手嶋龍一・佐藤優「インテリジェンス 武器なき戦争」幻冬舎新書
実は諜報関係の話は好き。こうやって気になるところをメモしていると、佐藤氏の発言のほうが圧倒的に多いなあ
この幻冬舎新書も始めたばかりなので、なかなか読み応えのあるものを最初に持ってきたという感じがする。任天堂の新しいハードが出るときも同時に発売される任天堂製のソフトは力が入っていて面白いのと一緒だ
引用されている本を読んでみようかと思った。また、積読になっている本のなかにも近い内容のものがあるはずだ。こういうのをキッカケに読書を展開させていきたい
p4.(佐藤)秘密情報の98%は公開情報を再整理することによって得られるという
なんか別の本で読んだことがある。確か渡部昇一氏の本でイギリスの諜報機関がやっていることが新聞の整理をすることだ、というコンテクストでの言葉だったような。カネやコネのない人間にも勇気付けられる話だ
p33.(手嶋)最初の頃はまったく手も足も出ませんでした。そんなある日、佐藤さんのサーシャにあたるような人物から、突然電話がありました。アクセントは明らかにブリティッシュ。会ってみたのですが、向こうは誰から頼まれたなどと、野暮なことはひとことも言いません。私は、「ああそうか」と膝を打ちました。それは情報の金鉱脈でした。ひとたび地下水脈に入っていくと、人も情報もめくるめくような、といっていいほど豊穣でした
p36.(佐藤)お金が止まった瞬間に、スパイとしての関係は終わりなんです。ですから私は、ゾルゲというスパイにとって、メインはあくまでもドイツであり、ソ連のほうはアルバイトみたいなものだったと見ています
p41.(佐藤)死刑というのはゲンを担ぎますから、たとえばいわゆるA級戦犯の死刑は当時の皇太子の誕生日、12月23日に行われています。ロシア人を処刑するなら、革命記念日が一番ゲンがいいんですよ。だからゾルゲも昭和19年の11月7日に処刑された
p52.(佐藤)私がそう言ったら、検察官も「そうだよな」と納得していました。「それにしても外務省はひどい組織だな。そんな話が聞こえてきたら、こっちは全部調べなくちゃならないんだ」とボヤいていました
検察官に同情。言われたらそのまま確認を求められるが、言ったほうは言いっ放し。しかし、そういうことは覚えられていて、信用毀損として、あとで必ずしっぺ返しがくる
p54.(佐藤)ジョージ・オーウェルの『イギリス人』というエッセイ集に、こんなエピソードがあるんです。第2次世界大戦中、空襲にさらされたロンドン市民が地下鉄の駅に逃げ込んだ。しかし、そこはもちろん防空壕ではありません。そこでどうしたかというと、みんな最短区間の切符を買って、整然とホームに下りて行く。緊急時にもかかわらず、誰ひとり秩序を乱さないし、動じない。しかし胸の奥では、「よくもやったな」「覚えていろよ」という、ドイツ軍に対するたぎるような思いを燃やしていたのだ―というお話です。これを「ジョンブル魂」というのかもしれません
イギリス人の、いかにも、という感じのエピソード
p57.(手嶋)米国では、少なくとも建前上は報道の自由という大原則が貫かれています。検閲が行われることも、表向きはない。もちろん英国でも、当然のことながら報道の自由は法律上の権利として認められています。しかし、国のセキュリティやインテリジェンスにかかわる部分では、隠然たる報道規制が行われている。この事実は、政府はもちろんジャーナリズムの側も決して公には認めない暗黙の了解事項なのです
p61.(佐藤)もう一つ重要なのは、人脈づくりです。英語科もあって、中東やアフリカから将校などを受け入れていたのですが、どうみてもまともに勉強している雰囲気ではない。事実、オマーンの将校は「イギリスは僕らに本気で英語を覚えさせようとしているわけではない。楽しいイギリス生活を送らせれば、それでいいんだよ」と言っていました。つまり、英国に好印象を持って本国に帰ってもらい、いざというときには、そこで築いた人脈をフル稼動させるということです
p68.(佐藤)ロシア人は謀略で嘘をつくことがあります。イギリス人もやる。だから、もしイギリス人が「確証がある」と言い、ロシア人がそれに話を合わせていたら、私は最後まで疑います。しかしアメリカ人というのは、病的なほど嘘がつけないんですね。嘘に基づいた行動を取ってはいけないということが、DNAに刷り込まれている
これも、いかにもアメリカという感じ。うなずく
