渡部昇一・林望「知的生活 楽しみのヒント」PHP研究所
先日読んだ”林望「知性の磨きかた」PHP新書”を見つけた際に、あわせて見つけたので読んでみたのがこの本。
好きなんだなあ、渡部先生。10年以上前だったか”渡部昇一「知的生活の方法」講談社現代新書”を読んで以来の気にしている著者。手元にあるのは1994年の56刷だもんなあ。爾来、先生の示す知的生活の環境に憧れてきた。本書は、ほぼ同様のテーマで書かれている。両氏の対談、各人のエッセーという3部構成になっている
田舎に暮らすことについての記載がある。私の感覚は、両先生の間あたりという感じ。一つには田舎に行くということは都落ちという感じがする。月10万円で云々、というとき、少なからず前近代的な生活がある。やれ、村が薪を只でくれるので燃料費がかからない、と言いながら、それを小型トラックで自宅に運び込み、竈にくべて煮炊きや風呂焚きをする。それもいいかもしれないけど、まだそういうのでなく、現代的な暮らしをしたい。スイッチ一つで風呂ができるとか、おしりを温水で洗ってくれるとか
p21.(林)「自分はAだからXしなければならない」と自分自身を規定している人も俗物。商社の営業マンだから接待で酒を飲まなければいけない、ゴルフをしなければならない。自分から出てくる価値観ではない
p23.(渡部)スノッブ、俗な言葉で言えば、「いいふりこき」が、私の考える俗物…この言葉知りませんでしたが、北海道のほうの方言のようです。標準語で言おうとすると「よい振りをする人」、つまりは格好つけとか見栄っ張りとか
p34.(渡部)とにかく2、3時間の隙間時間ができれば、ホテルを使って昼寝をする。目がさめたらそこで本を読む。コスト的に考えたら高くつきます。計算すると、昼寝10分で2,000円ぐらいになるでしょうか
p36.(渡部)実は、以前、私も都心に仕事場を持った経験があるのです。しかし、結局は使わないのでやめてしまいました。時間が空いても、そこにいかなくなった。そこにいつも誰かがいて、お茶でも出してくれるというのならいいのですが。その点、ホテルは必要なサービスが整っています。もっとも、時間で借りられないところは一泊の料金をとられてしまうので、3万円ぐらいかかくけれども、時間貸しをしているホテルなら一流クラスでも2万円以内で利用できます
p42.(林)私もまったくそうで、同じ種類の仕事は同じ日にまとめるようにしています
p43.(林)書くことに集中できる状況を整えておかないと、単に時間のやりくりの問題だけでなく、効率の面でもよくありません
p46.(林)夏になると暑さで眠れなくなってしまう。睡眠不足は体調を崩すもとなので、夏は避暑に行くことにしています
p49.(林)一人で自動車を運転している間は、その空間に誰もいませんので、心の平安を確保することができるわけです
p51.(渡部)年を取ったら、記憶力がよくなったわけです
p56.(林)昔の人は、本の欄外や行間に自分の考えたことなどを書き入れるのが普通で、特に塾を開いていた先生などは講義をするために、欄外の余白に自分の解釈なり、いろいろな注釈書からの引用なりを各種の色の墨で書きつけたりしている
p59.(渡部)昔のイギリスの話を聞くと、ジェントルマンは必ず蔵書、すなわちプライベート・ライブラリーを持っていたそうです
p68.(渡部)要するに、文化は私有財産の下でしか創造できないということを、われわれは肝に銘じなければいけません
p70.(渡部)原稿を書くのを仕事にしている方は、会社制度にしている場合が多いですね。そのほうが税金が安いという話を聞きます。逆に言えば、会社制度にしようという気を起こさせるのは税制が悪いからです。そういうことも含めて、日本の税制は変えなければなりません
p71.(林)ケンブリッジで、よいコレッジとよくないコレッジの区別は、図書館が深夜まで開いているかどうかでわかります
