松田公太「すべては一杯のコーヒーから」新潮社

公開日: : 最終更新日:2013/02/03 書評(書籍)



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起業の話は好き。この本は起業を題材とした極めて典型的な内容。面白い。もっとぎこちないものを想像していたが、しっかりした文章で読みやすいプロ的な仕事になっている。


小さい頃の個人史はちょっと退屈。1号店の立ち上げのところは非常に具体的。例えばデザイナーの言うとおりに内装を作っていくつか失敗したところなどは、何事も気を抜けないものと感じた。出向を受け入れてしまったことはともかくとして、プロの推薦でさえ、役に立たなかったとはショック


エピローグの最後の3行はあまり見ないほどよく書けている。本の中盤にその布石も打ってある。こういうと失礼かもしれないが、フィクションかと思うほどよく出来た展開である。ただ登場人物は実在であり、紛れもない真実なのだろう。おもしろい


全体を通る著者の経営者としての背骨の立派さに頭が下がる


同社は現在は上場を廃止している。本書の展開からは意外だ。どのような事情があったのだろうか。確か最近、この本が文庫本にもなったはず。そこに何か書いてあったりするだろうか。時間を見つけてアップデートしておきたい


各章の最初のページに、簡単な挿入エッセーがある。これがよく練られており、心に残る。繰り返し、文章がうまい




p12.情熱は誰でも平等に持つことができる。その点が生まれ持っての資産や容姿、才能とは違う


p21.最初から意思決定権を持った人に話をする


p23.まずは、銀座や青山といった東京都内の一等地に一号店を出店し、ブランドイメージを確立することが必要となります


p33.「それは間違いです!」私はトムの言葉をさえぎった


p38.契約を結ぶ場所として、トムはシアトルでも有名なシーフードレストランを予約してくれていた。しかも、アールジェイを伴い正装で現れた彼は、懐に高級な「モンブラン」の万年筆を2本、忍ばせていた


p40.このとき私とトムがわずか3ページの契約書しか交わしていなかったことが上場後に大きな問題を呼んだ


p66.それが学校の先生や親に見つかって、大目玉をくらってしまった。これがアメリカだったら、彼は逆に誉められていたかもしれない。自分のアイディアで始めたビジネスでカネを稼ぐことは、たとえ子供であろうと素晴らしい


p98.一方の私には、信仰はない。その分、悲しみも自分で消化するしかなかった。私はこう考えようと努めた。(弟は自分のなかで生き続けている。私が楽しく人生を歩むことができれば、弟も一緒に喜んでくれる。弟は自分の運まで私に与えてくれているのだから、仕事だってうまくいかないはずはない)


p101.とにかく銀行の仕事においては、何においても同一行動が求められるのだ


p105.「支店長に許可されたからといって、車を使うのは遠慮がなさすぎる。20代の若造を乗せる運転手さんの気持ちにもなってみろ」そうした私への非難が次々と聞こえてきた。余談だが、当時の運転手さんとは仲が良く、今でも年賀状をやり取りしている


p107.「松田くんは、挫折というものを知らないだろう。挫折もなしに支店長代理に昇進すれば、部下の気持ちもわからない上司になってしまう。キミはいずれ、同期のなかではトップで支店長代理へと推薦される人間だ。その前に、同じ仕事で苦労している奴もいると知ってもらいたかった」呆れるしかなかった。相談もなしに数字を改ざんしておいて、何という言い草なのか


p126.私はまず、必要額の半分に相当する3,500万円を、自分で調達しようとした。そう考えたのは、銀行員としての経験からだった。企業のプロジェクトに融資する際にも、半分を企業が自前で出すとなると銀行に対する印象が良いのである


p131.税関を通過する苦労を味わっているだけに、HIVを引き起こす非加熱製剤や、最近でも狂牛病にまつわる「肉骨粉」が日本で問題となったとき、私は腹立たしくて仕方がなかった。コーヒーカップは隅から隅まで検査しておきながら、なぜ人間の体に入るものを見過ごしてしまうのか


p141.フェローに対しても、コーヒーの入れ方と同じくらい、お客様との会話が大切なのだと強調し続けた


p145.シアトル出張の際には必ず、街のサンドイッチ屋を回って、うまいと思った品物を日本に持ち帰る。そして成田から会社に直行し、待機してもらっているサンドサンドの社長にサンドイッチを渡し、すぐに同じものをつくってもらうのだ


o156.「何を言っているんですか!タリーズが世界で一番おいしいコーヒーを出しているお店ですよ。シアトルで大人気になったように、日本でもいつか必ずナンバーワンになりますよ!」


p173.タリーズでは全社員にストックオプションを導入し、他者に先駆けてアルバイトにまで広げている。独立を目指すフェローたちに、資金的な協力ができればと考えたからだ


p190.従来の日本企業では、創業者が上場後も過半数の株式を所有し、会社を支配し続けるケースが珍しくない。だが、私は企業の経営者と所有者は別であるべきだと思う。たとえ創業者が経営者を兼ねていようと、株主から罷免される緊張感がなければ、健全な経営は難しいのではなかろうか


p193.いつもどおり、私は張り込みから始めた。陣取った場所は、道を挟んで物件の反対側にあるコーヒーショップ。そこから数日間、通行人を数えてみる


p195.神谷町のリピーターと親しく会話をしてるなかで、私は何度かスカウトされたこともあった。「英語が話せる元銀行員」ということで興味を持ってくれたらしい。「コーヒーショップの店長」と「銀行マン」に、果たしてどれほどの「差」があるのだろうか。コーヒーショップの仕事にだって、私は銀行で働く伊所言うの夢は抱けると信じている


p200.三井物産と関係の深いコーヒー会社にも、店舗への出資を提案した。だが、同様に拒否されてしまった。これで彼らにも、反対する理由がなくなった


p204.彼女のことを書き記すのは、六本木で失敗した責任を彼女に転嫁するためではない。出資者に言われるままに出向を受け入れてしまった私の失敗例として、読者に参考にしてもらいたいのだ


p206.私は東京から片道1時間以上もかかるNサービスの事務所に30回以上は出向くことになった。そして、数え切れないほど頭を下げた。とにかく役人体質が強く、自分が世の中で一番偉いと勘違いしている人たちばかりなのである


p208.事業が伸びきった会社が上場しても、どれだけ株価に期待が持てるだろうか。投資家に高い値段で株を放出して得をするのは、多額の資金を調達できる会社側、「創業者利益」を享受できる創業者、それに引受手数料の入る証券会社くらいではないか


p225.「マクドナルド」だけが大成功して、「バーガーキング」は無残な撤退に終わっている。その理由は、バーガーキングが大手資本と組んで日本に進出を試みたのに対し、マクドナルドは「藤田商店」を率いる藤田田という当時、無名の経営者だった人物に期待したからなのだ「ダンキンドーナツ」と「ミスタードーナツ」にも同じことが言える


p230.5億円というのは、上場時に調達した資金にも匹敵する。しかし、タリーズジャパンが次のステージへと上るためには、この2つの権利は必要不可欠のものだった。これからは、自分の目の届くところで最高級のコーヒーを焙煎し、最も新鮮なうちにお客様に届けることができるのだ







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