朝日新聞社編「『育休父さん』の成長日誌 育児休業を取った6人の男たち」朝日新聞社

公開日: : 最終更新日:2011/09/19 書評(書籍)



育児休業した6人の男性の文章をまとめ、最後に弁護士による男性の育児休業の解説と実際の取得者に対して行ったアンケートをまとめたものである。ちょっと古いので最後のアンケートは現在やれば結果はだいぶ変わっているかもしれない


6人の男性は当然ながら別人格なので、経験の濃淡や文章の巧拙がある。まったく感心しない話もあれば、何度も頷けるものもあった。後者の最右翼は学童保育施設の実現に奔走する人の話だ。ちょっとタイトルは眠たくなったけど


この男性の育休というのは興味があって読み漁っている。自分が興味を持つ事象の一つである、「斯くの如く形式的には決まっているんだけど、実際には誰もそのとおりにしない」という文化の身近なものの一つだからではないかな、と考え始めている。法律により、また勤務先の規則により、立派な有給休暇制度や育児休業制度があるにもかかわらず、有休をフルに消化する人や、育児休業を取る男性は少ないはずである。そして人に聞いてみるとみんな休みたいのだが、休まないのだという。これだけお膳立てされているのに。これを本当に制度として真正面から利用してくる人がこれから増えてくる。多分、昨今の少子化対策や男女共同参画社会の掛け声に背中を押されてではあるのだろうけど




p16.考えてみれば、僕は「昭和の企業戦士」と「支える妻」を父母に持つ、部屋の片付けもしないぐうたら息子だった。それがこうして育児で休職している。自分でも少し不思議だ。だから「なぜ?」と聞かれると、返答に困る。「1人目は妻が取ったから」ではどうも納得してもらえないのだ




これって、「部屋の片付けもしないぐうたら息子」が育児している、という文脈では育児に対する「オレはエライぞ」的な積極的評価が隠れていてちょっと鼻につくな。別に父による育児は偉くもないのだ




p26.20分も歩いたろうか。突然広基が振り返り、「いつまでもいつまでも、このままいけたらいいねぇ」とニッコリした。僕は泣きたいような不思議な気分になった。家族一緒のひとときを喜ぶ広基の気持ちがうれしかった。「子供は3歳までに一生分の親孝行をする」という言葉が頭に浮かぶ




すごい感情的だけど、こういう文脈って大好きだ。いいねえ。この言葉ですよ。昔忘れてしまって、思い出したかったのは(“山田正人「経産省の山田課長補佐、ただいま育休中」日本経済新聞社”




p33.「女性の方が育児に向いている」と考える人もまだ多い。だが実際に育児をしてみると「男性が育児に不向き」ということは特にない。はっきりした差といえば、男性はおっぱいが出ないことぐらいだが、女性も出るとは限らない。授乳だけが育児ではないし、よいミルクがある今では、これはたいした差ではない。育児の向き不向きは、性別の問題というより、むしろ個人の資質の問題のようだ


p52.私は4月の人事異動で後任の係長を置いてもらうように頼んだ。「復帰するときは、同じポストに戻れなくてもよい」とも伝えた。昇進は特に気にならなかった。人生は長い。今でなければできないことを選びたかったのだ。だから。「妻の職場復帰が早まる」「育児は男女共通の問題で夫婦間の負担の公平化を図るべきだと思っている」と説明した


p58.おむつ交換は、ほんとに困った。ベビーベッドを設置しているのは女性用トイレだけのところがほとんどで、男性用トイレにはない。妻と一緒のときは頼めるが、一人のときはそうはいかない。トイレ付近の廊下にベッドが置かれている場合があるが、ジロジロ見られているようで落ち着かない。公園のベンチも、同じ理由であまり利用したくなかった


p62.それでは妻が育児休業中の私はどうだったのか? 休日出勤もした。帰りが遅いこともあった。小言と持ち帰りの仕事がなかったくらいで、結局同じようなことをしていたのである。身勝手な話だが、そのときの立場で考え方が違うのだ。仕事も育児も大変で大切なことである