p97.(渡部)熟練の芸者がいる座というのも悪くないですね。世間一般で想像するのと違って、本物の芸者がいる場というのは生臭さがありません。バーなどで脇に女性が座ったら、触らなければ損だというような感じがするではないですか(笑)。しかし、いい芸者のいる座というのは、そんな気を起こさせないのです。会話だけで賑やかになります
p117.(林)私がなぜ大学を辞める踏ん切りがつかないか。教員としての収入はさほど大きな問題ではないし、自分の学問研究のためでもない。ただ、大学に行くことで若い人たちと接触できるというのは、他では得がたいメリットです。特に芸大は日本の大学の中では非常に珍しく、きちんと目的を持っていて、アイデンティティを確立した学生が多い。彼らのような本当の芸術家たちと、利害を離れていろいろな話ができるというのは、非常に素晴らしい機会に恵まれていると言っていいでしょう
p122.(渡部)ある人が岸信介に長寿の秘訣を聞いたら、「風邪ひくな」「転ぶな」「義理を欠け」と言ったそうです
p125.(林)鼻洗浄のやり方。小さいボウルに茶さじ1杯の塩を入れ、体温よりも高いお湯を注ぎます。これをかき混ぜますと、ちょうど生理的食塩水ぐらいの濃さになる。日常生活にあるもので言いますと、吸い物の濃さだと覚えていただければいい。その塩湯を鼻から吸い込む。ただし、湯だけ吸うとむせてしまいますので、お湯と空気をズルズルズルといっぺんに、両方の鼻から吸い込む。そうすると、むせずに口へ出てくるはずです。難しそうに感じるかもしれませんけれども、練習など要りません
p126.(渡部)女性というのは亭主を尊敬しないと決心して結婚するものです
p127.(林)花粉症には毎日、いや、1日に数度鼻洗浄をするのが一番いい治療法です。鼻洗浄は何よりも気持ちがいいのです
p131.(渡部)昼寝の習慣をつけたのはドイツに留学してからのことです。ドイツの大学は昼寝の習慣があり、お昼休みの後、午後3時から授業が再開されるのです。学生も先生もみんな、昼食をとったら3時前までは寝ていました
p135.(渡部)寝るときにくだらない夢を見ようと決めるのです。例えば、「これから夢に遊びに行きます」というようなことを心の中で唱える。それは、寝ている間にいくらくだらないことを考えても本心と関係ないという意識を潜在的に植えつけておくためです。そうすると、夢の中で憎い相手を暗殺しても、憧れている女性を襲っても、何をしても良心が痛まないですむ(笑)。しかも、目が覚めたときに何も覚えていません。夢の中でやりたい放題のことをやって、すっきりとした気分で起きることができます
p140.(渡部)若い女性は、結婚相手になる若い男性がたくさんいるところに勤めに出るのが一番自然でしょう。主婦は通勤に時間がかかると勤めが続きませんから、自転車で通えるぐらいの近所に住んでいる人がいい。そういう人を秘書にすると、長続きします
p145.(林)私は自宅にかかってくる電話には出ないことにしています。個人的にどうしても電話をかけてもらいたい場合は夜中の12時過ぎにしてほしいと相手に言っています
p159.(林)個人主義であるためには、自分自身の頭で考えることが大切です。誰が何と言おうとも、まず自分の頭で考えてみる
p161.(林)ダイアナに共感した人たちの多くに、専業主婦の人たちがいたことは理解できます。両者には共通しているところがあるからです。それはちょっと厳しい言い方をすれば、「被害者意識」と「むしのいい希望」という点です。ダイアナが王室の一員になることがどういうことかわかってチャールズと結婚したように、専業主婦の人たちもまた専業主婦とはどういうものかをわかっていて専業主婦になっています。つまり、自分は外で働くことをせずに、亭主が働くことで生活が成り立つということです。ところが、専業主婦の中には、「自分の人生はこんなものではなかった」「もっと違った素晴らしいものがあるはずだ」「社会との接触がなくなって、取り残されている」という不満を持っている人がいます。そういう人は、専業主婦であることによって自分が何か損をしていると思っている。その一方で、専業主婦というポジションと、そこから得られる富を失うのは嫌だとも思っている。つまり、専業主婦という立場が非常に縮小された「プリンセス・オブ・ウェールズ」になっているのです
