コンピュータ研究者の金出氏の3人との対談した内容が本になっている。平尾、二宮、金出の順に並んでいる。その順に、羽生氏のコメント部分が少ないような気がしている



平尾氏との対談では、感情論というか精神論というか、なんかつかみどころのない会話が多い。それはそれで羽生氏の感覚を多く教えさせる記載があり、これはこれでいい感じ



二宮氏との対談では、さすが本業、他のスポーツの有名人を引き合いに出しながら、それを羽生氏にもぶつけていって当て嵌めを行っていこうという感じで、読んでいて勉強になる。二宮氏の経験とそれに基づく仮説とその検証。セナとか新庄とか長嶋とか、そういういろいろな知識が得られる



金出氏との対談では、個人的に特に驚くことはなかった。というのも、すでに”金出武雄「素人のように考え、玄人として実行する」PHP文庫”を読んでしまっていたから。内容的に被っている。そして、ここでは羽生氏からそれほど有益なコメントがない。というか、金出氏の主張の独壇場で、羽生氏が完全に聞き役になっている感じ。その金出氏の本で確か、この対談のことに触れられていたと記憶している。そこで、羽生氏の直感に対する金出氏のいくぶん否定的な見解というのがあって、それが今回の対談で追体験することができた



そもそもこのような本を読もうと考えたのは、将棋の米長氏の本を読んで大いに得るところがあったからである。また、何度も出しているが、金出氏の本を読んだからである。そこで、その道を極めた者の考えていることに極めて大きな価値を見出した。もっとそういうものを開拓してみたい



最近良く売れている羽生氏の著作になる新書がある。買おうか迷っている





p16.(平尾)敢えて捨てるプレーを選択する場合がある。得点には結びつかないが、相手の意表をつくためにパッと見せてしまう。相手は「こんなこともやってくるのか…」と疑心暗鬼になって動揺する…バスケットにおける犬のマネを思い出した



p22.(平尾)日本人の集中力は、周囲からの圧力とか、「集中しろ」とかいわれて出てくるような気がする。自分のためというよりも、チームのために今ここで自分が頑張らないといけない、というところ



p37.(羽生)自分の中のもう一人の自分の方が、今の自分よりも大きくて強い存在。客観的に自分を見て、なおかつ冷静な判断ができる。考えられることはやり尽くし、最後の最後にどちらを選ぶというときになって、もう一人の自分に判断を委ねるのは当然のこと



p59.(平尾)以前、神戸製鋼で選手全員に「サインプレーを3つ考えてこい」といったときのこと。ある控え選手がつくったのが面白くて試合で使ったら面白いように決まる。しばらくして、日本代表チームでも、ワールドカップでベスト4の強豪チームでも使うようになった



p60.(平尾)保身に回ると組織は弱くなる。チームでも「守って強い」というチームはどこにもない



p73.(二宮)天才は、相手を必要としない。一番興味があるのは自分自身。長嶋茂雄さんなんて、絶対に人の名前を覚えない



p80.(羽生)情報が広く公開されて研究が進むと、戦法に流行が起こる。その流ればかりやっていると、その人が何を考え、何をやってくるかということが事前にわかってしまう。対戦する前に研究されてしまう。流行となると、皆がそればかりを考えるので、隙間が生まれる。隙間のところは意外と皆の対策が進んでいないということもある



p83.(羽生)序盤の初手から20手、30手の間に、水面下ではものすごい駆け引きがある。「この形には指したくない」「この形なら、まあいいでしょう」とかの駆け引きがあって、非常に神経を使う



p83.(二宮)柔道の古河稔彦さんも同じことをいっている。一般に、柔道というのはお互いに組み合ってからが始まりだと思われている。しかし彼は、組む前が勝負だという。相手のふところに入ったときにはもう相手を投げていると



p92.(羽生)大山康晴名人は、将棋はもちろん圧倒的に強かったが、盤外でもすごかったようだ。マージャンをするときなどにも、聴牌したときの癖を見抜いて、それを将棋に活かしていたらしい。こういうことをしたら相手は不安になるだろうとか、動揺するだろうとか、計算されていたところがある



p101.(二宮)プロ野球でも、野村克也さんとか、江夏豊さんとか、最近では野茂とかは、配給を全部覚えている。一人のバッターとのその日のすべての打席での投球がつながっている



