片岡正人「市町村合併で『地名』を殺すな」洋泉社

公開日: : 最終更新日:2011/09/03 書評(書籍)

主要ビジネス誌で、ここのところ時をおいて紹介される奇書。タイトルのとおり、市町村合併で新たな地名が慎重さを欠きつつ誕生していることに対する批判。よく調査している力作
類似例のない、一風変わった面白さ。物議を醸す。筆者の考えがなかなか説得力あるが、いまいち筋を通しきれていないような気もする。ただ、ダメな現実よりは筆者の試案はまともである
確かに筆者と同じ思いをしている知識人は多くいるだろう。彼らを代弁して一生懸命に意見を言ってくれているのがありがたい。少し距離を置いて考えると、ここまで強く反論しなければならない現状に笑ってしまう。笑うといえば、筆者の意見が硬すぎるというのも笑ってしまう。これは、しっかり対案とともに批判しているのは素晴らしいのだ
ポイントは、命名者がバカだからいけない、ということ
西東京市、確かにご尤も。湯陶里市、確かに変だ。しかし、この本でも触れられているように、昔から地名は極めて恣意的に決められてきた。司馬遼太郎の小説を読んでいるとよく出てくるのが、九州の福岡の由来。戦国大名の黒田家が任地に故郷の地名をつけたという。また北海道をはじめとして、東日本には西日本からの移住者が故郷の名前をつけるというのがある。もう一つは、木更津や三重などの神話に淵源を有するものってのはいいよね。これも皇室の正統性を担保するために付けたものなのだろうけど。同様に各界の偉人に因んで付けられた地名も多く存在する。戦国大名の岐阜や長浜、関東だと日本武尊とか平将門とか源頼朝とか。本書でも紹介された二宮尊徳や平田靱負。どっちも「その時歴史は動いた」で取り上げられて心を揺す振られた。これで行くと、平成における松井秀喜の松井市やゴジラ市のどこが悪いのか、人に法人も含んで何が悪いといういことで、豊田市やスバル町だって偉いのでいいじゃないかということになってしまう
そうすると、基本的には、大昔に一旦決めたことは保持していくことが歴史があって、また混乱もなくていい、ということに落ち着くことになる。いま、都会派だからといって、いま平等が、民主主義がいいからといって、ちょっと前までは封建社会で、そちらの年月の方が長かったり。それを時間的にも超えてから今の命名をやって頂戴、という感じ
命名に希望が入り混じっているのがおかしい。CIとの類似性についてもおかしい。なるほど。西東京などの、都会らしさへの礼賛への疑問も確かに頷ける。むつ市などの僭称はよくない、そのとおり。世界遺産、景勝地などの有名な地名の取り合いがおかしい、その通り。やわらかさがいいなどのイメージ先行は、そのイメージ自体が一時代の評価に過ぎずおかしい。そのとおり
悪平等についても触れている。合併する市町村の名前は新地名の名称とはしない。これぞ戦後生まれの負け取った民主主義の賜物ではないか。公募によるとんでもない地名候補も同じ。この問題の本質は、団塊の世代と呼ばれる終戦直後に出生したバカ者どもに命名の実権があるという点にあるのではないか。皆で決めたのだからどのような名前になってもいいではないか、という理屈に対して現在の戦後の義務教育を受けている人はなかなか有効な反論ができない。ここは保守主義の精神を利用するしかないよね。先祖代々が皆、使ってきた地名を覆すほどの重大で喫緊の理由ってあったんだっけ?、多数決なら先祖代々が違和感なく使ってきたことを含め、時間軸での多数決を行うべきであるし、その場合には旧来の地名が圧倒的に有利にならざるを得ないということだと思うんだけど
「喜連川」という風情ある地名が「さくら」という味気ないものになるかと思えば、最近のニュースでは金沢市内に古い地名が復活していい感じになっているとも聞く。どちらがいいのか、その辺の議論というのは、人を説得するのが難しい部類のものじゃないかなと思う
ただ、平仮名であるだけでダメというのはちょっとと思う。昔の名前は、本でも紹介されているとおり、奈良時代にそれまでの呼称を縁起のいい漢字2文字で表記するようにしてからの名前が多く残っており、いまでは読み方からなかなか分からない。平仮名でも「漢字では実はこう当てます」というのが連想としていつもついて回るし
あと、合成地名もよかろうというのが個人的な感覚。結構多いし、歴史がその限りにおいて維持されているでしょう。鉄道などでもよく使われている。合成がだめで連称ならマシというのも、少し硬すぎやしないか
もう10年以上も前だが、タイのバンコクに行ったとき、通りにタイの地方都市の名前が付けられているのが気になった。その後、アメリカに行ったときにも、主要な都市の主要な通りにアメリカ等の別の地名が付けられていたという記憶がある。これはどういうことなのだろうか。この本では諸外国においても、地名は慎重に選定されており、国連の勧告もあったりするそうだ。しかし悪しき民主主義の国である戦後日本では、いま生きている人が皆で決めたらそれでいいということだ
最後の日本全国の地名の個別評価については圧巻。どこで愚か者が地方自治を行っているかがわかる。愚劣な地名には住みたくないという気を起こさせる。快哉
本書で紹介される古い地名を見ていると、なかなか趣を感じる。地方公共団体が団塊の世代により情けない地名にさせられてしまっても、この本が残るということは古い地名も無縁仏には決してならない
個人的に気になっているのは市町村合併で年賀状ソフトを買い換えなければならないということかな、郵便番号7桁のときに買ったソフトでもう当分は買い換えることはないと思っていたが
20051002230947

市町村合併で「地名」を殺すな

posted with 簡単リンクくん at 2005.10. 2
片岡 正人著
洋泉社 (2005.6)
通常24時間以内に発送します。

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