渡部昇一「知的生活を求めて」講談社

公開日: : 最終更新日:2012/02/10 書評(書籍), 渡部昇一



先日読んだ”渡部昇一・林望「知的生活 楽しみのヒント」PHP研究所”の対談中、渡部氏が「古希を迎えたら自分の健康法を本にするのでここではコメントしない」とした部分があった。私にはこれと心当たりがあった


本書の内容は健康法にとどまらないが、それがメインであるといっても過言ではない。胃腸の弱い私は、この本が書店に平積みになっていた当時、オロナインがどうした、パンラクミンがどうした、エビオスがどうした、という部分だけ書店で斜め読みして、結局購入しなかった


遅ればせながら、いま読んだ。自分も若い頃からそれほど体が丈夫なほうではないので、頷きなら読むところが多かった。この本も初版から6年も経って書店ではもう買えないのだろう


印象的なのは、氏が私小説のように自分のことを多く書いていること。小さかったころの親族、奥様との関係、子供の教育、現在の住まい。


確かに中庭のある家はよさそう。氏の”渡部昇一「知的生活の方法」講談社現代新書”における住居の項とこの本に書かれた実際を比較してみるのも興味深い。「知的生活の方法」読了以来、家を設計して建てるというのが気になっていて、”藤原和博「建てどき」情報センター出版局”を読んだり、家に関するテレビ番組を見たりしていたけど。多額の固定資産と固定負債を持つというそれだけの覚悟が、まだ出来ていないなあ




p23.幼児のときの虚弱な体質は、かえって知的な方向への発達をうながす


p29.子供のときに体が弱かった、などということは後の人生には大した関係がない


p42.理性、あるいは霊魂を持った人間と、他の動物とは根本的に異なった存在なのだ、という哲学的確信を実践において示すため、蛙を一匹踏み潰した


p57.昔の人の電気や、いまの長寿者の話を聞いたりすると、たんぱく質の摂取の仕方が気になる。シーボルトの娘は鰻が好きだった。徳川慶喜は豚を食することを好んだ。


p64.老いると「目・歯・魔羅」が駄目になると言われる


p71.私の書道の先生は、書道に関する物にくわしく、鑑定眼が秀れておられる。書道の形而下のことにも精通している先生でなく、字が上手なだけの人だったら、私がこんなに長く師事することはなかったに違いない


p78.清朝の大学者閻百詩は幼いときは愚鈍で吃音で多病、しかも生まれつきの素質はふつうの子供より劣っていた。ところが百詩が15歳の冬の寒い夜、突然、急に心が開けて清朗な気持ちとなり、それ以後、明敏無比の大学者になった。そうした例を私も何度か見てきた


p81.目の老化を防ぐ方法として実行していること:毎朝目を覚ましたときに、両手の指を左右の目の上に軽く当て、そのまま眼球を左右にぐるぐると廻すだけ


p95.ドイツ語でも英語でも、日本語から見ると不自然なほど子音をカッキリ発音しなければならない


p116.戦後は農家の天国時代であり、わずかの闇米で、それまで憧れていた都会の贅沢品を、着物でもレコードでもなんでも手に入れることができたのである。逆に言えば、都会の人たちは生きるためになんでも闇米と交換したのであった


p145.会話の声の高さは、教養と社会的階級に反比例するとハマトンも観察している


p168.新宿歌舞伎町あたりに高層ビルを建て、その何階かを老人ホームにする。映画館も、雑多な食事をする店も、バーも、ポルノショップも、1階や地階にある。そんなところに住めるなら、老人だって元気が出てくるのではないか。老人は何よりも寂しい存在なのだ


p182.これ以上に無味乾燥で無趣味な家はないという外観にし、外に開く窓は原則としてなくした。外からの雑音はいっさい入らないようにするとともに、中では勉強しようが、音楽会を開こうが、お祭りをやろうが、人殺しがあろうが、奇跡が起ころうが、妖怪幽霊の類が出ようが、外にはいっさい漏れないようにしようと考えたのである


p189.書斎ではどんな真夏日が続いていても、気温22度、湿度50%を維持するのに苦労のない密室になっている


p194.「別荘がある」という虚の喜びよりも、今住んでいるこの家を住みやすくするという実の便利さを求めた


p218.ドイツ語が話される環境におれば、どんどんドイツ語的発音になるし、英語が話される環境におれば、どんどん英語的発音になる。しかし日本にいると、言語環境がガラリと変わるから、毎日外国語会話が下手になってゆく気がする


p234.英会話重視はよいが、教科書で会話がうまくなるのは不可能に近い。本当に英語を高いレベルでマスターしようと思えば、旧式とも言える訳読法やら、文法重視の英作文が絶対必要


p236.英語を読む力が落ちたことを怒りかつ嘆くのは、「河合塾」の人気英語講師である豊島克己氏である(月間「Verdad」1997年6月号)。「4、5年前なら、かろうじて駒沢程度だった生徒でも、今は堂々、早大生ですよ」


p250.私の場合のような一種の強制的なステップ・アウトもあったわけだが、そのほか当時多かったのは、肺結核になって1年から数年の間、ステップアウトした人たちだった。彼らの中には、後に優れた小説家や批評家や学者になった人が、私の知っているだけでも実に多いのである。今は昔よりずっと人生が長くなった。ドロップ・アウトでなくステップ・アウトを考えてみてもよいのではないか


p253.アメリカでデグリーをとった男は、私の知る限りみな”右翼的”である。若いころに外国生活体験がない人たちの中には、官僚として、あるいは政治家として偉くなってから外国に何度も出たことはあっても、平均的アメリカ人のセンス―国益重視で、日本で言えば”右翼的”考え方―が国際的には普通なのだ、ということが実感できない人が少なくない


p262.すべての点で動物より肉体的に劣った人間が、すべての点で動物を超えるようになったのはなぜか。自分の弱点を知って、それを補う工夫を重ねたからにほかならない。人類の歴史を繙く雄大な話になるが、個人の生活史においても、弱点の自覚と対応が重要なのだ。自分の人生を振り返ってみると、よくわかるような気がする


p277.私は故・三石巌氏の分子栄養学の諸著書を繰り返し読んで、十分納得した。胃や腸の粘膜は2、3日で廃棄されて新しいものになるという。廃棄される粘膜も、新しい粘膜も、たんぱく質でできている。つまり、胃腸の粘膜が新陳代謝をするには、アミノ酸が必要なのである


p294.私は祖母の生家ではみんなからずいぶん可愛がってもらったが、どの夫婦の「ヘヤ」にも入れてもらったことはない。中を見たことがないから、どういう造りになっていたかも知らない。それは完全なプライヴァシー―そんな言葉は知らなかったが―の保たれた空間であった。貧しさの標本みたいに言われている東北の山村でも、それだけの生活の知恵があった。だからこそ、家族制度が保たれたのだと言える


p307.真向法を創始された方は、赤ん坊にできることが、大人になると体が硬くなってできなくなることに注目されたと聞く。確かに、赤ん坊の体は柔軟であり、老人は硬く、死ねばそれこそ死後硬直をする。鈴木・元東京都知事は80歳でも真向法ができたというが、今はどうしておられるだろう


p314.幸田露伴の説く「逆順入仙」は嘘ではなかった。肉体を60歳を過ぎてから30代の若者より柔軟にすることもできるし、記憶力も青年時代よりもずっとよくすることができる。しかるべき栄養を摂りながら、無理をせずに鍛え続ければの話である




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