ここ、いつも言われるけど大事なことですね




p83.育児休業したことで「すごいですね」と言われることがある。私は「すごいこと」をしたのではない。「珍しいこと」をしただけだ。休める環境にあれば、だれにでもできる。特別な信念などない「ただのおじさん」である私にもできたのだから。娘が成長し、私が育児休業したことを知ったら、なんと言うだろう。私は「娘の感想」を今から楽しみに待っている




確かに、制度として決まっているのだからぜんぜんすごくない。しかし、大多数の人が取らないという現実がある以上、珍しい




p96.一方で、時間を見つけてはイメージトレーニングをし、「育休中にしたいことリスト」を作った。忙しくて読めなかった本を読もう、たるんできた体をもう一度鍛え直そう、大阪弁英語をもっと洗練されたものにしよう、ピアノのレパートリーを増やそうなど、盛りだくさんである




これって、山田氏のほうでは批判されていた考え方だよね。確か、男性が育休を取るというと「いいリフレッシュになるな」と言われ、女性が取るときに同じことを言うか?と展開していた。この著者も結局はほとんどそういう自己研鑽的なことはできなかった




p101.こういう時に限って、良くないことは続くもので、たまたま夕方の散歩中に、娘がいきなり大声で泣きだしたことがあった(いわゆる「たそがれ泣き」というやつである)。周りの注目を一斉に浴び、恥ずかしさで顔が真っ赤になりながら「いつもはものすごくうまくいってるんや」と、心の中で言い訳をしていた


p117.当然、育児休暇を取ると、僕の代わりをだれかがしなくてはならなくなります。「ほかの職員に迷惑をかける」という思いは、非常に心苦しいものでした。また、「僕でなければできない仕事」というような、今思えば思い上がったことも考えていました




ほんと、「僕でなければできない仕事」が、自分の子の育児なのか、多数の人間があつまって一つの目的のために協働する会社の仕事なのか、熟考すべきである




p128.「普段は抱きしめてチューをしてべたべたしているのに、少し状況が変わると、自分はこんなにも対応が変化するのか」と。後で気がつきました。特に閉ざされた空間で、子と親という一対一の対人関係では逃げ場がなく、その狭い空間が全世界のように感じられます。そこに存在する対人関係のエネルギーは外に漏れることなく、内部でうっ積していきます。「過保護」「虐待」のどちらも、現代の子どもを取り巻く大きな課題です。しかし、表れ方は違うものの、親が子へ注ぐエネルギーとしては同じもののように思います


p152.ずっと後になって「公園デビュー」という言葉を知り、なぜ私がそれに失敗したのかもなんとなく分かった。無精ひげぐらいきちんとそって、身だしなみを整えて公園へ行くべきだったのだ




人は中身があるならそれを外見で示したほうが得なときはそうしない理由がない。中身がなくてもせめて外見だけでも小奇麗にしとけってことだ。外見を軽く考えてはいけない(“竹内一郎「人は見た目が9割」新潮新書”




p159.育児自体は楽しい経験だったし、今もそれを楽しんでいる。あんな面白いものを女性たちに独占させておいて良いわけがない。そのことに男たちが気づいたのかどうか、昨今は男性も育児にかかわるようになったと言われており、近ごろどこの幼稚園でも保育園でも、行事に出たがる父親が増えているという




ああ、想像がつく。こういう風な男女平等的な参画は個人的には気持ちが悪いのだ。やっぱり合理性に基づく男女の役割分担という歴史産物への畏敬の念が、こういった考え方に軽い拒否感を覚えさせるのです。母親のホームゲームでは慎み深く、父親はちょっと半歩下がって進むようにしませんか?