p101.(手嶋)しかし、情報源は、国家の資産です。この局長が何らかの理由で交替したり、相手との関係が急速に悪化した場合に、公的な情報源は、そこでサドンデスを迎えてしまう。したがって、やはりダブル・チャンネルを設定したり、2番目の情報源をそれとなく用意しておくのが、外交の常道でしょう。(佐藤)おっしゃるとおりです。常に最悪の事態を想定するのがインテリジェンスですからね。さらに、情報源との関わりについてきちんと記録を作っておくことが重要です。記録を作っていれば、引き継ぎができるんですよ。インテリジェンスの友だちというのは、あくまでも仕事の上の友だちなんですよね。後任者に引き継ぎが来るということは、プライベートな関係ではないということです
こういうことができないのであれば、何であれプロではない。それほど属人主義とはいけないものだ
p122.(佐藤)だから、自分たちがやる謀略のことは「政府広報」とか「ロビー活動」と呼べばいいんです。敵がやるものを「謀略」あるいは「情報操作」と呼ぶ。やることは同じですが、印象はずいぶん違うでしょう
こういう考え方が好き。言葉の選び方だけで実際の動きが全然違うほうに発展していく。知恵を捻る必要はあるが、カネはあまりかからない
p123.(佐藤)カウンター・インテリジェンスをやる人はバックに捜査権があります。したがって、いざとなったら公権力を行使して、力によって封じ込めることができる。ところがポジティブ・インテリジェンスの人間は逆なんです。公権力を持った相手の脅威にさらされながら、ある意味ではたった一人でそれを打破するしかない
p126.(佐藤)これは交通費なんです。つまり、カネが欲しくてやったことじゃない。では何のためにやったかといえば、彼らには認知欲というものがあるんです。高い技術を持っている人たちほど、必ずしも自分たちが正当に評価されていないという意識を持っている。国際的なインテリジェンスの連中から見たら、そういった技術は軍事転用できるので、欲しくてたまらない。そういう両者の利害が一致して、この事件が起きた。しかし警察にすれば、スパイ防止法がない上に、技師たちの意識も低い現状では、この種の事件に歯止めがかからなくなるおそれがある。そこでこの事件を摘発することで、「これは国際的なインテリジェンスのテーブルマナー違反ですよ」ということを周知徹底しようと考えた。こういう会社の情報を外国人に流したりすると、職も失って大変になりますよ、と世間に知らしめたわけです
p134.(佐藤)僕はそのような現状を打破したかったのです。官僚が内閣総理大臣の意向を無視するようでは民主主義の否定になってしまいます。官僚は選挙によって民意の洗礼を受けていないのですから、あくまでも政治指導部に従うべきです。私のこの感覚が他の外務官僚から見れば許しがたい差異だったのでしょう
p137.(佐藤)谷内さん個人が突然変異なのではなくて、「谷内正太郎的なるもの」が外務省という組織の遺伝子としてちゃんとあるんです。その遺伝子を受け継ぐ人がトップになれば、インテリジェンスをやれるだけの体制は作れると思う
p139.(手嶋)「勝った者は決して白い歯を見せてはいけない。なぜならば、相手側が譲りすぎたことに気づき、交渉に禍根を残すからだ」。これは欧州に伝わる格言です。谷内次官はこうした教訓に淡々と従っています
面白いね。メモメモ
p147.(佐藤)これは一種の文化だと思うんです。小学生のときから慣れ親しんできた優等生文化から抜け出せないエリート層がインテリジェンスの仕事をやっているから、こういうことになるんじゃないですか。みんな、誉められるのは好きだけど、叱られるのは嫌いなんです。でもインテリジェンスの仕事は、ときに叱られたっていいんですよ。結果として国益が守られればいいわけですから
p156.(佐藤)上海の総領事館員が中国当局から脅迫されて自殺したなら官邸に報告して然るべきなのに、それもしない。中国と事を構えるのがイヤだからです。ネガティブなことで中国と外交交渉をしたくない。仕事と私生活の双方で中国に対する「借り」が大きくなっているからでしょう。弱みを握られているヤツが外務省幹部にいるんでしょうね
p165.(手嶋)重要な交渉の経緯を記録に残さないのは、歴史への背徳です。日本の納税者に、何と釈明するのでしょう。外交官が記録を書き残し、後にヒストリアンに歴史を紡いでもらうために税負担に耐えているのですから。いくら報償費を使おうが、どれだけ高いワインを飲もうがかまわない、とすら思います。外交記録だけをきちんと残してくれるなら。(佐藤)それは、官僚の義務というかルールの大変更になってしまいますからね。それに、重要な事実を書かないような組織は、次の段階で必ず嘘の報告書を作ります。それで国民に嘘の歴史を残すことになったら、これは大変なことになる。いま外務省のモラルはそこまで落ちかけているんです
ここも良いことを言っている。テイクノートと
