金井寿宏・高橋俊介著「キャリアの常識の嘘」朝日新聞社

公開日: : 最終更新日:2011/09/03 書評(書籍)

構成が面白い。2人がキャリアに関する20の質問にそれぞれの考えで答えを出していく。読者はそれを比較しながら読み進むことができる。しかし、不思議と主張は2人とも似ているところが多い。1人では本にならないかもしれないところがこの本の肝ではなかろうか
興味深い。確かに常識が嘘という感じ。例えば、キャリアはプランするものであり、当初から慎重に事細かに作り上げていかなければならないか、と漠然と思っていたが、著者のお2人は異口同音に違うという。読み進めていくと納得させられてしまう。その内容も、いままで思ってきたキャリアと比較すると肩の力が抜けていて安心もしてしまったりする
そこでまた思い出してしまうのは、ワタミの社長のような考え方。両方から相手の考え方についてどのように捉えたらいいのか、質問してみたい

p16.(金井)もし、いまキャリアをなにかに喩えるなら、旅がいちばんぴったりくるような気がする。それも用意周到にスケジュールを立てた隙のない旅行ではなく、なにがあるかわからないけど、とにかく行って自分の目で見てこようという旅だ。本当のところは行ってみないとわからないというのは、不安なことかもしれないが、逆にだからこそわくわくするし、気分しだいで自分の好きなように歩き回れるという自由が生まれるのである
p18.(金井)要するにキャリアというのは、すべてをデザインする必要はないが、節目だけはきちんとデザインしなければならないというわけだ。言葉を換えれば、節目さえデザインすれば、あとは流れに身を任せ、偶発性や不確実性を楽しめばいいのである
p22.(高橋)5年後のキャリアゴールを決め、いまやるべきことを逆算するという考え方は、一見、合理的のようだが、未来が見えないのに、ゴールだけが見えるはずがないのだから、合理的どころか、見えないゴールから逆算するのは、かえって危険ですらあるのである
p27.(高橋)ブランドだけが一人歩きしてしまっている職種もある。その典型がキャビン・アテンダントである。本来はホスピタリティ・ビジネスなのに、キャビン・アテンダントと呼ばれると、そこには高級な職業のイメージが付加される。ときどきびっくりするほど無愛想なキャビン・アテンダントに出くわすことがあるが、そういう人はまず間違いなく、このブランドイメージに憧れて入社した口だ。実態を知らずブランド名への憧れだけで就職をすると、本人のプライドは満足するかもしれないが、客や会社から支持や評価はされないから、結局は本人にとっても、しあわせなキャリアとはならないのである
pp30.つまり自分の仕事が尊敬されていないのが我慢できないというのだ。そこでクランボルツ博士は、今日から冷蔵庫のセールスマンと言わず、名刺に「コールド・ストレージ・コンサルタント」と刷り込むようにアドバイスした。以来、彼はたいへん満足してそれまでと同じ仕事を続けているという
p44.(金井)ジャック・ウェルチはCEOの仕事の75%は人に関わることだと言った。だが優秀な経営者は、そういう出会いや会話のなかから次々と新しい仕事のヒントを見つけ、それらをビジネスに発展させているではないか。つまりそういう人は、ビジョンがしっかりしていて、戦略があり、プライオリティが明確なら、過剰に設計して行動するよりリアクティブでいたほうが、より多くの「よき偶然」や「思わぬ掘り出し物(セレンディピティ)」に出会えてビジネスチャンスが広がるということを、ちゃんと知っているのである。逆にこれしかないと、一度決めた目標にしがみつき、変化を好機と考えることができない経営者を頂いているようでは、その会社の未来はかぎりなく暗いといわざるを得ない
p55.(高橋)そこで一次試験の採用基準を下げ、一次試験通過者には専門書を渡し、2週間後にその本の内容で二次試験を行うというやり方に変更した。ここでおもしろいのは、単に二次試験の成績上位者ではなく、一次試験と比べ点数の伸びが大きい人を中心に採用した点だ
