城下賢吾「短期取引の弊害(十字路)」日経平成17年11月4日夕刊

公開日: : 書評(新聞)

筆者は山口大学経済学部教授という。個人投資家の株式投資のしかたについてのコラム。端的に言って意味不明。教授という地位にある人の著作なんだから、おそらくは、このコラムの字数制限に錯乱してしまったか、多忙でゴーストライターに書かせてチェックもしていないとか、そういう事情があると忖度
・個人投資家は株式投資において頻繁に売り買いを繰り返すようになった。運良く予想通りの相場展開となったとしても、これでは取引ごとにコストが膨らみ、せっかく獲得した収益にも課税される…売買が頻繁であることから手数料等の取引コストが多く発生するところまでは、一般論として同意。しかし、後段がぶっきらぼう。おそらく筆者は、現状で個人投資家には含み益に課税されないのだから課税が繰り延べられる、と言いたいのだろう。この表現ではこれを伝えられないばかりか、誤解を与えないか
・株式の値上がり益が生じてもそのまま忍耐強く持っていた方が収益が増大する可能性が高いケースは少なくない。にもかかわらず、個人は含み益が出ると、すぐに売却して新規に他の株を買う傾向がある。反対に、相場の読みが外れて損失が発生した場合、そのまま持ち続けると、さらに損失が拡大する可能性もある。しかし、多くの場合、個人は含み損を抱えるとなかなか売却できない…この部分には同意すると書いておく。最近はこのことが結構言われていて、土曜日経で特集されたこともあった記憶がある
・結局、お勧めの投資はリスクを抑えたインデックスファンドのような資産を長期的に買い持ちする運用になる。必要なことは個別企業の詳細な分析ではない…うーん、ここで話が飛躍して理解不能になる。すなわち、含み益ですぐに売却することへの訓戒としては、株価が上昇している間はそのままじっくり持っておけ、となるはず。具体的には、下がり基調が鮮明になってきたころに売却することを念頭に、「高値から何パーセント下がったら」とか、または「高値から一定期間が経過して高値更新しなかったら」などという条件付きで利益確定を企図すればいいはずだ。要は、利益が十分に取れたとの主観から拙速に主観的判断から利益確定を図ることに対する戒めになるような客観的な機会を準備する。これが素直な対応策となるはずだ。同様に、逆に損失が発生した場合には、含み損を心理的に受け入れがたい個人投資家が、その銘柄で負けたことになりたくないなどと、気持ちの切り替えができず塩漬けにしてしまうということだから、対策としては、よく言われるように「もしポジションがなかったら現段階で同銘柄を買おうと思うか」というテストを実施してみるとか、一定の水準まで損失が出た場合には、当初の目論見と異なる現実なのだから、それは失敗として、自動的にいったん手仕舞いする、という規律を持った投資を行うというのが処方箋となる。心の問題は、「全勝はできない」などの当たり前の経験的事実を当たり前に理解して、含み損とその実現との差異を理解し、それらを実態以上に否定的に捉えない修養を積むべきだ、ということで処理が可能である。ところが著者は、個別株の投資判断を放棄するという突飛な出口を見出してしまっている。インデックスファンドを保有するというのは、アクティブ運用への懐疑によるもので、効率的市場仮説とか、「敗者のゲーム」的な発想なのだろうが、これはこのコラムの前半部分で展開された行動ファイナンスの論点とはまた別の話だろう。かつ、インデックスファンドが持つ現在の問題には触れられていない。個別株式への投資のどこがいけないのか
・必要なことは、市場参加者が自分の取れるリスク許容度に応じて安全資産とリスク資産をいかに配分するかである。これは退屈な作業であり、知的興奮を覚えることもなければ、賭け事のような楽しみも与えてくれない。とはいえ、時間はかかるが、確実に資産を形成する可能性が最も高いやり方ではないだろうか…さて、またここで主張が飛び跳ねているようだ。著者がインデックスファンドを推薦した理由は上に引用したとおり、「リスクを抑えた」というところにあったのではなかったのか。しかしここで、そのインデックスファンドが消えてしまい、リスクの配分が結論になっており、迷走している。リスク資産とは何かもわからない。筆者のこの結論が「確実に資産を形成する可能性が最も高い」というのも説明がなされておらず、理解できない
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