金井寿宏「仕事で「一皮むける」」光文社新書

公開日: : 最終更新日:2012/02/03 書評(書籍)



過去に読んだ“金井寿宏・高橋俊介著「キャリアの常識の嘘」朝日新聞社”で紹介されていたことから興味を持って、読んだ。あ、両方とも同一の著者によるものだ


前書きを読む。これは関経連の関係者の力があって集められた経験を記録したもののようだ


次に巻末に本書で取り上げた「一皮むけた経験」のリストを眺める。転勤で海外や未知の職場または新しい業務分野開拓という横の異動をしたとき、昇進や降格などの縦の異動をしたときに感じたものが多い。人事部に所属したときの経験が目立つ


これって、関西エスタブリッシュメント企業の長が、内輪での自分の職歴を振り返って成長したと思うイベントを聞き取って集めたもののようだ。だから転勤や会社のインフラを使いながらの新規ビジネス開拓はある。しかし、ゼロの状態から就職したり起業したりということについて触れられていない。人事部の経験など見ても、人事部が理解不能な権力を持っているような旧い会社の中でのものなのだ、と皮肉ることもできそうだ


事例も小さいなあ。社内研修のノリだ。あくまで社内という枠がある。飛び出すという選択肢はない


読んでいて退屈になってしまうのは、やっぱり、関経連に気を遣っているからだろうか


発達心理学がベースになっているので、マズロー、エリクソンなどの名前が出てくる。この辺は図らずも、保育士試験で勉強したことの復習となったものだ(“改定・保育士養成講座編纂委員会編「改定・保育士養成講座2006第3巻 発達心理学」全国社会福祉協議会”参照)。全然違うところから同じ分野へリンクが来ているというのは面白いな




p16.C.G.ユングは、40歳間際を「人生の正午」という、限りなく美しく、かつ寂しくもある言葉で形容した。人生の午前から午後への変極。成長から成熟への転換点が38歳~39歳で、「40歳から本当の個性化がある」と、ユングは言っている


p20.本書では、会社組織内の異動や配属をきっかけにした「一皮むけた経験」、「一皮むけたパーソナル・ヒストリー」が語られている


p76.このひとは、シカゴ事務所開設のときに、その後のキャリアに影響する重大なことを学んでいる。開設パーティの日が指定されていたことからの教訓だ。「今でも日を覚えているが、5月12日に日本からトップがくることになっており、これは大変だった。準備期間が2ヶ月ぐらいしかなく、とにかく400人ほど集めないといけなかった。イリノイ州政府やシカゴ市の各省庁、各企業を回って、『何でもいいからとにかくきてくれ』とお願いした。何とかきていただいたが、本当に大変だった」




これって、自分の上司が坐るからと、列車の自由席で他の乗客に席を譲るように依頼したり、社長が乗るからと六本木ヒルズの公共のエレベーターで他の利用者に別のエレベーターに乗るように依頼するのに似ているような気がする。それを経験することはトホホ、ということだけのような気がするが、これが「現場に聞かずに、日を勝手に決めるというのはやめないといけない」という、重大な学びなのだったという。なんとも




p93.ちょっと残念なところもあるが、ある大企業の人事担当者からこんな話を聞いたことがある。その方は、「何を学んでくるのか知らないが、慶應大学のビジネス・スクール卒業者や神戸大学でMBAを取ったひとよりも、ペンシルバニア大ウォートン校とかハーバードとかMITなど海外のビジネススクールから帰ってきた人間は一皮むけている」と語ったものだった。それはプログラムの内容の違いだけでなく、海外で日本を代表するような場面がもたらすプレッシャーという違いにもよる


p212.「当時の関経連の上司からは、『人間は呼吸が大切だ』ということを教えられた。この上司は、毎朝声をかけてくれたが、文章を書いている途中に声をかけられて、『~であります』と区切りまで書き終えて立つと『遅い』といわれる。しばらく経って、今度は『~でありま』まで書いて途中で立ち上がっても『遅い』と言われる。その声をかける理由というのが、たいていコーヒーを飲みにいこうと誘うような些細なものだったので、そこまで何度も注意する理由を尋ねたところ、『人間は瞬間に何かしたいと思う生き物であり、その瞬間を掴まえなければ駄目だ』と言われた」


p231.アメリカではたばことビスケット会社の社長だったルー・ガースナーがIBMの経営者に就任した。その理由は、(就任当初こそ「ビジョンなどない」と言って周囲を驚かせたが)戦略発想で正しい絵を描いて、ひとを巻き込み、引っ張ることのできるリーダーシップにより、会社を再建してきた実績にある


p235.ここで指摘しておきたいことは、本書を読んでもその(読書)経験で一皮むけるわけではなく、読書や座学は「一皮むけた(仕事)経験」にカウントできないということだ


p245.本書でたびたび取り上げたキャリア研究の第一人者エドガー・シャインは言っている。「自分を探そう、探し続けよう、いくつになっても学習だよ」




この「自分探し」っていう言葉、軽薄や無知な人からは好んで使われ、そうでない風を吹かせたがる人はあげつらって嫌うものだ。どちらも正解ではないと思う理由が、この文章で明確になった気がする。前者は、ある一時期だけ「自分探し」して、理想の自分というゴールインをイメージしているからおかしいのだし、後者は人の真面目で素朴な努力そのものを否定するかのような虚無的な物言いだから違和感を感じるのだ


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