佐久協「高校生が感動した「論語」」祥伝社新書
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最終更新日:2012/09/15
書評(書籍)
20070517001200
孔子ってあんまり好きじゃない。なんか言っていることが破綻している気がする。ただ有名な論語だから、食わず嫌いも良くないはず。この本の存在を知って、そういう考えで読むことにした。その結果、一部は確かに好きだと感じた。そういうところをメモした。でもやはり破綻しているような、全体として納得の行かないところがあるような感覚は払拭できなかった。まあ、よかろう
著者の何が良いって、このように論語を現代訳したところだ。しかも高校の先生が高校生に教えるにあたって意訳したというのだから頭が下がる。誰もが見習うべきだ、人に物を教えたり強制的に言論の力を振るう機会のある人は。聞くべき人が寝ているのは怪しからん。寝る人が怪しからんのじゃなくて、話している人が退屈させてしまって意図する効果を発揮できない、その無能力さが怪しからん
こういう類の本ってもっと出てくるといい
p3.そこで私は、孔子の言葉だけを、あたかも自分が孔子であり、生徒が弟子であるかのごとく購読してみた。すると、生徒はそれまでより遥かに興味を示したばかりか、自分流に解釈するようにさえなったのだ
p12.とかく孔子は天才とみなされ、早くから才能を発揮したと思われがちだが、むしろ超スロースターターだったのだ。だからこそ孔子の言葉には苦労人ならではの含蓄があるのだ
p21.道徳心が失われていくこと、学問が廃れていくこと、正義を知っていながら実行する者がいないこと、悪いと知っていながら誰も改めようとしないこと、社会がそんな状態になっていくのが私の一番の心配事だよ
p28.両親の年齢は絶対に知っておくべきだよ。一つには長寿を喜ぶために、一つには齢老いることを気遣うために
p45.生まれながらにして物事の道理を知っているというのが最高だが、まあ、これは聖人の部類だろうね。あらかじめ学んで知っておくのが次の部類だ。その次の部類は、苦境に立たされてから、慌てて学ぼうとする者かな。苦境に立たされても学ぼうとしないのは、こりゃ、もうドン底の部類だな
p51.弟子の樊遅が「では仁は」と訊くから、「人が尻込みすることを利害を度外視して進んで行うことだよ」と教えてやったよ
p66.私は古代の聖人たちの業績を伝えることを自分の任務と心得ており、新説を創り出すつもりはないんだ。次から次に新しいものを追いかけるよりも失われた良きものを発掘して評価することが大切だよ。私は、自分が目立つよりも、古代の聖人を目立たせる黒子であることを誇りとしているのさ
p67.君主から弟子までが、わたしが何か特別の秘策を隠していると思い込んでいるようだが、そんなものあるもんかい。わたしは、自分が知っていることをすべて公表しているよ。公明正大に大道を歩むこと。それ以外に成功の道などあるもんかね。それこそがわたしの秘策中の秘策だよ
p68.私は夏王朝の礼制についてよく口にするが、夏の子孫である杞の国にはわたしのことばを裏付ける資料はまったく残されていない。同様に、わたしは殷王朝の礼制についても語るが、殷の子孫にあたる宋の国にもわたしのことばを裏付ける資料は何もない。古文書も伝承者も共に存在しないんだよ。存在していたら、わたしの説の正しさが立証できるのに、まったくもって残念なことだよ
p77.われわれ一人一人が道徳を身につければ、社会はその分だけ確実に善くなるんだよ。だから、道徳や誰かが社会を善くしてくれるのをボケーッと待っているべきではないんだぞ
p91.向学心に富む者は様々の本を読むだろうが、読みっぱなしにしないで、読んだ内容を礼の規範を基準に取捨選択して実行すれば、誤りを犯さずにすむものだよ
p125.品性下劣な者とは共に仕事はできないね。出世できない間はグチばかりこぼすし、いったん出世すると、地位を失うまいと何をしでかすか分かりゃしないんだから
p133.指導者というものはスペシャリストであるよりもジェネラリストであることを心掛けるといいだろうな
p137.どれほどの大軍に護られている大将でも奪い取ろうと思えば奪い取れないことはないよ。しかしだ、人間の意志は、たった一人の者の意志であろうと、それを外から大勢で奪い取ろうとしたって奪い取れるもんじゃないさ。人間の意志というのは、それほど絶大な力を秘めたものなんだよ
p149.弟子の子路は生涯、「害も与えず奪いもしない。けっこう毛だらけ」と詩経の一節を口ずさんでいたが、「おいおい、過信するなよ。お前が害を与えていないと思っていても、相手がそう思うとは限らないんだからな。それに、ナイナイづくしでなくプラス思考でいかなくってはダメだよ」と窘めたことがあったよ。あの時は、まさか彼が非業の死を遂げるとは想いもしなかったが…
p151.徳のある人は言うことも立派だが、言うことが立派だから徳があるとは言えないね。同様に、仁者は勇者でもあるが、勇者ならば必ず仁者であるとは言えないね
p197.弟子の子貢とこんな会話をしたよ。「どういう人物なら士と呼べますか」「言ったことは実行しようとし、行動がテキパキしている。コツンコツンと音がするような堅物であることも条件に加えていいだろうな」
p208.孤立を恐れるんじゃないよ。正しいことをしていれば、必ず同調者が現れるからね
p210.フランスの哲学者アンリ・ベルグソンは「水草が嵐に耐えられるのは、群れているためでなく、それぞれが根を水中深く下ろしているためだ」と指摘している
p243.全員が悪く言うからとて鵜呑みにせず、きちんと調べてみるべきだ。全員が良く言ってる時も同じことだよ
p250.わたしは川のほとりに立つたびに思うんだよ。時の流れは、まるで川のようだと。滾々と流れ来たって、滔々と流れ去っていく。待ったなしにね
p273.子禽さんはインタヴューの後で、「一つ質問しただけなのに、三つもいいこと聞いちゃった。詩が大切だってことと、礼が大切だってことだろう、それに君子はわが子を特別扱いしないってことをだよ」と小躍りしていた
p276.達巷という村の人が「孔先生は偉いもんだ、何でも知ってらっしゃる。でも、これと聞こえた専門をお持ちでないね」と言ったことがあった。そえを耳にした先生は門弟に向かってこう仰言った。「そうかね。専門職かねぇ。わたしなら何にするかね、御車か弓か。御車でも取ろうかねェ」と
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Comment
老子
安寧
棋氏
荘氏
は 無視かあ?
うーん、老子は知ってるけど、そのほかは知りませんねえ。まだまだですね。荘氏って、Googleでは「もしかして荘子?」って出てくるけど…。ちょっとおもしろそうなので、なんかヒントくれるとうれしいです。