p185.(手嶋)おそらく李登輝は、その情報源を歴史に刻むため、事件のさわりを私に認めたのでしょう。情報界の無名戦士のお陰で、台湾海峡の波は静まった、という思いがあったはずです。それを彼の墓碑銘に刻みたかったのかもしれません。それほどインテリジェンスは国家の命運を左右するものなのです
p187.(佐藤)あのミスは実に決定的なもので、もはやインテリジェンスの世界に入ることは許されない。あのガセメール事件は、彼が入場券を失った事件だと思います。少なくとも、もう2度とインテリジェンスや安全保障には触らないほうがいい。これは資質の問題なので訓練しても直りません
確かにね。一般論として敗者復活の希望は捨てたくないが、あれはいかがなものか。面倒なのは、確かにセンスがないのに、本人はその筋に軸足を置いていると自認しているようなところ
p201.(手嶋)優秀な人材が中間研修を受けるのは良いことだと思います。というのも、いまの日本のジャーナリストの仕事を自嘲を込めて「焼き畑農業」と呼んでいるのです。燃え尽きるまで使ってポイなのですから。いわゆる中間研修、ミッドタームキャリアが、この世界には基本的にない。(佐藤)外務省も同じ構造です。入省時はみんな士気が高くて優秀なんですが、15~20年くらい経つと調子が良くなくなっちゃう。原因は研修システムにあるんです。外務省に入ると2年間の研修があり、ごく一部の人には1年間の中間研修があるんですが、基本的にはそれで終わり。要するに、大学の4年間と役所に入ってからの2年間、計6年間の学習で残り40年間食っていけ、ということですよね。これでは、インテリジェンスの世界では通用しない。たとえば主要国の情報機関の中でも知的な要素をもっとも重視しているのはイスラエルですが、彼らは常に人員の3分の1を大学や政府の研修機関、あるいは諸外国の研修機関に出している。そうやって常に知識をつけていくので、イスラエルの情報機関の分析官あたりになると、大学の教員としても十分通用するぐらいのレベルになっているんです
p211.(佐藤)映画「陸軍中野学校」の中で、教官が「スパイは偽装の職業を2つ持て」と教えるシーンがあります。実際、インテリジェンスの世界では「2つ持て」とよくいうんです
極めて興味深い。自分も同じように3つの仕事で飯が食えるようになりたいものだ、と強く思ったのは、自分がこの本を読んだ最高の気づきのポイント
p213.(手嶋)ゾルゲは泥酔してオートバイに乗ったりもしています。ふつう、スパイはそんな慎重さに欠ける無謀な行動はしない。(佐藤)たしかに自己破壊衝動があのような行動を引き起こしたのだと思います。でも、あれはスパイとしてだらしがないわけではありません。あの事故でかえって関係者の同情を引いて情報が以前よりも入ってくるようになったのですから、結果から判断するならばやはりゾルゲは、所与の条件の中で目的合理的に動いていたんです
p217.(手嶋)1987年のブラックマンデーのとき、ニューヨーク証券取引所のプレジデントは市場を閉鎖しましたが、シカゴの商品取引所は最後まで市場を閉じなかった。僕はシカゴの商品取引所のレオ・メラメド元会長にお話を聞いたことがあるんです。「どうして閉じなかったんですか」と聞くと、「私は自由な市場がどれほど大切であるかを骨身に染みて知っている。実は、私は杉原サバイバルなんです」と意外な答が返ってきたのです。彼は「命のビザ」のお陰でシベリア鉄道に乗り、日本の敦賀を経由して、曲折を経ながらアメリカに渡ったわけです。そこには、自由なマーケットが広がっていた。「これはシステムの話ではなく、私の信念なのです」と言っておられましたね
これ、そのNHKスペシャルを見た。なかなかの感動モノだった
20061217234600
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「インテリジェンス 武器なき戦争」で検索して、こちらに来ました。とても中味の濃い、面白い本ですよね。
昨日のニュースでも、日朝交渉のあっけない終わり方などが報道されてましたが、佐藤優さんだったら、一刀両断でしょうね。。。本の中でも、「日朝交渉に関わった役人が異動になったり、退職して評論家になったりで、誰も責任をとってない。こんな外務省は組織として終わってる」という意見もありました。
佐藤さんや手嶋さんのような、能力の高い人たちを、しっかり活かしてほしいなぁ、と思いますね。
「スパイは偽装の職業を2つ持て」など、キラリと光る言葉がたくさん散りばめられた本でしたね。
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