p166.娘が1歳半のことだった。娘がニコニコしてやってきて、私の手を引いて階段へ連れていく。そして、2段目か3段目かに座るように手ぶりで示す。私がそれに従うと自分もその横に座り、ニコニコしている。一体何なのだろう。とりあえず、子供の横で私は座っていることにした。なんとなく分かったのは、彼女はこの階段でお父さんと座ってみたかったので、お父さんを呼んで座らせ、そして今、彼女は幸せだということであった。なぜ階段なのかは考えるのも愚かなのだろう。彼女はそうしてみたかっただけなのだ、たぶん。そう思い至って私の心に静かな感動が芽生えた。一生分の親孝行をしてもらったとすら思った。子煩悩を丸出しにしてこれを書くのは、もちろん私が親バカだからである。だが、乳児や幼児が親に全幅の信頼を寄せて幸福感に浸っている、それを実感するのは感動的な瞬間だ。どうせそのうち、子供は親に反発するようになる。長くは続かない幸福なんだから親は楽しまなくては損だ




極めて同意




p173.「仕事と子供とどちらが大事なんだ」という古典的な質問には「どちらも大事」と我々は答えるしかない。比較して優劣をつけて二者択一するような問題ではないからだ。「仕事と育児の両方ともが中途半端になってないか」という、これまた古典的な指摘に対しては「どちらかを犠牲にするよりはマシ」と答える




面白い。最初から二者択一を迫るのは先方の説得の技法だ。その土俵に乗って話を進めてはいけない。平行線になっても構わないから自分の構築した世界を説明するのだ。かつ、この記述のように素直に地面から積み上げたような論説を張れれば文句なし




p176.妻が子供を3人にしてもいいかなと思ったのは、生まれたばかりの2人目の子供の顔を見たときだそうだ。それを聞いて私は人間は変わるものだと感心した。妻は結婚前に「子供は嫌いだから、赤ん坊は期待しないでね」と私に念を押すような人だったのである。あきれるばかりの変化ではないか




これだ。「子供が嫌い」などとは実際に子を得てみなければわからない。私もこれまで生きてきて、昔は分からなかったこと、否定的であったことが、しかるべき年齢になってみると強い共感を感じることがある。最初から、若い頃から決め打ちしないで欲しい。それの連想で、話は逸れてしまうが、ワタミの社長。私はああいう立志の人物は好きなんですが、一つだけ素朴に思うのは、あれだけ手帳にいろいろ書いてしまうと、その通りに演じるだけの自分になってしまいそうで人生面白くない気がするんですけど




p182.私は「男の料理」が結構好きだし、友人を招いて大きな魚一匹をまるごと蒸しあげたり、鶏を一羽まるごと揚げたり、派手なことが大好きだ。でも、「男の料理」におぼれてもしょせんは道楽なのである。たとえば「男の料理」はおおよそ、採算を度外視する。お金をかけていい素材をふんだんに使えば、それだけでおいしくなる。それを、どうだおれが作ればこんなもんだというような能書きを垂れて人に食わせる。また、むやみに高価な道具を買ってきて、道具にここまでこだわったのだから、できるものがまずいわけがないという根拠不明の確信を持つのが「男の料理」だというのが、私の悪口である




苦笑。こういうのって多い。男は、そして多分女もそうだと思うけど、食や料理にこだわるのはちょっと下品な気がする




p199.例えば、「女がすれば当たり前の育児が、男がやるとどうして褒められるのか。女が育児を理由に会社を休むと舌打ちされるだけなのに、男が同じ理由で休むと鉦太鼓付きで騒がれるのか。どうして新聞連載にまでなるのか」ぐらいの意見は共働き夫婦から出てもおなしくないと思っていた。実は、そのように喝破した女性が数名いて、私は実に正しいと思ったのだが、それは少数派だった。現在、事態は多少改善され、育休男性はまだ珍しいものの希少価値は下がりつつある。カバ並みだろうか。どこにでも居るというわけでもないが、たいがいの動物園に行けばたいていはカバぐらいは見られるのである。もうちょっと普及して犬猫並みになれば騒がれることもなかろうと思っていたら、「これからは育児する男がゴキブリ並みに世にはびこってほしい」とある女性から激励された




この「カバ」って譬えは妙でおもしろいな




p210.さて、この4週間、何とか元気にやってこれたんやけど、ほんまに時間がたつのは早いもんで、あっというまであった




本旨に全然関係ない気づきなんだけど、なぜ、この人の文章は関西弁なのか。逆にほかの地方出身者はなぜお国の言葉を使わないのか、関西弁は本当に謎


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