p111.(二宮)サッカーでもかつては個人技の南米、組織力のヨーロッパといわれていたが、今は90%同じ。フィニッシュの精度、そこに至るラストパスの出し方が違うくらい。そこにエスニックな切り口が見える。体系立てていくと、古い理論がどんどん振り落とされて、ほとんど一緒になる



p117.(羽生)将棋は対局時間が長いので、連鎖反応が起きやすい。調子が悪い人と対戦すると移ることがある



p119.(二宮)レーサーのアイルトン・セナがあれだけのレースができたのは、恐怖心が欠如していたからだと思う。時速300キロで走るのは怖い。ちょっと間違えたら死ぬのだから。彼に会ったときに、「恐怖心をどうやって克服したのか」と聞いたら、「最初からない」といった。これには驚いた



p125.(二宮)創造するためには破壊しなければならない。ビジネスでもいえる。松下電器社長の中村邦夫さんは革命的だ。ああいう古い会社で、松下幸之助さんがつくった事業部制などを破壊する。今は遺産を守るだけでは駄目だ。破壊しまくって新しいものをつくることこそが松下幸之助さんがやろうとしたことなんだと



p131.(二宮)瞬時に何かするためのショートカット。福岡ダイエーホークスの球団社長で、亡くなられた根本陸夫さんは、日本で初めて選手にマッサージを禁止した。練習で覚えたバッティング・フォームは筋肉が記憶しているんだ。それをマッサージで消すなと



p162.(金出)19世紀中ごろの数学者でアーベルという人は、数式を見ただけで答えが分かったといわれている。しかし、答えが分かるということは、逆にいえば、なんらかのコンピュテーションをしていたということ



p165.(金出)3次元以上の空間を感じることができる人間はいないでしょう。数学者だと、4、5、6次元ぐらいを感じる人がいるかもしれない。でも計算機にとっては、何千、何万の次元空間であろうと、たいしたことではない



p173.(金出)われわれの頭脳は物理を超えたところで働くことができるのか、できないのか?哲学の分かれるところですが、私は、人間の頭脳は物理の領域は超えられないと思っています。我々の頭脳は、そうみても電子とかイオンなど、物理的に存在しうる仕組みの中で働くようにデザインされていると思うので、その領域を超えることは不可能なのです。ということは、われわれが一番いい答えだと思っていても、それが正しいかどうかは、人間にも機械にも証明できない



p183(金出)研究というのは、自然の世界とか摂理に対して「こういうことをやらせてほしい」「いや、それは難しいからやってくれるな」と交渉している。それがちょうどいいところで交渉できたら、研究は成功すると



p189.(金出)人間も遺伝子が変わって少しずつ賢くなってはいるが、世代が一回様変わりのにおよそ30年はかかる。人間の場合は、一人の人がもっている知識のうち0.00000…パーセントぐらいしか次世代に伝わらないんじゃないでしょうか。ところがコンピュータは、いいことであれば、全部伝えることができる。進化のスピードのスケールが人間とはぜんぜん違う



p194.(金出)われわれ人間の脳というのは、明らかに情報処理をする機械です。シナプスが繋がっていて、そこに信号がやってきて、その信号をある方向に取り込むという仕組みになっている。シナプスの一つ一つは計算する道具であり、素子なのです。そのレベルから見れば、右脳も左脳もない



p202.(金出)ロボットも恋愛とか、感動とかという分野に入っていく。われわれがつくったロボットが、カーネギー・メロン大学近くにある美術館で働いている。その小さなロボットは、自分の電池がなくなると、壁のところに行って、ソケットを突っ込んで、しばらく充電して帰ってくる。それを見て、おなかがすいたからご飯を食べているというべきか、そうではないというべきか



p222.(羽生)棋士の養成機関である奨励会に入会したのは12歳。将棋界では、師匠は何も教えてくれない。私の師匠は二上達也先生だが、「こうしなさい、ああしなさい」といわれたことはないし、怒られた記憶もまったくない。自分なりの方法を見つけろという無言の教えである



p231.(羽生)自分が踏み入れたことのないジャンルで活躍している人の話を聞くことは、興味深いものだ。驚いたり、共感したりしながら自分とは別の角度からものを見たり、思いもよらない意見に触れることができるからだ



p238.(羽生)将棋の一つのルールでも誰がつくったのか未だにわからない。想像ではあるが、将棋とは、昔の人たちの英知が歴史の中で熟成され、現在の形にまとまったのではないだろうか。そのような意味で将棋とは日本的であり、日本の習慣、文化が如実に表されていると確信している





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