p83.(高橋)次のフェーズに移行するのを待っている間は、正直いえばあまり気持ちのいいものではない。人によっては毎日うじうじしながら、1年も2年も待たなければならないからだ。とにかくそれが節目だと思って、ここはグッと耐えてほしい。ここである程度自分に自信がある人なら、次の就職先を決めずにいまの会社を辞めて、しばらく無業という状態に自分を置き、次はどのギアに入れるかじっくり考えるのも、決して悪いことではない。私自身もマッキンゼーを辞めた後、半年間のギアチェンジ期間をとり、そのうち最初の3ヶ月間は夫婦でバックパッキングをしながら世界を放浪した。その間に裸の自分を見つめ直し、またいろいろな人に会って見聞を広げたことが、それから後のキャリアや人生にずいぶんプラスに作用したのはいうまでもない
p96.(高橋)いくら集中して専門性を磨いてきたことをアピールしても、それはあなたの希少性を証明することにはならないし、差別化も図れない。ある分野でその人の価値を決めるのは、専門的なスキルをどれだけ蓄積してきたかではなく、専門的スキルに関係ない経験を、それだけ経験してきたかなのである。なぜなら幅広い経験の持ち主ほど、その経験を売りにして、人との差別性をアピールできるからだ
p141.(金井)盗むというのは反社会的どころか、どの社会でも明確な違法行為だ。自分のやっていることが社会に一切貢献せず、誰からも尊敬されないことだとわかれば、そこに意味や価値を見出すことはできない。普通の人間はそんなことを長く続けることはできないし、できても苦痛を感じるだけだろう
p158.(高橋)たとえば突然、中国転勤を命じられたら、あなたには中国人相手にうまくリーダーシップを発揮して、ビジネスを進められる自信があるだろうか。もし言葉が不安だから自信がないというのなら、その人は言葉ではなくリーダーシップに自信がないのである。海外勤務がうまくいくかどうかに、語学力はそれほど関係ない。それよりも重要なのは、語学習得能力であり、コミュニケーション欲求のほうだ。現地の人の話を聞きたいとか、自分の意志を伝えたいという欲求が強ければ、その人は地元の従業員にどんどん話しかけるだろうし、相手の言葉に必死で耳を傾けるから、たとえ最初は片言しか話せなくても、そういう人はすぐに現地の言葉を習得してしまうのである。それからもう一つ、語学力以上に意思疎通に欠かせないものに、論理的説明能力がある、どんなに流暢に喋れても、中身が論理的でなければ相手に伝わらないのは、母国語だろうが他国の言葉だろうが関係ない。逆にロジックさえしっかりしていれば、基本的な単語だけでも言いたいことは十分通じるというのも、やはり世界共通なのである
p168.(金井)プロフェッショナルというのは、いくらスキルという道具をたくさん持っていても、その道具箱の中身が十年一日のごとく変化しないようではダメなのである。威力を発揮するのは、ここぞというとき必要な道具はなにかを判断し、すぐさまそれを用意できる能力のほうだ。それが真の意味での専門性なのである
p173.(金井)一橋大学の米倉誠一郎教授によると、清水の次郎長は晩年、「あっしのために死ぬと言った子分は一人もいなかったが、あっしは子分のためならいつでも死ぬ覚悟があった」と語ったそうだ。次郎長親分は面と向かって忠誠を求めるような野暮なことはしなかったが、なによりも子分のことを気にかけていた。一方、子分はといえば、もともと渡世人というのは流れ者だから、いまは次郎長一家に身を寄せていても、ほかに条件のいいところがあれば自由に移れたのに、森の石松も大政、小政もそうしなかった。そんな心根を持った次郎長親分を心底慕っていたからだ。これが本当の忠誠心だというのである
p202.(高橋)企業はいつだってお金にはシビアなはずだ。それなのに労働者に対して「お金のために働いているんじゃない」という態度を強制しようとするのは、どう考えてもフェアではない。労働者も、自分の働きに相当する正当な対価は、堂々と要求すべきなのである。もちろんなにが正当かは、会社と労働者で見解の分かれるところではあるが、それでも「お金のために働いているんじゃないから少なくていい」と支払う側がいうのは筋が通らない

20060813004100

キャリアの常識の嘘

posted with 簡単リンクくん at 2006. 8.13
金井 寿宏著 / 高橋 俊介著
朝日新聞社 (2005.12)
通常2-3日以内に発送します。

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