ジョン・ウッド「マイクロソフトでは出会えなかった天職」ランダムハウス講談社

公開日: : 書評(書籍)

本の分厚さに負けず、内容に引き込まれてどんどん読み進めていける題材の良さがある。タイトルとおり、マイクロソフト時代の仕事のやり方が書いてあり、そこでの社内の有名人の評があり、またそこで学んだことやビジネス上のノウハウを慈善活動に生かしていくさまを追いかけていくのは楽しい
いい言葉がちりばめられている。下に引用した以外にも記憶に残りやすいエピソードが多くある。最初のネパールでの自然や人びと、家族や友人や恋人、また9.11やスリランカの津波など。比較的最近の記述もある。残念なのは日本における記載があまりないことか
自分の好きな言葉を見つけたのは良かった。「わかっているくせに。きみがいなくてマイクロソフトが困るのは、せいぜい1ヶ月か2ヶ月のこと。すぐにだれかが穴を埋める。きみなど最初からいなかったみたいにね。でも、貧しい村に学校や図書館を建てる手助けをしようと思う人が、何千人もいると思うか? この仕事はだれもやっていない。きみが挑戦しなくてどうする?」という部分

p014.7年間ずっと、ある疑問を感じてもいた。これが人生のすべてなのだろうか―働けば働くほど稼げるということだけが。僕は企業戦士の特殊部隊として生きる道を選んだ。休暇はとりたいやつがとればいい。本物の戦士は週末も働き、航空会社のマイレージを何万マイルも貯めて、拡大し続けるマイクロソフト大国のなかで自分のミニ帝国を築く。忙しいと文句を言うのは、会社の将来を考えていない証拠だ。それでも僕は、自分が払っている代償に少しずつ気がついた。恋愛は―僕が時間と関心をそそがないせいで―うまくいったためしがない。クリスマスに帰省できなくなるたびに、家族は不満をつのらせた。友人の結婚式もドタキャンの常習犯。冒険旅行に誘われても、どうしても動かせない会議」が立ちはだかる。会社は僕をあてにできたけど、友人や家族は僕をあてにできなかった
p018.学校の「宝物」の中身を見て、ますます悲しくなった。ダニエル・スティールの恋愛小説(表紙では服のはだけた男女が抱き合っている)、ウンベルト・エーコの分厚い小説(イタリア語)、ロンリープラネットのガイドブック(モンゴル版)・『フィネガンズ・ウェイク』のない子供の図書館はありえない。バックパッカーが置いていった本は、幼い生徒たちにはむずかしすぎた
p020.僕は、子供たちに迎えられる自分を想像した。ヤクの背中に数百冊の本を載せて戻ってくる自分の姿が、頭から離れなかった
p023.ダライ・ラマによれば、僕たちのいちばん基本的な義務は、この地球上で自分たちより「持っていない」人びとを助けることだ。幸運にもいい暮らしができているなら、自分が恵まれていることを知りなさい。貧困のサイクルを断ち切るために助けを必要としている人びとに手を差し伸べることによって、仏に感謝しなさい、と。僕はしばし瞑想にふけった。この夜の日記にはこんなふうに書いてある。「物質的な富があるかどうかは関係ない。本当に大切なのは―その富を使って何をするかだ。僕は若くして経済的に成功したが、その大半は幸運だったからにすぎない。たまたま、ふさわしいタイミングでふさわしい会社に入っただけ。お金を持っている人ほどすばらしい人間だというわけではない。本当に大切なのは、そのお金で僕が何をするかだ」
p038.クイーンズの図書館に通う台湾の少年たちにとって、カーネギーがハードウエアをつくり、母親がソフトウエアを提供している。彼らもきっとアメリカ社会に溶け込み、成功できるだろう
p043.しばらく考えてから、もう一度、読み返した。涙があふれてきた。僕は本当にバカだ。自分のことしか考えていなかった。旅は身軽がいちばんで、ネパールのように厳しいところへ行った経験のない人の面倒を見るのはやっかいだという幻想にとらわれていた
p054.頭の片隅から声が聞こえた。「わかっているくせに。きみがいなくてマイクロソフトが困るのは、せいぜい1ヶ月か2ヶ月のこと。すぐにだれかが穴を埋める。きみなど最初からいなかったみたいにね。でも、貧しい村に学校や図書館を建てる手助けをしようと思う人が、何千人もいると思うか? この仕事はだれもやっていない。きみが挑戦しなくてどうする?」
p084.地位を失うことだ。エグゼクティブからバーテンダーになってもいいと、僕は本気で思っているのだろうか
p085.「おまえの優先順位が変わっただけだよ。昔からずっと独立心のある子だった。だれかのために働くより、自分で何かを始める時期なんだろう」シドニーにいる友人のマイクは、最高のアドバイスをくれた。「バンドエイドをはがす方法は2つある。痛いけどゆっくりはがすか、痛いけど一気にはがすか。きみが選ぶんだ」
p098.何でも否定する人たちに負けてはいけない。すぐに写真を数十人の友人に転送した
p103.午後2時1分。スイス製の時計並みの正確さで、サンフランシスコのプレシディオ国立公園の隣にある僕たちの窮屈な事務所にビルとジェニーが現れた
p105.「ハーバード・ビジネススクールのマイケル・ポーターの言葉をご存知ですか?」。ビルとジェニーは首を横に振った。「ポーターは、旅行業界の歴史を通じて、レンタカーを洗車した人はだれもいないと言いました。所有している意識がなければ、長期的なメンテナンスはしないのです。私たちのプロジェクトも同じだと思っています」
p138.あえて反論するつもりはなかった。大きく考えることが肝心だと信じていたからだ。マイクロソフトでは、「大きく行け、それができなければ家に帰れ」と言われていた。これこを、何か変化を起こしたいすべての人に送るアドバイスの核心だ
p140.1995年にジェフ・ベゾスがアマゾン・ドットコムを設立したとき、1冊も売らないうちから、ホームページで「地球最大の書店」と宣言していた。1年目の収益は、マンハッタンにあるバーンズ&ノーブル1店舗の1週間分(しかも売り上げが少ない週)より少ないくらいだと、当然ながら批判された。でも、ベゾスは勇敢だった。地球最大の書店を作るという宣言は、投資家やメディア、消費者の注目をおおいに集めた。アマゾンは、自己実現する予言の典型的な例だ。地球最大の書店だけでなく、地球最大のレコード店にもなったのだから
p160.これがスティーブ・バルマーだ。言い訳や雑談は抜きで、話の核心にずばっと切り込む。意見がないなら、会議室に座ってブレーンストーミングをするつもりなどない。彼が好きなのは行動すること。議論することではない
p162.僕は毎日、1日中、説明責任を果たしているかどうかをスタッフと話し合っている。1日300通のメールを送信するということは、僕たちが実現させたことと実現させていないことを、300人に説明する機会があるということだ。ここまで説明責任を意識する慈善団体はほとんどないから、かぎられた資金源を奪い合う際に重要な武器となるはずだ

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