白取春彦「勉学術」ディスカヴァー・トゥエンティワン

公開日: : 最終更新日:2012/03/06 書評(書籍)



書店で何気なく手に取った一冊。大人向けの記載もあるが、レベル的には、おそらく実質的には高校生程度向けの本だろうか


独学の正しい定義とその薦めの本。教養を身につけるとはどういうことかについても述べられている


記載は極めて平易。しかし示唆に富む。すぐに読み終わる




p14.特定の師を持たない。しかし、多くの師を持つ。しかも、そのへんの中途半端な教師を師とするのではなく、本物の最高レベルの師を持つのが独学である。具体的にいうと、最高レベルの書物を師とするわけである


p15.ドイツの大学に入ってみたものの、結局そこでもしなければならないことは独学だった。


p19.事典的な事項を覚えるだけでそれ以上に何の発展もないような単純な作業は本当の勉強ではない。それはもうパソコンなどの機器が代替できるものだ。人間の頭脳はパソコンよりも優秀だ


p39.本当に独学をしている人はどうしているのか。睡眠を削って読書のための時間を捻出するとか、書斎をどうするといかにまったく頓着することなく、ただひたすら本を読み、考え、知の世界を広げているだけである


p41.贅沢や豊穣から文化は生まれるが、吝嗇から文化は生まれない。貧しいあのバングラデシュからどういう文化が生まれたか。何もない。しかし、タゴールという詩人がいた。彼はバングラデシュの自然の美を謳いあげた。なぜ、タゴールにはそれができたか。彼自身、豊かな生活をしていたからである


p43.実際に障碍となるのは、時間の少なさではなく、感情の乱れや不健康である。怒りや忿懣を持っていては本を読んで理解することなどとうていできないのは当然だろう。なえなら、本を読むとは異質な人間の考えをとりあえず受け入れて理解することだからだ。そういう許容の心がないから怒ったり忿懣を抱えたりするのである


p54.雑多な本を、中途半端な読み方でいいから一度はめくってみるのだ。名著と呼ばれるものの中にもくだらないものがいくつもあるのに気づくだろう。本物のすごさに圧倒されることもあるだろう。世界各地を旅行したから世界を知っていると思い込んではならない。世界の古今東西の本をめくってみれば、旅行を越えた体験、時空間を越えた体験ができるのである


p58.テレビなどメディアのニュースがつまらないとされる場合も同じだ。報道される内容に含まれている基本の用語や術語、地名などが視聴者に理解されていないのだ


p60.面倒そうな本を買ってきたら、そのあたりに置いておく。机の上や本棚に鎮座させない。テーブルやソファの上にぽんと投げ出しておくのである。食卓の上に置いて、隣で麻婆豆腐やカレーを食べてもいい。そういうふうにぞんざいに扱っていると、やがて部屋になじんでくるものだ。最初の違和感、居丈高な感じが薄れてくる。威厳が少し減ってくる。こういう場所に住むしかないかというあきらめが本から滲み出てくる。本が丸くなった感じである。そうしたら、食後に足を投げ出した格好で、ちょっと開いてみる。空腹のときはよくない。満腹して気分的に余裕があるときに、コーヒー片手に触れるのである。まじめに読んだりしない。からかうような感じで、ぺらぺらめくるだけにとどめる。きどっている女をからかう不良の雰囲気でちょうどよい。本を自分の正面に置かず、横に置いて片手で暇つぶしにあしらってやる程度にする


p69.デカルトの「方法序説」という本はなにかとてつもなく分厚い専門的な難解な書物のような感じがしないだろうか。実際の「方法序説」はどうか。中公文庫の翻訳本でわずか85ページたらずしかない薄っぺらいものなのだ


p97.何か資格を得るために、就職に有利になるようになどという目的で独学する人を卑しいと思う。利己的だから卑しいのではなく、知識を道具化しているから卑しいと思うのである。悪人の特徴は、知識を道具化することである。人をだまして商売して儲けようとする人は心理学を勉強して道具化している。それは心理学の悪用である。知識はいくらでも悪用ができるのだ


p103.哲学はせんじつめれば、物事の根源を知ろうとする努力に他ならない。哲学者は、宗教が根源に神を置いてそこから世界を照らしていることをよく知っている。しかし哲学者は宗教にたよらずに自分の力だけで世界を照らしなおそうとしているのである。つまり、神のライバルとなろうとしているわけだ。哲学者とは、すべてを知るためならば悪魔に魂を売ってもかまわないというあのファウスト博士のようなものだ。このように、哲学は一般の学問よりもずっと宗教に近い姿勢を持っているのである。こんなあたりまえのことを知らずに哲学を勉強すれば難しいのも無理はないわけだ


p104.教養とは、結局は古代の中国官僚の処世術にすぎない論語を読んで身につけるものではない。論語は世界の文化を形成していない。教養を身につけるとは、世界を形成してきた聖書を読むことなのである


p111.宗教書を読むことによって視野は広がる。しかし、宗教書に毒されてオウム真理教のようなカルトに誘われやすくなるということはない。ああいうカルトに多くの若者が簡単に勧誘されたのは、彼ら自身が本物を読んでいなかったからである。あの若者らがスッタニパータを読んでいれば、松本某という詐欺師に引っかかることはなかったのである。つまり、オウム真理教の信者は自分の怠惰のために騙されたにすぎない。本物を読むということに怠惰だったのだ


p116.生半可な気持ちと持続する意志と異常な努力なしでは外国語は習得しがたい。その場合でも、自分の日本語力レベルの6~8割程度までなのだ。子供の頃から外国語を学んでもたいした成果は得られない。まずは正しい日本語を身につけるということだ。正しい日本語は豊富な読書によって身につけることができる。文章のぞんざいな雑誌や、初体験を「はつたいけん」と読むようなテレビ番組などから学ぶことはできない


p125.外国語学習はやればやるほどに成果が上がる。どのようなやり方であっても、自分が本気でやった分だけ確かに身についていく。たいして意味のない会話をしたり、いかにも外国人らしい発音が少しの数の単語だけできるよりも、文章を読めるようになるほうがまずはずっと重要なことだ


p132.まずは、構文の習得である。構文を含んだ文章をいくつも書くという方法がある。初めは30種類の分を書けば、構文が覚えられる。そのうち20種類の文章を書くぐらいで、その構文が身について忘れることがなくなる。机に向かって書く必要などない。ソファにふんぞり返って、遊ぶようにして書くだけで身につくのである


p135.教養があるほどに外国語の理解が深く正確になるのだから、大人になってからの語学学習は少しもヒケをとるものではない。むしろ有利であるともいえる。語学は数学と異なり、積み重ねでなく、理解がものをいうからである


p154.調べれば調べるほどに意外な事実というものが少しずつ浮かび上がってくる。そして、今後他の書物を読むときに、論のどの部分が偏見なのか、論拠のないものなのか、見えてくるようになるのだ。洞察力が身につくとか頭がよくなるとはそういうことを指すのだ。書物を読んでそのままに信じるのは盲目的な信仰のようなものだ。あるいは、付和雷同というものだ。実際、多くの人がそういう態度で生きているのである。そこを打破して事実ぎりぎりまで近づくのが独学による調査なのだ。そこから、おのずと新しい見解や新しい考えが出てくるものなのである




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