p170.(林)一つのことでプロとして認められるまでには、10年間、一途な努力をしてみるつもりで取りかかるべきです
p171.(林)ナルシソ・イエペスが演奏会に登場すると、非常にいい曲をたくさん弾く。しかし、どんなに素晴らしい演奏をしても、「禁じられた遊び」を弾かないかぎり、アンコールが終わらない。大衆というものは、よかれあしかれ、そういう存在です
p174.(林)「日知斎」と記すときには、「この本は非常に真面目に書いた本です」というメッセージを含ませているのです。「菊籬高志堂」と書いた場合は、「いくらか戯れて書きました」ということです
p181.(林)私は最近、東京は住みにくいので青森あたりに広い土地を買おうかと考えています。青森あたりの地価は東京に比べれば格段に安いので、それを5,000坪、1万坪という単位で買って、まずブナの木を植える。ブナは大木になりますし、落葉広葉樹だから冬になると葉が落ちて庭が明るい。そして、初夏には新緑が、秋は紅葉が美しい。青森はもともとブナが多い地で、白神山地、八甲田山など、ブナ林が非常に美しい。これが青森を第一候補にした理由の一つです。それから、青森ぐらい東京から遠く離れていると、編集者もそう簡単に訪ねてこないでしょう。また青森では夏でも30度を超える日がそれほど多くないので、クーラーが要らないというのも、魅力の一つです。それから、とてつもなく広い土地に住みたいというのも青森へ移りたい動機のひとつです
p193.(渡部)マックス・ウェーバーは「かつて自然科学でも研究設備が私有財産だったが、いまや研究手段を私有財産にしているのは文学部の先生だけだ」という主旨のことを書いています。そして「それもそのうちになくなるだろう」とウェーバーは予言した。残念なことにその予言は当たってしまい、明らかにイギリスの学者は自分で本を持たないようになっているし、アメリカでもそうです
p201.(渡部)私は学生の頃は映画を見ませんでしたが、一人前の研究者になって以降はずいぶんと映画を見ています。あの世紀の天才と賞されるウィトゲンシュタインも、伝記の中に、終始、馬鹿馬鹿しい映画を見ていたと書いています
p207.(渡部)地価の安い郷里の過疎地を1万坪ぐらい買って、暖房完備の家をつくって生活してみようかなと夢想することもありますが、やはり私は東京が好きです
p209.(渡部)「大隠は朝市に隠る」と言います。真の隠者は山中などに隠れず、人の多い町中で超然と暮らしているという意味です。また賢者が世に埋もれていることのたとえで「陸沈」という言葉もあり、私も赤坂か六本木あたりに「陸沈」を気取るのもいいなあ、と考えています
p211.(渡部)いつも、できるときにやればよい、という姿勢です。禅宗の悟りでも。「悟らなければならない」と言っているうちは悟れないのだそうです
p214.(渡部)趣味や楽しみ、知的生活のスタイルというものは、若いときに何をうらやましいと思ったかで、かなりの部分が決まってくるのではないかと思います
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はじめまして。福岡に住む26歳(女性)です。
今度福岡で、渡部昇一先生をお招きして講演会をします。無名の社会人サークルなのですが、1000人の動員にチャレンジしています!テーマが日本から始まる人類の黄金時代~人間の底力はどこからくるのか~というものです。このテーマをお渡ししたときに、先生にプロフィールでどの御本を紹介しましょうかとたずねましたら、「知的生活の方法」をご推挙されました。私もよんでみて、感服です。数十年たった今も、こうして読んで、知恵になる本、ってそうそうないと思います。