中島義道「私の嫌いな10の人びと」新潮社

公開日: : 最終更新日:2012/12/31 書評(書籍), 中島義道

著者の著作を読むのは初めてだが、結構な人気があるらしい。確かにそのような香りのする本である
面白い。久しぶりに本を読んで声を出して笑ったと思う。ニヒルな笑い。オスカー・ワイルドを思い出す。皮肉で痛快な指摘
そして実際の著者の滑稽な行動。例えば、女性独特の鋭い質問「奥さんを愛していないのに何故結婚指輪をしているのか」と聞かれて、怯んでとっさに「指から取れないからだ」と答えちゃったり。笑っちゃう。
主張はいちいちご尤も。こういうことを考えるだけでなく、実際に発言し、行動してしまうところに頭が下がる。でも、自分も発言はしているように思うし、行動も一部やっているという自負はあるかな、と思う。不遜にも少し同類意識を持ってしまった
こういう正論を吐き、一見不器用に生きる人は、意外と周りが面白がって大事にしてしまうので、外野が心配するほど排除もされないものだ。そして著者も大学の学部長になってしまったという。書かれていることが本当なら、こういう生き方って参考になる
自分の見立てとしては、少量なら薬になる毒だけど、ちょっと分量が大目かな、という感じ。自分は普通の一市民だ、と潜在的にでも思っている人が読むときは、心の準備をしたほうがいい
個人的には、著者の別の著作も読んでみたくなった。とくに「うるさい日本の私」なんか、タイトルだけで半笑いになってしまう

p32.私は歌舞伎役者に、市民としての道徳性などまったく期待していないので、このくらいのことは何ともない。しかし、ほとんどの市民は違うのですね。歌舞伎役者に普通の市民以上の道徳性を期待するんですねえ。舞台の上では、年がら年中あんなに不道徳なお話をあんなにみごとに演じているのに!
p37.こうして、すぐさま「こころ」を求めるこの国の商人道徳に、私ははなはだ違和感を覚えます。商売人は、第一によい商品とよいサービスを提供すればいいのである、「温かい心」は、それを補充する意味しかもたない
p38.最近は、一人が「ありがとうございまーす」と叫ぶと、次々に店のあちこちから「ありがとうございまーす」という挨拶がこだまのように跳ね返ってくる。こういう極度に定式的な量産化された感謝の気持ちの表明には、殴りつけたくなるほどの不快感を覚えます
p52.少なからぬ学生や先生が「中島先生の文章がいちばんおもしろかった」と言ってくれましたし、中には「ほんとうのことを書いているのは中島先生だけだ」とさえ言ってくれる人もいました
p75.そのしばらく後に、福田さんとあるパーティーの席で一緒だったのですが、顔を合わせるや、あの講演のあとで女子学生3人が精神に変調をきたした、と報告してくれました
p116.それを見越したうえで、彼らは「いまのドライな世の中では、こんなことは通じないかもしれない。だが、俺はやっぱりけじめのない奴は厭なんだ!」と叫ぶ。偏屈者であるとしても、なお社会から受け入れられることをしっかり計算している偏屈者なのです
p121.一つだけくっきりとわかってくることがある。それは、「けじめだけは大切にしろ」とか「曲がったことだけはするな」とか「ひとの迷惑を考えてみろ」というたぐいのお説教は簡単に口にできないということです
p139.じつは、私は長年の日本人の生態研究により、このすべての理由がわかっているのです。お客も板前も、わずかでも「対立」を避けたいからです。私のように訴えるお客がいるはずはないし(お客も、外から店内を覗いて、あんなに席が空いているのにと思っても、「対立」を避けたいからそう言わない)、板前が意を決して「すみません、席を移ってくれませんか?」と頼んでも断られたら、それこそ「対立」が表面化してしまう。何しろ日本のお客は、店に入ったら、わがまま放題、何の指図も受けたくない。自分を王さま、神さま、絶対者だと思っている
p181.ああ、平然と「ええ、とても偉いと思います」と答えればよかった。私は一瞬黙ってしまった自分を激しく自己反省したのでした

20060528000500

私の嫌いな10の人びと

posted with 簡単リンクくん at 2006. 5.28
中島 義道著
新潮社 (2006.1)
通常24時間以内に発送します。

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