小堀宗慶「感情抑えきれず慟哭(私の履歴書)」日経平成18年8月30日朝刊

公開日: : 書評(新聞)

日経朝刊の「私の履歴書」で、これだけ心を揺さぶられたものは、終ぞなかった。肩書きと名前だけ見ると多分敬遠したと思われる今月でも、その毎回のタイトルから尋常でないものを感じて、チラ見すると有無を言わせず引き込む魅力ある文。いうまでもなくその多くはシベリア抑留時代の記述
著者のさまざまな知識・経験を生かして生き延びてきた模様もアツイものがあった。食料の確保のこと、ノルマの達成のこと、絵描きの心得のこと、出自から来る自己批判の要求のこと
この日は、それがクライマックスで30年ぶりのシベリア訪問で著者が、その職に似合わず、激高するのだ。さもありなん、と強い共感

・ついにイルクーツクの、針葉樹に囲まれた日本人墓地での法要で、こらえることができなくなった。一人私は立ち上がり、亡き戦友たちに声を限りに呼びかけずにはいられなかった。「なつかしい戦友よ、私は30年ぶりに、やっと君たちに会いに来た! 遅くなって悪かった。どうか許していただきたい」「私は昨日、世界第二ともてはやされるブラーツクの水力発電所を見せられた。そのダムの底には、我々が切歯扼腕しつつ働いた捕虜収容所が沈んでいるという。湖底をのぞき、我々の血と涙と汗で築かれた発電所を前にして、戦友よ、私がいかなる激情に襲われたか、察して下さい」「戦友よ、君たちの死は決して無駄にはしないからどうか安らかに眠って下さい。君たちの子々孫々は君たちに代わって頑張っている。戦友よ、魂魄となって日本をお守り下さい」。涙があふれ出、慟哭の余り声が出なくなった

歴史や文化を知る者ならば、「小堀」という姓が示す意味を理解するだろう。しかし、その切り口からの記述は振り返るとそれほど多くなかったと思う。裏読みすると、「日経もこういう人を8月に持ってくるものだ」と少しイヤーな感じはした
なお、今月をもって日経の定期購読を止めることとした。メリットがどんどん薄まってコストに見合わないと考え出したことによる。珍しく、今月は私の履歴書も朝刊と夕刊の連載小説もすべて読んでいたのに
直接的なきっかけは、週刊東洋経済の8月26日号の記事に影響を受けたということは否定できない
3ヵ月毎の契約更新をしており、一応、契約自体は9月末まであったのだが、最寄の販売店に電話したところ、あっけなく了承され、そのために経済的なデメリットは特になさそうだった。その程度のものなんだなあ。まあ、「転勤で」ってバレないウソをついたんだけど
住民税もたくさん払っているのだから、それが応益でありたいと思う私としては、公共図書館に通って、月に一度くらいは、大樹小機とか、私の履歴書とか、チンギス・ハンや天海の連載小説をまとめ読みするのだろう
これで新聞を定期購読しない者という先端者の仲間入りをしたのだなあ
20060831000100

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Comment

  1. 白ゆり姫 より:

    小堀宗慶は当代の茶人としては、大変に尊敬を集めている方です。私は別の流派ですが、お家元のさまざまな本を読んできました。中でも茶花の本はバイブルのように、ずっと愛読というか、参考にしています。そしてシベリア抑留の話は有名で、折にふれて語られています。気骨のある方なので、読みごたえがあると思います。一読をおすすめします

  2. Max より:

    白ゆり姫さん、コメントありがとうございます。茶っていうのは座禅とともに、いまちょっと興味を持っているんですけど、勝手に思っているんでしょうか、なかなか入り込めない精神的な壁を感じています。俗な考えかもしれませんが、茶の大家にしてはなんというか硬い人間臭そうな感じを、この「私の履歴書」を読んで思いました。「気骨のある方」という評もその辺かと思いますが、変な予断を持たずに紹介いただいた本を探してみようと思います。

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